【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

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不幸の手紙と言うのではないでしょうか

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「お嬢様、お手紙が届いております」

 屋敷に戻ると玄関で出迎えた執事から、銀盆に載せられた手紙を渡されました。

「部屋に戻ってからでいいだろう。急ぎの手紙なのか?どなたからだ」
「それが、王妃様からでございまして」
「王妃様」

 嫌な予感に急ぎ封を開けると、王妃様の筆跡ではないとすぐに分かる乱暴な文字が飛び込んできました。
 これは、フィリップ殿下の筆跡です。

「お父様申し訳ございませんが、私はとても具合が悪い様です。こちらのお返事をお願いしてもいいでしょうか」

 ふるふると手紙を持つ手が震えています。
 これは、怒りによるものです。

「フローリア?」
「お読みください。私が今日この印を得たのは天の采配だと確信致しました」

 私から手紙を受け取ったお父様は、無言で手紙を読み進めぐしゃりと両手で丸めてしまいました。

「何が反省すればだ。誰が何を。フローリア、すぐに準備をしなさい。ノーマン、馬車の用意だ。これからフローリアを領地に帰す。フローリア付きのメイドと護衛もすぐに準備させるのだ」
「お父様?今すぐにですか」

 もう日が落ちかけているというのに、これから旅立つなどいいのでしょうか。
 躊躇しているとお母様が手紙を広げて中を確認し、すぐにユウナに指示を始めました。

「急いで準備を始めて、出立は日が昇る前よ。なるべく目立たない様に進むの、そして私の実家をまず目指しましょう、お父様に手紙を書くわ」
「お母様の実家ですか?確かに領地に向かう途中ですが」

 戸惑っているのは私だけでは無いようですが、手紙の内容を考えれば私はこの屋敷にいない方がいいのも理解できました。

「領地で療養させることにしたと、この手紙を付けて陛下へ報告する。神殿で神聖契約をした旨もだ」
「お手数をお掛け……」
「謝る必要などない。こんな馬鹿にした手紙を平気で寄越す殿下をそのままにするなら、先程の話が本当になるだけだ。その為の準備はすでに始めている」

 淡々と話すお父様の怒りが、私を冷静にしました。
 人は自分より怒っている人を見ると冷静になるものなのですね。

「ふふ」
「どうした」
「こんな時ですが、私はお父様とお母様に愛されているのだと実感してしまって」
「そんなの、当たり前だ。私達の大事な娘なんだから」

 お父様に抱き締められて、私はそっと背中に両手を伸ばしました。

「ありがとうございます」
「さあ、親子の情を確かめ合えたら準備を始めましょう、皆急いで」
「はい」

 私達は笑顔でそれぞれの場所へと急ぎました。



「お嬢様、旅装の他ドレスは何をお持ちになりますか?今の季節に合うものをお持ちしましたので、お選び下さい」
「ありがとう、準備がいいのね」
「はい、奥様から神殿にお出かけ前に念のための準備をご指示がありましたので」

 お母様が考えていたのは、王妃様の反応でしょうけれど、それよりも早く殿下が動いたのでしょう。

「はあ」
「お疲れですよね、少しお休みになりますか?」
「いいのよ、今のは手紙の件を思い出しただけ」
「手紙、先程の手紙でございますね」
「そうよ。どんな内容だったか想像出来るかしら?」

 ユウナに聞いてみると「旦那様と奥様それにお嬢様が皆様思わず不愉快になられる内容だとは分かりました」とすまして答えるので、思わず笑ってしまいました。

「ふふ、その通りよ。殿下はね、王妃様の名を騙り、私の日頃の行いが悪いからフィリップは運命の相手を見つけるしかなかった。けれど私が反省し行動を改めるのであれば、温情を与えてもいいと考えている。そう書かれていたのよ。あの悪筆が王妃様の手でないことはすぐに分かるというのにね」

 私に気を遣い日頃は言わない軽口を言っていたユウナは、私の答えに真顔になり部屋を出ていこうとしました。

「ユウナ?」
「今までお世話になりました。ユウナは、このお屋敷でお嬢様にお仕え出来て幸せでした」
「何を言い出すの」
「私はお屋敷を辞め、お城に向かいます。そしてフィリップ殿下と刺し違える覚悟で、ええ、絶対に息の根を止めて参ります」
「え、駄目よ何を言うの」

 一礼し立ち去ろうとするユウナの腕にすがり、慌てて引き留めました。

「私のお嬢様を馬鹿にした罰を。私達の大切なお嬢様を、何が温情ですか!何が反省すればですか!」
「馬鹿な人なの、自分の行動がどこにどう影響するか考えたこともない人なのよ。そう怒らないで」
「お嬢様はお優しすぎます。そんな失礼な手紙を許すのですか」
「許すも許さないも、反省するつもりはないし、私にはこの守りがあるわ」

 ひらりとユウナに左手の印を見せました。

「これはね、神聖契約の印よ。私は王家との婚姻を結ばないと神様と契約したのよ」

 契約の印は、今の私にとって黄金よりも価値のあるものなのだと確信していました。
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