上 下
28 / 39

恐ろしい噂を聞いてしまいました2

しおりを挟む
「急なお願いなのに時間を作ってくれてありがとう。マルセルは用事があるそうなの、私だけお邪魔するわね」

 あの後授業の合間の休憩時間にマルセルの教室を訪ね放課後の件を話すと、マルセルはフィーアさんの事で調べたい事があるから夜に私の家を訪ねてくれることになりました。
 マルセルに迷惑を掛けてしまい申し訳無い気持ちと、一緒に帰ることが出来ない寂しさがありますがしかたありません。というよりも、私がマルセルに家の事で迷惑を掛けているのですから、我儘を言える立場ではありません。
 迷惑をかけたお詫びにマルセルを今日の夕食に招待しましたが、この程度本当はお詫びになんてなりません。

 昼休みの件でもやもやし、授業を受けながらビビアナにどういう風に話をしようか考えていたお陰で、午後の授業は上の空でしたが、得意な科目なので後日頑張ろうと思います。

「久しぶりにアニカと二人でお話出来るのは嬉しいわ。さあ、行きましょう」
「今日はクランク様いらっしゃらないのね」

 にこやかに私に返事をするビビアナと連れ立って教室の外に出ようとしたら、またあの男爵令嬢にからまれました。殆ど話をしたことが無い方だったというのに、いつの間にか毎日絡まれる様になっているのは困りものです。

「とうとう婚約者に見捨てられたのね」

 無作法者にちらりと視線を向けた後、ビビアナが無視して歩みを進めるので私も一緒に無視して歩き出しました。

「ちょ、なんで無視するのよっ! ドライスさん失礼ではなくてっ!」

 失礼なのはどちらだろうと思いながら、にこやかに振り返ると「付き合ってあげる必要ないわ」というビビアナの呟きが隣から聞こえました。

「私に向けて話していたのね。気が付かずにごめんなさいね」

 最近しつこく絡んでくる彼女はベデネ男爵家の次女ですが、私は名前を呼んだりはしません。
 会話中格下相手の家名を呼ぶ、名前を呼ぶというのはそれなりの仲でなければしないのです。
 それがこの国の貴族女性のしきたりです。
 
 他国の様に爵位が下の人間から上位貴族に声を掛けてはいけない等の決まりはありませんが、家名すら呼んで貰えないというのは親しく付き合うつもりが無いと相手に言っているのと同じなのです。

「婚約者に見捨てられたなんて、あなた以外に誰がいるのよ」
「だって、私と婚約者の仲はこの上なく良好ですもの。私のことだなんて思わないわ」

 ねえ、とビビアナに顔を向けると、彼女はにっこりと頷いてくれました。

「でも今日は迎えに来ていないじゃない」
「今日はビビアナと用事があるからよ。マルセルとは夕食を一緒にする約束をしているけれど、それの何が気になるのかしら?」

 人差し指を頬に当てわざと小首を大袈裟に傾げながら聞けば、不愉快そうに歪んだ顔で「そんな余裕も今日までよ。自分で欲しがり女狐を近付けたお馬鹿さん。ふんっ!」と言い捨てて去っていきました。

「あれ、何かしら?」

 わけが分からずビビアナに話を向けると、困った様な顔でビビアナは私の腕を取りました。

「アニカにはもう少し証拠を集めてから話すつもりだったのだけれど、馬車の中で話すわ。驚かないで聞いてね」
「え、ええ」

 証拠を集めてというなら、わざわざビビアナは私の為に何かをしてくれていたのでしょう。
 それが何なのか聞くのが怖いですがベデネ男爵令嬢の捨て台詞に関係するものなのは、確かな様です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

この婚姻は誰のため?

ひろか
恋愛
「オレがなんのためにアンシェルと結婚したと思ってるんだ!」 その言葉で、この婚姻の意味を知った。 告げた愛も、全て、別の人のためだったことを。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

処理中です...