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大切なリボンを結びましょう

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「あれは誰が見ても嫌がらせだったのかしらね」

 殿下、私を嫌っているからこそなのでしょうが、なぜそこまでと疑問に感じてしまう程小さな事すら「婚約者である私を馬鹿にしているのかっ!」と恫喝されることがしばしばありました。

 例えば夜会で、殿下は三回の内二回はエスコートすら拒否して他の令嬢と共に夜会に参加され、ダンスも私を無視して他の方々と踊られてしまうので、私はお父様か従兄弟達の誰かにエスコートされて参加するしかありません。
 ダンスも夜会に参加している以上、最低限エスコートしてくれたお父様や従兄弟とは踊るのが礼儀です。そのダンスが終わった後は誘ってくださる方をすべてお断りして壁の花になるしかありません。
 婚約者とダンスをしないのに、他の男性となど恥しらずな行いになってしまいますから、それは当然です。
 まれに殿下がエスコートして下さった場合、エスコートした私のダンスの相手等、殿下は必要なことすら忘れていらっしゃるので、私は一度もダンスをせずにひたすら壁の花になります。
 殿下とは婚約披露の場で踊って以降一度もありません。
 そういう意味では殿下の言動は、私を婚約者として認めていないと常に言っていた様なものなのかもしれません。

「ケネスは被害者よね、私と年が近かった為にエスコートをさせられて、その度に殿下に嫌みを言われて」
「ですが、エスコート無しに夜会に参加など出来ないのですから、仕方なかったのではありませんか」
「それはそうだけど、何かもっと上手な方法を探した方が良かったのかもしれないと、今更だけど思うのよ」
「殿下にエスコートをお願いする手紙を出しても返事すら頂けず、王妃様にお手紙をお渡しして漸くお断りを頂いていたのに、他に何をすれば良かったと?」

 私の今更の愚痴に呆れたようにユウナは言いながら、私の髪を綺麗に編み込み、片側に緩く三つ編みをして仕上げてくれました。

「少し地味ですね。リボンは幅広のレースに致しましょうか」
「おばあ様から頂いたレースのリボンは持ってきていたかしら」
「勿論でございます」

 昨年の誕生日におばあ様から頂いた贈り物の中にあったレースのリボンは、熟練の職人が私の容姿に合わせて編んでくれた品で、髪の毛程の太さの青色の絹糸で複雑な模様に編まれています。

「おばあ様には使っているところをお見せできなかったの。とても素敵なリボンなのですもの是非見て頂きたいわ」

 使いたくても使えなかったリボンを、やっとおばあ様にお見せ出来るのですから、嬉しくてたまりません。

「そうですね、では大きく結びましょう。きっとお嬢様の美しい金の髪を引き立ててくれること間違いなしです」

 ユウナが話しを変えてしまったので、私は素直にユウナの話しに乗り朝の準備を終わらせました。
 今更どうしようもない過去の話をしても、意味はないと分かっているのに、自由になったと言いながら心は少しもそうではないのだと言っている様なものです。

「リボンにぴったりな旅装がご用意出来ないのが残念です」
「そうかしら、私このドレス好きよ。白い襟と袖口が清楚だし、紺色も素敵よ」
「お嬢様は何をお召しになってもお綺麗ですしお似合いになりますけれど、旅装はどうしても実用的な意匠になってしまいますから」

 長時間馬車の中で過ごしても辛くない様に、また皺になりにくく埃が目立たない様にと作られているものですから、実用的な意匠になるのも当然です。

「そうね、領地に着いたら少しおしゃれを楽しみましょう。時間はあるのだし、新しい髪型をユウナに考えて貰うのもいいかもしれないわ。それにこれからは殿下に気を遣うことなく青色を纏えるのよ」

 ご兄弟の中で唯一陛下の色を受け継いでいないフィリップ殿下は銀髪に緑色の瞳という王妃様の色を受け継いでいます。
 対して私はお父様から受け継いだ金髪に青い瞳、これは陛下と同じ色でもあります。
 自分の瞳の色に劣等感を感じている殿下は、私が青い色のドレスを着ているだけでとても機嫌が悪くなりました。
 ですからドレスもリボンも宝石も、私は青色が使えなかったのです。

「……それは素敵ですね。私一生懸命考えますね」
「ユウナ?」
「そ、そろそろ朝食のお時間ですね、確認して参りますね」

 何故か急に元気が無くなったユウナの、その理由はおばあ様によって明らかになると、この時の私は気がつきもしませんでした。
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