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まあ呆れるよね
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「あの、その人はなぜ」
漫画なら、困惑とか大きなクエスチョンマークとかが後ろに飛び交っていそうな顔で紺さんが聞いてきた。
そりゃ疑問に思うでしょう、私も思ったもんと思い出したら大きなため息が出てしまった。
「あの野ろ、いえ、先輩は、結婚しても変わらず私とも付き合いたい?先輩の結婚は関係ないとか何とかかんとか、上手く付き合っていこうと」
「正気ですか」
普通そう思うよね。
私が古くさい考え方しているんじゃなく、先輩がおかしい。
昨日の怒りが再発して、私は勢い込んでお猪口の中身を飲み干すとドボドボと手酌する。
「信じられます?結婚決まってお祝いの会した日に、結婚決まったけど変わらず上手くやってこうとか、馬鹿にしすぎでしょと思いますよねっ」
「性根が腐っているとしか思えませんね」
少し強い口調で紺さんも同意しながら、こちらもくいっと日本酒を飲み干した。
「先輩しつこくて、マンションの中に無理矢理入ってこようとしたんですけど、十和がうなり声上げて助けてくれたんです」
「十和が?こんな小さな子がうなった程度で追い払えたのですか?」
「先輩犬が苦手なんです。暗かったから十和を犬だと勘違いして、だから暫く預かるんですって嘘ついちゃった」
「嘘も方便といいますから」
「そう言ってもらえると気が楽になります」
手酌しようと手を伸ばす紺さんに変わってお酌しながら、また先輩が来たらどうしようと考える。
何度来たって追い返すのは当然だ。
私は父親の件で既婚者で浮気する人を、心底軽蔑している。
家の父親は人間の屑だったから、余計にそう思うのかもしれない。あの人の遺伝子が自分の中に存在しているのも本当は嫌な位に父親を軽蔑してる。
だけど、先輩はその上をいく気がする。
既婚者じゃなくても、付き合ってる内に他の人と両思いになったのなら、ちゃんと別れてからその人と付き合うべきだ。
それが出来なくても、完全に次の人に気持ちが移行してそっちと付き合いだした時点で、もう片方と別れるのが普通で二人とずっと付き合うなんて、私的にはあり得ないというのに、片方とは結婚するけどお前とも変わらず付き合うとか馬鹿にしてるのか。
私をどれだけ都合のいい女だと思ってるんだ。
「好きだと思って真剣に付き合ってきたつもりですけど、先輩にとっては都合のいい人間だっただけなんだと思います」
「都合のいい人間ですか」
「自分の都合で訪ねてきてご飯作らせて文句言って帰ってく、急ぎの仕事を私に手伝わせて、自分だけでやったように上司に報告する。果ては自分はスマホで遊んでて仕事を私に押し付ける」
まあ自分が馬鹿だったんだよね。
先輩の役に立ってるって思って喜んでたんだから、私はただの間抜けだ。
仕事で助けてやらないぞとか先輩は言い捨てて行ったけど、正直な所新人の頃なら兎も角今はもう助けて貰わらきゃ無理、なんて仕事はない。
「キャン」
「十和のお陰、ありがとね」
小さな頭を撫でると、十和は気持ち良さそうに目を細める。
「その人は近くに住んでいるんですか?」
「比較的近い方かもしれないですね」
同じ会社で家は三駅しか離れていない。
仕事終わりが一緒になった時、駅まで並んで歩き同じ電車に乗って帰るなんてのを繰り返す内に先輩を好きになった。
付き合い始めてからは、一緒に帰る機会は何故か減ってしまったけれどあれは向こうと会ってたからなんだろう。
降りるのは先輩が先、先に降りていく先輩はこちらを見てくれるなんて一度も無かったけど、あの頃はそんな些細な事すら嬉しかった。
それを考えると月曜日からの帰りが憂鬱だ。
漫画なら、困惑とか大きなクエスチョンマークとかが後ろに飛び交っていそうな顔で紺さんが聞いてきた。
そりゃ疑問に思うでしょう、私も思ったもんと思い出したら大きなため息が出てしまった。
「あの野ろ、いえ、先輩は、結婚しても変わらず私とも付き合いたい?先輩の結婚は関係ないとか何とかかんとか、上手く付き合っていこうと」
「正気ですか」
普通そう思うよね。
私が古くさい考え方しているんじゃなく、先輩がおかしい。
昨日の怒りが再発して、私は勢い込んでお猪口の中身を飲み干すとドボドボと手酌する。
「信じられます?結婚決まってお祝いの会した日に、結婚決まったけど変わらず上手くやってこうとか、馬鹿にしすぎでしょと思いますよねっ」
「性根が腐っているとしか思えませんね」
少し強い口調で紺さんも同意しながら、こちらもくいっと日本酒を飲み干した。
「先輩しつこくて、マンションの中に無理矢理入ってこようとしたんですけど、十和がうなり声上げて助けてくれたんです」
「十和が?こんな小さな子がうなった程度で追い払えたのですか?」
「先輩犬が苦手なんです。暗かったから十和を犬だと勘違いして、だから暫く預かるんですって嘘ついちゃった」
「嘘も方便といいますから」
「そう言ってもらえると気が楽になります」
手酌しようと手を伸ばす紺さんに変わってお酌しながら、また先輩が来たらどうしようと考える。
何度来たって追い返すのは当然だ。
私は父親の件で既婚者で浮気する人を、心底軽蔑している。
家の父親は人間の屑だったから、余計にそう思うのかもしれない。あの人の遺伝子が自分の中に存在しているのも本当は嫌な位に父親を軽蔑してる。
だけど、先輩はその上をいく気がする。
既婚者じゃなくても、付き合ってる内に他の人と両思いになったのなら、ちゃんと別れてからその人と付き合うべきだ。
それが出来なくても、完全に次の人に気持ちが移行してそっちと付き合いだした時点で、もう片方と別れるのが普通で二人とずっと付き合うなんて、私的にはあり得ないというのに、片方とは結婚するけどお前とも変わらず付き合うとか馬鹿にしてるのか。
私をどれだけ都合のいい女だと思ってるんだ。
「好きだと思って真剣に付き合ってきたつもりですけど、先輩にとっては都合のいい人間だっただけなんだと思います」
「都合のいい人間ですか」
「自分の都合で訪ねてきてご飯作らせて文句言って帰ってく、急ぎの仕事を私に手伝わせて、自分だけでやったように上司に報告する。果ては自分はスマホで遊んでて仕事を私に押し付ける」
まあ自分が馬鹿だったんだよね。
先輩の役に立ってるって思って喜んでたんだから、私はただの間抜けだ。
仕事で助けてやらないぞとか先輩は言い捨てて行ったけど、正直な所新人の頃なら兎も角今はもう助けて貰わらきゃ無理、なんて仕事はない。
「キャン」
「十和のお陰、ありがとね」
小さな頭を撫でると、十和は気持ち良さそうに目を細める。
「その人は近くに住んでいるんですか?」
「比較的近い方かもしれないですね」
同じ会社で家は三駅しか離れていない。
仕事終わりが一緒になった時、駅まで並んで歩き同じ電車に乗って帰るなんてのを繰り返す内に先輩を好きになった。
付き合い始めてからは、一緒に帰る機会は何故か減ってしまったけれどあれは向こうと会ってたからなんだろう。
降りるのは先輩が先、先に降りていく先輩はこちらを見てくれるなんて一度も無かったけど、あの頃はそんな些細な事すら嬉しかった。
それを考えると月曜日からの帰りが憂鬱だ。
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