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頭が痛い
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「いつ伺ってもビビアナの家のお庭は素敵ね」
一緒の馬車に乗りやってきたビビアナの家は、王都にある貴族街の中でも上級貴族が屋敷を持っている地域にあります。
家が持っている屋敷は下級貴族が多く暮らす地域にあります。
元々持っていた屋敷をおじい様が手を加えたらしく少し新しい印象がありますが、さすがビビアナの家であるサヘイ伯爵家は歴史がある為、屋敷の造りも歴史を感じさせるもので木製の調度品も代々大切に受け継いで来たのだと分かる様な、美しい艶を持っています。
ビビアナの私室もそんな調度品で整えられていますが、淡い色の壁紙や手の込んだ刺繍が施されたクッション等や可愛らしい飾りもので若い貴族令嬢らしい部屋になっています。
その彼女の部屋の窓から見渡せる庭はとても美しく、一枚の絵画の様なのです。
「ありがとう。家の庭師はとても腕がいいのよ。領地の屋敷を管理している者も素晴らしい腕を持っていてね、彼の育てる薔薇はとても見事なの。王都のこの屋敷は彼の息子夫婦に任せているのよ。父親の教育が良かったのでしょうね、この屋敷の薔薇も他の花々もとても綺麗に咲いていて、この庭は自慢なの」
「そうでしょうね。これだけ綺麗ならお庭でお茶会をするのも楽しそうね」
まだ私達は自分でお茶会を開ける年齢ではありません。
母親が準備したお茶会にお友達を呼ぶ程度です。
「そうね、薔薇の時期にそういうお茶会を開けたらいいわね。私自分が準備する一番最初のお茶会はこのお庭で開きたいわ」
「その時は是非招待してね」
「ええ、楽しみにしていてね。でもその前にあなたの結婚式があるわね。卒業してすぐに結婚するのでしょう?」
「その予定だけれど、兄の問題が解決しないと難しいかもしれないわ」
今日ビビアナの家に伺ったのは未来のお茶会の話をするためではありません、兄の婚約者フィーアさんについてビビアナが知っていることを教えて貰うために来たのです。
「そうね。それは早めに解決しないといけないと思いますわ。私お節介なことをしている自覚はあるのよ、でも噂を聞いてしまったものだから、心配になってしまったの」
「お節介だなんて思わないわ。ビビアナ、遠慮せずに教えてくれるかしら」
ビビアナはどちらかと言えば私には率直に話をする方です。
貴族令嬢通しの会話は、遠回しな言い方でよくよく考えると嫌味を言われているのだと気が付くものも多いですが、私とビビアナの関係はそうではありません。
良い事も悪い事も気兼ねなく話せる関係なのです。
「私、まだ婚約者がいないでしょう? だから夜会や晩餐会に招待された時は兄や従兄にエスコートを頼むのよ。それでね私が招待されたものではなく、従兄が招待されたものの中に一緒に参加することも多いの」
「そうね。私は兄と一緒というのは殆どないわ。殆どマルセルと一緒ね」
「あなた達は本当に仲がいいものね。それで従兄の家は子爵家だから下級貴族家からの招待も多いし、平民の大商人等とも付き合いがあってそういう家が開く夜会等にも招待されることが多いの」
「平民の大商人」
「ええ。あなたはクランク様が招待されるものに行くことが多いでしょう?」
ビビアナが言いたいことは良く分かります。
子爵家の娘でまだ学生の私には夜会の招待が来ることがまず少なく他家からのお誘いはお茶会が主です。
同じ学生でも伯爵家の跡継ぎのマルセルは、成人男性並みに夜会の誘いがありそういう場合私を伴って参加しています。伯爵家の中でも裕福な家に属するクランク家に来るお誘いは当然上級貴族ばかりですから、私はあまり下級貴族家が開く夜会には参加したことがありません。
「そうね。平民の裕福な家でも夜会を開いていると聞いたことはあるけれど、実際に参加したことはないわ」
「彼らの開く夜会は少し粗野だし貴族のそれとはだいぶ趣が違いますが、気を張らずに楽しめますし私は好んで出掛けていますの。上級貴族の夜会は一瞬も気が抜けないでしょう?」
「ええ、そうね。私はまだ慣れないから緊張してしまうし、挨拶だけで疲れてしまうわ」
マルセルはそつなくなんでも出来る人なのでそういう苦労はなさそうですが、私は格上の相手への挨拶だけで精一杯です。
お義母様が一緒にいらっしゃる夜会では、勉強も兼ねて一緒に挨拶回りをして下さるので助かりますが後日お叱りを受けることもあるのでやはり気は抜けません。
「それでその夜会に何かあるの?」
「実はね、私何度かアニカのお兄様ではない相手と一緒に夜会に出ているフィーアさんを見かけたことがあるの」
「お兄様が都合がつかなくて、フィーアさんのお兄様や従兄にエスコートされていたのではなくて?」
「それが普通だとは思いますけれど、彼女どうもある意味有名らしくて」
「有名?」
ビビアナの言葉に私は思わずテーブルの上の茶器に手を伸ばし、香り高い紅茶を一口口に含みました。
ある意味有名というのは、つまり良い話ではないということでしょう。
「ええ、彼女色んな男性と頻繁に夜会に参加している様なの。相手に婚約者がいても関係なしにエスコートさせている節操無だと話をしている人達がいて、それとなく話を伺ったのだけれど親族にエスコートされて来る事は皆無らしいのよ」
「皆無。親族、フィーアさんのお兄様達は王都に居る時は一緒に夜会に出ていると聞いていたのだけれど」
お兄様は領地に戻っていることも多いので、フィーアさんが招待されたものに一緒に参加できないことも多いのです。私はマルセルが都合が悪い場合は招待を頂いても断ることが多いのですが、フィーアさんはそうではないということでしょうか。
「最初フィーアさんを見かけた時に気になって、その夜会でそんな噂を聞いたから少し調べてみようかと思いましたの。結婚前とは言え正式に婚約をしている人が親族でもない殿方と一緒に参加するなど真面な家の娘なら絶対にしてはいけないことでしょう?」
「そうね。それは当然よ」
フィーアさんの儚げな姿から、そんなことをしているとは想像もつきませんが今日の昼休みの様子から考えると、実は私の知らない顔があるのかもしれません。
「ビビアナが知っている事、全部教えて貰えるかしら?」
「ええ、勿論よ」
ビビアナが話す内容を聞いている内に、私の顔色はどんどん青ざめて行ったのです。
一緒の馬車に乗りやってきたビビアナの家は、王都にある貴族街の中でも上級貴族が屋敷を持っている地域にあります。
家が持っている屋敷は下級貴族が多く暮らす地域にあります。
元々持っていた屋敷をおじい様が手を加えたらしく少し新しい印象がありますが、さすがビビアナの家であるサヘイ伯爵家は歴史がある為、屋敷の造りも歴史を感じさせるもので木製の調度品も代々大切に受け継いで来たのだと分かる様な、美しい艶を持っています。
ビビアナの私室もそんな調度品で整えられていますが、淡い色の壁紙や手の込んだ刺繍が施されたクッション等や可愛らしい飾りもので若い貴族令嬢らしい部屋になっています。
その彼女の部屋の窓から見渡せる庭はとても美しく、一枚の絵画の様なのです。
「ありがとう。家の庭師はとても腕がいいのよ。領地の屋敷を管理している者も素晴らしい腕を持っていてね、彼の育てる薔薇はとても見事なの。王都のこの屋敷は彼の息子夫婦に任せているのよ。父親の教育が良かったのでしょうね、この屋敷の薔薇も他の花々もとても綺麗に咲いていて、この庭は自慢なの」
「そうでしょうね。これだけ綺麗ならお庭でお茶会をするのも楽しそうね」
まだ私達は自分でお茶会を開ける年齢ではありません。
母親が準備したお茶会にお友達を呼ぶ程度です。
「そうね、薔薇の時期にそういうお茶会を開けたらいいわね。私自分が準備する一番最初のお茶会はこのお庭で開きたいわ」
「その時は是非招待してね」
「ええ、楽しみにしていてね。でもその前にあなたの結婚式があるわね。卒業してすぐに結婚するのでしょう?」
「その予定だけれど、兄の問題が解決しないと難しいかもしれないわ」
今日ビビアナの家に伺ったのは未来のお茶会の話をするためではありません、兄の婚約者フィーアさんについてビビアナが知っていることを教えて貰うために来たのです。
「そうね。それは早めに解決しないといけないと思いますわ。私お節介なことをしている自覚はあるのよ、でも噂を聞いてしまったものだから、心配になってしまったの」
「お節介だなんて思わないわ。ビビアナ、遠慮せずに教えてくれるかしら」
ビビアナはどちらかと言えば私には率直に話をする方です。
貴族令嬢通しの会話は、遠回しな言い方でよくよく考えると嫌味を言われているのだと気が付くものも多いですが、私とビビアナの関係はそうではありません。
良い事も悪い事も気兼ねなく話せる関係なのです。
「私、まだ婚約者がいないでしょう? だから夜会や晩餐会に招待された時は兄や従兄にエスコートを頼むのよ。それでね私が招待されたものではなく、従兄が招待されたものの中に一緒に参加することも多いの」
「そうね。私は兄と一緒というのは殆どないわ。殆どマルセルと一緒ね」
「あなた達は本当に仲がいいものね。それで従兄の家は子爵家だから下級貴族家からの招待も多いし、平民の大商人等とも付き合いがあってそういう家が開く夜会等にも招待されることが多いの」
「平民の大商人」
「ええ。あなたはクランク様が招待されるものに行くことが多いでしょう?」
ビビアナが言いたいことは良く分かります。
子爵家の娘でまだ学生の私には夜会の招待が来ることがまず少なく他家からのお誘いはお茶会が主です。
同じ学生でも伯爵家の跡継ぎのマルセルは、成人男性並みに夜会の誘いがありそういう場合私を伴って参加しています。伯爵家の中でも裕福な家に属するクランク家に来るお誘いは当然上級貴族ばかりですから、私はあまり下級貴族家が開く夜会には参加したことがありません。
「そうね。平民の裕福な家でも夜会を開いていると聞いたことはあるけれど、実際に参加したことはないわ」
「彼らの開く夜会は少し粗野だし貴族のそれとはだいぶ趣が違いますが、気を張らずに楽しめますし私は好んで出掛けていますの。上級貴族の夜会は一瞬も気が抜けないでしょう?」
「ええ、そうね。私はまだ慣れないから緊張してしまうし、挨拶だけで疲れてしまうわ」
マルセルはそつなくなんでも出来る人なのでそういう苦労はなさそうですが、私は格上の相手への挨拶だけで精一杯です。
お義母様が一緒にいらっしゃる夜会では、勉強も兼ねて一緒に挨拶回りをして下さるので助かりますが後日お叱りを受けることもあるのでやはり気は抜けません。
「それでその夜会に何かあるの?」
「実はね、私何度かアニカのお兄様ではない相手と一緒に夜会に出ているフィーアさんを見かけたことがあるの」
「お兄様が都合がつかなくて、フィーアさんのお兄様や従兄にエスコートされていたのではなくて?」
「それが普通だとは思いますけれど、彼女どうもある意味有名らしくて」
「有名?」
ビビアナの言葉に私は思わずテーブルの上の茶器に手を伸ばし、香り高い紅茶を一口口に含みました。
ある意味有名というのは、つまり良い話ではないということでしょう。
「ええ、彼女色んな男性と頻繁に夜会に参加している様なの。相手に婚約者がいても関係なしにエスコートさせている節操無だと話をしている人達がいて、それとなく話を伺ったのだけれど親族にエスコートされて来る事は皆無らしいのよ」
「皆無。親族、フィーアさんのお兄様達は王都に居る時は一緒に夜会に出ていると聞いていたのだけれど」
お兄様は領地に戻っていることも多いので、フィーアさんが招待されたものに一緒に参加できないことも多いのです。私はマルセルが都合が悪い場合は招待を頂いても断ることが多いのですが、フィーアさんはそうではないということでしょうか。
「最初フィーアさんを見かけた時に気になって、その夜会でそんな噂を聞いたから少し調べてみようかと思いましたの。結婚前とは言え正式に婚約をしている人が親族でもない殿方と一緒に参加するなど真面な家の娘なら絶対にしてはいけないことでしょう?」
「そうね。それは当然よ」
フィーアさんの儚げな姿から、そんなことをしているとは想像もつきませんが今日の昼休みの様子から考えると、実は私の知らない顔があるのかもしれません。
「ビビアナが知っている事、全部教えて貰えるかしら?」
「ええ、勿論よ」
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