上 下
39 / 39

誤魔化しは通じない

しおりを挟む
「話を聞いていた方は、面白いと思ったのだからフィーアさんの誤魔化しが通じなかったのね」

 なんだか頭が痛くなりながら尋ねると、ビビアナは眉間に小さな皺を作りながら頷きました。
 私だけならともかく、ビビアナとあまり親しいわけではないマルセルもいる席でそんな表情をするのはとても珍しいです。彼女はいつもなら高位の貴族令嬢らしく嫌悪感等を表に出さないのですから、つまりそれだけフィーアさんの行いを不快に思っているということなのでしょう。

「通じるわけないわ。彼女相手の方へ媚びている様な声でお願いしていたらしいのよ。それが断られた途端それが無くなったそうだもの。その途端喫茶室の雰囲気が一変したそうよ」

 喫茶室の空気が一変というのは、勿論悪い方にでしょう。
 喫茶室内に居た誰もがフィーアさん達の話に聞き耳を立てていて、私達と同じ意味に取り、フィーアさんの誤魔化しが通じなかったということなのでしょう。
 それって、つまり、フィーアさんの恥をその場に居た方々が知っているということです。

「マルセル、こんな情けない思いをしたのは私初めてよ」

 兄の婚約者の醜聞に、私は恥ずかしさで体が熱くなってきてしまいました。
 フィーアさんは、もう少し頭の良い人だと思っていました。
 噂がすぐに広まりそうな場所で、なんていうことをしてくれたのでしょう。彼女は兄のことを心の底からどうでもいいと考えているのだろうと、あまり頭が良く無い私でも分かります。

「相手の名前は分かりますか」
「ええ勿論。有名な方ですからね」
「有名?」
「副会長だそうよ」

 副会長と聞いて、今度は体の熱が一気に冷めて行きました。
 
「それ、生徒会の?」

 恐る恐る私はビビアナに確認しました。答えが分かっていても聞かずにはいられません。私の聞き違いだと思いたくなっても仕方がないでしょう。
 だって、生徒会副会長ワアド・エクトラーダ侯爵子息の婚約者はこの国の王妃様の姪、シャノン・キャサーウッド
公爵令嬢なのです。王子殿下、王女殿下は私達の年齢よりも少し上の方ばかりで、学校に公爵位の家の女性も彼女しかいないのです。
 つまりフィーアさんは女生徒の最上位にいる方を婚約者に持つ方に、そういう意味で擦り寄ったということなのですから。

「アニカ、それ以外の誰がいるというの。でもあなたの気持ちも分かるわ。私だって話を聞いた時は気を失いそうになったもの」
「ねえ、それいつの話なの。私達が入学する前?」
「いいえ、つい最近らしいわ」

 私もマルセルも呑気にし過ぎていたのでしょうか。つい最近とはいえそんな話を知らずにいたなんて。
 
「謝罪、謝罪に行かないと」

 すでに食欲は失せて、眩暈までしてきた気がします。
 キャサーウッド公爵家にも当然この話は届いているでしょう。あの家の不興を買ってしまったらマルセルの家にも迷惑が掛かってしまいます。

「アニカ落ち着いて、私達が謝罪に行くのはおかしい。父上達に頼まなければ」
「そ、そうね。ああ、ビビアナありがとう。こんな重要な話を知らずにいたら私の家もマルセルの家も、大変なことになっていたわ」
「そうよね。今私の知り合いに噂がどの程度広がっているのか確認をしてもらっているの。明日にはアニカにお知らせ出来ると思うわ」

 ビビアナはなんて優しいのでしょう、私の為にそこまでしてくれているなんて。

「ビビアナありがとう」
「あなたは私の大切なお友達だもの。当然よ、知り合いはそういうことが得意なの。安心して任せて頂戴な」

 頼もしいビビアナの言葉に、私は感動して涙が出そうになったのです。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

この婚姻は誰のため?

ひろか
恋愛
「オレがなんのためにアンシェルと結婚したと思ってるんだ!」 その言葉で、この婚姻の意味を知った。 告げた愛も、全て、別の人のためだったことを。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

処理中です...