侯爵令嬢の婚約の行方~妖精の様だと言われる可愛い妹と素直になれない私~(旧、やって出来ないこともある)

木嶋うめ香

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妹の恋の始まり2

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「あなた、自分の能力の高さを軽く見過ぎているわ。まじないを三つ付けられた匂い袋だけで貴重過ぎる程だというのに、私のローブには怪我、麻痺、毒防止に体力と魔力の回復、おまけに幸運向上ですって? いくらアラクネの糸は魔力の通りが良いとはいえ、五つもまじないを付けるなんて」
「あら、五つではありませんわ。体力と魔力の回復は別々のまじないですから六つです」

 今日は晴れていますね。程度の気軽さで話すカレンは、見た目だけでなく心身共に妖精か何かなのでしょうか。
 カレンはまじないを生業にしているわけではないというのに、王都の神殿で働くまじない師ですら一つの物に六つもまじないを付ける事は難しいというのにどうしてこんなに簡単にまじないを五つも六つも付けられるのか、凡人な私には分かりません。
 
「カレン、あなたローブにまじないを付けた時にお父様から代金を支払って貰っているのよね。待って、私ローブを作った時の明細を見たけれど、あの請求書にまじない代なんて入っていたかしら?」

 まじないをつけたローブは領地の魔物を狩る際に着るものですから、私が使うものだとしてもドレスの費用とは別の予算が組まれています。
 領地を守る侯爵家の兵士達の鎧や剣等と同じ扱いになるので、私の一存で好き勝手に予算を使えるものではありません。
 
「だってまじない代をお父様に請求していませんもの」
「お父様は、ローブには防除のまじないが付けられていると知っているわよ」
「ええ、でも私がしたとは知らないと思います。誰にも言っていませんから」

 誰にも言わずに、まじないを付けたりは出来ない筈です。
 少なくともローブを作った工房は知っていなければ、おかしいでしょう。

「タビサも知らないの?」

 侯爵家の鎧や防具はドワーフの夫婦が営む工房で作られています、工房主のゴードンが鎧などを作り、妻であるタビサはローブなどを作っています。

「タビサは勿論まじないをつけたと知っていますけれど、どんなまじないを付けたかまでは話していません。まじないは、ローブを納品して貰ってから付けましたから」
「どういうこと?」

 なぜカレンがそんな面倒な事をしたのか理解出来ずに聞くと、私が今まで知らなかった事実をあっさりと話し始めました。

「ささやかなまじないを付けたいから、ローブは完成したら私に届けてくれる様お願いしました。痛っ、お姉様痛いですっ。な、なぜお仕置きをっ」
「あなたが自分がしでかしたことを理解していないからよっ」

 お母様から許可を頂いているカレンへのお仕置き、耳の上辺りを拳でぐりぐりとしながら叱ります。
 
「しでかし?」
「タビサはお父様にまじない分は当然請求していないでしょうが、お父様はまじない込みの代金だと誤解していらっしゃるかもしれないわ。もし次に同じ物をとお父様がタビサに依頼しても、その時あなたはすでに嫁いでいるかもしれないのよ」

 幸いローブを注文しているのはカレンの家族である私達ですから、大きな問題にはならないと思いますがそれでも問題は問題です。
 頭痛を感じながらカレンに説明しますが、カレンはキョトンとしています。

「あなたがいなければ同じまじないは出来ないわ、その時困るのはタビサよ。それにあなたが私達を思ってくれたことでも、仕事として代金は請求するべき事よ」
「え、私すぐにまじないを付けますし、こんな事位でお父様に代金を請求するなんて」

 この子は、まじないは立派な仕事だという事も、嫁ぐ意味も理解していないのでしょうか。
 若干眩暈を感じながら、私はカレンの髪が崩れない様にもう一度ぐりぐりとお仕置きを始めました。

「お姉様、痛い、痛いです」
「痛い様にやっているのよ。あなたは王家に嫁ぐのよ、侯爵家から出た人間が実家とはいえ気軽に能力を使おうとしたらいけない事位理解なさいっ」

 第三王子殿下の為人を良く知らないので何とも言えませんが、カレンの能力の安売りを王家は望まないでしょう。
 まじないは、一般に付与師が付けるものとは別に考えられています。
 まじないは神殿に仕える神官の能力の為、守り袋等にしか付けられないと思っている者が多いのです。
 私もカレンが使えなければ、ローブ等にもまじないが付けられる等考えもしなかったでしょう。

「嫁いでも家族は家族です」
「それでも王家はそれを良い事とは思わないでしょう。気軽に会えるわけでもないでしょうしね」
「イグナス様は、そんな事仰らないと思います。私が家族を大切に思っているとご存じですし」

 きっぱりと言うカレンの頬は、赤く染まっていて第三王子殿下をお慕いしているのだと微笑ましく感じてしまう。
 だけど、カレンの甘い考えはお母様からしっかり言い聞かせて貰わないといけないのではないかと、私は少し不安に感じてしまうのでした。
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