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印の意味を知った侍女は
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「神聖契約をされた証、神聖契約等不勉強で詳しく知りませんでしたが、こんな印が現れるのですね」
ユウナは不思議そうに私の印を見つめています。神聖契約の印を見る機会など殆んどないのですから、当然の反応でしょう。私も話しに聞いていただけで、実物を見るのは初めての経験です。
「そうよ。私は王家の方と二度と縁を結ばないと誓った印。破った場合の代償は自分の命」
「お、お嬢様。い、命とは。代償はお金ではなかったのですか、まさか旦那様がそうせよと仰ったのですか」
ユウナの意識は完全に私の方へ方向転換しました。
これで殿下の命を等とは言い出さないでしょう、そもそもユウナが簡単に城には入れないと思いますが「フィリップ殿下のお命を頂きに」等外で叫ばれてしまったら、助けたくても助けられません。
敬う気持ちは遥か昔に消え去ってしまいましたが、それでも彼は王族なのですから。
「勿論お父様はお金を代償にと仰っていたわ、私が勝手に命にしたのよ。そうでもしなければ王妃様に撤回されかねないでしょう。契約を破った証で苦しむのは私だけですもの。代償のお金を払わせられて、額に契約を破った証の痣を付けたまま殿下を夫と呼ぶことになりかねないと思ったのよ」
額飾りで隠すことすら出来ないから、自分の罪を晒して生きていかなければならないのです。
不本意な結婚をさせられ、その上そんな情けない生き方をするくらいなら、自分の命を使う方が良いと考えたのです。
「王妃様がそんな恥知らずなことをなさいますか?神聖契約を破らせてまで殿下をお嬢様の夫に等、そんな」
「分からないけれど、殿下と年が釣り合い侯爵か公爵家を継ぐ娘なんて私位だし、伯爵家に位を下げても婚約していない跡取り娘を持つ家はないのよ、殿下が仰っていた様にゴミの様に価値がない婚約でも、結婚後に楽をしたいなら私を相手にするしかないのよ」
陛下は婚約破棄の撤回はしないと確約して下さいましたが、王妃様は殿下に泣きつかれたら、息子可愛さに無理を通すかもしれないと考えての決断でしたが、まさかこんな手紙を殿下が書くとは流石に予想していませんでした。
「殿下には申し訳ないけれど、今でさえこんな失礼な手紙を書く方を、夫と呼んで彼の子を産むなんて冗談でも無理よ。でも代償を命としたから回避出来る筈よ」
「それは、そうですね。無理に婚姻を進めたら、妻となるお嬢様の命が……」
ほんの少し残っていた元婚約者への情も、この手紙で見事に消え去り、むしろ今までの十年を無駄にしてくれた最低の人としか思えなくなってきました。
たった一日、いいえ半日で感情の変化が大きすぎて、私の精神も疲れはててしまいました。
「契約にお嬢様の命をなんて、考えることすら恐ろしいですが」
「私だって恐ろしいわ。でもね、これで王家が無理強いすることはなくなるはずよ。代償が私の命だと知って契約を破らせようとする程、陛下も王妃様も愚かではない筈」
不安はまだありますが、でも可能性はだいぶ低くなったと信じるしかありません。
「そうですね。きっと大丈夫です」
「ふふ、ユウナがそう言ってくれると心強いわ」
「お嬢様、一生お側にいてお仕え致します」
「ありがとう。さ、話はこれくらいにして荷造りをしてしまいましょう。ドレスを選ぶからユウナはメイド達に指示して頂戴」
「はい、畏まりました」
慌ただしく準備をしながら、本当は私は修道院に行くべきなのではないかと考えていました。
殿下の不義とはいえ、王家との婚約を破棄してしまった娘等、しかも神聖契約で政略結婚も出来なくなってしまった娘等、本来なら家にとって邪魔者でしかありません。
「お父様達の優しさに甘えていていいのかしら」
悩みながら私は、旅立つ準備を続けるしかありませんでした。
ユウナは不思議そうに私の印を見つめています。神聖契約の印を見る機会など殆んどないのですから、当然の反応でしょう。私も話しに聞いていただけで、実物を見るのは初めての経験です。
「そうよ。私は王家の方と二度と縁を結ばないと誓った印。破った場合の代償は自分の命」
「お、お嬢様。い、命とは。代償はお金ではなかったのですか、まさか旦那様がそうせよと仰ったのですか」
ユウナの意識は完全に私の方へ方向転換しました。
これで殿下の命を等とは言い出さないでしょう、そもそもユウナが簡単に城には入れないと思いますが「フィリップ殿下のお命を頂きに」等外で叫ばれてしまったら、助けたくても助けられません。
敬う気持ちは遥か昔に消え去ってしまいましたが、それでも彼は王族なのですから。
「勿論お父様はお金を代償にと仰っていたわ、私が勝手に命にしたのよ。そうでもしなければ王妃様に撤回されかねないでしょう。契約を破った証で苦しむのは私だけですもの。代償のお金を払わせられて、額に契約を破った証の痣を付けたまま殿下を夫と呼ぶことになりかねないと思ったのよ」
額飾りで隠すことすら出来ないから、自分の罪を晒して生きていかなければならないのです。
不本意な結婚をさせられ、その上そんな情けない生き方をするくらいなら、自分の命を使う方が良いと考えたのです。
「王妃様がそんな恥知らずなことをなさいますか?神聖契約を破らせてまで殿下をお嬢様の夫に等、そんな」
「分からないけれど、殿下と年が釣り合い侯爵か公爵家を継ぐ娘なんて私位だし、伯爵家に位を下げても婚約していない跡取り娘を持つ家はないのよ、殿下が仰っていた様にゴミの様に価値がない婚約でも、結婚後に楽をしたいなら私を相手にするしかないのよ」
陛下は婚約破棄の撤回はしないと確約して下さいましたが、王妃様は殿下に泣きつかれたら、息子可愛さに無理を通すかもしれないと考えての決断でしたが、まさかこんな手紙を殿下が書くとは流石に予想していませんでした。
「殿下には申し訳ないけれど、今でさえこんな失礼な手紙を書く方を、夫と呼んで彼の子を産むなんて冗談でも無理よ。でも代償を命としたから回避出来る筈よ」
「それは、そうですね。無理に婚姻を進めたら、妻となるお嬢様の命が……」
ほんの少し残っていた元婚約者への情も、この手紙で見事に消え去り、むしろ今までの十年を無駄にしてくれた最低の人としか思えなくなってきました。
たった一日、いいえ半日で感情の変化が大きすぎて、私の精神も疲れはててしまいました。
「契約にお嬢様の命をなんて、考えることすら恐ろしいですが」
「私だって恐ろしいわ。でもね、これで王家が無理強いすることはなくなるはずよ。代償が私の命だと知って契約を破らせようとする程、陛下も王妃様も愚かではない筈」
不安はまだありますが、でも可能性はだいぶ低くなったと信じるしかありません。
「そうですね。きっと大丈夫です」
「ふふ、ユウナがそう言ってくれると心強いわ」
「お嬢様、一生お側にいてお仕え致します」
「ありがとう。さ、話はこれくらいにして荷造りをしてしまいましょう。ドレスを選ぶからユウナはメイド達に指示して頂戴」
「はい、畏まりました」
慌ただしく準備をしながら、本当は私は修道院に行くべきなのではないかと考えていました。
殿下の不義とはいえ、王家との婚約を破棄してしまった娘等、しかも神聖契約で政略結婚も出来なくなってしまった娘等、本来なら家にとって邪魔者でしかありません。
「お父様達の優しさに甘えていていいのかしら」
悩みながら私は、旅立つ準備を続けるしかありませんでした。
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