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トラウマ持ちの、気持ちの切り替え方2
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「十和、早起きさせてごめんね。あ、おはようございます」
翌朝、まだ眠そうな十和を抱っこして部屋を出て一回に下りマンションのエントランスに向かうと、掃き掃除をしている管理人さんに出会った。
「おはようございます。十和、眠そうですね」
「そうなんです。今日は用事が色々あるもので、十和に早起きさせてしまいました」
早起きさせてしまったというか、私が起きた気配で十和も起きてしまった。
まあ、会社に行くときはもっと早い時間に家を出るから十和に慣れてもらった方がいいのかもしれないけれど、狐さんって夜行性だよね。
そう考えると申し訳ない気持ちになる。
「用事、それなら私が預かりましょう」
「え、いいんですか?」
「ええ、紺さんから暫く十和がこちらに暮らすと聞きましたよ。昼間は私が預かりますので、明日からは朝連れてきて頂けますか」
「え。そ、そんなご迷惑……」
管理人さんの思いがけない言葉に、驚き過ぎて何を言ったらいいのかわからなくなる。
いつの間に紺さん、そんな話を。
「夜は私もいない事が多いので、紺さんのところに十和を迎えに行って貰えると助かります」
助かるって、それは私の方、え? つまり管理人さんが十和を神社に連れて行ってくれるの?
それって紺さんだけでなく、管理人さんにも沢山迷惑を掛けることになる。
いや、紺さんなら迷惑を掛けていいという事じゃないけれど、私どれだけ周囲に迷惑掛けることになるんだろう。
「管理人さんにそんなご迷惑掛けるわけにはいきません」
「この子は賢いから部屋に留守番させても大丈夫ですが、それでは心配なんでしょう?」
「それは、はい」
管理人さんに迷惑掛けるのは申し訳ない、でも心配なのも事実だから、どうしたらいいんだろ。
「紺さんとは長い付き合いですし、十和に優しくして下さっていると分かるから、協力したいだけなんですよ。私と私は十和と仲良しですから、一緒に居られるのは嬉しいですし」
「それなら、お願いしても?」
「ええ、任せてくだい。十和おいで」
「キャン!」
管理人さんが箒を地面に置いてから両手を差し出すと、十和は勢いよく飛びついてしっぽをユラユラさせている。
その様子から本当に仲がいいのだと分かる。
「すみません、お願いします。今日美容院と買い物に行く予定なので、戻って来るのが遅くなるかもしれないのですが」
買い物と美容院で管理人さんの手を煩わせるのは本当に申し訳なくて、どんどん声が小さくなっていく。
「掃除が終わってしまえば私は比較的暇ですから、お気になさらずゆっくりしてください」
「ありがとうございます。まあ、美容院は予約してないので、もしかすると買い物だけになるかもしれませんけど」
いつも行っているところは予約が取れなくて、他のところも良さようなところはどこも駄目だったから、やっぱり駅の近くにある千円カットかなと考えていた。
前日の、しかも夜中に予約しようとした私の考えが甘かった。
「そうなんですか、じゃあ知り合いに聞いてみましょうか。すぐ近くの店なんですよ」
「え、あの、そんな」
この近くに美容院なんてあっただろか?
疑問に思いながら、わざわざ聞いてくれようとする管理人さんはどれだけいい人なのと拝みたくなってくる。
「待っていてください、すぐ電話してきます。大丈夫ならすぐに行けますか? あ、切るだけですか」
「そ、それは、はい。あの、でもいいんですか?」
「勿論、お客を紹介されて嫌な人はいませんよ」
にこにこ笑って、管理人さんは十和を抱いたまま管理人室に入っていく。
「いいのかな」
地面に置かれたままの箒を持ち上げ、壁に立て掛けながら考え込んでいると、管理人さんはすぐに戻ってきた。
「大丈夫でしたよ。お店は三軒隣の、あ、出て来ましたね」
「おはようございます! 近田さんご紹介ありがとうございます。お客様はじめまして、私美容院きつねのしっぽの今村と申します」
にこにこ笑顔でこちらに歩いてきたのは、何となく管理人さんに似た雰囲気の丸顔に細い目の優しそうな女の人だった。
近田さん、そうだ管理人産の名前近田さんて言うんだったと、女の人今村さんの言葉で思い出す。
このマンションに引っ越して来て、管理人さんに一番最初に会った時に名乗られていたのに今で忘れてた。私、なんて失礼なんだろう。
「すみません、急にお願いしてしまって、私三浦由衣といいます。よろしくお願いします」
「三浦様ですね、こちらこそよろしくお願いします。お客様は大歓迎ですから謝らないで下さいね。近田さんとは長い付き合い何ですよ。あ、店はこちらですよ」
「はい。管理人さんありがとうございます。十和のことよろしくお願いします」
ぺこりと管理人さんに頭を下げると、管理人さんはにこにこ笑顔で小さく頷いてくれた。
名前を知って、……思い出しても急に呼び方を管理人さんから近田さんとは言い難い。これから毎朝十和をお願いしにいくのに、これからなんて呼んだらいいだろうと悩みつつ今村さんの隣を歩く。
「今日はカットと聞きましたが、毛先を揃える、それとも……」
「ええと、バッサリとショートボブ位に切りたいです」
歩きながら右手で頬の下辺りに触れて長さを示すと、今村さんは「似合うと思います!」と言ってくれた。
美容師さんと言えば、髪型についてのプロだ。そんな人から似あうと言って貰えるだけで自信がつく。
ショートボブなんて、黒髪ストレートの私がしたら市松人形っぽくならないか、ちょっと不安だったのだ。
翌朝、まだ眠そうな十和を抱っこして部屋を出て一回に下りマンションのエントランスに向かうと、掃き掃除をしている管理人さんに出会った。
「おはようございます。十和、眠そうですね」
「そうなんです。今日は用事が色々あるもので、十和に早起きさせてしまいました」
早起きさせてしまったというか、私が起きた気配で十和も起きてしまった。
まあ、会社に行くときはもっと早い時間に家を出るから十和に慣れてもらった方がいいのかもしれないけれど、狐さんって夜行性だよね。
そう考えると申し訳ない気持ちになる。
「用事、それなら私が預かりましょう」
「え、いいんですか?」
「ええ、紺さんから暫く十和がこちらに暮らすと聞きましたよ。昼間は私が預かりますので、明日からは朝連れてきて頂けますか」
「え。そ、そんなご迷惑……」
管理人さんの思いがけない言葉に、驚き過ぎて何を言ったらいいのかわからなくなる。
いつの間に紺さん、そんな話を。
「夜は私もいない事が多いので、紺さんのところに十和を迎えに行って貰えると助かります」
助かるって、それは私の方、え? つまり管理人さんが十和を神社に連れて行ってくれるの?
それって紺さんだけでなく、管理人さんにも沢山迷惑を掛けることになる。
いや、紺さんなら迷惑を掛けていいという事じゃないけれど、私どれだけ周囲に迷惑掛けることになるんだろう。
「管理人さんにそんなご迷惑掛けるわけにはいきません」
「この子は賢いから部屋に留守番させても大丈夫ですが、それでは心配なんでしょう?」
「それは、はい」
管理人さんに迷惑掛けるのは申し訳ない、でも心配なのも事実だから、どうしたらいいんだろ。
「紺さんとは長い付き合いですし、十和に優しくして下さっていると分かるから、協力したいだけなんですよ。私と私は十和と仲良しですから、一緒に居られるのは嬉しいですし」
「それなら、お願いしても?」
「ええ、任せてくだい。十和おいで」
「キャン!」
管理人さんが箒を地面に置いてから両手を差し出すと、十和は勢いよく飛びついてしっぽをユラユラさせている。
その様子から本当に仲がいいのだと分かる。
「すみません、お願いします。今日美容院と買い物に行く予定なので、戻って来るのが遅くなるかもしれないのですが」
買い物と美容院で管理人さんの手を煩わせるのは本当に申し訳なくて、どんどん声が小さくなっていく。
「掃除が終わってしまえば私は比較的暇ですから、お気になさらずゆっくりしてください」
「ありがとうございます。まあ、美容院は予約してないので、もしかすると買い物だけになるかもしれませんけど」
いつも行っているところは予約が取れなくて、他のところも良さようなところはどこも駄目だったから、やっぱり駅の近くにある千円カットかなと考えていた。
前日の、しかも夜中に予約しようとした私の考えが甘かった。
「そうなんですか、じゃあ知り合いに聞いてみましょうか。すぐ近くの店なんですよ」
「え、あの、そんな」
この近くに美容院なんてあっただろか?
疑問に思いながら、わざわざ聞いてくれようとする管理人さんはどれだけいい人なのと拝みたくなってくる。
「待っていてください、すぐ電話してきます。大丈夫ならすぐに行けますか? あ、切るだけですか」
「そ、それは、はい。あの、でもいいんですか?」
「勿論、お客を紹介されて嫌な人はいませんよ」
にこにこ笑って、管理人さんは十和を抱いたまま管理人室に入っていく。
「いいのかな」
地面に置かれたままの箒を持ち上げ、壁に立て掛けながら考え込んでいると、管理人さんはすぐに戻ってきた。
「大丈夫でしたよ。お店は三軒隣の、あ、出て来ましたね」
「おはようございます! 近田さんご紹介ありがとうございます。お客様はじめまして、私美容院きつねのしっぽの今村と申します」
にこにこ笑顔でこちらに歩いてきたのは、何となく管理人さんに似た雰囲気の丸顔に細い目の優しそうな女の人だった。
近田さん、そうだ管理人産の名前近田さんて言うんだったと、女の人今村さんの言葉で思い出す。
このマンションに引っ越して来て、管理人さんに一番最初に会った時に名乗られていたのに今で忘れてた。私、なんて失礼なんだろう。
「すみません、急にお願いしてしまって、私三浦由衣といいます。よろしくお願いします」
「三浦様ですね、こちらこそよろしくお願いします。お客様は大歓迎ですから謝らないで下さいね。近田さんとは長い付き合い何ですよ。あ、店はこちらですよ」
「はい。管理人さんありがとうございます。十和のことよろしくお願いします」
ぺこりと管理人さんに頭を下げると、管理人さんはにこにこ笑顔で小さく頷いてくれた。
名前を知って、……思い出しても急に呼び方を管理人さんから近田さんとは言い難い。これから毎朝十和をお願いしにいくのに、これからなんて呼んだらいいだろうと悩みつつ今村さんの隣を歩く。
「今日はカットと聞きましたが、毛先を揃える、それとも……」
「ええと、バッサリとショートボブ位に切りたいです」
歩きながら右手で頬の下辺りに触れて長さを示すと、今村さんは「似合うと思います!」と言ってくれた。
美容師さんと言えば、髪型についてのプロだ。そんな人から似あうと言って貰えるだけで自信がつく。
ショートボブなんて、黒髪ストレートの私がしたら市松人形っぽくならないか、ちょっと不安だったのだ。
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