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想定外にも程がある4
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「ログを見たってことは、私の返信が課長のところに行ったから、それでログを調べたってことなんだろうなぁ」
課長から来たチャットのメッセージを受け取ってから、急ぎの仕事が無いのを確認しメールを一通送ってから、お弁当の入ったトートバッグに入れていたスマホをポケットに入れ第一会議室に向かう。
第一会議室は、私の勤める部署の部屋と同じフロアにあるけれど、建物の端と端にあるから結構な距離を歩くことになる。
色々していたら、チャットを受け取ってから五分位過ぎてしまっていたから少し急ぎ足で歩きつつ、呼び出された理由に憂鬱な気持ちになる。
社内チャットは、当たり前だけど仕事の連絡用に設定されているものだ。電話やメールのやり取りより気軽に出来るし、相手が読んだかどうかもすぐに分かる。
チャットでの私用のやり取りは禁止されてはいないけれど、課長以上の人は正当な理由があればログを遡って見ることが許されているから、見られて困ることは基本私はしないようにしていたし、相手から送られてきても最低限のやり取りで終わらせるようにしていた。
先輩がさっきみたいな露骨な私用チャットを送ってきたのも、実は初めてだ。
いつもはスマホのトークアプリの方に送って来ていたから、あの人も用心はしていたのだろう。
「失礼しま……え」
第一会議室のドアをノックし、入室許可を取って中に入ると、課長と先輩以外に予想外の人が二人座っていた。
「美紀ちゃんと神田さん、どうして?」
戸惑いつつ部屋の中にいる四人に視線を向ける。
会議室のドアから左奥の壁側に置かれたホワイトボード、その前に置かれたテーブルを挟み窓側に先輩一人、ドア側に課長、右側に美紀ちゃんと神田さんが座っていたのだから、驚くなという方が無理な話だ。
なぜ、私と先輩がやり取りしていたチャットの件で二人も呼ばれていたのか、理由が分からない。
「三浦さん、私の隣に座ってもらっていいかな」
「は、はい」
言われるまま私が腰を下ろすと、課長は会議室の明かりを消してから、リモコンでスクリーンを下ろし始める。
この会議室は、社内の複数ある会議室の中で一番狭くて設備が古いけれど、この人数で使うならこの会議室の大きさが良いのだと思う。
課長の前にはノートパソコンが何故か二台、一台は課長の方に画面を向いていてプロジェクターにも繋がっている。もう一台はホワイトボードの方に向けて置いてある。もう一台のパソコンの向きが気になりながら正面に座っている先輩と視線を合わせたくなくて、私は横に座っている課長の横顔の向こうにあるスクリーンを見ている振りをする。
「君達三人のプライベートのことだけれど、事がことだからチャットのログを確認させて貰った。今からそれを映すから」
「か、課長それは!」
「あの、どういうことなんでしょう」
「なんでそんなこと?」
「え、どうして三人?」
課長の宣言に、慌てる先輩と戸惑う私達。
チャットのログは、先輩と私のじゃないのだろうか? 三人ってどういうことだろう。
「私のところに誤送信で届いたチャットを見て、私がログを確認した方がいいと判断したということだよ」
ログを確認した方がいいと判断、課長はそう言いながらパソコンを操作する。
課長の言葉が理解できないままスクリーンに映し出された文字に、ぽかんと口を開いて見入ってしまった。
なにこれ、どういうこと?
(カリンの奴出来てなかったんだってさ、だからこれからも安心して付き合えるから)
(冗談でしょ? それより部屋を借りる為の資金渡してたの返してよ!)
(部屋はもう正式契約したから、資金は使ったし)
(それは花村さんと住むんじゃないの?)
(お前と契約に行ったしお前の名義で借りた部屋だし、家賃もお前が払うんだろ?)
(何言って、だって花村さんと結婚して、私とも同棲するっていうの?)
ここでログが終わっている。
これは、先輩と神田さんのチャットだろうか、神田さん同棲がどうのって美紀ちゃんに言っていたしその相手が先輩だったっていうことなんだろうか。
つまり、先輩は神田さんとも付き合っていた?
(透さん、昨日電話してきたの本気ですか?)
(本気本気、美紀だって俺のことまだ好きだろ?)
(好きだと思ってました、だから透さんの夢のために私色々金銭的に尽くしたつもりだけど、でも花村さんと結婚するならもう無理です)
(大丈夫、カリンと結婚するの止めたから、カリンとは終わり美紀だけだ)
(そんなこと言われても信じられるわけない!)
これは、美紀ちゃんと?
どういうこと? 神田さんと同棲して、美紀ちゃんだけって?
混乱が収まらないまま、私と先輩のログも映し出され、最後に先輩が課長に間違って送ってしまったらしいログが映し出された。
(あれは、盗んでない借りただけだ。すぐに返すつもりだったから盗みなんかじゃない!! それにあんな変な貯金箱に貯めてるだけなら俺が使った方が有意義だろ? だいたいちょっと借りただけなのに盗みなんて人聞きの悪い。ずっと思ってたけどさ、お前その性格可愛くないよ。俺に大事にして欲しいなら、もっと俺に好かれるように努力しろよ! 作るのはしけた飯ばかり、酒もツマミも安物ばっかでさあ)
スクリーンを見つめながら、誰も口を開かない。
何これ、先輩、私のことそんな風に思ってたの?
「鈴木、お前、花村さんと結婚すると言いながら彼女達とも? それに資金を渡し? 金銭的に尽くし? 最後には盗み化呆れるな。これを同棲や将来の結婚をほのめかしながら行っていたのなら、結婚詐欺と変わらないと理解しているのか」
「ち、違っ。俺はなんていうか、そう、これは俺なりの優しさと言うか、ほら、三人ともどう見てもモテナイ見た目と性格してるし……誰にも相手されない奴ばっかで」
先輩の言い訳ともいえない言い訳に、私は叫び出したい気持ちを必死に堪えていた。
課長から来たチャットのメッセージを受け取ってから、急ぎの仕事が無いのを確認しメールを一通送ってから、お弁当の入ったトートバッグに入れていたスマホをポケットに入れ第一会議室に向かう。
第一会議室は、私の勤める部署の部屋と同じフロアにあるけれど、建物の端と端にあるから結構な距離を歩くことになる。
色々していたら、チャットを受け取ってから五分位過ぎてしまっていたから少し急ぎ足で歩きつつ、呼び出された理由に憂鬱な気持ちになる。
社内チャットは、当たり前だけど仕事の連絡用に設定されているものだ。電話やメールのやり取りより気軽に出来るし、相手が読んだかどうかもすぐに分かる。
チャットでの私用のやり取りは禁止されてはいないけれど、課長以上の人は正当な理由があればログを遡って見ることが許されているから、見られて困ることは基本私はしないようにしていたし、相手から送られてきても最低限のやり取りで終わらせるようにしていた。
先輩がさっきみたいな露骨な私用チャットを送ってきたのも、実は初めてだ。
いつもはスマホのトークアプリの方に送って来ていたから、あの人も用心はしていたのだろう。
「失礼しま……え」
第一会議室のドアをノックし、入室許可を取って中に入ると、課長と先輩以外に予想外の人が二人座っていた。
「美紀ちゃんと神田さん、どうして?」
戸惑いつつ部屋の中にいる四人に視線を向ける。
会議室のドアから左奥の壁側に置かれたホワイトボード、その前に置かれたテーブルを挟み窓側に先輩一人、ドア側に課長、右側に美紀ちゃんと神田さんが座っていたのだから、驚くなという方が無理な話だ。
なぜ、私と先輩がやり取りしていたチャットの件で二人も呼ばれていたのか、理由が分からない。
「三浦さん、私の隣に座ってもらっていいかな」
「は、はい」
言われるまま私が腰を下ろすと、課長は会議室の明かりを消してから、リモコンでスクリーンを下ろし始める。
この会議室は、社内の複数ある会議室の中で一番狭くて設備が古いけれど、この人数で使うならこの会議室の大きさが良いのだと思う。
課長の前にはノートパソコンが何故か二台、一台は課長の方に画面を向いていてプロジェクターにも繋がっている。もう一台はホワイトボードの方に向けて置いてある。もう一台のパソコンの向きが気になりながら正面に座っている先輩と視線を合わせたくなくて、私は横に座っている課長の横顔の向こうにあるスクリーンを見ている振りをする。
「君達三人のプライベートのことだけれど、事がことだからチャットのログを確認させて貰った。今からそれを映すから」
「か、課長それは!」
「あの、どういうことなんでしょう」
「なんでそんなこと?」
「え、どうして三人?」
課長の宣言に、慌てる先輩と戸惑う私達。
チャットのログは、先輩と私のじゃないのだろうか? 三人ってどういうことだろう。
「私のところに誤送信で届いたチャットを見て、私がログを確認した方がいいと判断したということだよ」
ログを確認した方がいいと判断、課長はそう言いながらパソコンを操作する。
課長の言葉が理解できないままスクリーンに映し出された文字に、ぽかんと口を開いて見入ってしまった。
なにこれ、どういうこと?
(カリンの奴出来てなかったんだってさ、だからこれからも安心して付き合えるから)
(冗談でしょ? それより部屋を借りる為の資金渡してたの返してよ!)
(部屋はもう正式契約したから、資金は使ったし)
(それは花村さんと住むんじゃないの?)
(お前と契約に行ったしお前の名義で借りた部屋だし、家賃もお前が払うんだろ?)
(何言って、だって花村さんと結婚して、私とも同棲するっていうの?)
ここでログが終わっている。
これは、先輩と神田さんのチャットだろうか、神田さん同棲がどうのって美紀ちゃんに言っていたしその相手が先輩だったっていうことなんだろうか。
つまり、先輩は神田さんとも付き合っていた?
(透さん、昨日電話してきたの本気ですか?)
(本気本気、美紀だって俺のことまだ好きだろ?)
(好きだと思ってました、だから透さんの夢のために私色々金銭的に尽くしたつもりだけど、でも花村さんと結婚するならもう無理です)
(大丈夫、カリンと結婚するの止めたから、カリンとは終わり美紀だけだ)
(そんなこと言われても信じられるわけない!)
これは、美紀ちゃんと?
どういうこと? 神田さんと同棲して、美紀ちゃんだけって?
混乱が収まらないまま、私と先輩のログも映し出され、最後に先輩が課長に間違って送ってしまったらしいログが映し出された。
(あれは、盗んでない借りただけだ。すぐに返すつもりだったから盗みなんかじゃない!! それにあんな変な貯金箱に貯めてるだけなら俺が使った方が有意義だろ? だいたいちょっと借りただけなのに盗みなんて人聞きの悪い。ずっと思ってたけどさ、お前その性格可愛くないよ。俺に大事にして欲しいなら、もっと俺に好かれるように努力しろよ! 作るのはしけた飯ばかり、酒もツマミも安物ばっかでさあ)
スクリーンを見つめながら、誰も口を開かない。
何これ、先輩、私のことそんな風に思ってたの?
「鈴木、お前、花村さんと結婚すると言いながら彼女達とも? それに資金を渡し? 金銭的に尽くし? 最後には盗み化呆れるな。これを同棲や将来の結婚をほのめかしながら行っていたのなら、結婚詐欺と変わらないと理解しているのか」
「ち、違っ。俺はなんていうか、そう、これは俺なりの優しさと言うか、ほら、三人ともどう見てもモテナイ見た目と性格してるし……誰にも相手されない奴ばっかで」
先輩の言い訳ともいえない言い訳に、私は叫び出したい気持ちを必死に堪えていた。
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