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見苦しい、最低男への断罪2
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「お、おや、おやじっ。な、ななんでっ」
先輩は、ノートパソコンから少しでも距離を取ろうとしているかの様に勢いよく立ち上がるとそのまま後退る。
その勢いで椅子が倒れて派手な音を立てた。
『なんでじゃないっ。さっき課長さんから連絡を貰った時、どれだけ驚いたかっ! 母さんだって今話を聞いて後ろで泣いているんだぞっ。結婚が決まったと聞いて喜んでいたというのに、お前は何を馬鹿な事を! カレンさん以外と付き合っていただけでも問題なのに、金を騙し取った上盗みだと?』
パソコンのスピーカーから聞こえてくる大音量、あまりの大声に音割れしながら先輩のお父さんらしき人は、先輩を叱っている。
『恥を知れ、馬鹿者っ!』
「こ、これは誤解なんだっ。彼女達は別にそんなんじゃなくて、その、そう! カレンは妊娠してなかったんだよ。妊娠は嘘だったんだ。だから結婚はしないから、あいつには慰謝料を請求して……」
この期に及んで呆れることを言い始めた先輩、彼の言葉を聞いた彼のお父さん、鈴木社長は黙り込んでしまった。
「おやじ、だから、問題は何も……」
『何も問題はない? お前の頭の中に詰まっとるのはゴミか何かなのか、そんなに簡単に結婚を決めたり止めたり出来るわけがないだろう! あちらの家に申し訳なさすぎるっ! 何が慰謝料を請求だ。ふざけるのもいいかげんにしなさい!』
「だけど、本当はまだ結婚なんてするつもり無かったし、あいつが子供が出来たから仕方なく結婚してやるって決めただけで、俺は悪く無い」
先輩の情けない言い訳に、冷めて呆れて軽蔑に変わっていた気持ちが強くなる。
本当に、なんでこんな人一瞬でも好きだと思ってたんだろう、目が曇っていたとしか思えない。
私の父はこの世で一番最低な人だと思っていたけれど、上には上、違う下にはもっと下がいた。
最底辺が地面なら、そこから何百メートルも穴を掘った最底辺よりも更に下、その位先輩は駄目だと思う。
もう、顔も見たくない。たとえ仕事だとしても先輩ともう関わりたくないよ。
お守りに視線を向けそう語りかけると、お守りは淡い光を放った。
『俺は悪く無いだと? お前が騙した方々の前でそんな寝言を言うのか! だいたい盗んだ大金を何に使ったんだ!』
「服とか時計とかだったかな、パチンコとか二、三万溶かすのすぐだしさぁ。金なんかいくらあっても足りないから、俺がこいつらの金を有意義につかってやったんだよ。え、俺なんでこんなこと……」
お守りからの光、それに先輩が包まれた途端先輩は饒舌にお金の使い道について話し始めたけれど、最後はなぜ自分がそれを話してしまったのか戸惑っている様だった。
『お前みたいな馬鹿を、一人で東京に出したのが間違いだった。お前はもう帰ってこい。私がお前のその腐った考えを叩き直してやる!』
「え、嫌だよ。会社も継げないんだろ? あいつの下で働くなんて兄として面目が……」
『当たり前だろう、お前に継がせたら一日で会社が潰れる! 皆さん本当にこの馬鹿息子が申し訳ないことをして、どれだけ謝罪しても足りません。金で解決するのは情けない話ですが、それでも他に方法もありませんからどうか、私と妻からのお詫びとして受け取って頂けないでしょうか』
先輩の尻拭いを親がするのか。
でも、それでこの件が終わって先輩も会社から居なくなるなら十分かもしれない。
「親父、俺を見捨てないんだな!」
『お前に生前贈与で渡す予定だったものを、皆さんへの謝罪にする。私が死んでもお前には一銭たりとも渡さない。そのつもりでいるんだな』
「え、そ、そんなっ!」
『いいから、お前はすぐにそっちの部屋を引き払って帰ってこい。いや、お前を野放しにするのはマズイな。根田さんに任せるか』
「こ、根田さんってまさか……俺殺されるよ!」
慌ててノートパソコンに取りすがる先輩を、私達は侮蔑の目で見ていた。
『根田さんならお前を逃さないだろう、それにお前に灸をすえるにはあれほど適任者はいない』
「おやじ、そんなっ!」
根田さんというのは一体どんな人なのか、それは分からないけれど先輩の動揺振りから怖い人なのだとは分かった。
そして、先輩のお父さんは、私達にお金を払って先輩には何もしないということも無さそうなことも理解した。
「三人はもう出ていいよ。……そうだな、ちょっと頼まれてくれるかな」
先輩の情けない姿を見つめ続ける私達に課長が声をかけ、四人で会議室を出た。
「君達に支払う額は上と話して決めていいかな。鈴木社長と各自交渉するというならそれでもいいが」
「私はお任せしたいです」
「私も」
「私もそれで」
会議室を出てから、どこに向かっているのか分からないまま課長の後ろを歩く。
正直な気持ちを言えば、お金を先輩の親から支払って貰うのは違う気がするけれど、先輩に支払い能力は無いだろう。
「分かった。彼はこの後、上と交えて退職について話をする。退職なのか解雇なのか分からないが」
「そうですか。課長、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。すぐに動いて下さった事とても助かりました。ありがとうございます」
先輩の姿に驚きすぎて頭がよく動いていない、だけどこれだけは言わなくちゃと、私は課長に頭を下げた。
先輩は、ノートパソコンから少しでも距離を取ろうとしているかの様に勢いよく立ち上がるとそのまま後退る。
その勢いで椅子が倒れて派手な音を立てた。
『なんでじゃないっ。さっき課長さんから連絡を貰った時、どれだけ驚いたかっ! 母さんだって今話を聞いて後ろで泣いているんだぞっ。結婚が決まったと聞いて喜んでいたというのに、お前は何を馬鹿な事を! カレンさん以外と付き合っていただけでも問題なのに、金を騙し取った上盗みだと?』
パソコンのスピーカーから聞こえてくる大音量、あまりの大声に音割れしながら先輩のお父さんらしき人は、先輩を叱っている。
『恥を知れ、馬鹿者っ!』
「こ、これは誤解なんだっ。彼女達は別にそんなんじゃなくて、その、そう! カレンは妊娠してなかったんだよ。妊娠は嘘だったんだ。だから結婚はしないから、あいつには慰謝料を請求して……」
この期に及んで呆れることを言い始めた先輩、彼の言葉を聞いた彼のお父さん、鈴木社長は黙り込んでしまった。
「おやじ、だから、問題は何も……」
『何も問題はない? お前の頭の中に詰まっとるのはゴミか何かなのか、そんなに簡単に結婚を決めたり止めたり出来るわけがないだろう! あちらの家に申し訳なさすぎるっ! 何が慰謝料を請求だ。ふざけるのもいいかげんにしなさい!』
「だけど、本当はまだ結婚なんてするつもり無かったし、あいつが子供が出来たから仕方なく結婚してやるって決めただけで、俺は悪く無い」
先輩の情けない言い訳に、冷めて呆れて軽蔑に変わっていた気持ちが強くなる。
本当に、なんでこんな人一瞬でも好きだと思ってたんだろう、目が曇っていたとしか思えない。
私の父はこの世で一番最低な人だと思っていたけれど、上には上、違う下にはもっと下がいた。
最底辺が地面なら、そこから何百メートルも穴を掘った最底辺よりも更に下、その位先輩は駄目だと思う。
もう、顔も見たくない。たとえ仕事だとしても先輩ともう関わりたくないよ。
お守りに視線を向けそう語りかけると、お守りは淡い光を放った。
『俺は悪く無いだと? お前が騙した方々の前でそんな寝言を言うのか! だいたい盗んだ大金を何に使ったんだ!』
「服とか時計とかだったかな、パチンコとか二、三万溶かすのすぐだしさぁ。金なんかいくらあっても足りないから、俺がこいつらの金を有意義につかってやったんだよ。え、俺なんでこんなこと……」
お守りからの光、それに先輩が包まれた途端先輩は饒舌にお金の使い道について話し始めたけれど、最後はなぜ自分がそれを話してしまったのか戸惑っている様だった。
『お前みたいな馬鹿を、一人で東京に出したのが間違いだった。お前はもう帰ってこい。私がお前のその腐った考えを叩き直してやる!』
「え、嫌だよ。会社も継げないんだろ? あいつの下で働くなんて兄として面目が……」
『当たり前だろう、お前に継がせたら一日で会社が潰れる! 皆さん本当にこの馬鹿息子が申し訳ないことをして、どれだけ謝罪しても足りません。金で解決するのは情けない話ですが、それでも他に方法もありませんからどうか、私と妻からのお詫びとして受け取って頂けないでしょうか』
先輩の尻拭いを親がするのか。
でも、それでこの件が終わって先輩も会社から居なくなるなら十分かもしれない。
「親父、俺を見捨てないんだな!」
『お前に生前贈与で渡す予定だったものを、皆さんへの謝罪にする。私が死んでもお前には一銭たりとも渡さない。そのつもりでいるんだな』
「え、そ、そんなっ!」
『いいから、お前はすぐにそっちの部屋を引き払って帰ってこい。いや、お前を野放しにするのはマズイな。根田さんに任せるか』
「こ、根田さんってまさか……俺殺されるよ!」
慌ててノートパソコンに取りすがる先輩を、私達は侮蔑の目で見ていた。
『根田さんならお前を逃さないだろう、それにお前に灸をすえるにはあれほど適任者はいない』
「おやじ、そんなっ!」
根田さんというのは一体どんな人なのか、それは分からないけれど先輩の動揺振りから怖い人なのだとは分かった。
そして、先輩のお父さんは、私達にお金を払って先輩には何もしないということも無さそうなことも理解した。
「三人はもう出ていいよ。……そうだな、ちょっと頼まれてくれるかな」
先輩の情けない姿を見つめ続ける私達に課長が声をかけ、四人で会議室を出た。
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「私はお任せしたいです」
「私も」
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会議室を出てから、どこに向かっているのか分からないまま課長の後ろを歩く。
正直な気持ちを言えば、お金を先輩の親から支払って貰うのは違う気がするけれど、先輩に支払い能力は無いだろう。
「分かった。彼はこの後、上と交えて退職について話をする。退職なのか解雇なのか分からないが」
「そうですか。課長、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。すぐに動いて下さった事とても助かりました。ありがとうございます」
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