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羨ましくて仕方ない

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「本当に? 無理はしていないのね?」

 カレンの婚約の話を初めてお父様に聞かされた時、この子はそんなに喜んでいたようには見えませんでした。
 無理だ嫌だと叫び、いっそ私と婚約すればいいと言っていたというのに、本当は一目惚れだったなんて、本当なのでしょうか。

「嫌がっていたのはどうして?」
「だって、自信があったのです。本当の私を知ったらきっと殿下は私に呆れて、求婚したことを後悔されるって、嫌われると分かっているのに喜べませんでした。それに話が本格的になってから駄目になったら家名に傷をつけてしまいます」

 そんなことを考えていたなんて、気が付きもしませんでした。

「怖かったのです。好きだと思っている方に呆れられて嫌われてしまうのが、それならいっそ最初から無かったことにしたかったのです」

 しょんぼりと俯くカレンの不安はよく分かります。

「カレンの様な素直で優しく愛らしい女性なんていないわ。あなたに足りないのは自信なのよ」

 私のような見栄っ張りで、妹にすら見栄を張ってディアス兄様に愛されている振りをする私とは違います。
 この子はお馬鹿さんなところも多いですが、誰からも好かれて当然の女性なのです。

「自信、ですか?」
「苦手な刺繍もダンスも、少し私が口を出しただけで上達したのは、コツを掴んだからだけではないわ。あなたが諦めずに努力し続けたから問題をほんの少し解決しただけで上手く出来る様になったのよ。あなたは人の話を僻まずにキチンと耳を傾けられる素直さがあるし、駄目だと思っていても投げ出さずに努力する真面目さもある。そして愚かな姉の暴言を許す心の広さも持っているわ」

 多分私がカレンだったら、刺繍等それが得意なメイドにさせればいいとすぐに投げ出したでしょうし、ダンスだって先生の教え方が下手だとか、相手の技量がないだとか言い訳をしていたでしょう。

「殿下とお会いする時も自信を持ってお話しするのよ、そうすればきっとあなたの良いところに沢山気がついて下さる筈よ」
「そうでしょうか。私お姉様の様に上手に会話出来るでしょうか。記憶力もない馬鹿な私が、殿下のお話についていけるでしょうか」

 不安そうなカレンは、それでもきっと頑張るのでしょう。

「そうねえ。殿下のされているお仕事についてお父様に教えて頂くのはどうかしら。第二騎士団の団長をされているそうだけれど、詳しい経歴をカレンは知らないでしょう? そして殿下と関わりがある方の情報も教えて貰うのよ、貴族年鑑を暗記する参考にもなるでしょう?」

 剣の腕も魔法の才能も素晴らしいとは聞いていますが、私達とは少し年が離れているので私はお話したことすらありません。
 
「そうですね。お父様に聞いてみます。ありがとうございます、お姉様」
「いいのよ。あなたに幸せになって欲しいもの幾らだって協力するわ」

 カレンの事を、殿下が嫌いになるはずがありません。
 二人は両思いだったのですから、きっとこれから先にあるのは幸せな結婚生活です。

「ありがとうお姉様」

 微笑むカレンは可愛くて、私は殿下に望まれているカレンが羨ましくてたまりません。
 無理矢理婚約の話を進めた私とは大違いです。

「頑張ってねカレン」

 羨ましいと妬みながらカレンを応援する私は、何て性格が悪いのでしょう。
 こんな風だから兄様も私を望んでくれないのだと落ち込みながら、私はカレンの前で必死に作り笑顔を続けていたのです。
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