35 / 35
妹の恋の始まり2
しおりを挟む
「あなた、自分の能力の高さを軽く見過ぎているわ。まじないを三つ付けられた匂い袋だけで貴重過ぎる程だというのに、私のローブには怪我、麻痺、毒防止に体力と魔力の回復、おまけに幸運向上ですって? いくらアラクネの糸は魔力の通りが良いとはいえ、五つもまじないを付けるなんて」
「あら、五つではありませんわ。体力と魔力の回復は別々のまじないですから六つです」
今日は晴れていますね。程度の気軽さで話すカレンは、見た目だけでなく心身共に妖精か何かなのでしょうか。
カレンはまじないを生業にしているわけではないというのに、王都の神殿で働くまじない師ですら一つの物に六つもまじないを付ける事は難しいというのにどうしてこんなに簡単にまじないを五つも六つも付けられるのか、凡人な私には分かりません。
「カレン、あなたローブにまじないを付けた時にお父様から代金を支払って貰っているのよね。待って、私ローブを作った時の明細を見たけれど、あの請求書にまじない代なんて入っていたかしら?」
まじないをつけたローブは領地の魔物を狩る際に着るものですから、私が使うものだとしてもドレスの費用とは別の予算が組まれています。
領地を守る侯爵家の兵士達の鎧や剣等と同じ扱いになるので、私の一存で好き勝手に予算を使えるものではありません。
「だってまじない代をお父様に請求していませんもの」
「お父様は、ローブには防除のまじないが付けられていると知っているわよ」
「ええ、でも私がしたとは知らないと思います。誰にも言っていませんから」
誰にも言わずに、まじないを付けたりは出来ない筈です。
少なくともローブを作った工房は知っていなければ、おかしいでしょう。
「タビサも知らないの?」
侯爵家の鎧や防具はドワーフの夫婦が営む工房で作られています、工房主のゴードンが鎧などを作り、妻であるタビサはローブなどを作っています。
「タビサは勿論まじないをつけたと知っていますけれど、どんなまじないを付けたかまでは話していません。まじないは、ローブを納品して貰ってから付けましたから」
「どういうこと?」
なぜカレンがそんな面倒な事をしたのか理解出来ずに聞くと、私が今まで知らなかった事実をあっさりと話し始めました。
「ささやかなまじないを付けたいから、ローブは完成したら私に届けてくれる様お願いしました。痛っ、お姉様痛いですっ。な、なぜお仕置きをっ」
「あなたが自分がしでかしたことを理解していないからよっ」
お母様から許可を頂いているカレンへのお仕置き、耳の上辺りを拳でぐりぐりとしながら叱ります。
「しでかし?」
「タビサはお父様にまじない分は当然請求していないでしょうが、お父様はまじない込みの代金だと誤解していらっしゃるかもしれないわ。もし次に同じ物をとお父様がタビサに依頼しても、その時あなたはすでに嫁いでいるかもしれないのよ」
幸いローブを注文しているのはカレンの家族である私達ですから、大きな問題にはならないと思いますがそれでも問題は問題です。
頭痛を感じながらカレンに説明しますが、カレンはキョトンとしています。
「あなたがいなければ同じまじないは出来ないわ、その時困るのはタビサよ。それにあなたが私達を思ってくれたことでも、仕事として代金は請求するべき事よ」
「え、私すぐにまじないを付けますし、こんな事位でお父様に代金を請求するなんて」
この子は、まじないは立派な仕事だという事も、嫁ぐ意味も理解していないのでしょうか。
若干眩暈を感じながら、私はカレンの髪が崩れない様にもう一度ぐりぐりとお仕置きを始めました。
「お姉様、痛い、痛いです」
「痛い様にやっているのよ。あなたは王家に嫁ぐのよ、侯爵家から出た人間が実家とはいえ気軽に能力を使おうとしたらいけない事位理解なさいっ」
第三王子殿下の為人を良く知らないので何とも言えませんが、カレンの能力の安売りを王家は望まないでしょう。
まじないは、一般に付与師が付けるものとは別に考えられています。
まじないは神殿に仕える神官の能力の為、守り袋等にしか付けられないと思っている者が多いのです。
私もカレンが使えなければ、ローブ等にもまじないが付けられる等考えもしなかったでしょう。
「嫁いでも家族は家族です」
「それでも王家はそれを良い事とは思わないでしょう。気軽に会えるわけでもないでしょうしね」
「イグナス様は、そんな事仰らないと思います。私が家族を大切に思っているとご存じですし」
きっぱりと言うカレンの頬は、赤く染まっていて第三王子殿下をお慕いしているのだと微笑ましく感じてしまう。
だけど、カレンの甘い考えはお母様からしっかり言い聞かせて貰わないといけないのではないかと、私は少し不安に感じてしまうのでした。
「あら、五つではありませんわ。体力と魔力の回復は別々のまじないですから六つです」
今日は晴れていますね。程度の気軽さで話すカレンは、見た目だけでなく心身共に妖精か何かなのでしょうか。
カレンはまじないを生業にしているわけではないというのに、王都の神殿で働くまじない師ですら一つの物に六つもまじないを付ける事は難しいというのにどうしてこんなに簡単にまじないを五つも六つも付けられるのか、凡人な私には分かりません。
「カレン、あなたローブにまじないを付けた時にお父様から代金を支払って貰っているのよね。待って、私ローブを作った時の明細を見たけれど、あの請求書にまじない代なんて入っていたかしら?」
まじないをつけたローブは領地の魔物を狩る際に着るものですから、私が使うものだとしてもドレスの費用とは別の予算が組まれています。
領地を守る侯爵家の兵士達の鎧や剣等と同じ扱いになるので、私の一存で好き勝手に予算を使えるものではありません。
「だってまじない代をお父様に請求していませんもの」
「お父様は、ローブには防除のまじないが付けられていると知っているわよ」
「ええ、でも私がしたとは知らないと思います。誰にも言っていませんから」
誰にも言わずに、まじないを付けたりは出来ない筈です。
少なくともローブを作った工房は知っていなければ、おかしいでしょう。
「タビサも知らないの?」
侯爵家の鎧や防具はドワーフの夫婦が営む工房で作られています、工房主のゴードンが鎧などを作り、妻であるタビサはローブなどを作っています。
「タビサは勿論まじないをつけたと知っていますけれど、どんなまじないを付けたかまでは話していません。まじないは、ローブを納品して貰ってから付けましたから」
「どういうこと?」
なぜカレンがそんな面倒な事をしたのか理解出来ずに聞くと、私が今まで知らなかった事実をあっさりと話し始めました。
「ささやかなまじないを付けたいから、ローブは完成したら私に届けてくれる様お願いしました。痛っ、お姉様痛いですっ。な、なぜお仕置きをっ」
「あなたが自分がしでかしたことを理解していないからよっ」
お母様から許可を頂いているカレンへのお仕置き、耳の上辺りを拳でぐりぐりとしながら叱ります。
「しでかし?」
「タビサはお父様にまじない分は当然請求していないでしょうが、お父様はまじない込みの代金だと誤解していらっしゃるかもしれないわ。もし次に同じ物をとお父様がタビサに依頼しても、その時あなたはすでに嫁いでいるかもしれないのよ」
幸いローブを注文しているのはカレンの家族である私達ですから、大きな問題にはならないと思いますがそれでも問題は問題です。
頭痛を感じながらカレンに説明しますが、カレンはキョトンとしています。
「あなたがいなければ同じまじないは出来ないわ、その時困るのはタビサよ。それにあなたが私達を思ってくれたことでも、仕事として代金は請求するべき事よ」
「え、私すぐにまじないを付けますし、こんな事位でお父様に代金を請求するなんて」
この子は、まじないは立派な仕事だという事も、嫁ぐ意味も理解していないのでしょうか。
若干眩暈を感じながら、私はカレンの髪が崩れない様にもう一度ぐりぐりとお仕置きを始めました。
「お姉様、痛い、痛いです」
「痛い様にやっているのよ。あなたは王家に嫁ぐのよ、侯爵家から出た人間が実家とはいえ気軽に能力を使おうとしたらいけない事位理解なさいっ」
第三王子殿下の為人を良く知らないので何とも言えませんが、カレンの能力の安売りを王家は望まないでしょう。
まじないは、一般に付与師が付けるものとは別に考えられています。
まじないは神殿に仕える神官の能力の為、守り袋等にしか付けられないと思っている者が多いのです。
私もカレンが使えなければ、ローブ等にもまじないが付けられる等考えもしなかったでしょう。
「嫁いでも家族は家族です」
「それでも王家はそれを良い事とは思わないでしょう。気軽に会えるわけでもないでしょうしね」
「イグナス様は、そんな事仰らないと思います。私が家族を大切に思っているとご存じですし」
きっぱりと言うカレンの頬は、赤く染まっていて第三王子殿下をお慕いしているのだと微笑ましく感じてしまう。
だけど、カレンの甘い考えはお母様からしっかり言い聞かせて貰わないといけないのではないかと、私は少し不安に感じてしまうのでした。
0
お気に入りに追加
816
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結)余りもの同士、仲よくしましょう
オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。
「運命の人」に出会ってしまったのだと。
正式な書状により婚約は解消された…。
婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。
◇ ◇ ◇
(ほとんど本編に出てこない)登場人物名
ミシュリア(ミシュ): 主人公
ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
毒姫ライラは今日も生きている
木崎優
恋愛
エイシュケル王国第二王女ライラ。
だけど私をそう呼ぶ人はいない。毒姫ライラ、それは私を示す名だ。
ひっそりと森で暮らす私はこの国において毒にも等しく、王女として扱われることはなかった。
そんな私に、十六歳にして初めて、王女としての役割が与えられた。
それは、王様が愛するお姫様の代わりに、暴君と呼ばれる皇帝に嫁ぐこと。
「これは王命だ。王女としての責務を果たせ」
暴君のもとに愛しいお姫様を嫁がせたくない王様。
「どうしてもいやだったら、代わってあげるわ」
暴君のもとに嫁ぎたいお姫様。
「お前を妃に迎える気はない」
そして私を認めない暴君。
三者三様の彼らのもとで私がするべきことは一つだけ。
「頑張って死んでまいります!」
――そのはずが、何故だか死ぬ気配がありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから
よどら文鳥
恋愛
私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。
五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。
私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。
だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。
「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」
この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。
あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。
婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。
両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。
だが、それでも私の心の中には……。
※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。
※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】そう。異母姉妹ですか。 元凶はアレです、やっつけましょう。
BBやっこ
恋愛
教会に連れられ、遊んでいなさいとお母さんに言われた。
大事なお話があるって。
同じように待っている女の子。ちょっと似ている。
そうしていっしょに、お母さんを泣かせた髭の男を退治したのです。
そんな頃がありましたとお茶をしている異母姉妹。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)
青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。
「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」
ですって!!
そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・
これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない)
前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです
天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。
魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。
薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。
それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる