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その後の私達3
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「先輩は自信があって、いつも強気な人だと思ってました。私はどちらか言えば逆だから、先輩と付き合い始めたばかりの頃から終わりを考えていた気もするし、先輩に『由衣は駄目だな、頼りないなぁ』って言われる度に、その通りだと思ったし否定出来なくて、だから好かれようと必死だった」
見た目を先輩の好みに変えたのも、先輩の好みのお酒やお菓子や料理を用意していたのも、先輩にがっかりされたくなかったからだ。
「先輩の気持ちを理解出来ないままでした。私は先輩のこと何も知らないまま、先輩の嘘を信じてた」
先輩が一人暮らしだったのも、先輩の実家が会社の取引先なのも知らなかった。
何を考えて私と付き合い出したのかも、美紀ちゃんと神田さんと花村さんと私、四人の誰かを好きだったのか、全員都合の良い女として見ていたのか、それすらも分からない。
「私が信じていた先輩は嘘で出来た姿だった。先輩が私にそう思わせようとしていた嘘。先輩にとって大切なものそうでないもの、何を考えて私達と付き合っていたのかも分からないままだった。だから先輩が五年間自分の行いを振り返ることもせず反省もせず、ただ根田さんの神域に閉じ込められて、自分の家族すら信じられず見捨てられたと考えて、その結果心が折れたのだとしても、その考えに至った理由は分からないし、理由を知っても理解は出来ないと思う」
「そうか」
私がぼそぼそと話す様子を、紺さんはグラスを右手に持ったまま聞いていてその足元には十和がいる。
五年の間に私の隣には紺さんがいるのが当たり前になって、十和が二人の傍にいるのも当たり前になった。
私の部屋はいつだって居心地が良くてこの部屋に紺さんと十和がいるのは日常になった。それと同時に稲荷神社も、今村さんの美容院も、近田さんの管理人室も私にはすっかり馴染の場所になった。
「分からないし理解出来ないけれど、私はもう先輩は過去だから、どうでもいいです。でも出来るならたった一人で寂しい場所にいるのではなく、誰かと幸せになって欲しいです」
「酷い事をされたのに、そう思うの」
「そりゃ反省して欲しいですよ。あの時凄く傷付きましたし、悲しかったですから。だからといって自分がしたことを後悔してのた打ち回って苦しんで欲しいとまでは思いません。ただ……そうですね、反省して同じことを繰り返すことだけはしないで欲しいと思います。そして誰かを幸せにして自分も幸せになって欲しいと思います」
「……由衣は優しいんだね」
暫く考え込んだ後、紺さんはグラスの中身をぐいっと飲み干してからそう言った。
「優しくないですよ、優しいのとは違います。だって先輩にとって根田さんの神域から出ることすら大変だと思いますし、自分がしたことを反省して、その上で誰かを幸せにするって全然簡単じゃないと思いますもん」
たった一人、五年間神域に閉じ込められても反省出来なかった人が、これからすぐにそれが出来るのかどうか分からない。
仮にすぐに出て来られたとして、会社を辞めてから五年もの間無職だった人間が上手く生きていける程世間は甘くないと思う。先輩のご両親がフォローしてくれれば別かもしれないけれど、先輩が素直にご両親に頭を下げられるかどうか分からない。
「だから優しくないです。それにそう思えるのは自分が今幸せだからだと思いますし」
「由衣は幸せなの?」
なぜか紺さんは、不安そうに私を見ていた。
空になったグラスを持ったまま、本当に不安そうに私を見ているから私の方が不安になってきてしまった。
「え、私紺さんの目から見て不幸そうに見えるんですか???」
驚きつつそう問うと、紺さんは「だって由衣を人から離してしまったから」としょんぼりとしてしまったのだ。
見た目を先輩の好みに変えたのも、先輩の好みのお酒やお菓子や料理を用意していたのも、先輩にがっかりされたくなかったからだ。
「先輩の気持ちを理解出来ないままでした。私は先輩のこと何も知らないまま、先輩の嘘を信じてた」
先輩が一人暮らしだったのも、先輩の実家が会社の取引先なのも知らなかった。
何を考えて私と付き合い出したのかも、美紀ちゃんと神田さんと花村さんと私、四人の誰かを好きだったのか、全員都合の良い女として見ていたのか、それすらも分からない。
「私が信じていた先輩は嘘で出来た姿だった。先輩が私にそう思わせようとしていた嘘。先輩にとって大切なものそうでないもの、何を考えて私達と付き合っていたのかも分からないままだった。だから先輩が五年間自分の行いを振り返ることもせず反省もせず、ただ根田さんの神域に閉じ込められて、自分の家族すら信じられず見捨てられたと考えて、その結果心が折れたのだとしても、その考えに至った理由は分からないし、理由を知っても理解は出来ないと思う」
「そうか」
私がぼそぼそと話す様子を、紺さんはグラスを右手に持ったまま聞いていてその足元には十和がいる。
五年の間に私の隣には紺さんがいるのが当たり前になって、十和が二人の傍にいるのも当たり前になった。
私の部屋はいつだって居心地が良くてこの部屋に紺さんと十和がいるのは日常になった。それと同時に稲荷神社も、今村さんの美容院も、近田さんの管理人室も私にはすっかり馴染の場所になった。
「分からないし理解出来ないけれど、私はもう先輩は過去だから、どうでもいいです。でも出来るならたった一人で寂しい場所にいるのではなく、誰かと幸せになって欲しいです」
「酷い事をされたのに、そう思うの」
「そりゃ反省して欲しいですよ。あの時凄く傷付きましたし、悲しかったですから。だからといって自分がしたことを後悔してのた打ち回って苦しんで欲しいとまでは思いません。ただ……そうですね、反省して同じことを繰り返すことだけはしないで欲しいと思います。そして誰かを幸せにして自分も幸せになって欲しいと思います」
「……由衣は優しいんだね」
暫く考え込んだ後、紺さんはグラスの中身をぐいっと飲み干してからそう言った。
「優しくないですよ、優しいのとは違います。だって先輩にとって根田さんの神域から出ることすら大変だと思いますし、自分がしたことを反省して、その上で誰かを幸せにするって全然簡単じゃないと思いますもん」
たった一人、五年間神域に閉じ込められても反省出来なかった人が、これからすぐにそれが出来るのかどうか分からない。
仮にすぐに出て来られたとして、会社を辞めてから五年もの間無職だった人間が上手く生きていける程世間は甘くないと思う。先輩のご両親がフォローしてくれれば別かもしれないけれど、先輩が素直にご両親に頭を下げられるかどうか分からない。
「だから優しくないです。それにそう思えるのは自分が今幸せだからだと思いますし」
「由衣は幸せなの?」
なぜか紺さんは、不安そうに私を見ていた。
空になったグラスを持ったまま、本当に不安そうに私を見ているから私の方が不安になってきてしまった。
「え、私紺さんの目から見て不幸そうに見えるんですか???」
驚きつつそう問うと、紺さんは「だって由衣を人から離してしまったから」としょんぼりとしてしまったのだ。
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