上 下
19 / 35

仲直りの為の、罰は

しおりを挟む
「カレン、私になにか罰を頂戴」
「罰ですか? どうしてでしょう」
「だってあなたを傷つけたわ。嫉妬して八つ当たりして気づ付けたのよ」

 カレンは許そうとしてくれていますが、私はそれでは納得が出来ません。
 だからカレンから何か罰を与えて貰いたいと思ったのです。

「それはもういいと言ったではありませんか」
「でもそれでは私の気が済まないのよ。だからカレンが私に何か罰を与えて欲しいの」

 カレンが私に与える罰、想像も出来ませんがそれを受けたら私は本当に許される気がします。

「罰、罰ですか。私がお姉様に、何でもいいのですか?」
「ええ。どんな罰も受けるわ」
「そうですか……。では、お姉様」
「は、はい」

 カレンがきりっとした顔で私を見つめ、ぎゅっと私の両手を握りました。

「では、ディアス兄様にお姉様の気持ちを告白して、兄様から返事を頂いてくださいませ」
「え」

 思いもかけない言葉をカレンに言われ、私は呆けた様に口を開けてしまいました。

「カレン、それは」
「どんな罰でも受けると仰ったのは嘘ですか」
「嘘じゃないわ。ちゃんと私は罰を受けたいと、でも私が告白? ディアス兄様に?」

 今ここにディアス兄様はいないというのに、私の顔は真っ赤に染まりました。
 ディアス兄様に告白、私が兄様に思いを告げる。
 私を妹にしか思っていない、妹の扱いしかしない人に。
 昨日私の足を見て、すぐさま逃げ出す様な人に。私の思いを告げるなんて。

「そうです。お姉様から告白してください」
「告白。振られるでしょうけれど」
「それでもです。私はどういう天の気まぐれなのか第三王子殿下に求婚頂きました。殿下が私に幻滅さえしなければその求婚はそのまま婚約となるでしょう。侯爵家の次女が婚約して長女で時期当主の侯爵家を継ぐ長女が婚約者無しでいられるわけがありませんわ」
「そうね。ええ、それはそうよ」

 本当なら私の方が先に婚約していなければ、可笑しいのです。
 私はカレンよりも年上で、とっくの昔に社交デビューもしている大人なのですから。
 本来であれば婚約どころかすでに結婚していてもおかしくない話です。

「私が一人でいられるのは、お父様とお母様が許して下さっていたからにすぎないわ」

 婚約が決められずにいたのは、お父様とお母様が私がディアス兄様を好きだと知っていたからこそ許されていた我儘です。
 でもそんな我儘も、カレンの婚約が決まれば通じなくなります。
 妹の方が先に婚約し、結婚してしまったら私は出来損ないで婚約も決まらない女という陰口を言われる様になるのですから。

「ディアス兄様はきっと私なんて眼中にないと言うわ。私なんて妹にしか見ていないって」
「それでも、告白しなければお姉様は前に進めないのではありませんか」
「そう、そうね。確かにそうだわ。振られるにしてもディアス兄様に気持ちを告げなければ私は誰とも婚約なんて出来ないわ。政略だとしても受け入れるなんて出来ない」

 それは分かり切っていたことです。
 でも勇気が出なくて、振られると分かっていて告白なんて出来なくて、でも諦められなかったのです。

「分かったわ。私、告白するわ。ディアス兄様に好きだと言うわ。そして、私を妻にして欲しいとお願いするわ」

 きっと振られてしまうでしょう。
 妹にしか見られないと言われて、ごめんと言われるのです。

「好きだと、妹ではなく私を女として見て欲しいって言うわ」
「お姉様、はい。是非告白してくださいませ」
「断られたら慰めてくれる?」
「そんな事無いように。お姉様の気持ちが成就する様に祈っていますから」

 優しいカレンは、私に優しいことを言ってくれます。

「ありがとう、カレン。王都に着いた夜に私告白するわ」

 その後気まずくなっても、それは仕方ありません。
 私は覚悟を決める事にしたのです。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

処理中です...