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知り合ったばかりなのに
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「今村さんのお店で髪を切ったんですか、髪型が変わっていて驚きましたがとても良く似あっていると思います」
夜、十和と一緒に神社に向かうと、紺さんが狐の像の辺りに立って出迎えてくれた。
急に髪型も服装も変わっていたから少し驚いた様な顔をして、でもとても似合うと褒めてくれたから私の頬が熱くなってしまった。
「似合ってますか? なんだかまだ慣れなくて」
服は今村さんのお店で買ったばかり、購入した中で一番気に入ったものをお店で着替えてそのまま帰った。
シンプルなベージュのハイネックのセーターと濃いグリーンの膝丈ボックスプリーツのスカート、コートはグリーンと赤のタータンチェックのテーラーコートだ。
ちょっとかっちり目のコートは、レトロな雰囲気があって、昔のイギリスのミステリー映画に出て来る女性みたいでウキウキしてしまう。
祖母がそういう映画や古いドラマを見るのが好きだったから、私も祖母の家で良く観ていた。
綺麗なイングリッシュガーデン、アンティークな家具で整えられた部屋で編み物をしながらちょっとした事件を解決する老婦人や、子供の目には少し変わったこだわりがある探偵等が繰り広げる話は全部内容が理解出来なくても自分とは違う世界にドキドキして印象的だった。
「お世辞抜きで似合っていますよ。……でも少し幼くなったかもしれませんね」
ふふふと笑いながら、紺さんは私に座布団を出してくれた後で手土産にと渡したタッパーを抱えてキッチンに消えた。
「おむすびと厚揚げの煮物と、こちらはひじき煮、あとはなんでしょう? お菓子、ですか?」
タッパーを一つずつ開けているのか、紺さんの声が台所から聞こえて来る。
「はい、今村さんと近田さんにお菓子をおすそ分けしたので、紺さんも食べて貰えたらなって」
今村さんのお店で大量に服を買った私は、まだ十和を預かってくれるという近田さんのご厚意に甘えて部屋に戻り服を片付けると、勢いに任せて自転車に乗りスーパーで一週間分の食料の買い出しをしてから明日のお弁当のおかずの下ごしらえをしつつご飯を炊いて焼き菓子を更に作った。
沢山のクッキーとチーズケーキとエッグタルト、ちょっと高いけど苺を買ってジャムも作ったし、カスタードクリームとヨーグルトムースも作ってから、さっき作ったどら焼きでちょっとだけあまった餡子を買ってきたコッペパンにマーガリンと一緒に挟んだものも作った。
このコッペパンは食べやすい大きさにカットしてラップに包んだものを、十和のお迎えに行った時に近田さんに渡した。焼き菓子を喜んでくれたから、甘いもの好きなのかと思って用意したのだけど、近田さんは私が恐縮しちゃうくらいに大袈裟に喜んでくれて、なんとその場で一つ食べてくれた。
まさか目の前で食べてくれるとは思わなくて、内心驚いたけれどそういう喜び方をされると、また作ってもいいのかなって単純だけど思ってしまう。
近田さんも今村さんも、喜び方がストレートだから、無理に貰ってくれたのかなって心配しなくていいので助かってしまう。
作ったお菓子は近田さんの分と今村さんの分をそれぞれ包んできたから、今村さんの分は渡して貰える様にお願いしてきた。
「お菓子、嬉しいです。こんなに沢山大変だったでしょう」
「良かったです。ジャムとカスタードクリームも作ったので、コッぺパンに塗って食べて下さい」
石油ストーブの前に丸くなって眠っている十和を見つめながら話すと、キッチンから出汁の匂いが漂ってきた。
「良い匂いですね。おもたせですが、温かいうちにどうぞ」
温めてお皿に盛ってくれた料理とお菓子、それにお酒をお盆に載せ紺さんがニコニコ笑顔で戻って来た。
「おむすびも温めて良かったですか」
「たらこと梅干なので、温かくても美味しいと思います」
当然の様に私はここで食べていくつもりになっていたのは図々しいだろうか、そんな私の戸惑いは紺さんがお猪口に注ぐ日本酒の香りに消えてしまった。
「どれも美味しそうでお腹が空いてしまいました。頂いていいですか由衣さん」
「……あの、呼び捨てでいいですよ」
「由衣?」
「はい、なんだかその方がしっくりします」
なんでだろう、昨日まで由衣さんと呼ばれていた筈なのに、紺さんにそう呼ばれるのがおかしいと感じた。
「じゃあ、由衣」
「うん」
出会ったばかりなのに、こんな風に気安く呼んでもらうことなんて、それを自分から言うなんて今まで無かったのに、私は紺さんにはそう呼んで欲しいと思ってしまうのは何故なんだろう。
「由衣の料理、食べていいのかな」
「うん、食べて。これ自信作だから」
昔から知っている友達の様に、私は紺さんに親しみを感じている。
その心のまま、親しい友達に使う様に言葉を崩してしまう。
「じゃあ、頂くね由衣。凄く美味しそうだ」
紺さんは、何かを無理矢理飲み込む様な、そんな苦しそうな顔を一瞬した後で私に微笑んでくれた。
夜、十和と一緒に神社に向かうと、紺さんが狐の像の辺りに立って出迎えてくれた。
急に髪型も服装も変わっていたから少し驚いた様な顔をして、でもとても似合うと褒めてくれたから私の頬が熱くなってしまった。
「似合ってますか? なんだかまだ慣れなくて」
服は今村さんのお店で買ったばかり、購入した中で一番気に入ったものをお店で着替えてそのまま帰った。
シンプルなベージュのハイネックのセーターと濃いグリーンの膝丈ボックスプリーツのスカート、コートはグリーンと赤のタータンチェックのテーラーコートだ。
ちょっとかっちり目のコートは、レトロな雰囲気があって、昔のイギリスのミステリー映画に出て来る女性みたいでウキウキしてしまう。
祖母がそういう映画や古いドラマを見るのが好きだったから、私も祖母の家で良く観ていた。
綺麗なイングリッシュガーデン、アンティークな家具で整えられた部屋で編み物をしながらちょっとした事件を解決する老婦人や、子供の目には少し変わったこだわりがある探偵等が繰り広げる話は全部内容が理解出来なくても自分とは違う世界にドキドキして印象的だった。
「お世辞抜きで似合っていますよ。……でも少し幼くなったかもしれませんね」
ふふふと笑いながら、紺さんは私に座布団を出してくれた後で手土産にと渡したタッパーを抱えてキッチンに消えた。
「おむすびと厚揚げの煮物と、こちらはひじき煮、あとはなんでしょう? お菓子、ですか?」
タッパーを一つずつ開けているのか、紺さんの声が台所から聞こえて来る。
「はい、今村さんと近田さんにお菓子をおすそ分けしたので、紺さんも食べて貰えたらなって」
今村さんのお店で大量に服を買った私は、まだ十和を預かってくれるという近田さんのご厚意に甘えて部屋に戻り服を片付けると、勢いに任せて自転車に乗りスーパーで一週間分の食料の買い出しをしてから明日のお弁当のおかずの下ごしらえをしつつご飯を炊いて焼き菓子を更に作った。
沢山のクッキーとチーズケーキとエッグタルト、ちょっと高いけど苺を買ってジャムも作ったし、カスタードクリームとヨーグルトムースも作ってから、さっき作ったどら焼きでちょっとだけあまった餡子を買ってきたコッペパンにマーガリンと一緒に挟んだものも作った。
このコッペパンは食べやすい大きさにカットしてラップに包んだものを、十和のお迎えに行った時に近田さんに渡した。焼き菓子を喜んでくれたから、甘いもの好きなのかと思って用意したのだけど、近田さんは私が恐縮しちゃうくらいに大袈裟に喜んでくれて、なんとその場で一つ食べてくれた。
まさか目の前で食べてくれるとは思わなくて、内心驚いたけれどそういう喜び方をされると、また作ってもいいのかなって単純だけど思ってしまう。
近田さんも今村さんも、喜び方がストレートだから、無理に貰ってくれたのかなって心配しなくていいので助かってしまう。
作ったお菓子は近田さんの分と今村さんの分をそれぞれ包んできたから、今村さんの分は渡して貰える様にお願いしてきた。
「お菓子、嬉しいです。こんなに沢山大変だったでしょう」
「良かったです。ジャムとカスタードクリームも作ったので、コッぺパンに塗って食べて下さい」
石油ストーブの前に丸くなって眠っている十和を見つめながら話すと、キッチンから出汁の匂いが漂ってきた。
「良い匂いですね。おもたせですが、温かいうちにどうぞ」
温めてお皿に盛ってくれた料理とお菓子、それにお酒をお盆に載せ紺さんがニコニコ笑顔で戻って来た。
「おむすびも温めて良かったですか」
「たらこと梅干なので、温かくても美味しいと思います」
当然の様に私はここで食べていくつもりになっていたのは図々しいだろうか、そんな私の戸惑いは紺さんがお猪口に注ぐ日本酒の香りに消えてしまった。
「どれも美味しそうでお腹が空いてしまいました。頂いていいですか由衣さん」
「……あの、呼び捨てでいいですよ」
「由衣?」
「はい、なんだかその方がしっくりします」
なんでだろう、昨日まで由衣さんと呼ばれていた筈なのに、紺さんにそう呼ばれるのがおかしいと感じた。
「じゃあ、由衣」
「うん」
出会ったばかりなのに、こんな風に気安く呼んでもらうことなんて、それを自分から言うなんて今まで無かったのに、私は紺さんにはそう呼んで欲しいと思ってしまうのは何故なんだろう。
「由衣の料理、食べていいのかな」
「うん、食べて。これ自信作だから」
昔から知っている友達の様に、私は紺さんに親しみを感じている。
その心のまま、親しい友達に使う様に言葉を崩してしまう。
「じゃあ、頂くね由衣。凄く美味しそうだ」
紺さんは、何かを無理矢理飲み込む様な、そんな苦しそうな顔を一瞬した後で私に微笑んでくれた。
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