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想定外にも程がある2
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結局午前中先輩は出社しなかったなと思いつつ、私は一人自分の机でお弁当を食べていた。
課長に頼まれた見積書の変更を終えた後諸々の雑用を片付けても先輩の姿は見えず、その間神田さんは苛々とした態度を隠そうともせず八つ当たりの様に周囲に嫌味を言いまくっていた。
神田さんの態度だけでなく美紀ちゃんも何となく雰囲気がおかしいし、私はあの後も何度か神田さんから絡まれていたせいで、昼休みのチャイムが鳴った途端皆が蜘蛛の子を散らす様に部屋から出て行ってしまった。
いつもなら男性社員の前では色々と取り繕っていた神田さんは、今日に限って言えば繕わないどころか彼女の苛々を全部表に出していたし、その苛々を出す相手は私が一番多かった。課長と他の営業の皆さんが私を庇うので余計に彼女が更に苛立っていた様にも思う。
私や美紀ちゃんは神田さんの気分で嫌味を言われたり些細な意地悪をされたりは日常だったけれど、課長達にはそうではなかったから相当驚いている様子だった。
「午後は平和に過ごしたい」
カツサンドを食べながら、水筒に入れて来たミルクティーを飲む。
自分で作った豚カツは、奮発して厚めの豚肉で作ったからボリュームがあり、たっぷりかけたソースと刻んだキャベツとの相性がバッチリだ。
サラダ代わりのキュウリと人参とパプリカのマリネをポリポリと齧って口直しして、またカツサンドを齧る。
近田さんと今村さんのはトーストをした四枚切りの食パンで作ったサンドイッチだけど、今頃食べている頃だろうかとふと思う。
近田さん、サンドイッチ他を渡した時とっても喜んでくれていたけれど、気に入ってくれたらいいけれどどうだろう。私はついつい大量に作ってしまうし、人に食べて貰うのが大好きだ。
ポツポツと話をしながらお酒を飲みつつ紺さんと食べる夜も好きだけれど、美味しい美味しいと食べてくれる今村さんと食べるのも楽しかった。
近田さんとは一緒に食べたことはないけれど、穏やかな人だからきっと心安らかな時を過ごせると思う。
紺さん、近田さん、今村さん、三人と一緒に食事出来たらきっと楽しいと思う。
四人で鍋とかどうだろう、私は三人にとてもお世話になっているし、美味しい日本酒とか買ってつみれ鍋とか水炊きとかすき焼きとかどうだろう。箸休めには大根の甘酢漬けとか白和えとか切干大根の煮物とか、今村さんは相当な甘いもの好きみたいだからケーキも焼きたい。チーズケーキにシフォンケーキ、チョコレートたっぷり使ったガトーショコラ、フィナンシェや台湾カステラも捨てがたい。
「苺大福とかもいいよねえ」
カツサンドを齧りながら考えることじゃないと思うけれど、午前中の神田さんからの攻撃が結構な負担になっているみたいで現実逃避とばかりにメニューを考える。
帰ったら紺さんに話を聞いて貰うつもりだったけれど、それは先輩との話で神田さんとのことは考えてもいなかった。紺さんは良い人だし私の愚痴をきっとなんでも聞いてくれるだろうけれど、だからといって紺さんの人のよさに付け込んで愚痴の相手にはしたくない。
美味しい物を一緒に食べて、美味しいお酒を飲んで幸せな時間を過ごす。紺さんとはそう言う関係でいたいと思うから、愚痴だけを吐き続けることはしたくない。
「よし、神田さんが午後も似たような感じでくるなら、きっぱりと止めて下さいって言おう」
カツサンドとピクルスを食べ終えて、デザートの缶詰みかん入りの牛乳寒天に手を伸ばす。
近田さんと今村さんに渡したのはタッパーにいれたものだけれど、私のはスープジャーに作ったものだ。
こういうのをスープジャーに入れていいのかどうか分からないけれど、氷水で冷やしたスープジャーに入れるとお昼に食べるまで冷えた状態をキープできるから、私は冷たいデザートはスープジャーにいれている。
お味噌汁とかスープとかの温かいもの用とデザート用の二つのスープジャーを用意しているのだけれど、これがなかなか使い勝手が良い。お弁当として持ってくるには少々重たいし嵩張るけれど、私はあまり外に食べに行くのが好きでは無いから重さ程度は我慢することにしている。
「うん、寒天美味しい」
缶詰のみかんはいつ食べても変わらない美味しさで、牛乳と砂糖の甘さについつい頬が緩んでしまう。
缶詰の桃も好きだけれど、牛乳寒天はやっぱりみかんだと思う。
「紺さんもこういうの好きかな」
私しかいない部屋の中で、呟いた声は思ったより部屋の中に響いてびくりと肩をすくめてしまう。
紺さんは私が好きなものを、一緒に美味しいねと食べてくれる人だと思う。
数日の付き合いしかしていないのに、私はそれを全く疑っていない。
それが不思議で、でも心の底では当然だと何故か思っている。
まるでずっと昔から知っている人みたいに、私は紺さんを信用しきっている。
「今日一日頑張って、紺さんに話を聞いて貰うんだ」
寒天を食べきって、机の上を片付ける。
先輩と決着をつけて、すっきりして今日を終える。それが今日の目標。
「ちゃんと話す、絶対に」
綺麗になった机を見ながら、私はぎゅっと拳を握った。
課長に頼まれた見積書の変更を終えた後諸々の雑用を片付けても先輩の姿は見えず、その間神田さんは苛々とした態度を隠そうともせず八つ当たりの様に周囲に嫌味を言いまくっていた。
神田さんの態度だけでなく美紀ちゃんも何となく雰囲気がおかしいし、私はあの後も何度か神田さんから絡まれていたせいで、昼休みのチャイムが鳴った途端皆が蜘蛛の子を散らす様に部屋から出て行ってしまった。
いつもなら男性社員の前では色々と取り繕っていた神田さんは、今日に限って言えば繕わないどころか彼女の苛々を全部表に出していたし、その苛々を出す相手は私が一番多かった。課長と他の営業の皆さんが私を庇うので余計に彼女が更に苛立っていた様にも思う。
私や美紀ちゃんは神田さんの気分で嫌味を言われたり些細な意地悪をされたりは日常だったけれど、課長達にはそうではなかったから相当驚いている様子だった。
「午後は平和に過ごしたい」
カツサンドを食べながら、水筒に入れて来たミルクティーを飲む。
自分で作った豚カツは、奮発して厚めの豚肉で作ったからボリュームがあり、たっぷりかけたソースと刻んだキャベツとの相性がバッチリだ。
サラダ代わりのキュウリと人参とパプリカのマリネをポリポリと齧って口直しして、またカツサンドを齧る。
近田さんと今村さんのはトーストをした四枚切りの食パンで作ったサンドイッチだけど、今頃食べている頃だろうかとふと思う。
近田さん、サンドイッチ他を渡した時とっても喜んでくれていたけれど、気に入ってくれたらいいけれどどうだろう。私はついつい大量に作ってしまうし、人に食べて貰うのが大好きだ。
ポツポツと話をしながらお酒を飲みつつ紺さんと食べる夜も好きだけれど、美味しい美味しいと食べてくれる今村さんと食べるのも楽しかった。
近田さんとは一緒に食べたことはないけれど、穏やかな人だからきっと心安らかな時を過ごせると思う。
紺さん、近田さん、今村さん、三人と一緒に食事出来たらきっと楽しいと思う。
四人で鍋とかどうだろう、私は三人にとてもお世話になっているし、美味しい日本酒とか買ってつみれ鍋とか水炊きとかすき焼きとかどうだろう。箸休めには大根の甘酢漬けとか白和えとか切干大根の煮物とか、今村さんは相当な甘いもの好きみたいだからケーキも焼きたい。チーズケーキにシフォンケーキ、チョコレートたっぷり使ったガトーショコラ、フィナンシェや台湾カステラも捨てがたい。
「苺大福とかもいいよねえ」
カツサンドを齧りながら考えることじゃないと思うけれど、午前中の神田さんからの攻撃が結構な負担になっているみたいで現実逃避とばかりにメニューを考える。
帰ったら紺さんに話を聞いて貰うつもりだったけれど、それは先輩との話で神田さんとのことは考えてもいなかった。紺さんは良い人だし私の愚痴をきっとなんでも聞いてくれるだろうけれど、だからといって紺さんの人のよさに付け込んで愚痴の相手にはしたくない。
美味しい物を一緒に食べて、美味しいお酒を飲んで幸せな時間を過ごす。紺さんとはそう言う関係でいたいと思うから、愚痴だけを吐き続けることはしたくない。
「よし、神田さんが午後も似たような感じでくるなら、きっぱりと止めて下さいって言おう」
カツサンドとピクルスを食べ終えて、デザートの缶詰みかん入りの牛乳寒天に手を伸ばす。
近田さんと今村さんに渡したのはタッパーにいれたものだけれど、私のはスープジャーに作ったものだ。
こういうのをスープジャーに入れていいのかどうか分からないけれど、氷水で冷やしたスープジャーに入れるとお昼に食べるまで冷えた状態をキープできるから、私は冷たいデザートはスープジャーにいれている。
お味噌汁とかスープとかの温かいもの用とデザート用の二つのスープジャーを用意しているのだけれど、これがなかなか使い勝手が良い。お弁当として持ってくるには少々重たいし嵩張るけれど、私はあまり外に食べに行くのが好きでは無いから重さ程度は我慢することにしている。
「うん、寒天美味しい」
缶詰のみかんはいつ食べても変わらない美味しさで、牛乳と砂糖の甘さについつい頬が緩んでしまう。
缶詰の桃も好きだけれど、牛乳寒天はやっぱりみかんだと思う。
「紺さんもこういうの好きかな」
私しかいない部屋の中で、呟いた声は思ったより部屋の中に響いてびくりと肩をすくめてしまう。
紺さんは私が好きなものを、一緒に美味しいねと食べてくれる人だと思う。
数日の付き合いしかしていないのに、私はそれを全く疑っていない。
それが不思議で、でも心の底では当然だと何故か思っている。
まるでずっと昔から知っている人みたいに、私は紺さんを信用しきっている。
「今日一日頑張って、紺さんに話を聞いて貰うんだ」
寒天を食べきって、机の上を片付ける。
先輩と決着をつけて、すっきりして今日を終える。それが今日の目標。
「ちゃんと話す、絶対に」
綺麗になった机を見ながら、私はぎゅっと拳を握った。
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