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一緒に飲もうよ
しおりを挟む「こんばんは」
「紺さん、良かった」
参道の前に差し掛かったら、淡い灯りが見えてホッとした。
赤い鳥居を潜り狐の像まで歩いて行くと、紺さんから声を掛けられた。
「良かった?」
首を傾げてこちらを見ている紺さんは、寒くないのかと心配になるほどの薄着だった。
確かに神社の方々が、もこもこの綿入れやダウンコートなんかを着ているイメージは無いけれど、白衣に袴に裸足で雪駄だなんて寒そうだ。
なんだろう、信仰心があるから寒くないとかあるんだろうか。
「あ、あの。十和をそのまま離すのが心配で」
寒そうな服装に意識を持って行かれて返事が遅れたと気がつき、慌てて説明する。
「ああ、気にして下さったんですね。ありがとうございます」
私の慌てた返事に紺さんは笑顔になる。今日で会うのは二回目なのに、紺さんの笑顔は何だか懐かしい気がするし安心する。
「寒い中連れてきて頂いてありがとうございます。中で温まって下さい」
「ありがとうございます。でも、いいんですか」
「ええ。特にやらないといけないこともありませんから」
紺さんの言葉に甘えて中へと入る。昨日と同じ部屋に通されて炬燵に足を入れて温かさにホッとする。
というか、私は中に入れて貰えると思ってやって来ていたと、今更ながら気がついた。私、ちょっと図々しすぎないだろうか。
「どうしました?」
「い、いえ。あ、これ少しですが」
諸々が入った紙袋を差し出して、タッパーも入っていたと思い出した。
ここで渡すつもりじゃ無かったのに、自分の思考に驚いて全部一度に渡してしまった。
「これは?」
「ええと、午前中お菓子を買いに行きまして、美味しそうだったのと店員さんが紺さんが好きな物を教えて下さったので」
「ああ、あの店ですか。それは嬉しいです」
あ、喜んでる。お世辞じゃない笑顔だ。
ふわりと笑うその顔に、なんで私は見惚れているんだろうか。
お菓子を作ったのは私じゃないのに、妙に嬉しくなる笑顔だ。
「十和、お帰り」
「すみません、十和を午前中マンションの管理人さんに預かって貰ってたんですが、その後ずっと寝ててトイレとかご飯とか全然」
「ああ、大丈夫ですよ」
紺さんは私の説明を聞いても慌てず、十和もキュンと鳴いた後は紺さんの手に鼻先をすりすりしているだけだ。
「あれ、日本酒も入ってますよ。こっちは何だろう」
「それはあの。その作り過ぎちゃってお裾分けです」
日本酒はなぜか和菓子屋さんで売っていたものだ。
「作りすぎ、あれ」
「苦手そうだったら、あの」
持ってきたのを後悔、やっぱりよく知りもしない人間の手作りは嫌だろう。
「お宝煮ですかね、それとも餅巾着かな。美味しそうな匂いですね」
「あ、ええと。多分お宝煮の方です。家ではお袋煮っていいますが」
あずま袋からタッパーを取り出して、蓋を開けて紺さんが聞いてきた。
そういえば祖母はお宝煮と言っていた。
色々な具が入ってるからだと言っていたけれど、私のもそう言っていいのかな。
「嬉しいなあ。こういうの好きなんですよ。遠慮無く頂いていいですか」
「はい、是非」
「じゃあ温めてきますから、良かったら一緒に如何ですか?」
「え」
にこにこと日本酒の瓶を持って「これ、一緒に飲みませんか」と誘われて、嫌なんて言う人いるんだろうか。
私は条件反射で「はい」と返事をしてしまった。
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