【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

文字の大きさ
上 下
7 / 123

良いことなのか悪いことなのか

しおりを挟む
「あなたの辛さを救ってあげられなくて、本当に申し訳なかったわ。ごめんなさいね」
「今まで辛かっただろう。お前を助けてやれずすまなかった」

 神殿から帰る馬車の中で、両親に謝られてしまう申し訳なさ等知りたくありませんでした。
 貴族の結婚が政略なのは当然の事です。
 殿下と婚約をしなければ、家にとって利のある家の方と婚約し婿に入って頂く、それだけの違いでしょう。

「辛かったといえば辛かったです。私が至らぬせいもありましたが、殿下は私に対して少しの気遣いすらありませんでしたから」
「本当に困った人だ。お前は何も悪くないよ」
「ええ、お茶会だって連絡なしに何度も欠席されて、婚約者としての自覚がないから余所に心を移すのです」

 お母様はフィリップ殿下と私の仲を少しでも良くしようと、王太子妃様やお子様達と何度もお茶会を開いて下さいましたが、殿下は理由を付けて参加を拒否し、連絡もないままいらっしゃらない事も度々でした。

 王妃様が私と殿下を招いてお茶会をと何度誘っても、殿下は理由もなく拒否されていましたから、お母様や王太子妃のお茶会にいらっしゃる筈がありません。

 お城の王妃様や王太子様の宮で、美しく飾られた花とお菓子、香り高い紅茶を入れられ勧められても肝心の殿下がいらっしゃらないのでは話になりません。

 取り繕うように笑う王妃様は、孫である王太子妃様のお子様達を急遽招いて話すだけ、俯く私に慌てて遣ってきた王太子妃様が必死に会話を繋げようと話しかけてくれるのだけが救いでした。

 お茶会、そう言えば。

「お母様、お茶会はどうしたらいいでしょうか」
「王妃様のお茶会は、お断りのお手紙を送っていますから気にしなくていいわ」
「え?」
「あなたはね、屋敷に戻ってすぐ心労で倒れたの。そして傷心に耐えきれず神殿に向かい神聖契約をしたのよ」

 それは、そういう風にこれから振る舞えという意味でしょうか。

「学校は暫くの間お休みするのですから、領地にもどりましょうか。王都は騒がしいものね」
「はい、お母様」
「私も何件かお茶会に参加したら領地に向かいますから、旦那様それでよろしいですね」
「そうだな、それがいいだろう。二人が領地に行ってしまうのは寂しいが」

 お父様は大臣のお仕事がありますから、簡単には戻れません。婚約破棄等不名誉でしかないというのに、そんな娘がいなくなるのを寂しいと言ってくださるお父様は優しい方だとしんみりしてしまいました。

「フィリップ殿下の今後の行動次第で私は職を辞して領地に戻るよ」
「お父様、そんなっ」
「領地をしっかり治めていれば問題などないのだよ。大臣などもっと若い者にさせればいいだけだ」

 もしかしたら私の婚約破棄のせいでお父様にご迷惑をお掛けしているのでしょうか。
 私は、少し悲しみは残るものの長年背負っていた重い荷物を下ろしたような気持ちですが、もしご迷惑をお掛けしているとしたらどうしたらいいのでしょう。

 俯くと契約の印がついた左手の指が視界に入りました。
 私の我が儘のせいで、もう政略の駒としての価値も私には無くなってしまったのです。

「お父様」
「お前のせいじゃない。息子可愛さに甘やかすだけのお二人に少し失望しているだけだよ」
「そうね。王妃様はあなたと殿下の仲を取り持とうと必死でしたけど、結局自分の我が儘で二人を不幸にしていると思いたく無かっただけですもの。あなたのためではなく、ご自身の為にお茶会も開いていたのよ」
「そうかもしれませんね」

 印を見ながら、お茶会で必ず言われる王妃様の言葉を思い出していました。

 お茶会に来ない殿下を待つ時間は苦しく、美味しいお菓子も美しい花も、私の心を癒してはくれませんでした。

『あの子は何が気に入らないのかしら、あなた分かる?』

 欠席だと殿下の配下が告げに来ると、王妃様はため息を付いた後決まってそう尋ねるのです。

『申し訳ございません。至らぬ私が悪いのです』
『あなたは努力していると思うわ、でも努力の結果がこれではね。失望させないでね』

 笑っているのに笑っていない笑顔、それが何よりの苦痛でした。

「これで良かったの。そうしたくとも私達には拒否出来なかったのですから」
「そうだな、殿下の愚行に感謝しないと」
「お父様ったら」

 泣き笑いの顔で私は二人を見つめながら、この二人の娘で良かったと心から思いました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜

みおな
恋愛
 子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。  この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

処理中です...