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狐さん達と飲みましょう
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「確かに人としては少し離れた感じがしていたりしますけれど、それで困ってることって別になかったりもするんですよね」
パクリとぬか漬けした人参を食べて、しっかり漬かった、ぬかの風味を噛みしめながら考える。
ちなみにぬか漬けは、お休み処で餡子餅とかの口直しに一緒に出している。
大きな木製の樽それぞれに、ぬか漬けと梅干しとお味噌を仕込んでお店の地下に置いてある。
東京の夏はかなり暑いけれど、稲荷様の力なのか保存場所はベストな温度に保たれていて、どれも自信作と言える出来栄えだ。
「寝なくて良くなったから、時間を有効に使えてありがたいですし、紺さんとのんびりお酒飲みながらおしゃべりするの好きですし」
誕生日が来たら私は三十歳になるのだけれど、なんかもう余生って感じにのんびりと生きている。
平和でのんびりした毎日、穏やかな日々で幸せだなあって思う。
「有効に使う?」
「パンを仕込んだり、焼き菓子作ったり、お休み処の新しいメニューを考えたり、樹脂粘土作成動画撮って編集して、十和とお散歩して」
「十和とお散歩」
じいっと紺さんが十和を見つめる。
紺さんは、昼間も人の形になれるようになったけれど、それはまだ神社の境内と私のマンションだけだ。神社からこの部屋の往復は転移だけれど、私は出来ないので十和と歩いている。
それが紺さんは寂しく思っているらしい。
「いつか紺さんともお散歩出来たら嬉しですが、時間は沢山あるんですから、楽しみに待ってますね」
「うん、ごめん。ありがとう由衣」
ふにゃりと、紺さんは細い目をより細くして微笑む。
「由衣に幸せになって欲しいのに、私ばかり幸せを感じているなぁ」
微笑みながら、紺さんは今度はへにょりと眉尻を下げるから、慌てて否定する。
「何言ってるんですか、私毎日幸せだなあって思ってるんですよ」
「そう?」
「はい、紺さんと十和とこうして一緒にいられるのも一緒に働けるのも幸せです」
それに、私が作ったものを嬉しそうに食べてくれるのが嬉しい。
美味しそう! これ好きな味だよ。うわぁ、これも美味しいね。
そんな風に言いながら、沢山食べてくれる紺さんを見ているのが幸せだ。
今村さんに近田さん、お店のお客さん達や稲荷様や他の神様達に美味しいと喜んで貰えるのも勿論幸せだけど、何より紺さんがそうしてくれるのが嬉しいんだ。
「幸せなんですよ」
紺さんへの気持ちが恋愛的なものなのか、よく分からない。
誰よりも好きとか、そういう激しさはない。
だけど、番とか眷属とか、家族とか、恋人とか、そういうものを超えた何かの様な気もする。
「だからずっと一緒にいましょう。私の人としての時間が終わっても、ずっと一緒にいましょう」
一緒にいられるのが、幸せ。
美味しいものを一緒に食べて、美味しいねと笑い合って。
毎日楽しく働いて、お客さんの笑顔に力をもらって。
そうして、この部屋に帰ってきたら、私と紺さんと十和とのんびり過ごすんだ。
「一緒に?」
「はい、一緒に。いつまでも一緒に過ごして、夜になったらこうして月を眺めながらお酒を飲んで、美味しいものを食べましょう」
立ち上がりカーテンを開き、窓を開ける。
見上げると空に、大きな月が見えた。
綺麗なお月さま、先輩が今いる場所にもこんな月が見えていたらいいな。
たった一人だと思い詰めるより、昼間は太陽が夜には月がせめて先輩の行く先を照らしてくれているといいな。
そしていつか、反省して心を入れ替えて、幸せになって欲しい。
「月」
「綺麗だな、こんな風に夜空を見るなんて、いままで無かった。月はこんなにも綺麗なものなんだね」
紺さんが隣に立ち、空を見上げている。
その横顔に見とれて、隣に当たり前の様にいられるのが嬉しいと、この関係がずっと続くのが嬉しいと心からそう思った。
「ふふ、私達に命の終わりはないので言いませんけれど、ずっと一緒にいましょうね」
「え?」
意味が分からなかったのか、紺さんは首を傾げている。
私は、笑いながら紺さんと手をつなぎ、長い間付きを見上げ続けた。
※※※※※※終わり※※※※※※
長々とお付き合い頂きまして、本当にありがとうございます。
これでこのお話はおしまいです。
先輩、いつか外の世界に出られるといいですが、まだまだ先の話しになると思います。
由衣のお店のエピソード、入れるかどうしようか悩んでこんな感じになりました。
今年の夏はトラブル続きで、小説書く元気が無く、生きるので精一杯でした。
ため息しか出ない。
なんて、そんな日々で、メンタルやばやばでした。
まあ、そんな時もあるさと自分を慰めつつ、他の作品の更新を再開したいと思います。
遅筆な私の小説を読んでくださる皆様、いつも本当にありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。
パクリとぬか漬けした人参を食べて、しっかり漬かった、ぬかの風味を噛みしめながら考える。
ちなみにぬか漬けは、お休み処で餡子餅とかの口直しに一緒に出している。
大きな木製の樽それぞれに、ぬか漬けと梅干しとお味噌を仕込んでお店の地下に置いてある。
東京の夏はかなり暑いけれど、稲荷様の力なのか保存場所はベストな温度に保たれていて、どれも自信作と言える出来栄えだ。
「寝なくて良くなったから、時間を有効に使えてありがたいですし、紺さんとのんびりお酒飲みながらおしゃべりするの好きですし」
誕生日が来たら私は三十歳になるのだけれど、なんかもう余生って感じにのんびりと生きている。
平和でのんびりした毎日、穏やかな日々で幸せだなあって思う。
「有効に使う?」
「パンを仕込んだり、焼き菓子作ったり、お休み処の新しいメニューを考えたり、樹脂粘土作成動画撮って編集して、十和とお散歩して」
「十和とお散歩」
じいっと紺さんが十和を見つめる。
紺さんは、昼間も人の形になれるようになったけれど、それはまだ神社の境内と私のマンションだけだ。神社からこの部屋の往復は転移だけれど、私は出来ないので十和と歩いている。
それが紺さんは寂しく思っているらしい。
「いつか紺さんともお散歩出来たら嬉しですが、時間は沢山あるんですから、楽しみに待ってますね」
「うん、ごめん。ありがとう由衣」
ふにゃりと、紺さんは細い目をより細くして微笑む。
「由衣に幸せになって欲しいのに、私ばかり幸せを感じているなぁ」
微笑みながら、紺さんは今度はへにょりと眉尻を下げるから、慌てて否定する。
「何言ってるんですか、私毎日幸せだなあって思ってるんですよ」
「そう?」
「はい、紺さんと十和とこうして一緒にいられるのも一緒に働けるのも幸せです」
それに、私が作ったものを嬉しそうに食べてくれるのが嬉しい。
美味しそう! これ好きな味だよ。うわぁ、これも美味しいね。
そんな風に言いながら、沢山食べてくれる紺さんを見ているのが幸せだ。
今村さんに近田さん、お店のお客さん達や稲荷様や他の神様達に美味しいと喜んで貰えるのも勿論幸せだけど、何より紺さんがそうしてくれるのが嬉しいんだ。
「幸せなんですよ」
紺さんへの気持ちが恋愛的なものなのか、よく分からない。
誰よりも好きとか、そういう激しさはない。
だけど、番とか眷属とか、家族とか、恋人とか、そういうものを超えた何かの様な気もする。
「だからずっと一緒にいましょう。私の人としての時間が終わっても、ずっと一緒にいましょう」
一緒にいられるのが、幸せ。
美味しいものを一緒に食べて、美味しいねと笑い合って。
毎日楽しく働いて、お客さんの笑顔に力をもらって。
そうして、この部屋に帰ってきたら、私と紺さんと十和とのんびり過ごすんだ。
「一緒に?」
「はい、一緒に。いつまでも一緒に過ごして、夜になったらこうして月を眺めながらお酒を飲んで、美味しいものを食べましょう」
立ち上がりカーテンを開き、窓を開ける。
見上げると空に、大きな月が見えた。
綺麗なお月さま、先輩が今いる場所にもこんな月が見えていたらいいな。
たった一人だと思い詰めるより、昼間は太陽が夜には月がせめて先輩の行く先を照らしてくれているといいな。
そしていつか、反省して心を入れ替えて、幸せになって欲しい。
「月」
「綺麗だな、こんな風に夜空を見るなんて、いままで無かった。月はこんなにも綺麗なものなんだね」
紺さんが隣に立ち、空を見上げている。
その横顔に見とれて、隣に当たり前の様にいられるのが嬉しいと、この関係がずっと続くのが嬉しいと心からそう思った。
「ふふ、私達に命の終わりはないので言いませんけれど、ずっと一緒にいましょうね」
「え?」
意味が分からなかったのか、紺さんは首を傾げている。
私は、笑いながら紺さんと手をつなぎ、長い間付きを見上げ続けた。
※※※※※※終わり※※※※※※
長々とお付き合い頂きまして、本当にありがとうございます。
これでこのお話はおしまいです。
先輩、いつか外の世界に出られるといいですが、まだまだ先の話しになると思います。
由衣のお店のエピソード、入れるかどうしようか悩んでこんな感じになりました。
今年の夏はトラブル続きで、小説書く元気が無く、生きるので精一杯でした。
ため息しか出ない。
なんて、そんな日々で、メンタルやばやばでした。
まあ、そんな時もあるさと自分を慰めつつ、他の作品の更新を再開したいと思います。
遅筆な私の小説を読んでくださる皆様、いつも本当にありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。
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