おきつねさんとちょっと晩酌

木嶋うめ香

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明けて月曜日の朝

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 昨夜は紺さんと沢山食べて飲んだのに、二日酔いは全く無いのが不思議だったし、睡眠不足も全然無かった。
 だから気合を入れてサンドイッチを三人分作り、しっかり朝食を食べて出勤の準備をした。
 新しい服を着て、少し化粧を服に合わせて変え、新しい鞄を持ち、昔お気に入りだった靴を履いて部屋を出た。

 十和を近田さんにお願いし、そのついでに豚カツサンドを近田さんと今村さんの二人分の包みを渡したらこちらが恐縮するほど喜んでくれた。
 古いゲン担ぎだけど、先輩に勝つ為に豚カツ、あとはキャベツの千切りとソースをたっぷり、近田さんと今村さんのは四枚切り食パンを軽くトーストして、私のは八枚切りのトースト無し。
 サラダ代わりのキュウリと人参とパプリカのマリネ、デザートは缶詰みかん入りの牛乳寒天だ。
 昨日の今村さんの食べっぷりからどれも大量に作ったけれど、大丈夫かな?

「紺さん、行ってきます」

 まだ少し早い時間だからなのか、歩いてる人がいない道を歩き、稲荷さんまでやって来て参道に向かい頭を下げる。
 紺さんは寝ているのか、人影は見えない。
 顔を上げると社と紅い鳥居に差し込む朝の光と、その光に向かい、私の吐いた息が白くふわりと浮かんで消えて行くのが見える。

「頑張ってきます」

 ぐっと拳を握り、もう一度頭を下げてから歩き出す。
 
『頑張れ由衣』

 紺さんの声が聞こえた気がして、振り返る。
 
「空耳? 頑張りますね」

 手首に着けている紺さんから貰ったお守りに呟いて、駅に向かう。
 いつもより少し空いている電車に揺られ、会社に向かいロッカールームに荷物を置いてから、職場に向かうと流石に早すぎたのか部署の中で来ていたのは、部内の友達の美紀ちゃんだけだった。
 
「おはようございます」

 何か思い詰めた様な顔でパソコンの画面を見ている美紀ちゃんに、挨拶をしながら部屋に入ると驚かせたのか美紀ちゃんはビクリと肩を震わせた。

「え、由衣? 凄いイメチェン! ビックリしたぁっ! あ、おはようございます」
「うん、イメチェン。気分転換」

 話していると、美紀ちゃんの目が少し腫れている様に見えた。
 どうしたんだろう、具合が悪いのかな。

「美紀ちゃん、具合悪い?」
「え、全然むしろ元気! やる気に満ちてる」
「そうなの? 今日は忙しいんだっけ? 私今日余裕あるから何かあれば手伝えるよ」

 私は先週まで目茶苦茶忙しかったけれど、今週はそうでもない。
 美紀ちゃんは何か納期が迫っていたのあっただろうかと、スケジュールを思い浮かべる。

「ありがとう、私も今週は余裕」

 にこりと笑顔、無理はしてなさそう? ならなにに対するやる気なんだろ。
 いや、仕事しに来てるのだからやる気は大事だけど、何か違う気がする。

「それなら良かった」
「……でも、ちょっと迷惑掛けたらごめん」

 美紀ちゃんの、冗談なのか本気なのか分からない言葉にギョッとする。
 私は先輩に自分の気持ちをハッキリ言うつもりだけど、周囲にそれを広めたいわけじゃない。
 迷惑って、そうか普通に考えれば仕事の話か。
 美紀ちゃん、何担当してたかなと考えるけど、トラブルに発展しそうなものは思いつかない。

「え、何かトラブル?」
「トラブルのようなそうでないような、ごめんプライベートの話だから、そんな心配そうな顔しないで朝から驚かせてごめん」

 明るくそう言うけれど、顔が明るくないから余計に心配になる。

「プライベート?」
「うん、もうちょい気持ちが落ち着いたら話すね」
「……分かった」

 気持ちが落ち着いたら、私は今日が終わったら落ち着くのだろうか。
 いや、落ち着かなくても、今日終わったら紺さんに報告するんだ。
 胸を張って報告出来るように、頑張るんだ。
 仕事の準備を始めながら、暗い表情の美紀ちゃんが気になって仕方がなかった。
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