おきつねさんとちょっと晩酌

木嶋うめ香

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ちっちゃな体に慰められて

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 ふうっと大きく息を吐く。
 体と髪を洗った後、ぬるめのお湯に入浴剤代わりにコップ酒と粗塩をちょっと入れて肩までお湯に浸かる。
 かなり冷えていたのか、指先が急にお湯に温められてジンジンする。

「あー。あったまる」

 マンション近くにある酒屋さんのおばさんから「冷え性なら、日本酒と塩をお風呂に入れるといいよ」と教えてもらってから、たまに入浴剤代わりに入れているけど、これ本当に温まるし、肌にも良い気がする。

「厄落としにもなりそうだよねえ」

 私が日本酒をお風呂に入れたくなる時って、ちょっとメンタルが落ちてる時が多い。
 仕事でミスしたり、透先輩と全然プライベートで会えなかったり、透先輩がモテてる噂聞いたり、会社でもやっとして、家に帰る途中でお酒買いこみ家に帰って即効お風呂に入る。そんな流れだった。

「酔ってる時の長風呂は良くないな」

 バスタブの詮を抜きお湯を流しながら立ち上がると、シャワーで軽く流す。
 体を拭きながらバスルームを出て、脱衣場の棚に置いてあるお手入れセットで適当にスキンケアして体にもクリームを塗りまくってから下着だけ着てまたバスルームに戻る。

「ざざっとでいいか」

 お湯がまだ少し残ってるバスタブに洗剤をちょっと入れて、バスタブ用のスポンジで大雑把にバスタブを洗って冷水シャワーで流す。
 ついでにバスルームの壁にもざざざっと冷水シャワーを全体に掛けて、足をお湯に切り替えたシャワーで流して脱衣場に出る。

「髪乾かすの面倒だわー」

 パジャマを着て洗面台の鏡を見ながらドライヤーで髪を乾かし、歯も磨く。
 寝室に向かう前にキッチンで明日の味噌汁用の煮干しを小鍋に水を張って四、五匹浸しておく。
 飲んだ次の日はお味噌汁が欲しくなる。なんとなくジャガイモと玉ねぎのお味噌汁の気分だから、出汁は煮干しにする。
 煮干しの出汁って、前日から水出ししてないと美味しく出ない気がする。だらから寝る前に仕込んでおく、面倒だけど。

「面倒だけど、やっておくと楽な事ってあるよね」

 私にとってそれの代表がお風呂掃除と髪の毛のドライヤーだ。
 お風呂掃除は夜、お風呂から上がったらざっと洗って、水のシャワーを掛けておく。そうすると次に使う時に楽だし、カビも出にくい(らしい)。そして髪を乾かすのも面倒だしさぼりたいし自然乾燥でいいんじゃないかと毎回思うけれど、ちゃんと乾かさないと朝大変な事になる。
 セミロングなのに、髪が爆発するってどういう寝相なんだろう。
 お布団がベッドから落ちたりしたことないんだけどなあ、なんて考えながら寝室に行くと、十和が毛布にくるまってスピスピと寝息をたてていた。

「寒くないかな、エアコンきって平気かな」

 起こさないように、そっと小さなおでこを撫でる。
 狐の毛って柔らかいんだなぁ。いつまでも撫でていられるけど、あんまり撫でてたら起きちゃうね。
 寒くないように十和の体にしっかり毛布を掛けて、エアコンをきるとベッドに潜り込んで、リモコンで部屋の電気を消した。

「はあ、休み明け憂鬱だ」

 電気を消した真っ暗闇の中、仰向けになって布団を口元まで引っ張る。
 休み明けの出勤が今から憂鬱で仕方ない。
さっきの透先輩の最悪な言葉は、思い出すだけで苛々する。
 だけど同じ会社の同じ部署、席は離れてるけどそれでも同じ部屋で仕事をしてる事に変わりない。
 透先輩の顔を見る度苛々しそうだった。

「美紀に相談、やめた方がいいか大騒ぎになっちゃう」

 美紀は同期だし良い人だし会社で一番仲が良いけど、でも透先輩と付き合ってた話は内緒にしてた。
 透先輩に「由衣を贔屓してるって思われたくないから、内緒にしよう」と言われての事だったけど、付き合ってるときに内緒にしていて、こんな事になってから相談したって迷惑だろう。

「終わったことだし、毅然とした態度でいたらいいのよ。あんな最低男前」

 ムカつきながらそう決心するけど、じわりと涙が滲んでくる。
 馬鹿みたいな話だけど、最低男だって思うのに好きだった気持ちが心のどこかに残ってる。

「惨めだなぁ、ん?」

 考えてたら寝付けそうに無くて、横向きに寝返りをうとうとしてふわんとした何かが頬に触れた。

「十和?」
「きゅうぅ」

 ポンポンと、十和の前足が私の頬に触れている。
 そっと前足を掴むと、むにむにした肉球に触れた。

「寒い?一緒に寝よっか」

 布団を捲ると素直に入ってきて、私の首筋に顔を寄せてきた。

「あったかいね、十和」

 小さな体を潰さないように気を付けながら、頭を撫でる。

「十和、月曜日から私どうしたらいいのかな」

 答えなんて決まってる。
 知らんぷりして同僚として接するだけ。
 二人きりにはならない様にすればいいだけ。

「頑張るね、私。ウジウジしてるの馬鹿みたいだもん」

 自分に言い聞かせながら、十和の頭を撫でてたら少し眠くなってきた。

「お休み十和」
「きゅう」

 狐ってこんな鳴き声なんだ。
 甘えた様な十和の声に微笑みながら、私はやっと眠りにつけた。
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