おきつねさんとちょっと晩酌

木嶋うめ香

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神との誓い

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「……番?」
「駄目だ由衣っ! ……ああっ」
「「「誓った! 紺の番うと確かに誓った!!」」」

 頭に響いた声を、私だけでなく紺さん達も聞いたのだろうか、番ってなんだったっけと首を傾げる私と、驚き悲鳴を上げる紺さんと、喜びの声を上げる残りの人達、とても夜中に出していい声の大きさでは無かった。

「皆さん、夜中ですよ。近所迷惑になっちゃいますから大声は駄目です」

 今更な気がしながら言うと、「今は結界を張っていて外に声は聞こえません」と根田さんが真顔で言うけれど、その声は何ていうか明るい。
 はしゃいでいる? 酔っぱらっている? そんな感じの声色だ。

「あの、番ってなんでしたっけ?」

 言いながら、もしかして夫婦的な意味かと頭に浮かんだけれど、さすがにそれは無いだろうと、心の中で否定する。
 紺さんとは出会ったばかりだし、互いにそんな気持ちはないと思うし、何しろ紺はんは狐、しかも神様の使いの狐だ。たんなる人間の私とだなんてそんなのありえない。

「番は番です。互いの唯一無二の存在で永遠に共に生きると誓う者です」
「永遠に共に生きると誓う者」

 根田さんに教えられた言葉を呟く、永遠に共に生きると誓う。それだけなら夫婦とかそういうものではないのかな? それならばいいか紺さんと恋人として付き合うとか、夫婦になるとかそんなイメージがまだ浮かばないし、私は夫婦になるイコール永遠に共に生きる者には思えない。
 だけど、夫婦ではないけれど一緒に生きていく相手なら大丈夫、納得できる。

「後悔しても、神に誓ったのだから無かったことになど出来ないぞ」
「いえ、大丈夫です。急に番って言われて驚いただけで、紺さんの側で生きていくことが嫌なわけじゃありませんから」

 そう言った途端、今村さんが「きゃあぁ!」と奇声を発して、近田さんに両手で口を塞がれてしまった。

「今村さん?」
「それって、それってつまり夫婦になるということですよね、そうですよね!」
「え、あの、そういうんじゃなくて」

 今村さんの誤解を解こうと口を開くと、すぐに周囲の空気が微妙なものに変化した。あれ?

「夫婦じゃない?」
「違い、ますよね?」

 そもそも紺さん人間じゃないし、とは流石に言わないけれど、私の考えがおかしいのかと不安になりつつ考えを話す。

「私にとって夫婦とか恋人って、その、なんていうか永遠から最も遠い位置にいるというか、その、両親の離婚の理由もあれですし、恋人だった筈の先輩はトホホな状態でしたし」

 先輩のことは兎も角、両親のことを皆は知らないけれど、恋愛的な愛情は私にとって、生まれてすぐに割れて消えちゃうシャボン玉くらいに脆くて儚い存在に思えてしまう。

「それじゃ、紺は、この子は」

 なんだか泣きそうな顔で、紺さんと今村さんと近田さんは私を見ていて、根田さんは子供が面白いものを見つけたとでもいう感じのワクワクした目で私を見ている。

「紺さんは誠意ある信頼出来る人です。楽しい幸せだって時を一緒に過ごして、悲しくて辛い時も側にいて。美味しいものを一緒に食べて美味しいねって言い合って、そんな風にずっと一緒に生きていきたいと思える人です」

 それは愛とか恋とか、今はそんなんじゃない。
 母とか兄とか、夫婦より余程信頼できる家族みたいな存在なのだ。
 いや、夫婦って家族だろと言われたらそうなんだけど、うまく言えないけれど違うのだ。

「お前は面倒な考えをするのだな」
「根田さん?」
「お前が紺を大切に思い、同じく紺がお前を大切に思う。そうして長い長い時を共に生きる。それだけで良い。それで十分だ。紺はそれで存在し続けられるのだから」

 根田さんは満足そうにそう言って、バンッと紺さんの背中を叩く。

「納得したか、紺」
「……由衣を縛るつもりは無かったのに」
「由衣は望んで縛られたのだ」

 縛られたつもりは無いけれど、永遠っていうのがそれならそうなのかもしれない。

「……人の寿命は短いですが、その間だけでも」
「寿命が終えた、その後の方が遥かに長いがな」
「え?」

 あれ? つまりはどういうこと?

「人としての寿命を終えたら、そこからずっとお前の魂は紺と共に、それだけの話だ」
「……ずっと魂が共に?」

 驚いて根田さんを見る。
 誓いって、そんなことになるのか、そこまで考えて無かったけれど。

「由衣、ごめん」

 しょんぼりと私を見ている紺さん、この人がずぅと淋しくないならそれでいいかと考えてしまう。

「人の一生は短いですが、私が死んでから先も紺さんと一緒にいられるなら安心ですね」

 あっけらかんとそう言えば、根田さんは一瞬私を呆れた様に見た後で大声で笑ったのだった。

※※※※※※※※※※
父親へのトラウマと先輩の裏切りで、愛とか恋が信用出来なくなって拗らせてる由衣です。
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