おきつねさんとちょっと晩酌

木嶋うめ香

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長く長く続くその先に4 (透視点)

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「石段が崩れ欠片が落ち、朽ちた鳥居が倒れてまた落ちる。石段に積もった落ち葉も塵も何もかも落ちて、すべて無へと還る。それがこの檻の道理だとすれば、透お前も同じく無に還るのが道理」
「嫌だ嫌だ嫌だ!! 俺は落ちるのも消えるのも無に還るのも嫌だっ!!」

 どうして俺が、こんな変な場所で消えなきゃならなんだ。
 俺は自分の思うままに、自分勝手に生きるんだ。

「嫌だ、消えたくない。何とかならないのか、俺が一体何をしたって……ひいっっ」

 俺の言葉に反応する様に、石がゴロゴロと崩れて落ちていく。
 石が落ちていく音が、次はお前だと言っている気がして悲鳴しかもう出てこない。
 なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ、俺が何をしたっていうんだ。

「お前、救いようがないな。あれだけ周囲の心を傷付けて、何をした? だと?」
「傷付ける? 傷付いたのは俺の方だっ!」

 親父に捨てられて、由衣は俺をいらないと言い切ったんだ。由衣も美紀も神田も、俺に好かれたくて必死だったくせに。
 
「悪いのはカレンだろ? あいつが妊娠したなんて嘘言うのが悪いんだ!」
「あれは嘘ではない。勘違いしただけだ。妊娠していなかったと知って一番悲しんだのはあの女人本人なのだからな」

 俺を見下ろし根田が言うのと同時に、カレンの。声が聞こえてきた。

『赤ちゃんが私のお腹に来てくれたって本当に思ってたのに、嘘じゃないのに。ねえ、赤ちゃん本当にいないの? 透さん、私が嘘を言ったって、そんな嘘付きと結婚しないって』

 カレンが泣いている。
 
『どうしたらいいの? 急に透さんが会社辞めて田舎に帰るなんて。私に連絡もくれずに、私嘘ついてないのに、電話にも出てくれない』

 カレンの泣き声が響く、でも泣きたいのは、辛いのは俺の方だ。
 
「ひいいっ」

 また足元の石が崩れた。

「そのまま落ちればいい。それが皆のためだ」
「嫌だ、止めてくれ。助けてくれっ!」
「……方法は一つ、階段を上り上に行けばいい」

 根田が指差す方角を見ると、階段の上部、連なる鳥居のずっと先に小さな明かりが見えた。

「明かり、あそこは出口なのか、でもどうやって」

 今いるところから一段上の間には、透明は何かがあって先に進めない。
 試しに両手を拳に握り叩いても、びくともしないんだ。

「叩いても壊れることは無い。お前が今いる場所を綺麗に出来れば先に進める」
「綺麗に? なんだこの籠」

 どうやったら綺麗に出来るんだと首を傾げた俺の目の前に、古ぼけた大きな背負い籠が現れたけれど箒も塵取りもない。

「手で枯れ葉を集め、ゴミを拾い籠に入れるんだ」
「手、手で? 汚れるだろ!」

 落ち葉は雨に濡れでもしたのか、見るからに湿っていて素手で触りたくない。グシャグシャに丸められた紙も同様だ。

「汚れるのは当たり前だろう。嫌ならやらなければいいだけだ、その場合ずっとここにいることになるだけだからな、そしていつか落ちる」
「そんな」

 ずっとここに? 寒いし喉が渇いてるし腹もへってるっていうのに、ずっと?

「安心しろ、落ちなければそのままだ。ここは神域人の理は関係ない」
「安心なんて出来るわけ無い。それに腹がへってるんだ!」
「食わずとも飲まずとも、そのままだ」
「冗談だろ? 冗談だよな?」

 顔が引きつるけれど、根田は真顔で俺を見下ろしているだけだ。

「私も暇ではない。もう行く」
「お、おいっ。……消えた。嘘だろ、本気で置いてくのかよ」

 消えてしまった。
 俺はこんな薄気味悪い場所に一人で残されてしまったのか、出口に行くにはゴミを拾い集めなきゃいけないのか。

「……そうだ、綺麗にするだけなら、拾わなくても良いんじゃないか」

 思いついて、爪先で落ち葉を下に落としていく。
 何も馬鹿正直に籠にゴミを入れる必要なんて無いんだ、綺麗にするだけなら下に落とせばいい。

「ほうら綺麗に、なってない?」

 落としても落としても、その場に落ち葉が現れてくる。
 枯れ葉を落として一瞬石が見えた場所が、次の瞬間また枯れ葉が積もっている。

「そんな」

 自棄になって、力任せに落ち葉やゴミを蹴り落としても、そんなのは無駄だとばかりにすぐに元に戻ってしまう。

「落としても無駄なのか」

 落とす前よりも増えた気がする落ち葉とゴミを、俺は呆然と見つめるしかなかったんだ。
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