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出汁の匂いに誘われて
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ああ、あったかい。
すっごく寒かった筈なのに、お風呂に入ってるみたいなポカポカの温度が心地良い。
あったかいって、幸せだなぁ。
それに、何か良い匂いがする。
なんだろ、これ。
お醤油と出汁の匂い?
あぁ、良い匂い。
お腹すいちゃうよ、ぐうぅってお腹鳴っちゃうよお。
お醤油とお出汁、そういえばお稲荷さん買ったんだっけ。
あれ、美味しそうだった。あれの匂いかな?
「お腹すいた」
むにゅ。
呟きながら寝返りを打って、ふわんとした何かを抱き締めた。
あれ、なにこれ?
って、寝返り?
あれ、私外にいなかったっけ?
「え、あれ。え?」
戸惑いながら目を開いたら、見たことない和室っぽい壁が見えて慌てて飛び起きた。
ここ、どこ?
全く知らない部屋だった。
畳に障子、黄土色の壁、こういうの何て言うんだっけ忘れちゃったけど、和室の壁にどっしりとした古そうな木製の引き戸が付いた棚と年代物っぽい石油ストーブの上に乗せられたヤカンからは、しゅんしゅんと白い湯気が上がってる。
「お腹すいてるなら、召し上がりませんか」
ぼんやりとストーブの火を見ていたら、目の前に急に丼が出された。
思わず両手でそれを受け取ってから、丼を出してきた人を凝視した。
人がいるって気がつかなかったから、驚いた。
和服、白い着物に青っぽい袴を着た私より少し年上っぽい男性、一瞬白くて大きな耳が頭の上に見えた気がしたけれど、まだ酔いが残ってるせいだろう。
「あの、ここは」
「社務所ですよ。この子があなたに気がついて、お連れしました」
「この子?あ、え」
この子と言われて、私の横で固まっている白い犬? あれ、違う? なんだろ、とにかく白いフワフワな毛並みの子を見下ろした。
寝ながら、ふわんとしたものと思っていたのはこの子だったのか。あ、毛布も掛けてもらってたみたい。
「この子に呼ばれて、倒れているのかと心配しましたが、眠っていた様だったので」
「それは、あの。ご迷惑をお掛けしました」
丼を持ったままというのが情けない感じだけれど、とにかくお詫びしなければと慌てて頭を下げた。
酔っ払って寝てましたとは、言いにくいけれど匂いで察しているでしょうねぇ。
恥ずかしいな、若い女が酔っぱらって神社の境内で寝てたなんて。
しかも、真冬に。凍死しちゃう以前に、恥ずかしすぎる。
「体冷えたでしょう。温かいうちに良かったら、どうぞ」
「いいんですか」
「ええ。美味しそうなお稲荷さんとお酒を供えてくれたお礼です」
「お稲荷さん、あ、ええと」
そういえば、狐の像におすそわけしたんだ、お稲荷さんとカップ酒。
冷静になるとおかしいでしょ、私。
夜中に神社で狐の像にお供えして、そのまま寝ちゃうとか。ありえなさすぎる。
「ご迷惑をお掛けしまして、本当に申し訳ありません」
「気にしないで下さい。今の時間は私しかいませんから」
「そうなんですか」
「ええ。私は夜の管理をしている紺と追います。紺色の紺と書きます」
「私は三浦由衣です」
名前を名乗りながら私のお腹が、くうと情けない音をたてた。
酔っ払て醜態を晒したあげく、お腹まで鳴るとかどれだけ私は恥ずかしい奴なんだ。
「失礼しました」
「由衣さん、遠慮せずどうぞ召し上がれ」
「すみません、頂きます」
寝ながら良い匂いだと思ってたけれど、差し出されたお箸を受け取って、丼のお汁を一口飲んで驚いた。
無茶苦茶美味しいよ、これ。
「美味しい」
ポツリと言葉が出て、はっとして紺さんを見るとニコニコと笑っていて安心した。
鰹出汁の良い香りとお醤油の香りが、なんだかとっても懐かしい。
自分で料理するし、お蕎麦屋さんでうどんとか蕎麦を食べたりもしているのに。
なんで懐かしいって思っちゃったんだろう。
アツアツのうどんの上には、ネギと甘じょっぱく煮た油揚げが乗っていて、ずるずるうどんをすすった後油揚げを一口齧ったら、美味しくって涙が出そうだった。
今日の飲み会でも食べたのに。山ほど飲んで食べたのに。
どうしてこんなに美味しいんだろ。
「こちらも良かったら」
「え」
「お供え頂いたお酒、燗にしました」
白い徳利にお猪口が2つ、小さなちゃぶ台の上に置かれるから、丼をちゃぶ台に置いてお酌を受ける。
「紺さんもどうぞ」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは私の方ですよ」
「でも、元は由衣さんのお酒ですから」
そう言うと、紺さんはくいっとお猪口を傾ける。
一重の細い目は笑うと、いっそう穏やかな優しい雰囲気になるからなのか、初対面なのに私は全然警戒していなかったって気がついた。
「美味しいです。おうどんもお酒も」
「良かった。今夜は冷えますから、温かい物はそれだけでご馳走ですよ」
「はい。なんだかやさぐれてた心がほぐれる様な気がします」
美味しいうどんを汁まで全部頂いて、お猪口に再び注がれたお酒も飲み干す。
「やさぐれる、ですか。何か」
「たいしたことではないんです。ただ」
「ただ、付き合ってた筈の会社の先輩に二股されて、相手が授かり婚するだけです。で、今日はそのお祝いの会だったんです。で、飲んじゃいました」
ははは、笑ってお猪口の中身を飲み干すと、また新たに注がれた。
「私の方が浮気相手、向こうが本命だったんですが、間抜けなことに全然私気がついてなくて。会社で彼が結婚すると発表するまで本当に気がつかなくて」
新たに注がれたお酒を飲まずに、お猪口を両手で包むように持つ。
手の平にぼんやりと伝わるお酒の温度に、体の芯まで冷えてたんだなと気がついた。
「間抜けではありませんよ」
「え」
「相手が悪いんです。本命とか浮気とか、関係なく。だって由衣さんは真面目にお付き合いされていたのでしょう?」
「はい。そのつもりでした」
でも、男運が悪くて、とか見る目がなくて、とか。
口のなかでもごもご言っていたら、ぽんと頭に大きな手が乗せられた。
「自分が悪いなんて、卑下することはありませんよ。丸々全部向こうが悪いとはいいませんが、それでも付き合っていたのなら最低限の礼儀はあるでしょう?他の人と結婚すると、会社のその他大勢の一人としてあなたに聞かせるなんて、礼儀に反すると思いますよ」
「そうでしょうか」
「ええ、私はそう思います」
ポンポンと私の頭を撫でながら、そんな風に言われたら泣けてくる。何か昔もこういうことあった気がするけれど、酔って馬鹿になった頭じゃ思い出せない。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、大きなあったかい手は離れていった。
涙が出そうだけれど、でも、さすがに初対面の人の前じゃなけないから、私は涙を誤魔化す様にお猪口の中身を飲み干すのだった。
すっごく寒かった筈なのに、お風呂に入ってるみたいなポカポカの温度が心地良い。
あったかいって、幸せだなぁ。
それに、何か良い匂いがする。
なんだろ、これ。
お醤油と出汁の匂い?
あぁ、良い匂い。
お腹すいちゃうよ、ぐうぅってお腹鳴っちゃうよお。
お醤油とお出汁、そういえばお稲荷さん買ったんだっけ。
あれ、美味しそうだった。あれの匂いかな?
「お腹すいた」
むにゅ。
呟きながら寝返りを打って、ふわんとした何かを抱き締めた。
あれ、なにこれ?
って、寝返り?
あれ、私外にいなかったっけ?
「え、あれ。え?」
戸惑いながら目を開いたら、見たことない和室っぽい壁が見えて慌てて飛び起きた。
ここ、どこ?
全く知らない部屋だった。
畳に障子、黄土色の壁、こういうの何て言うんだっけ忘れちゃったけど、和室の壁にどっしりとした古そうな木製の引き戸が付いた棚と年代物っぽい石油ストーブの上に乗せられたヤカンからは、しゅんしゅんと白い湯気が上がってる。
「お腹すいてるなら、召し上がりませんか」
ぼんやりとストーブの火を見ていたら、目の前に急に丼が出された。
思わず両手でそれを受け取ってから、丼を出してきた人を凝視した。
人がいるって気がつかなかったから、驚いた。
和服、白い着物に青っぽい袴を着た私より少し年上っぽい男性、一瞬白くて大きな耳が頭の上に見えた気がしたけれど、まだ酔いが残ってるせいだろう。
「あの、ここは」
「社務所ですよ。この子があなたに気がついて、お連れしました」
「この子?あ、え」
この子と言われて、私の横で固まっている白い犬? あれ、違う? なんだろ、とにかく白いフワフワな毛並みの子を見下ろした。
寝ながら、ふわんとしたものと思っていたのはこの子だったのか。あ、毛布も掛けてもらってたみたい。
「この子に呼ばれて、倒れているのかと心配しましたが、眠っていた様だったので」
「それは、あの。ご迷惑をお掛けしました」
丼を持ったままというのが情けない感じだけれど、とにかくお詫びしなければと慌てて頭を下げた。
酔っ払って寝てましたとは、言いにくいけれど匂いで察しているでしょうねぇ。
恥ずかしいな、若い女が酔っぱらって神社の境内で寝てたなんて。
しかも、真冬に。凍死しちゃう以前に、恥ずかしすぎる。
「体冷えたでしょう。温かいうちに良かったら、どうぞ」
「いいんですか」
「ええ。美味しそうなお稲荷さんとお酒を供えてくれたお礼です」
「お稲荷さん、あ、ええと」
そういえば、狐の像におすそわけしたんだ、お稲荷さんとカップ酒。
冷静になるとおかしいでしょ、私。
夜中に神社で狐の像にお供えして、そのまま寝ちゃうとか。ありえなさすぎる。
「ご迷惑をお掛けしまして、本当に申し訳ありません」
「気にしないで下さい。今の時間は私しかいませんから」
「そうなんですか」
「ええ。私は夜の管理をしている紺と追います。紺色の紺と書きます」
「私は三浦由衣です」
名前を名乗りながら私のお腹が、くうと情けない音をたてた。
酔っ払て醜態を晒したあげく、お腹まで鳴るとかどれだけ私は恥ずかしい奴なんだ。
「失礼しました」
「由衣さん、遠慮せずどうぞ召し上がれ」
「すみません、頂きます」
寝ながら良い匂いだと思ってたけれど、差し出されたお箸を受け取って、丼のお汁を一口飲んで驚いた。
無茶苦茶美味しいよ、これ。
「美味しい」
ポツリと言葉が出て、はっとして紺さんを見るとニコニコと笑っていて安心した。
鰹出汁の良い香りとお醤油の香りが、なんだかとっても懐かしい。
自分で料理するし、お蕎麦屋さんでうどんとか蕎麦を食べたりもしているのに。
なんで懐かしいって思っちゃったんだろう。
アツアツのうどんの上には、ネギと甘じょっぱく煮た油揚げが乗っていて、ずるずるうどんをすすった後油揚げを一口齧ったら、美味しくって涙が出そうだった。
今日の飲み会でも食べたのに。山ほど飲んで食べたのに。
どうしてこんなに美味しいんだろ。
「こちらも良かったら」
「え」
「お供え頂いたお酒、燗にしました」
白い徳利にお猪口が2つ、小さなちゃぶ台の上に置かれるから、丼をちゃぶ台に置いてお酌を受ける。
「紺さんもどうぞ」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは私の方ですよ」
「でも、元は由衣さんのお酒ですから」
そう言うと、紺さんはくいっとお猪口を傾ける。
一重の細い目は笑うと、いっそう穏やかな優しい雰囲気になるからなのか、初対面なのに私は全然警戒していなかったって気がついた。
「美味しいです。おうどんもお酒も」
「良かった。今夜は冷えますから、温かい物はそれだけでご馳走ですよ」
「はい。なんだかやさぐれてた心がほぐれる様な気がします」
美味しいうどんを汁まで全部頂いて、お猪口に再び注がれたお酒も飲み干す。
「やさぐれる、ですか。何か」
「たいしたことではないんです。ただ」
「ただ、付き合ってた筈の会社の先輩に二股されて、相手が授かり婚するだけです。で、今日はそのお祝いの会だったんです。で、飲んじゃいました」
ははは、笑ってお猪口の中身を飲み干すと、また新たに注がれた。
「私の方が浮気相手、向こうが本命だったんですが、間抜けなことに全然私気がついてなくて。会社で彼が結婚すると発表するまで本当に気がつかなくて」
新たに注がれたお酒を飲まずに、お猪口を両手で包むように持つ。
手の平にぼんやりと伝わるお酒の温度に、体の芯まで冷えてたんだなと気がついた。
「間抜けではありませんよ」
「え」
「相手が悪いんです。本命とか浮気とか、関係なく。だって由衣さんは真面目にお付き合いされていたのでしょう?」
「はい。そのつもりでした」
でも、男運が悪くて、とか見る目がなくて、とか。
口のなかでもごもご言っていたら、ぽんと頭に大きな手が乗せられた。
「自分が悪いなんて、卑下することはありませんよ。丸々全部向こうが悪いとはいいませんが、それでも付き合っていたのなら最低限の礼儀はあるでしょう?他の人と結婚すると、会社のその他大勢の一人としてあなたに聞かせるなんて、礼儀に反すると思いますよ」
「そうでしょうか」
「ええ、私はそう思います」
ポンポンと私の頭を撫でながら、そんな風に言われたら泣けてくる。何か昔もこういうことあった気がするけれど、酔って馬鹿になった頭じゃ思い出せない。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、大きなあったかい手は離れていった。
涙が出そうだけれど、でも、さすがに初対面の人の前じゃなけないから、私は涙を誤魔化す様にお猪口の中身を飲み干すのだった。
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