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カレンと赤い薔薇
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「お姉様お帰りなさいませっ! まあ、お姉様とっても素敵です」
何だか疲れた気持ちを心の奥底に沈めて帰宅すれば、ご機嫌なカレンが出迎えてくれました。
すでに普段着のドレスに着替えていますが、この顔を見れば今日の顔合わせは上手く行ったのだと話を聞かなくとも分かります。
「カレンお帰りなさい。その様子だと問題は無かったようね。良かったわ」
「もう、お姉様。それよりもその素敵な御髪をよく見せて下さいませ。いつものキリリとしたお姉様も素敵ですが今日の髪型とても良くお似合いですわ」
ディアス兄様は、用事があると自室にすぐに行ってしまいました。
私は兄様から欲しかった言葉を何故か妹の口から聞いているのですから、苦笑いするしかありません。
「書類し仕事の邪魔になるからと、お姉様はいつも髪を纏めてしまうけれど折角綺麗な髪をしているのですもの、たまにはそうして下ろして欲しいなと思っていましたのよ」
「そうねえ、でもまとめていた方がやっぱり楽だわ」
「もう、結婚したら髪を下ろして外出など出来ないのですもの、あと僅かな時間位、妹のお願いを聞いてくださいませ」
結婚、本当に私とディアス兄様はそうなるのでしょうか。
さっき植物園で会った女性、品のない派手なドレスでしたが胸の大きさはかなりのものでした。
もしかして、ディアス兄様の好みって本当はああいう方なのではないでしょうか。
「お姉様?」
「髪型は考えておくわ。それより美味しいお菓子を買ってきたのよ、それを頂きながら王宮での話を聞かせて王子殿下とはどんなお話をしたの?」
玄関先で立ち話をする様な話題ではありませんが、今は私の事よりカレンの事です。
「どんなお話と言っても」
「ふふふ、噂通りの素敵な方だった?」
「それは、はい。とても」
頬を染め頷いたカレンは、とても幸せそうです。
「早く詳しく聞きたいわ。急いで着替えてくるから待ってい……て」
何となくモヤモヤしている気持ちを誤魔化し笑顔を作りながら、階段を登り始めたその時です。
「カレンお嬢様、お花が届いております」
大きな薔薇の花束をメイドが運んできたのです。
「綺麗な薔薇ね、どなたから?」
「はい、第三王子殿下イグナス様からでございます」
メイドの言葉にカレン顔を真っ赤にしてしまいました。
「まあ、王子殿下からですって。カレンこんなに見事な薔薇を贈って頂けるなんて。すぐにお礼状を書かなければ」
「は、はい」
「カレンお嬢様、お花と一緒にお手紙も届いております」
花束を抱えたメイドの後ろから、銀盆に手紙を載せたメイドがカレンの前に歩み出ました。
「手紙、お姉様あの」
「ふふ、私は着替えてくるわ。今日はよく歩いたからお風呂に入ったら少し足の疲れを解して貰おうかしら」
カレンの様子にそう言うと、彼女の側に控えていたルルが「入浴の準備は済んでおりますのでいつでもお使い頂けます」と告げました。
今日は特別にカレンに付き添わせましたが、やはりルルは私の気持ちに良く気がついて指示しなくても行動してくれると実感しました。
「お茶を頂くのはその後でも良いかしら」
「はい。お姉様ありがとうございます」
「ふふ、何のこと? その薔薇はお父様達にお見せした後カレンの各部屋に飾って」
「畏まりました」
花束を持ったメイドが去って行くと、私は意識して優しげな笑みを浮かべてカレンを見ました。
「さあカレン、お部屋に戻りなさい。きっと王子殿下はカレンの手紙を待っていらっしゃるわ」
「もう、お姉様」
真っ赤な顔のまま、カレンは手紙を大事そうに両手で持ち部屋に帰っていきました。
「ルル、何だか疲れたわ。お風呂はラベンダーの香油を入れてくれるかしら」
同じ赤でも今日出会った女性が着ていたドレスの赤と、カレンに届いた薔薇の赤は全く異なる印象を受けました。
でも、どちらの赤も私の心の奥にするどい棘を刺していった気がしたのです。
何だか疲れた気持ちを心の奥底に沈めて帰宅すれば、ご機嫌なカレンが出迎えてくれました。
すでに普段着のドレスに着替えていますが、この顔を見れば今日の顔合わせは上手く行ったのだと話を聞かなくとも分かります。
「カレンお帰りなさい。その様子だと問題は無かったようね。良かったわ」
「もう、お姉様。それよりもその素敵な御髪をよく見せて下さいませ。いつものキリリとしたお姉様も素敵ですが今日の髪型とても良くお似合いですわ」
ディアス兄様は、用事があると自室にすぐに行ってしまいました。
私は兄様から欲しかった言葉を何故か妹の口から聞いているのですから、苦笑いするしかありません。
「書類し仕事の邪魔になるからと、お姉様はいつも髪を纏めてしまうけれど折角綺麗な髪をしているのですもの、たまにはそうして下ろして欲しいなと思っていましたのよ」
「そうねえ、でもまとめていた方がやっぱり楽だわ」
「もう、結婚したら髪を下ろして外出など出来ないのですもの、あと僅かな時間位、妹のお願いを聞いてくださいませ」
結婚、本当に私とディアス兄様はそうなるのでしょうか。
さっき植物園で会った女性、品のない派手なドレスでしたが胸の大きさはかなりのものでした。
もしかして、ディアス兄様の好みって本当はああいう方なのではないでしょうか。
「お姉様?」
「髪型は考えておくわ。それより美味しいお菓子を買ってきたのよ、それを頂きながら王宮での話を聞かせて王子殿下とはどんなお話をしたの?」
玄関先で立ち話をする様な話題ではありませんが、今は私の事よりカレンの事です。
「どんなお話と言っても」
「ふふふ、噂通りの素敵な方だった?」
「それは、はい。とても」
頬を染め頷いたカレンは、とても幸せそうです。
「早く詳しく聞きたいわ。急いで着替えてくるから待ってい……て」
何となくモヤモヤしている気持ちを誤魔化し笑顔を作りながら、階段を登り始めたその時です。
「カレンお嬢様、お花が届いております」
大きな薔薇の花束をメイドが運んできたのです。
「綺麗な薔薇ね、どなたから?」
「はい、第三王子殿下イグナス様からでございます」
メイドの言葉にカレン顔を真っ赤にしてしまいました。
「まあ、王子殿下からですって。カレンこんなに見事な薔薇を贈って頂けるなんて。すぐにお礼状を書かなければ」
「は、はい」
「カレンお嬢様、お花と一緒にお手紙も届いております」
花束を抱えたメイドの後ろから、銀盆に手紙を載せたメイドがカレンの前に歩み出ました。
「手紙、お姉様あの」
「ふふ、私は着替えてくるわ。今日はよく歩いたからお風呂に入ったら少し足の疲れを解して貰おうかしら」
カレンの様子にそう言うと、彼女の側に控えていたルルが「入浴の準備は済んでおりますのでいつでもお使い頂けます」と告げました。
今日は特別にカレンに付き添わせましたが、やはりルルは私の気持ちに良く気がついて指示しなくても行動してくれると実感しました。
「お茶を頂くのはその後でも良いかしら」
「はい。お姉様ありがとうございます」
「ふふ、何のこと? その薔薇はお父様達にお見せした後カレンの各部屋に飾って」
「畏まりました」
花束を持ったメイドが去って行くと、私は意識して優しげな笑みを浮かべてカレンを見ました。
「さあカレン、お部屋に戻りなさい。きっと王子殿下はカレンの手紙を待っていらっしゃるわ」
「もう、お姉様」
真っ赤な顔のまま、カレンは手紙を大事そうに両手で持ち部屋に帰っていきました。
「ルル、何だか疲れたわ。お風呂はラベンダーの香油を入れてくれるかしら」
同じ赤でも今日出会った女性が着ていたドレスの赤と、カレンに届いた薔薇の赤は全く異なる印象を受けました。
でも、どちらの赤も私の心の奥にするどい棘を刺していった気がしたのです。
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