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その後の私達5
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「そんなことされていたとは……」
今更明かされた事実に、がっくりと肩を落とし持っていたグラスに注いだお酒に視線を落とす。
思えば株の売買の思い切りの良さはおかしすぎたし、宝くじはタイミングが良すぎた。
マンション購入の時に宝くじが当たってたし、それ以前もお金が必要な時って臨時収入があるのが当たり前だったから株で全く損をしていないのも、開店資金をどうしようかと考えていた時に宝くじが当たったのも不思議だなんて思わなかったのだ。
「いいのでしょうか」
「いいとは?」
「私、稲荷様に贔屓されすぎなんじゃないかと。それを知らずに、稲荷様へ感謝もせずずっと贔屓されていたなんて」
私はあまりにも呑気にしすぎていたのではないのかと、申し訳ない気持ちになってしまう。
私金運良いんだなあと、呑気にしすぎていた。まさか稲荷様の力だったとは思わなかったから、感謝の気持ちもなく呑気に日々過ごしていたのだ。
「由衣は面白いね。贔屓されすぎじゃないかって気にするなんて」
「面白いですか?」
「うん、由衣のそういうところが稲荷様に気に入られているんだと思うよ。由衣、一番最初に今村さんに料理をご馳走した時、今村さんが食べたいだけ色々作ってくれたそうだね」
「今村さんですか、一番最初?」
ええと、あれは今村さんに髪を切って貰って、服の買い取りのために部屋に来てもらった時だ。
「温かいココアにマシュマロを入れて、覚えていますか?」
「覚えてます。とっても喜んでくれたんです。嬉しそうに幸せそうに飲んでくれて。それを見てるだけで私も嬉しくなったんです」
あの時の今村さんは、とっても幸せそうだった。
沢山食べてくれて、嬉しくなって確かホットサンドとか作ったんだ。
「初対面で、我慢しようとしたのについつい遠慮なく食べてしまったのだと、今村さんは今でも時々反省してるそうですよ」
「えええっ、私あの時今村さんが沢山食べてくれて凄く凄く嬉しかったんですよ。先輩には何を作っても駄目出ししかされなかったから、私あの時凄く傷付いてたこともあって、今村さんの食べっぷりがもの凄く嬉しかった。ううん、救われたんです」
今村さんが無邪気に美味しい美味しいって沢山食べてくれた、あの嬉しそうな顔に私はあの時凄く救われた。
「自分が作ったものを誰かに食べて貰える。美味しいって言って貰えるのは幸せなんだって、私紺さん達に出会って気が付いたんです。あの日はそのことに気が付いた日でもあるんですよ」
「そうなんだ」
「はい。それでもっと自信を持って料理を作りたいって思ったから、その思いが時間が経っても無くならなかったから、会社を辞めて専門学校に通うことにしたんです。まさかこんなに早くお店を開くとは思ってもいませんでしたけど」
今村さんと近田さんの本体は、稲荷様の境内にいる狐の像だ。
長く稲荷様に仕えているお使いの狐さん達でもある二人は、いつもは人の振りをしてこの街で暮らしている。
そういう人はこの街に何人もいて、昔狐さんだった人が人間と結婚して人に近い存在になり、祖先が稲荷様に仕えていた狐さんだったとは知らない子孫に代わっていくこともあるらしい。
ちなみに、おいなりさんを売っていたあの人は、祖先に稲荷様のお使いの狐さんがいるそうだ。
人に近い存在でいる間は、私の様に料理したものを近田さんや今村さんに食べて貰えるけれど、狐さんの血を受け継いでいても完全に人になってしまえば、その人が作った料理でもお供えしなければ食べることは出来ないらしい。
だから、私の作る料理は貴重なのだと今村さんは私が作った焼き菓子を美味しそうに食べながら言う。
私の隣でお酒を飲みつつ、おつまみに作った料理を食べている紺さんも、私がお酒をグラスに注がなければお酒を飲むことは出来ないし、料理も私が作るか誰かがお供えしてくれなければ食べることは出来ない。
初めて会った夜、紺さんが作って食べさせてくれたおうどんは特例中の特例で、体が冷え切り弱り切っていた私を救うため、お供えされていた食材(何かの御祈祷でお供えされたものらしい)を使い温かいものを作ってあげる様に稲荷様が紺さんに命じたものだったらしい。
実はあれが紺さんが作った初めての料理だと聞いた時は、驚いたなんてものじゃなかった。
「お店は楽しい?」
「はい、とっても。会社勤めしている時よりも楽しいし遣り甲斐もありますし」
「そうか、それなら良かった」
穏やかな笑顔で、紺さんはお酒を飲み干して、ほうっと息を吐く。
私も紺さんも、眠る必要が無いから夜はこうやって二人で、時には今村さんと近田さんも一緒にお酒を飲むことが多い。
どれだけ飲んでも朝日を浴びれば酔いは醒めてしまうし、眠気なんて感じることもないし、そもそも酔い過ぎるということもない。
今更明かされた事実に、がっくりと肩を落とし持っていたグラスに注いだお酒に視線を落とす。
思えば株の売買の思い切りの良さはおかしすぎたし、宝くじはタイミングが良すぎた。
マンション購入の時に宝くじが当たってたし、それ以前もお金が必要な時って臨時収入があるのが当たり前だったから株で全く損をしていないのも、開店資金をどうしようかと考えていた時に宝くじが当たったのも不思議だなんて思わなかったのだ。
「いいのでしょうか」
「いいとは?」
「私、稲荷様に贔屓されすぎなんじゃないかと。それを知らずに、稲荷様へ感謝もせずずっと贔屓されていたなんて」
私はあまりにも呑気にしすぎていたのではないのかと、申し訳ない気持ちになってしまう。
私金運良いんだなあと、呑気にしすぎていた。まさか稲荷様の力だったとは思わなかったから、感謝の気持ちもなく呑気に日々過ごしていたのだ。
「由衣は面白いね。贔屓されすぎじゃないかって気にするなんて」
「面白いですか?」
「うん、由衣のそういうところが稲荷様に気に入られているんだと思うよ。由衣、一番最初に今村さんに料理をご馳走した時、今村さんが食べたいだけ色々作ってくれたそうだね」
「今村さんですか、一番最初?」
ええと、あれは今村さんに髪を切って貰って、服の買い取りのために部屋に来てもらった時だ。
「温かいココアにマシュマロを入れて、覚えていますか?」
「覚えてます。とっても喜んでくれたんです。嬉しそうに幸せそうに飲んでくれて。それを見てるだけで私も嬉しくなったんです」
あの時の今村さんは、とっても幸せそうだった。
沢山食べてくれて、嬉しくなって確かホットサンドとか作ったんだ。
「初対面で、我慢しようとしたのについつい遠慮なく食べてしまったのだと、今村さんは今でも時々反省してるそうですよ」
「えええっ、私あの時今村さんが沢山食べてくれて凄く凄く嬉しかったんですよ。先輩には何を作っても駄目出ししかされなかったから、私あの時凄く傷付いてたこともあって、今村さんの食べっぷりがもの凄く嬉しかった。ううん、救われたんです」
今村さんが無邪気に美味しい美味しいって沢山食べてくれた、あの嬉しそうな顔に私はあの時凄く救われた。
「自分が作ったものを誰かに食べて貰える。美味しいって言って貰えるのは幸せなんだって、私紺さん達に出会って気が付いたんです。あの日はそのことに気が付いた日でもあるんですよ」
「そうなんだ」
「はい。それでもっと自信を持って料理を作りたいって思ったから、その思いが時間が経っても無くならなかったから、会社を辞めて専門学校に通うことにしたんです。まさかこんなに早くお店を開くとは思ってもいませんでしたけど」
今村さんと近田さんの本体は、稲荷様の境内にいる狐の像だ。
長く稲荷様に仕えているお使いの狐さん達でもある二人は、いつもは人の振りをしてこの街で暮らしている。
そういう人はこの街に何人もいて、昔狐さんだった人が人間と結婚して人に近い存在になり、祖先が稲荷様に仕えていた狐さんだったとは知らない子孫に代わっていくこともあるらしい。
ちなみに、おいなりさんを売っていたあの人は、祖先に稲荷様のお使いの狐さんがいるそうだ。
人に近い存在でいる間は、私の様に料理したものを近田さんや今村さんに食べて貰えるけれど、狐さんの血を受け継いでいても完全に人になってしまえば、その人が作った料理でもお供えしなければ食べることは出来ないらしい。
だから、私の作る料理は貴重なのだと今村さんは私が作った焼き菓子を美味しそうに食べながら言う。
私の隣でお酒を飲みつつ、おつまみに作った料理を食べている紺さんも、私がお酒をグラスに注がなければお酒を飲むことは出来ないし、料理も私が作るか誰かがお供えしてくれなければ食べることは出来ない。
初めて会った夜、紺さんが作って食べさせてくれたおうどんは特例中の特例で、体が冷え切り弱り切っていた私を救うため、お供えされていた食材(何かの御祈祷でお供えされたものらしい)を使い温かいものを作ってあげる様に稲荷様が紺さんに命じたものだったらしい。
実はあれが紺さんが作った初めての料理だと聞いた時は、驚いたなんてものじゃなかった。
「お店は楽しい?」
「はい、とっても。会社勤めしている時よりも楽しいし遣り甲斐もありますし」
「そうか、それなら良かった」
穏やかな笑顔で、紺さんはお酒を飲み干して、ほうっと息を吐く。
私も紺さんも、眠る必要が無いから夜はこうやって二人で、時には今村さんと近田さんも一緒にお酒を飲むことが多い。
どれだけ飲んでも朝日を浴びれば酔いは醒めてしまうし、眠気なんて感じることもないし、そもそも酔い過ぎるということもない。
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