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十和の温度
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「美味しく食べて貰えますように!」
乾燥させるため棚に置いていた狐の樹脂粘土細工の前に、お袋煮を入れたタッパーと日本酒をお供えしてお祈り。
よくよく冷静になって考えると、食の好みをよく知らない相手へ手作りの食べ物を差し入れするって大胆すぎる。
紺さんに食べさせて貰ったうどんが凄く美味しくて、あの味付けをする人なら私の味付けも嫌いじゃないとは思うけれど、知らない女の手料理を嫌と思う人は多いだろう。
「やめた方がいいかな」
一瞬考えた後様子を見て駄目そうなら、お酒とお菓子だけ渡せばいいやとタッパーを手作りのあずま袋に包む。
あずま袋はお気に入りの手ぬぐい屋さんで買った、南天の柄の手ぬぐいで作ったものだ。
手ぬぐい一本を三等分にして二カ所縫うだけで出来るあずま袋は、小学生の頃祖母に作り方を習ってからの私の相棒だ。
綺麗に作るなら手ぬぐいを切ったりして長さを調整しないといけないらしいけれど、大雑把な作りでいいなら、裁ちばさみを使用せずに出来上がる。
旅行の際のトランク整理用で、一日分の着替えを入れる。ざっくりとした鞄の中身の整理に、畳んで鞄の中に入れておいて、緊急エコバッグにと気軽に使えるのが好みの理由。
自分のこだわりとして、洗ったらアイロンを掛けしわしわにしておかないというのがある。だからこの南天柄のあずま袋ものりを効かせてアイロンを掛けてあるから、ぴしっとしている。
「よし、行こう」
夕方六時。いい加減十和も起きたかな。
夕食と化粧と着替えをすませた私は、寝室に入り十和の様子を確認した。
「十和、起きた? トイレあるよ、どうする?」
毛布に包まったままキョトンと私を見上げている十和を抱き上げ、トイレシーツの上に下ろす。
「おしっこ大丈夫?」
「きゅぅん?」
床にぺたりと座って十和に尋ねると、トイレシーツの上に前足を揃えて座ったまま十和は私を見上げているだけだ。
「もしかして、外にいかないとおトイレしないのかなあ」
そういう犬がいるとか、都市伝説的な感じで聞いたことがある。
「十和、紺さんのところに帰ろうか」
「キュン」
狐ってこういう鳴き方するのが普通なんだろうか。
甲高い可愛い鳴き方に、帰らないで欲しいという思いが高ぶって抱き上げて頬ずりしてしまう。ふわふわな毛並み、狐ってもっと匂いがしそうなイメージなのにちっとも臭くない。
あったかい体温、一晩一緒に眠っただけなのに離れるのが淋しい。
「十和、一日寝てただけなのに。生き物がいる気配って偉大だね」
先輩の荷物を勢いだけでポンポン捨てられたのって、十和が居たから出来たのかもしれない。
一人だったら一晩中泣いてただろうし、そのまま朝を迎えてベッドの中で泣いて一日過ごしてたかもしれない。
「十和のお陰で捨てなきゃいけないもの全部捨てられたし、気持ちいい一日過ごせたよ」
すりすりと十和に頬をすり寄せながら話しても、十和は嫌がらず「きゅうん」と鳴くだけだ。優しい子なんだろうなあ。
「十和、帰ろうね。そうしないと返せなくなっちゃう」
そうか、私淋しくて狐さんを作ったのか。
気がつかなかったけど、多分そうだ。
「十和。また遊びに来てくれる?」
「キュン」
「そっか、ありがと。十和。じゃあトイレシーツは家に置いておくね」
十和を抱っこして、荷物を持って私は部屋を出た。
腕の中の十和の温度がただ愛しかった。
乾燥させるため棚に置いていた狐の樹脂粘土細工の前に、お袋煮を入れたタッパーと日本酒をお供えしてお祈り。
よくよく冷静になって考えると、食の好みをよく知らない相手へ手作りの食べ物を差し入れするって大胆すぎる。
紺さんに食べさせて貰ったうどんが凄く美味しくて、あの味付けをする人なら私の味付けも嫌いじゃないとは思うけれど、知らない女の手料理を嫌と思う人は多いだろう。
「やめた方がいいかな」
一瞬考えた後様子を見て駄目そうなら、お酒とお菓子だけ渡せばいいやとタッパーを手作りのあずま袋に包む。
あずま袋はお気に入りの手ぬぐい屋さんで買った、南天の柄の手ぬぐいで作ったものだ。
手ぬぐい一本を三等分にして二カ所縫うだけで出来るあずま袋は、小学生の頃祖母に作り方を習ってからの私の相棒だ。
綺麗に作るなら手ぬぐいを切ったりして長さを調整しないといけないらしいけれど、大雑把な作りでいいなら、裁ちばさみを使用せずに出来上がる。
旅行の際のトランク整理用で、一日分の着替えを入れる。ざっくりとした鞄の中身の整理に、畳んで鞄の中に入れておいて、緊急エコバッグにと気軽に使えるのが好みの理由。
自分のこだわりとして、洗ったらアイロンを掛けしわしわにしておかないというのがある。だからこの南天柄のあずま袋ものりを効かせてアイロンを掛けてあるから、ぴしっとしている。
「よし、行こう」
夕方六時。いい加減十和も起きたかな。
夕食と化粧と着替えをすませた私は、寝室に入り十和の様子を確認した。
「十和、起きた? トイレあるよ、どうする?」
毛布に包まったままキョトンと私を見上げている十和を抱き上げ、トイレシーツの上に下ろす。
「おしっこ大丈夫?」
「きゅぅん?」
床にぺたりと座って十和に尋ねると、トイレシーツの上に前足を揃えて座ったまま十和は私を見上げているだけだ。
「もしかして、外にいかないとおトイレしないのかなあ」
そういう犬がいるとか、都市伝説的な感じで聞いたことがある。
「十和、紺さんのところに帰ろうか」
「キュン」
狐ってこういう鳴き方するのが普通なんだろうか。
甲高い可愛い鳴き方に、帰らないで欲しいという思いが高ぶって抱き上げて頬ずりしてしまう。ふわふわな毛並み、狐ってもっと匂いがしそうなイメージなのにちっとも臭くない。
あったかい体温、一晩一緒に眠っただけなのに離れるのが淋しい。
「十和、一日寝てただけなのに。生き物がいる気配って偉大だね」
先輩の荷物を勢いだけでポンポン捨てられたのって、十和が居たから出来たのかもしれない。
一人だったら一晩中泣いてただろうし、そのまま朝を迎えてベッドの中で泣いて一日過ごしてたかもしれない。
「十和のお陰で捨てなきゃいけないもの全部捨てられたし、気持ちいい一日過ごせたよ」
すりすりと十和に頬をすり寄せながら話しても、十和は嫌がらず「きゅうん」と鳴くだけだ。優しい子なんだろうなあ。
「十和、帰ろうね。そうしないと返せなくなっちゃう」
そうか、私淋しくて狐さんを作ったのか。
気がつかなかったけど、多分そうだ。
「十和。また遊びに来てくれる?」
「キュン」
「そっか、ありがと。十和。じゃあトイレシーツは家に置いておくね」
十和を抱っこして、荷物を持って私は部屋を出た。
腕の中の十和の温度がただ愛しかった。
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