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お父様の惚気
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「ジョーシー、お前も成人しているのだから、もう少し考えて行動しなさい」
緊張して外に出るとカレンの姿もディアス兄様の姿も無く、お父様の従僕に案内されるままに馬車に乗れば、乗っていたのはお父様でした。
「はい、申し訳ありません」
「まあ、お前がしっかりしているからとカレンを任せっきりにした私達も悪いのだが」
「いいえ、お父様達の信頼を裏切ってしまったのですから、悪いのは私です」
カレンがお母様にお願いして馬車に乗る組み合わせを変えたのでしょうか。
お父様にそう尋ねるのは簡単ですが、答えを聞く勇気が出ません。
「そう意固地になるな。今回の場合皆が悪かった。お前もカレンも私達も」
「はい」
頷いても納得しているわけではありません。
順位をつけるなら、私が一番悪いのですから。
「年頃の娘にこんなことを言っても見当違いだとは思うがな、お前だって十分可愛いんだぞ。カレンとは可愛いの方向が違うだけだ」
「お父様」
「薔薇は華やかだが、あれを見て元気になれると思う人間は少ないだろ? ヒマワリは明るく元気な気持ちになるが、繊細な場に合うかと言えば微妙だ。じゃあ百合はどうだ? 清らかで繊細だがホッと安らぎを与えるのは別の花ではないか?」
「それは……はい」
「与える印象は違うが、どれも綺麗な花であることは変わらないだろう。そして、薔薇を好き、ヒマワリが好き、百合が好きと人それぞれ好みが違うだろう。人だって同じだ」
花と人は違うと思います。
お父様が私を慰めたいと話してくれているのは分かりますが。
「惚気になるが、お前の母親は私の顔が好きなのだよ」
「え」
「あの人は、あの見た目で隣国の王女で、偉大な魔法使いで、結婚前は物凄く人気があってね彼女が成人する誕生日の祝の日求婚者が列をなしたという話が今でも残っているんだよ」
子供二人が成人年齢になろうとしているのに、未だ妖精姫の名を持っている程の美貌の持ち主であるお母様が隣国でそんなに人気があったとは知りませんでした。
「あの国は例え王族でも女性本人が望まない限り、成人前に婚約しないから、皆が成人となる日を待ち望んでいたのだ。凄いだろう?」
「はい」
そんな話を聞かされたら、不甲斐なさに顔が俯いてきてしまいます。
私だってお母様の娘だというのに、私は成人過ぎても一人の求婚者も現れません。なんて情けない話なのでしょう。
「でもお母様はお父様を望んだ?」
お父様も美形ではありますが、整った顔立ちよりも凛々しさとか厳しさとかが目立ちます。年若い令嬢が好む顔立ちではないと思いますが、お父様の若い頃はどうだったのでしょう。
「私は外交官の付き添いという名目の護衛で彼の国に行き、交流の一つとして魔法使い同士の模擬戦を行ったんだよ。その時の相手が彼女だった」
「お母様と闘ったのですか」
「そうだ。彼女はとても強い上に容赦が無くてね辛うじて引き分けにしたが、実は危なく負けるところだったんだよ」
「そうだったのですか」
それが馴れ初め? 確かお母様が一目惚れしたのたと聞いていたのだけれど。
「それで、試合後の挨拶をしようと近づいたら、成人祝いの夜会に招待するから私に求婚して欲しいと言われたんだ。闘っている顔に惚れたと言ってな」
「そ、そうですか」
両親の仲はとてもいいのですが、その始まりが模擬戦で一目惚れが、自分と闘っている顔にとか、なんというか……お母様らしいお話しだとか言えません。
「お父様は味方となればこれ程頼りになる方はいないでしょうから、お母様の気持ちは分かります」
「そうだろう」
でも、私はお父様に似ていると言われているのですが、今の話のどの辺りに可愛いと思える要素があるのでしょうか。
「ちなみに私は当時この国では全く人気が無かった。夜会で令嬢の視線を集めるのは弟の方だったな」
「そうなのですか?」
弟というのは、ディアス兄様のお父様の事です。
顔立ちは兄弟だけあってお父様と似ているとおもいますが、何故お父様は人気がなかったのでしょう?
「あいつは私と同じ強面だが、何故か明るい印象があるだろう。心根が優しいということもあったのだろうな」
「そうでしたか」
何だかお父様似の私もやはり異性から人気がない未来しかない気がしてきてしまいましたが、好かれたいのはたった一人なのだけれど、やはり無理なのでしょうね。
お父様のお話を聞きながら私は諦めのため息をつくのでした。
緊張して外に出るとカレンの姿もディアス兄様の姿も無く、お父様の従僕に案内されるままに馬車に乗れば、乗っていたのはお父様でした。
「はい、申し訳ありません」
「まあ、お前がしっかりしているからとカレンを任せっきりにした私達も悪いのだが」
「いいえ、お父様達の信頼を裏切ってしまったのですから、悪いのは私です」
カレンがお母様にお願いして馬車に乗る組み合わせを変えたのでしょうか。
お父様にそう尋ねるのは簡単ですが、答えを聞く勇気が出ません。
「そう意固地になるな。今回の場合皆が悪かった。お前もカレンも私達も」
「はい」
頷いても納得しているわけではありません。
順位をつけるなら、私が一番悪いのですから。
「年頃の娘にこんなことを言っても見当違いだとは思うがな、お前だって十分可愛いんだぞ。カレンとは可愛いの方向が違うだけだ」
「お父様」
「薔薇は華やかだが、あれを見て元気になれると思う人間は少ないだろ? ヒマワリは明るく元気な気持ちになるが、繊細な場に合うかと言えば微妙だ。じゃあ百合はどうだ? 清らかで繊細だがホッと安らぎを与えるのは別の花ではないか?」
「それは……はい」
「与える印象は違うが、どれも綺麗な花であることは変わらないだろう。そして、薔薇を好き、ヒマワリが好き、百合が好きと人それぞれ好みが違うだろう。人だって同じだ」
花と人は違うと思います。
お父様が私を慰めたいと話してくれているのは分かりますが。
「惚気になるが、お前の母親は私の顔が好きなのだよ」
「え」
「あの人は、あの見た目で隣国の王女で、偉大な魔法使いで、結婚前は物凄く人気があってね彼女が成人する誕生日の祝の日求婚者が列をなしたという話が今でも残っているんだよ」
子供二人が成人年齢になろうとしているのに、未だ妖精姫の名を持っている程の美貌の持ち主であるお母様が隣国でそんなに人気があったとは知りませんでした。
「あの国は例え王族でも女性本人が望まない限り、成人前に婚約しないから、皆が成人となる日を待ち望んでいたのだ。凄いだろう?」
「はい」
そんな話を聞かされたら、不甲斐なさに顔が俯いてきてしまいます。
私だってお母様の娘だというのに、私は成人過ぎても一人の求婚者も現れません。なんて情けない話なのでしょう。
「でもお母様はお父様を望んだ?」
お父様も美形ではありますが、整った顔立ちよりも凛々しさとか厳しさとかが目立ちます。年若い令嬢が好む顔立ちではないと思いますが、お父様の若い頃はどうだったのでしょう。
「私は外交官の付き添いという名目の護衛で彼の国に行き、交流の一つとして魔法使い同士の模擬戦を行ったんだよ。その時の相手が彼女だった」
「お母様と闘ったのですか」
「そうだ。彼女はとても強い上に容赦が無くてね辛うじて引き分けにしたが、実は危なく負けるところだったんだよ」
「そうだったのですか」
それが馴れ初め? 確かお母様が一目惚れしたのたと聞いていたのだけれど。
「それで、試合後の挨拶をしようと近づいたら、成人祝いの夜会に招待するから私に求婚して欲しいと言われたんだ。闘っている顔に惚れたと言ってな」
「そ、そうですか」
両親の仲はとてもいいのですが、その始まりが模擬戦で一目惚れが、自分と闘っている顔にとか、なんというか……お母様らしいお話しだとか言えません。
「お父様は味方となればこれ程頼りになる方はいないでしょうから、お母様の気持ちは分かります」
「そうだろう」
でも、私はお父様に似ていると言われているのですが、今の話のどの辺りに可愛いと思える要素があるのでしょうか。
「ちなみに私は当時この国では全く人気が無かった。夜会で令嬢の視線を集めるのは弟の方だったな」
「そうなのですか?」
弟というのは、ディアス兄様のお父様の事です。
顔立ちは兄弟だけあってお父様と似ているとおもいますが、何故お父様は人気がなかったのでしょう?
「あいつは私と同じ強面だが、何故か明るい印象があるだろう。心根が優しいということもあったのだろうな」
「そうでしたか」
何だかお父様似の私もやはり異性から人気がない未来しかない気がしてきてしまいましたが、好かれたいのはたった一人なのだけれど、やはり無理なのでしょうね。
お父様のお話を聞きながら私は諦めのため息をつくのでした。
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