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良いことなのか悪いことなのか
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「あなたの辛さを救ってあげられなくて、本当に申し訳なかったわ。ごめんなさいね」
「今まで辛かっただろう。お前を助けてやれずすまなかった」
神殿から帰る馬車の中で、両親に謝られてしまう申し訳なさ等知りたくありませんでした。
貴族の結婚が政略なのは当然の事です。
殿下と婚約をしなければ、家にとって利のある家の方と婚約し婿に入って頂く、それだけの違いでしょう。
「辛かったといえば辛かったです。私が至らぬせいもありましたが、殿下は私に対して少しの気遣いすらありませんでしたから」
「本当に困った人だ。お前は何も悪くないよ」
「ええ、お茶会だって連絡なしに何度も欠席されて、婚約者としての自覚がないから余所に心を移すのです」
お母様はフィリップ殿下と私の仲を少しでも良くしようと、王太子妃様やお子様達と何度もお茶会を開いて下さいましたが、殿下は理由を付けて参加を拒否し、連絡もないままいらっしゃらない事も度々でした。
王妃様が私と殿下を招いてお茶会をと何度誘っても、殿下は理由もなく拒否されていましたから、お母様や王太子妃のお茶会にいらっしゃる筈がありません。
お城の王妃様や王太子様の宮で、美しく飾られた花とお菓子、香り高い紅茶を入れられ勧められても肝心の殿下がいらっしゃらないのでは話になりません。
取り繕うように笑う王妃様は、孫である王太子妃様のお子様達を急遽招いて話すだけ、俯く私に慌てて遣ってきた王太子妃様が必死に会話を繋げようと話しかけてくれるのだけが救いでした。
お茶会、そう言えば。
「お母様、お茶会はどうしたらいいでしょうか」
「王妃様のお茶会は、お断りのお手紙を送っていますから気にしなくていいわ」
「え?」
「あなたはね、屋敷に戻ってすぐ心労で倒れたの。そして傷心に耐えきれず神殿に向かい神聖契約をしたのよ」
それは、そういう風にこれから振る舞えという意味でしょうか。
「学校は暫くの間お休みするのですから、領地にもどりましょうか。王都は騒がしいものね」
「はい、お母様」
「私も何件かお茶会に参加したら領地に向かいますから、旦那様それでよろしいですね」
「そうだな、それがいいだろう。二人が領地に行ってしまうのは寂しいが」
お父様は大臣のお仕事がありますから、簡単には戻れません。婚約破棄等不名誉でしかないというのに、そんな娘がいなくなるのを寂しいと言ってくださるお父様は優しい方だとしんみりしてしまいました。
「フィリップ殿下の今後の行動次第で私は職を辞して領地に戻るよ」
「お父様、そんなっ」
「領地をしっかり治めていれば問題などないのだよ。大臣などもっと若い者にさせればいいだけだ」
もしかしたら私の婚約破棄のせいでお父様にご迷惑をお掛けしているのでしょうか。
私は、少し悲しみは残るものの長年背負っていた重い荷物を下ろしたような気持ちですが、もしご迷惑をお掛けしているとしたらどうしたらいいのでしょう。
俯くと契約の印がついた左手の指が視界に入りました。
私の我が儘のせいで、もう政略の駒としての価値も私には無くなってしまったのです。
「お父様」
「お前のせいじゃない。息子可愛さに甘やかすだけのお二人に少し失望しているだけだよ」
「そうね。王妃様はあなたと殿下の仲を取り持とうと必死でしたけど、結局自分の我が儘で二人を不幸にしていると思いたく無かっただけですもの。あなたのためではなく、ご自身の為にお茶会も開いていたのよ」
「そうかもしれませんね」
印を見ながら、お茶会で必ず言われる王妃様の言葉を思い出していました。
お茶会に来ない殿下を待つ時間は苦しく、美味しいお菓子も美しい花も、私の心を癒してはくれませんでした。
『あの子は何が気に入らないのかしら、あなた分かる?』
欠席だと殿下の配下が告げに来ると、王妃様はため息を付いた後決まってそう尋ねるのです。
『申し訳ございません。至らぬ私が悪いのです』
『あなたは努力していると思うわ、でも努力の結果がこれではね。失望させないでね』
笑っているのに笑っていない笑顔、それが何よりの苦痛でした。
「これで良かったの。そうしたくとも私達には拒否出来なかったのですから」
「そうだな、殿下の愚行に感謝しないと」
「お父様ったら」
泣き笑いの顔で私は二人を見つめながら、この二人の娘で良かったと心から思いました。
「今まで辛かっただろう。お前を助けてやれずすまなかった」
神殿から帰る馬車の中で、両親に謝られてしまう申し訳なさ等知りたくありませんでした。
貴族の結婚が政略なのは当然の事です。
殿下と婚約をしなければ、家にとって利のある家の方と婚約し婿に入って頂く、それだけの違いでしょう。
「辛かったといえば辛かったです。私が至らぬせいもありましたが、殿下は私に対して少しの気遣いすらありませんでしたから」
「本当に困った人だ。お前は何も悪くないよ」
「ええ、お茶会だって連絡なしに何度も欠席されて、婚約者としての自覚がないから余所に心を移すのです」
お母様はフィリップ殿下と私の仲を少しでも良くしようと、王太子妃様やお子様達と何度もお茶会を開いて下さいましたが、殿下は理由を付けて参加を拒否し、連絡もないままいらっしゃらない事も度々でした。
王妃様が私と殿下を招いてお茶会をと何度誘っても、殿下は理由もなく拒否されていましたから、お母様や王太子妃のお茶会にいらっしゃる筈がありません。
お城の王妃様や王太子様の宮で、美しく飾られた花とお菓子、香り高い紅茶を入れられ勧められても肝心の殿下がいらっしゃらないのでは話になりません。
取り繕うように笑う王妃様は、孫である王太子妃様のお子様達を急遽招いて話すだけ、俯く私に慌てて遣ってきた王太子妃様が必死に会話を繋げようと話しかけてくれるのだけが救いでした。
お茶会、そう言えば。
「お母様、お茶会はどうしたらいいでしょうか」
「王妃様のお茶会は、お断りのお手紙を送っていますから気にしなくていいわ」
「え?」
「あなたはね、屋敷に戻ってすぐ心労で倒れたの。そして傷心に耐えきれず神殿に向かい神聖契約をしたのよ」
それは、そういう風にこれから振る舞えという意味でしょうか。
「学校は暫くの間お休みするのですから、領地にもどりましょうか。王都は騒がしいものね」
「はい、お母様」
「私も何件かお茶会に参加したら領地に向かいますから、旦那様それでよろしいですね」
「そうだな、それがいいだろう。二人が領地に行ってしまうのは寂しいが」
お父様は大臣のお仕事がありますから、簡単には戻れません。婚約破棄等不名誉でしかないというのに、そんな娘がいなくなるのを寂しいと言ってくださるお父様は優しい方だとしんみりしてしまいました。
「フィリップ殿下の今後の行動次第で私は職を辞して領地に戻るよ」
「お父様、そんなっ」
「領地をしっかり治めていれば問題などないのだよ。大臣などもっと若い者にさせればいいだけだ」
もしかしたら私の婚約破棄のせいでお父様にご迷惑をお掛けしているのでしょうか。
私は、少し悲しみは残るものの長年背負っていた重い荷物を下ろしたような気持ちですが、もしご迷惑をお掛けしているとしたらどうしたらいいのでしょう。
俯くと契約の印がついた左手の指が視界に入りました。
私の我が儘のせいで、もう政略の駒としての価値も私には無くなってしまったのです。
「お父様」
「お前のせいじゃない。息子可愛さに甘やかすだけのお二人に少し失望しているだけだよ」
「そうね。王妃様はあなたと殿下の仲を取り持とうと必死でしたけど、結局自分の我が儘で二人を不幸にしていると思いたく無かっただけですもの。あなたのためではなく、ご自身の為にお茶会も開いていたのよ」
「そうかもしれませんね」
印を見ながら、お茶会で必ず言われる王妃様の言葉を思い出していました。
お茶会に来ない殿下を待つ時間は苦しく、美味しいお菓子も美しい花も、私の心を癒してはくれませんでした。
『あの子は何が気に入らないのかしら、あなた分かる?』
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『申し訳ございません。至らぬ私が悪いのです』
『あなたは努力していると思うわ、でも努力の結果がこれではね。失望させないでね』
笑っているのに笑っていない笑顔、それが何よりの苦痛でした。
「これで良かったの。そうしたくとも私達には拒否出来なかったのですから」
「そうだな、殿下の愚行に感謝しないと」
「お父様ったら」
泣き笑いの顔で私は二人を見つめながら、この二人の娘で良かったと心から思いました。
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