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小さなお守り
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「由依さん、その方とは今後も会社で一緒に働くし、家も遠いわけではない」
「そうなんです。憂鬱です」
毎日顔を合わせても、よりを戻したいなんて考えたりしない自信はある。
もう私には先輩の顔に父親の顔が重なって見える気がする。
仕事では会話するけど、それ以外では顔も見たくないのが本音だ。
「百歩譲って、二股は仕方ないと諦めます。そういう人なんだと見抜けなかった私も悪いですから。でも結婚しても発言で、嫌悪感が出てしまいました。可能なら部署替えして欲しい位です」
潔癖すぎると思われるだろうか、でも駄目なものは駄目なんだから仕方ない。
「私、父親の浮気が原因で両親が離婚してるんですが、母が離婚を決意したのって、私が生まれる時の喧嘩が理由なんです」
「喧嘩ですか」
「父が浮気してると知って母が怒って、それで喧嘩になって産まれて来なくていいと母のお腹を蹴ったそうで、私は九ヶ月に入る直前の未熟児で生まれたそうです」
お腹を蹴られたショックで破水した母を流石の父も放ってはおけず救急車を呼んだ。
私が産まれた後入院中の母に当て付けの様に父は私の出生届を出して来た、初恋の彼女の名前を付けて。
退院日にそれを知らされた母は、離婚すると宣言し父と暮らしていた家には戻らず、自分の実家に戻ったそうだ。
未熟児の割にはお乳の飲みっぷりがよく保育器からすぐに出られた私を連れて、お母さんは迎えてくれた両親に理由を話し離婚手続きをした。
私は、その話を何度も何度も聞かされた。
母からも祖母からも聞かされて、鬱々した気持ちを消化出来ないまま時を過ごしたけれどどうしようもなかった。
「世の中の浮気する人達のすべてが悪だとはいいません。でも先輩は駄目です、私の父と同じかそれ以上の屑だともう私は思ってしまったから、だって好きになったならその人だけ大事にして欲しいと思いませんか?私がその相手じゃないのは悲しかったけど、子供も出来たのに。なのに」
ポタリと涙がこぼれて、慌ててお猪口の中見を飲み干す。
飲み干して、次のお酒を手酌する。
紺さんに呆れられたかもしれない。
昨日も今日も、お酒を飲んでくだをまく。
こんな女最低だと、自分でも思っちゃうよ。
「家族になる相手を大事にしない人は、駄目ですよ」
落ち込みながらお猪口に口を付けていたら、紺さんが静かに言った。
「え」
「恋人も家族も、大切にしない人は駄目です。自分の都合で勝手にしていい存在ではありません、そう思いませんか?」
ああ、紺さんは優しすぎる。
私の葛藤を、拒絶を、悲しみを呆れずに理解して肯定してくれる。
「思いますぅっ」
えぐえぐと、しゃくりあげながら同意すると、紺さんは苦笑しながらお酌をしてくれた。
「飲みましょうか、由依さん」
「はい」
「飲んで、悲しいことも嫌なことも全部吐き出してしまいましょう」
「はいっ」
くいくいとお猪口の中見を飲み干しながら、紺さんにもお酌する。
「キュン」
小さく鳴いて十和は私の膝の上で丸くなり目を閉じる。
小さな重みは温かい。
温かくて、また涙がこぼれ落ちる。
「飲みましょう」
「はい、紺さんありがとうございます」
十和を見てから顔を上げ、紺さんを見て息を飲む。
また見えた、白い耳。
一瞬だけ、紺さんの頭に白い三角の耳が確かに見えたのだ。
「そうなんです。憂鬱です」
毎日顔を合わせても、よりを戻したいなんて考えたりしない自信はある。
もう私には先輩の顔に父親の顔が重なって見える気がする。
仕事では会話するけど、それ以外では顔も見たくないのが本音だ。
「百歩譲って、二股は仕方ないと諦めます。そういう人なんだと見抜けなかった私も悪いですから。でも結婚しても発言で、嫌悪感が出てしまいました。可能なら部署替えして欲しい位です」
潔癖すぎると思われるだろうか、でも駄目なものは駄目なんだから仕方ない。
「私、父親の浮気が原因で両親が離婚してるんですが、母が離婚を決意したのって、私が生まれる時の喧嘩が理由なんです」
「喧嘩ですか」
「父が浮気してると知って母が怒って、それで喧嘩になって産まれて来なくていいと母のお腹を蹴ったそうで、私は九ヶ月に入る直前の未熟児で生まれたそうです」
お腹を蹴られたショックで破水した母を流石の父も放ってはおけず救急車を呼んだ。
私が産まれた後入院中の母に当て付けの様に父は私の出生届を出して来た、初恋の彼女の名前を付けて。
退院日にそれを知らされた母は、離婚すると宣言し父と暮らしていた家には戻らず、自分の実家に戻ったそうだ。
未熟児の割にはお乳の飲みっぷりがよく保育器からすぐに出られた私を連れて、お母さんは迎えてくれた両親に理由を話し離婚手続きをした。
私は、その話を何度も何度も聞かされた。
母からも祖母からも聞かされて、鬱々した気持ちを消化出来ないまま時を過ごしたけれどどうしようもなかった。
「世の中の浮気する人達のすべてが悪だとはいいません。でも先輩は駄目です、私の父と同じかそれ以上の屑だともう私は思ってしまったから、だって好きになったならその人だけ大事にして欲しいと思いませんか?私がその相手じゃないのは悲しかったけど、子供も出来たのに。なのに」
ポタリと涙がこぼれて、慌ててお猪口の中見を飲み干す。
飲み干して、次のお酒を手酌する。
紺さんに呆れられたかもしれない。
昨日も今日も、お酒を飲んでくだをまく。
こんな女最低だと、自分でも思っちゃうよ。
「家族になる相手を大事にしない人は、駄目ですよ」
落ち込みながらお猪口に口を付けていたら、紺さんが静かに言った。
「え」
「恋人も家族も、大切にしない人は駄目です。自分の都合で勝手にしていい存在ではありません、そう思いませんか?」
ああ、紺さんは優しすぎる。
私の葛藤を、拒絶を、悲しみを呆れずに理解して肯定してくれる。
「思いますぅっ」
えぐえぐと、しゃくりあげながら同意すると、紺さんは苦笑しながらお酌をしてくれた。
「飲みましょうか、由依さん」
「はい」
「飲んで、悲しいことも嫌なことも全部吐き出してしまいましょう」
「はいっ」
くいくいとお猪口の中見を飲み干しながら、紺さんにもお酌する。
「キュン」
小さく鳴いて十和は私の膝の上で丸くなり目を閉じる。
小さな重みは温かい。
温かくて、また涙がこぼれ落ちる。
「飲みましょう」
「はい、紺さんありがとうございます」
十和を見てから顔を上げ、紺さんを見て息を飲む。
また見えた、白い耳。
一瞬だけ、紺さんの頭に白い三角の耳が確かに見えたのだ。
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