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いらないものは捨ててしまおう2
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「私、三浦様のお宅に食べに来たような……。申し訳ありません」
今村さんはホットサンドもサラダもスープも全部綺麗に食べてくれた。
それはもう見ている私が気持ちいい位の食べっぷりで、私がホットサンドの半分をついつい差し出してしまう程だった。
お腹空いていたんだろうか、あの量で足りたのか心配になってしまう。
「いえいえ、綺麗に食べて頂けて嬉しいです。ありがとうございます」
大人になって、満面の笑みという言葉があんなに似合う状態ってなかなか無いと思う。
今村さんは「美味しいです!」、「ああ、幸せです」と言いながら、かなり早食いだったと思うけれどでも丸の飲みしているわけではなくキチンと咀嚼しているし口の中に詰め込んでいるわけでもないという器用な食べ方をしていた。
「そう言って頂けると助かります。そうだ、三浦様一つお伺いしたいことがあるのですが」
「はい、なんでしょう」
「あそこに飾ってある狐は神社の貯金箱でしょうか」
ソファーの正面に置いてある飾り棚を指さし、今村さんが尋ねる。
飾り棚の中には、昨日洗って乾かしていた大、中、小の三体の狐さんの貯金箱と、私が樹脂粘土で作ったミニ狐さんが置いてある。
「はい、神社から受けてきたものです」
「あの、一番小さな狐も神社のものですか?」
「……これですか? これは私が作ったんです」
飾り棚からミニ狐さんを取り出して、手の平に乗せ今村さんへ見せる。
「可愛い! これを三浦様が作られたのですか? お料理やお菓子だけでなく、こういった物も作る事が出来るなんて素晴らしいですね。よく見せて頂いてもいいでしょうか」
「ええ、どうぞ。樹脂粘土で作っているんですよ」
ミニ狐さんを手渡すと、今村さんは両手で受け取ってじっくりと眺めながら「十和にそっくり」と呟いた。
今村さんも十和を知っているということは、実は十和ってこの辺りでは有名な狐さんなのかもしれない。
狐を飼うというのがそもそも珍しいし、十和の体毛は真っ白だから余計に珍しいから、そういう意味でも有名なのだろうか。
「三浦様、見せて下さりありがとうございます。とっても可愛いですね」
「ええ、結構上手に出来たと思ってます。自画自賛ですが」
樹脂粘土細工は今までかなりの数を作って来たけれど、その中でもこのミニ狐さんはかなり気に入っている。
今朝貯金箱の狐さん達を飾り棚に戻す時に、ミニ狐さんだけ一体別にいるのは寂しいかなと置き場所を移した位には愛着もある。
「三浦様に愛されてこの子狐も嬉しいでしょう。ねぇ」
人差し指でミニ狐さんの頭を撫でながら、今村さんは不思議なことを言っている。
愛着はあるけれど、それは愛なのだろうか?
確かに私が作った作品だけど、そういう意味では思い入れはあるけれど。
「あの。……あ」
今村さんの頭にはっきりと耳が見えた。
それは、十和の耳の様に短く白い毛の……え、幻覚?
「三浦様、どうかされましたか?」
「あの、いえ、あの」
私の名前を呼んだ瞬間、その耳は消えてしまった。
やっぱり幻覚だった? そんな事ある?
「今村さん、実は狐さんだったり……なんて、あるわけないですよね」
「まあ、三浦様は面白いことを仰るのですね」
ミニ狐さんの頭を撫でながら、今村さんはくすくすと笑う。
元々細い目が余計に細くなって、でもなんというか作り物めいた笑顔に私の顔は多分ひきつっている。
「でもこの世の中、人以外が人の振りをして生きている。そういうこともあるかもしれませんよ」
「え、それって」
今村さんは私の言葉を否定しなかった。
まさか本当に、今村さんは狐なのだろうか? 人の振りをして人の世界で暮らしている? そんな馬鹿な。
「ふふふ。そんな風に思うと楽しいですよね」
「なんだ、驚かせないで下さい」
揶揄われたのだと分かって安堵の息を吐きながら、まさか本当に狐だったりするんじゃないかと、私はまだ疑いを捨てきれなかった。
今村さんはホットサンドもサラダもスープも全部綺麗に食べてくれた。
それはもう見ている私が気持ちいい位の食べっぷりで、私がホットサンドの半分をついつい差し出してしまう程だった。
お腹空いていたんだろうか、あの量で足りたのか心配になってしまう。
「いえいえ、綺麗に食べて頂けて嬉しいです。ありがとうございます」
大人になって、満面の笑みという言葉があんなに似合う状態ってなかなか無いと思う。
今村さんは「美味しいです!」、「ああ、幸せです」と言いながら、かなり早食いだったと思うけれどでも丸の飲みしているわけではなくキチンと咀嚼しているし口の中に詰め込んでいるわけでもないという器用な食べ方をしていた。
「そう言って頂けると助かります。そうだ、三浦様一つお伺いしたいことがあるのですが」
「はい、なんでしょう」
「あそこに飾ってある狐は神社の貯金箱でしょうか」
ソファーの正面に置いてある飾り棚を指さし、今村さんが尋ねる。
飾り棚の中には、昨日洗って乾かしていた大、中、小の三体の狐さんの貯金箱と、私が樹脂粘土で作ったミニ狐さんが置いてある。
「はい、神社から受けてきたものです」
「あの、一番小さな狐も神社のものですか?」
「……これですか? これは私が作ったんです」
飾り棚からミニ狐さんを取り出して、手の平に乗せ今村さんへ見せる。
「可愛い! これを三浦様が作られたのですか? お料理やお菓子だけでなく、こういった物も作る事が出来るなんて素晴らしいですね。よく見せて頂いてもいいでしょうか」
「ええ、どうぞ。樹脂粘土で作っているんですよ」
ミニ狐さんを手渡すと、今村さんは両手で受け取ってじっくりと眺めながら「十和にそっくり」と呟いた。
今村さんも十和を知っているということは、実は十和ってこの辺りでは有名な狐さんなのかもしれない。
狐を飼うというのがそもそも珍しいし、十和の体毛は真っ白だから余計に珍しいから、そういう意味でも有名なのだろうか。
「三浦様、見せて下さりありがとうございます。とっても可愛いですね」
「ええ、結構上手に出来たと思ってます。自画自賛ですが」
樹脂粘土細工は今までかなりの数を作って来たけれど、その中でもこのミニ狐さんはかなり気に入っている。
今朝貯金箱の狐さん達を飾り棚に戻す時に、ミニ狐さんだけ一体別にいるのは寂しいかなと置き場所を移した位には愛着もある。
「三浦様に愛されてこの子狐も嬉しいでしょう。ねぇ」
人差し指でミニ狐さんの頭を撫でながら、今村さんは不思議なことを言っている。
愛着はあるけれど、それは愛なのだろうか?
確かに私が作った作品だけど、そういう意味では思い入れはあるけれど。
「あの。……あ」
今村さんの頭にはっきりと耳が見えた。
それは、十和の耳の様に短く白い毛の……え、幻覚?
「三浦様、どうかされましたか?」
「あの、いえ、あの」
私の名前を呼んだ瞬間、その耳は消えてしまった。
やっぱり幻覚だった? そんな事ある?
「今村さん、実は狐さんだったり……なんて、あるわけないですよね」
「まあ、三浦様は面白いことを仰るのですね」
ミニ狐さんの頭を撫でながら、今村さんはくすくすと笑う。
元々細い目が余計に細くなって、でもなんというか作り物めいた笑顔に私の顔は多分ひきつっている。
「でもこの世の中、人以外が人の振りをして生きている。そういうこともあるかもしれませんよ」
「え、それって」
今村さんは私の言葉を否定しなかった。
まさか本当に、今村さんは狐なのだろうか? 人の振りをして人の世界で暮らしている? そんな馬鹿な。
「ふふふ。そんな風に思うと楽しいですよね」
「なんだ、驚かせないで下さい」
揶揄われたのだと分かって安堵の息を吐きながら、まさか本当に狐だったりするんじゃないかと、私はまだ疑いを捨てきれなかった。
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