おきつねさんとちょっと晩酌

木嶋うめ香

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いらないものは捨てちゃおう

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「十和は取りあえず、寝室に寝かせておこうかな」

 ぐっすり眠っている十和は、部屋に戻っても起きる気配がなかった。
 動物としてはこの熟睡加減はどうなのかなって心配になるレベルだけれど、飼われている動物ならこういう油断もあるのかもしれない。

「ここに寝ててね」

 昨日用意した寝床に、十和を寝かせて毛布を掛ける。
 買って来たトイレシートは一緒に買って来たペット用トイレにセットして、十和の寝床の脇に置いた。
 さすがにこれで十和がトイレだと認識することはないとは思うけれど、起きてトイレに行きたそうになった時すぐに教えてあげられた方がいいから、準備は必要だと思う。

「さて掃除」

 掃除機とか音が響くのは、十和が起きちゃいそうだからやめた方がいいよね。
 考えながら動きやすい服装に着替えた後、可燃ゴミと不燃ゴミの袋を用意する。

「取りあえず、捨てる物の確認」

 捨てる一択なのは、先輩の置いていた荷物だ。

「捨てて良いって言ったんだから後で何を言われても関係無し、捨てるったら捨てる」

 そんなに置いていないと思っていた先輩の私物は、ゴミ袋片手に探すと結構な量があった。
 泊った事すらないのに、シャツとかズボンとか。持ってきた雑誌にDVDに、先輩が好きで私の好みではないカップラーメンとかお菓子。勉強すると言っていた割に一度も開いたのを見た事がない、資格試験対策の本とかまであった。

「がらくたっぽいのまであるんですけど」

 先輩が自分の部屋の様に細々した物を持ち込むのは、嬉しくもあり邪魔でもあった。
 先輩ってご飯を食べに家に来ていたんじゃないかって、今更ながら疑いたくなる。
 先輩と会うのは基本平日で、週末会うのは月に一、二回。
 その週末の過ごし方って例えば土曜日とか突然連絡してきて、私にお昼を作らせて部屋でだらだら過ごして夕飯を食べて帰るとか、そういう感じだった。
 あれって暇を潰すついでに、ご飯食べてただけの様に今更なんだけど、思ってしまう。

「手料理食べてくれて嬉しいとか思ってた私が間抜けなんだよね」

 しかも素直に美味しいとかありがとうとか言ってくれた時なんて無かった。
 急に連絡してきて用意なんてあるわけもなく、先輩を部屋に残して食品の買い出しに行こうとすれば「俺が来たのに出掛けるの」と文句を言われ。
 肉じゃがとか鶏の照り焼きとか先輩が食べたいと言ったのを作ったのに「俺のリクエストの他にもうちょっと手の込んだもの作って欲しかったな」と文句を言われた。
 それで食材のお金を払ってくれたのは一回も無く、夕食どころかお昼にもお酒飲みたいとか言うし、食事以外にスナック菓子やコーヒーを用意してないと機嫌が悪くなった。

「うん、私が間抜けだった」

 恋愛フィルターが掛かっていた私は、先輩の望むものを用意出来てなかった私が悪かったのだと思っていたし反省もしていた。
 でも冷静になって考えるとおかしいよね。
 私は一人暮らしで、なにもかも自分のお金で賄っている。
 それなのに実家住みの先輩が、私に昼も夜もおやつもお酒も用意させて、更にそれに文句言うっておかしいよね。

「先輩と別れて正解。むしろ二股してくれてありがとうだわ」

 悪運を断ち切れるかどうか微妙だけれど、ぎゅうぎゅうに詰めたゴミ袋にお塩をまいてから袋の口を縛る。
 不燃と可燃両方合わせて、先輩の私物だけでゴミ袋五個。雑誌類は別にまとめているから凄い量だ。

「十和はまだ寝てるね」

 一度寝室に入り十和の様子を見てから、両手にゴミ袋を持って部屋を出る。ゴミは各階に設置されているダストシューターから捨てられる。

「先輩なんて、ぽーいっよ! さよーならっ!」

 ぽいぽいっとゴミ袋を捨てると、最後に雑誌類をまとめた物を紙ゴミ用置き場に持っていった。

「なんかすっきりした気分」

 まだ掃除は始まったばかりなのに、なんだか気持ちが落ち着いた。
 汚い話だけど、便秘が解消されたようなすっきり具合だ。
 
「この勢いで掃除頑張ろう」

 うーんと伸びをした後、私はすっきりした気持ちのまま部屋へと戻るのだった。
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