70 / 80
長く長く続くその先に4 (透視点)
しおりを挟む
「石段が崩れ欠片が落ち、朽ちた鳥居が倒れてまた落ちる。石段に積もった落ち葉も塵も何もかも落ちて、すべて無へと還る。それがこの檻の道理だとすれば、透お前も同じく無に還るのが道理」
「嫌だ嫌だ嫌だ!! 俺は落ちるのも消えるのも無に還るのも嫌だっ!!」
どうして俺が、こんな変な場所で消えなきゃならなんだ。
俺は自分の思うままに、自分勝手に生きるんだ。
「嫌だ、消えたくない。何とかならないのか、俺が一体何をしたって……ひいっっ」
俺の言葉に反応する様に、石がゴロゴロと崩れて落ちていく。
石が落ちていく音が、次はお前だと言っている気がして悲鳴しかもう出てこない。
なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ、俺が何をしたっていうんだ。
「お前、救いようがないな。あれだけ周囲の心を傷付けて、何をした? だと?」
「傷付ける? 傷付いたのは俺の方だっ!」
親父に捨てられて、由衣は俺をいらないと言い切ったんだ。由衣も美紀も神田も、俺に好かれたくて必死だったくせに。
「悪いのはカレンだろ? あいつが妊娠したなんて嘘言うのが悪いんだ!」
「あれは嘘ではない。勘違いしただけだ。妊娠していなかったと知って一番悲しんだのはあの女人本人なのだからな」
俺を見下ろし根田が言うのと同時に、カレンの。声が聞こえてきた。
『赤ちゃんが私のお腹に来てくれたって本当に思ってたのに、嘘じゃないのに。ねえ、赤ちゃん本当にいないの? 透さん、私が嘘を言ったって、そんな嘘付きと結婚しないって』
カレンが泣いている。
『どうしたらいいの? 急に透さんが会社辞めて田舎に帰るなんて。私に連絡もくれずに、私嘘ついてないのに、電話にも出てくれない』
カレンの泣き声が響く、でも泣きたいのは、辛いのは俺の方だ。
「ひいいっ」
また足元の石が崩れた。
「そのまま落ちればいい。それが皆のためだ」
「嫌だ、止めてくれ。助けてくれっ!」
「……方法は一つ、階段を上り上に行けばいい」
根田が指差す方角を見ると、階段の上部、連なる鳥居のずっと先に小さな明かりが見えた。
「明かり、あそこは出口なのか、でもどうやって」
今いるところから一段上の間には、透明は何かがあって先に進めない。
試しに両手を拳に握り叩いても、びくともしないんだ。
「叩いても壊れることは無い。お前が今いる場所を綺麗に出来れば先に進める」
「綺麗に? なんだこの籠」
どうやったら綺麗に出来るんだと首を傾げた俺の目の前に、古ぼけた大きな背負い籠が現れたけれど箒も塵取りもない。
「手で枯れ葉を集め、ゴミを拾い籠に入れるんだ」
「手、手で? 汚れるだろ!」
落ち葉は雨に濡れでもしたのか、見るからに湿っていて素手で触りたくない。グシャグシャに丸められた紙も同様だ。
「汚れるのは当たり前だろう。嫌ならやらなければいいだけだ、その場合ずっとここにいることになるだけだからな、そしていつか落ちる」
「そんな」
ずっとここに? 寒いし喉が渇いてるし腹もへってるっていうのに、ずっと?
「安心しろ、落ちなければそのままだ。ここは神域人の理は関係ない」
「安心なんて出来るわけ無い。それに腹がへってるんだ!」
「食わずとも飲まずとも、そのままだ」
「冗談だろ? 冗談だよな?」
顔が引きつるけれど、根田は真顔で俺を見下ろしているだけだ。
「私も暇ではない。もう行く」
「お、おいっ。……消えた。嘘だろ、本気で置いてくのかよ」
消えてしまった。
俺はこんな薄気味悪い場所に一人で残されてしまったのか、出口に行くにはゴミを拾い集めなきゃいけないのか。
「……そうだ、綺麗にするだけなら、拾わなくても良いんじゃないか」
思いついて、爪先で落ち葉を下に落としていく。
何も馬鹿正直に籠にゴミを入れる必要なんて無いんだ、綺麗にするだけなら下に落とせばいい。
「ほうら綺麗に、なってない?」
落としても落としても、その場に落ち葉が現れてくる。
枯れ葉を落として一瞬石が見えた場所が、次の瞬間また枯れ葉が積もっている。
「そんな」
自棄になって、力任せに落ち葉やゴミを蹴り落としても、そんなのは無駄だとばかりにすぐに元に戻ってしまう。
「落としても無駄なのか」
落とす前よりも増えた気がする落ち葉とゴミを、俺は呆然と見つめるしかなかったんだ。
「嫌だ嫌だ嫌だ!! 俺は落ちるのも消えるのも無に還るのも嫌だっ!!」
どうして俺が、こんな変な場所で消えなきゃならなんだ。
俺は自分の思うままに、自分勝手に生きるんだ。
「嫌だ、消えたくない。何とかならないのか、俺が一体何をしたって……ひいっっ」
俺の言葉に反応する様に、石がゴロゴロと崩れて落ちていく。
石が落ちていく音が、次はお前だと言っている気がして悲鳴しかもう出てこない。
なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ、俺が何をしたっていうんだ。
「お前、救いようがないな。あれだけ周囲の心を傷付けて、何をした? だと?」
「傷付ける? 傷付いたのは俺の方だっ!」
親父に捨てられて、由衣は俺をいらないと言い切ったんだ。由衣も美紀も神田も、俺に好かれたくて必死だったくせに。
「悪いのはカレンだろ? あいつが妊娠したなんて嘘言うのが悪いんだ!」
「あれは嘘ではない。勘違いしただけだ。妊娠していなかったと知って一番悲しんだのはあの女人本人なのだからな」
俺を見下ろし根田が言うのと同時に、カレンの。声が聞こえてきた。
『赤ちゃんが私のお腹に来てくれたって本当に思ってたのに、嘘じゃないのに。ねえ、赤ちゃん本当にいないの? 透さん、私が嘘を言ったって、そんな嘘付きと結婚しないって』
カレンが泣いている。
『どうしたらいいの? 急に透さんが会社辞めて田舎に帰るなんて。私に連絡もくれずに、私嘘ついてないのに、電話にも出てくれない』
カレンの泣き声が響く、でも泣きたいのは、辛いのは俺の方だ。
「ひいいっ」
また足元の石が崩れた。
「そのまま落ちればいい。それが皆のためだ」
「嫌だ、止めてくれ。助けてくれっ!」
「……方法は一つ、階段を上り上に行けばいい」
根田が指差す方角を見ると、階段の上部、連なる鳥居のずっと先に小さな明かりが見えた。
「明かり、あそこは出口なのか、でもどうやって」
今いるところから一段上の間には、透明は何かがあって先に進めない。
試しに両手を拳に握り叩いても、びくともしないんだ。
「叩いても壊れることは無い。お前が今いる場所を綺麗に出来れば先に進める」
「綺麗に? なんだこの籠」
どうやったら綺麗に出来るんだと首を傾げた俺の目の前に、古ぼけた大きな背負い籠が現れたけれど箒も塵取りもない。
「手で枯れ葉を集め、ゴミを拾い籠に入れるんだ」
「手、手で? 汚れるだろ!」
落ち葉は雨に濡れでもしたのか、見るからに湿っていて素手で触りたくない。グシャグシャに丸められた紙も同様だ。
「汚れるのは当たり前だろう。嫌ならやらなければいいだけだ、その場合ずっとここにいることになるだけだからな、そしていつか落ちる」
「そんな」
ずっとここに? 寒いし喉が渇いてるし腹もへってるっていうのに、ずっと?
「安心しろ、落ちなければそのままだ。ここは神域人の理は関係ない」
「安心なんて出来るわけ無い。それに腹がへってるんだ!」
「食わずとも飲まずとも、そのままだ」
「冗談だろ? 冗談だよな?」
顔が引きつるけれど、根田は真顔で俺を見下ろしているだけだ。
「私も暇ではない。もう行く」
「お、おいっ。……消えた。嘘だろ、本気で置いてくのかよ」
消えてしまった。
俺はこんな薄気味悪い場所に一人で残されてしまったのか、出口に行くにはゴミを拾い集めなきゃいけないのか。
「……そうだ、綺麗にするだけなら、拾わなくても良いんじゃないか」
思いついて、爪先で落ち葉を下に落としていく。
何も馬鹿正直に籠にゴミを入れる必要なんて無いんだ、綺麗にするだけなら下に落とせばいい。
「ほうら綺麗に、なってない?」
落としても落としても、その場に落ち葉が現れてくる。
枯れ葉を落として一瞬石が見えた場所が、次の瞬間また枯れ葉が積もっている。
「そんな」
自棄になって、力任せに落ち葉やゴミを蹴り落としても、そんなのは無駄だとばかりにすぐに元に戻ってしまう。
「落としても無駄なのか」
落とす前よりも増えた気がする落ち葉とゴミを、俺は呆然と見つめるしかなかったんだ。
10
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

非公開とさせていただきました(しばらくはお知らせのため残しますが、のちに削除いたします)
双葉
キャラ文芸
キャラ文芸大賞に応募していた本作ですが、落選したため非公開とさせていただきました。夢である書籍化を目指して改稿し、別の賞へチャレンジいたします。
審査員の皆さま、読者として読んでくださった皆さま、ありがとうございました。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
蛇のおよずれ
深山なずな
キャラ文芸
平安時代、とある屋敷に紅姫と呼ばれる姫がいた。彼女は非常に美しい容姿をしており、また、特殊な力を持っていた。
ある日、紅姫は呪われた1匹の蛇を助ける。そのことが彼女の運命を大きく変えることになるとは知らずに……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる