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それぞれの思惑
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「これで良しと」
先週末から色々あり過ぎて、動画の編集をすっかり忘れていたと急に思い出した。
動画は週末に編集して、月曜日の夜に更新している。
きつねを作る動画は撮影しているから、後は編集だけではあるけれど、その編集に時間が掛かるから今週は更新をお休みするしかないだろう。
動画の更新お休みの連絡を投稿すると、すぐに数名の視聴者さん達が「ゆっくり休んでくださいね」とコメントを入れてくれた。
私の動画を観てくれる視聴者さん達は、コメントから皆優しくて穏やかな人なんだろうなっていう印象がある。
私はあまりゲームをしたりアニメを観たりする方ではないので、作るのは動物とか食べ物をモチーフにしたものが多いのだけれど、それでもずっと見続けてくれる人も多いのがありがたい。
「動画編集して、せめてショートだけでも」
始業時間までまだまだあるから、ちびちびと水筒に入れて来たミルクティーを飲みつつ手帳に今週のTODOリストを書き込んでいく。
私はスケジュール管理は手帳とスマホの両方に入れる派だ。
ちまちましたイラストを書くのが好きだから、手帳に思いついたイラストを描くことも多い。
それが後々動画作りのアイデアに繋がる時もある。
「……私って無意識にきつねの絵描いてる」
パラパラと手帳を見返すと、あちこちに狐面や十和みたいなきつねを描いていた。
こんなのいつ描いたのかすら覚えていないけれど、そう言えばだいぶ前にお面シリーズっていうのをやったからこれはその時に描いたものかもしれない。
「きつね、そういえば大人のきつねさんはどこに行っちゃったんだろ」
子きつねと一緒に大人のきつねさんも作った筈なのに、今部屋にいるのは子ぎつねさんだけだ。
私大人のきつねさんはどこにやったんだろう、捨てた筈はないのに今村さんが部屋に来た時はすでに無かったし私も存在を忘れていた。
「棚の下にでも転がっちゃったのかな。帰ったら探してみよう」
普段作ったものをこんな短期間で忘れるってしないのに、やっぱり先輩とのごたごたが心の負担になり過ぎたんだろうか。探してあげないと、あの子一人じゃ寂しいよね。
「これでいいか、仕事の準備しよ」
まだこの部屋は美紀ちゃんと私しか出社していない。
月曜日って、うちの部署は出勤が遅い傾向にあるし、そもそも私がいつも出社する時間ですらないから皆が来てなくても不思議はない。むしろ美紀ちゃんが早すぎるんだ。
「おはようございま、あれ、三浦さんすっごい髪短い!」
手帳をしまい水筒の蓋を閉めていると、勢いよくドアを開き入って来た女性が私を指さした。
「神田さんおはようございます。ボーナス入ったので服を沢山買ったのでそれに合わせて髪型も変えちゃいました」
詮索される前に堂々とそう言えば、神田さんは興味深げに私を見た後で「あれ、美紀今日は早いんだね」と視線を美紀ちゃんへ移した。
「おはようございます。神田さんこそいつもよりだいぶ早くないですか?」
「今日は乗り継ぎが上手く行ったのよ。はあ、もっと通勤時間短くなる場所に引っ越したいわ」
「あれ、物件探してるんじゃなかったでしたっけ?」
「……そのつもりだったけどね。いいじゃないどうでも」
急に神田さんは不機嫌になり、自分の机の上にどさりとお弁当が入ってるらしいトートバックを置いた。
「それは失礼しましたね」
美紀ちゃんは何て言うかいつもの優しい雰囲気がないし、神田さんは見るからに不機嫌そうだ。
神田さんは確か彼氏と同棲予定で部屋を探しているのだと、美紀ちゃんが以前言っていた。
だけどその話が無くなったらしい? それはつまり別れてしまったということだろうか。
神田さんは私より三つ上だから、今二十八歳。早く結婚したいが最近の口癖の様になっていて、同棲じゃなく結婚がいいのにと美紀ちゃんに良く愚痴も言っていたらしいのに、その同棲予定の相手と別れてしまったなら不機嫌になってしまう気持ちも分かる。
美紀ちゃんと神田さんは仲が良いけれど、私はどちらかと言えば苦手なタイプだ。
噂好きだし、マウントを取りたがる性格で一緒にいると疲れてしまうし、私が賃貸ではないマンションに一人で暮らしているというのも気に入らないらしく、よくそのことでチクチク嫌味を言われるのも嫌だった。
「色々あるのよ。今日は放っておいて」
「はいはい。話ならいつでも聞きますよ」
少し美紀ちゃんの雰囲気もおかしいけれど、神田さんの方はもっとおかしい。それを美紀ちゃんも気が付いたんだろう。神田さんを気遣う言葉に「余計な……話したい気持ちになったら頼むわ」と小さく頭を下げた。
なんだか今日はおかしな日だ。
私はこの後のことを考えて気もそぞろだし、美紀ちゃんは暗いし神田さんは荒れている。
帰ったら十和を抱っこしながら、紺さんに話を聞いて貰おう。
重苦しい部屋の雰囲気に、私は出社したばかりだというのに帰った後のことを考えて気を紛らわせていた。
先週末から色々あり過ぎて、動画の編集をすっかり忘れていたと急に思い出した。
動画は週末に編集して、月曜日の夜に更新している。
きつねを作る動画は撮影しているから、後は編集だけではあるけれど、その編集に時間が掛かるから今週は更新をお休みするしかないだろう。
動画の更新お休みの連絡を投稿すると、すぐに数名の視聴者さん達が「ゆっくり休んでくださいね」とコメントを入れてくれた。
私の動画を観てくれる視聴者さん達は、コメントから皆優しくて穏やかな人なんだろうなっていう印象がある。
私はあまりゲームをしたりアニメを観たりする方ではないので、作るのは動物とか食べ物をモチーフにしたものが多いのだけれど、それでもずっと見続けてくれる人も多いのがありがたい。
「動画編集して、せめてショートだけでも」
始業時間までまだまだあるから、ちびちびと水筒に入れて来たミルクティーを飲みつつ手帳に今週のTODOリストを書き込んでいく。
私はスケジュール管理は手帳とスマホの両方に入れる派だ。
ちまちましたイラストを書くのが好きだから、手帳に思いついたイラストを描くことも多い。
それが後々動画作りのアイデアに繋がる時もある。
「……私って無意識にきつねの絵描いてる」
パラパラと手帳を見返すと、あちこちに狐面や十和みたいなきつねを描いていた。
こんなのいつ描いたのかすら覚えていないけれど、そう言えばだいぶ前にお面シリーズっていうのをやったからこれはその時に描いたものかもしれない。
「きつね、そういえば大人のきつねさんはどこに行っちゃったんだろ」
子きつねと一緒に大人のきつねさんも作った筈なのに、今部屋にいるのは子ぎつねさんだけだ。
私大人のきつねさんはどこにやったんだろう、捨てた筈はないのに今村さんが部屋に来た時はすでに無かったし私も存在を忘れていた。
「棚の下にでも転がっちゃったのかな。帰ったら探してみよう」
普段作ったものをこんな短期間で忘れるってしないのに、やっぱり先輩とのごたごたが心の負担になり過ぎたんだろうか。探してあげないと、あの子一人じゃ寂しいよね。
「これでいいか、仕事の準備しよ」
まだこの部屋は美紀ちゃんと私しか出社していない。
月曜日って、うちの部署は出勤が遅い傾向にあるし、そもそも私がいつも出社する時間ですらないから皆が来てなくても不思議はない。むしろ美紀ちゃんが早すぎるんだ。
「おはようございま、あれ、三浦さんすっごい髪短い!」
手帳をしまい水筒の蓋を閉めていると、勢いよくドアを開き入って来た女性が私を指さした。
「神田さんおはようございます。ボーナス入ったので服を沢山買ったのでそれに合わせて髪型も変えちゃいました」
詮索される前に堂々とそう言えば、神田さんは興味深げに私を見た後で「あれ、美紀今日は早いんだね」と視線を美紀ちゃんへ移した。
「おはようございます。神田さんこそいつもよりだいぶ早くないですか?」
「今日は乗り継ぎが上手く行ったのよ。はあ、もっと通勤時間短くなる場所に引っ越したいわ」
「あれ、物件探してるんじゃなかったでしたっけ?」
「……そのつもりだったけどね。いいじゃないどうでも」
急に神田さんは不機嫌になり、自分の机の上にどさりとお弁当が入ってるらしいトートバックを置いた。
「それは失礼しましたね」
美紀ちゃんは何て言うかいつもの優しい雰囲気がないし、神田さんは見るからに不機嫌そうだ。
神田さんは確か彼氏と同棲予定で部屋を探しているのだと、美紀ちゃんが以前言っていた。
だけどその話が無くなったらしい? それはつまり別れてしまったということだろうか。
神田さんは私より三つ上だから、今二十八歳。早く結婚したいが最近の口癖の様になっていて、同棲じゃなく結婚がいいのにと美紀ちゃんに良く愚痴も言っていたらしいのに、その同棲予定の相手と別れてしまったなら不機嫌になってしまう気持ちも分かる。
美紀ちゃんと神田さんは仲が良いけれど、私はどちらかと言えば苦手なタイプだ。
噂好きだし、マウントを取りたがる性格で一緒にいると疲れてしまうし、私が賃貸ではないマンションに一人で暮らしているというのも気に入らないらしく、よくそのことでチクチク嫌味を言われるのも嫌だった。
「色々あるのよ。今日は放っておいて」
「はいはい。話ならいつでも聞きますよ」
少し美紀ちゃんの雰囲気もおかしいけれど、神田さんの方はもっとおかしい。それを美紀ちゃんも気が付いたんだろう。神田さんを気遣う言葉に「余計な……話したい気持ちになったら頼むわ」と小さく頭を下げた。
なんだか今日はおかしな日だ。
私はこの後のことを考えて気もそぞろだし、美紀ちゃんは暗いし神田さんは荒れている。
帰ったら十和を抱っこしながら、紺さんに話を聞いて貰おう。
重苦しい部屋の雰囲気に、私は出社したばかりだというのに帰った後のことを考えて気を紛らわせていた。
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