22 / 39
大雑把なお兄様
しおりを挟む
「妹のアニカさんにこんな事を言うのはいけないと思いますけれど、私急にハンク様からお手紙を頂いたものだから婚約解消に向けてのお話かと考えてしまいましたの」
フィーアさんの発言に、今度はマルセルが齧りかけていたパンにむせてしまいました。
「フィ、フィーアさん。婚約解消って兄との仲に問題があったのかしら」
私は何も聞いていない、何も知らないという顔で引きつる笑顔を意識して尋ねるとフィーアさんは男性なら庇護欲を刺激されるのではないかと言わんばかりの表情でため息をつきました。
ちらり。
つい、マルセルの顔を見てしまうのは、自分の顔に自信がないからです。
マルセルに他の人から言わせたら過剰とされる愛情表現をされているにも関わらず、美人のフィーアさんのこんな表情を見せられたら不安になってしまうんです。
こんなのマルセルに失礼だと分かっているのに、私嫌な女です。
とてもとても自己嫌悪です。
「アニカ?」
「あの、予想出来ないお話で、なんだか私」
フィーアさんに見とれているんじゃないかと不安だったとは言えずに、そうマルセルに告げると優しい私の婚約者様はうっとりするような笑顔で私の頭を撫でてくれました。
「アニカは繊細だね」
そんな人間ではないことはマルセルなら熟知している筈なのに何故かそう言うと、コホンと咳をした後フィーアさんに笑顔を向けました。
「アニカのご両親、子爵からそんな話は聞いていませんが手紙はそういう内容だったのでしょうか」
「いいえ。そうではありませんわ。私が勝手にそう思ってしまっただけですの。ハンク様はそういうおつもりで私と婚約されているのかと考えていましたから」
マルセルが私の頭を撫でていた手を、私は縋るように両手で掴むとマルセルの横顔を凝視しました。
恐ろしくてフィーアさんの顔になんて視線を向けられません。
あの大雑把でがさつな兄は、婚約者のフィーアさんにどんな態度を取っていたのでしょう。
手紙を送っただけで婚約解消の件だと思うだなんて、兄はそんなに人でなしな行いをしていたのでしょうか。
「そんなにハンクさんは酷い婚約者でしたか?」
「酷い。そうではありませんが、私に興味がないのかと」
ツキンツキンと私の胃の辺りに刺激が走ります。
もし私がマルセルにそんな風な態度を取られ続けていたら、とても傷ついたでしょう。
私はずっとずっとマルセルが好きだったので、私を大切にしてくれているにも関わらず紳士の顔を崩さないマルセルと私の間には壁があるような気がして、ずっと不安だったのです。
つい最近ケーテちゃんの事があって、マルセルとやっと本当に婚約者として付き合える気がしてきましたが、それまでは早く結婚したい気持ちと結婚して上手くやっていけるかという不安が交差して、複雑だったのです。
私に常に気遣って、手紙や贈り物をくれていたマルセル相手でさえ不安に感じるのですからお兄様相手では不安以外ない気がします。
妹としてそれはとても申し訳ない気持ちです。
でも、お兄様には悪気がないのです。
困ったことに、何の裏もないのです。
「それはないと思いますよ。僕には自分の婚約者はとても美人すぎて気おくれすると言っていましたから」
「マルセル?」
「気おくれ? ハンク様がですか?」
「そうです。アニカのお兄さんはああ見えて誠実な方で、他のご令嬢との付き合いなどは皆無ですから、婚約者との付き合いは自分の友達にも相談したりはしていないんでしょう」
どうしたのでしょう、動揺する私にマルセルはスープのカップを渡してくれたりパンを食べやすい大きさに千切って手渡してくれたりしながら、フィーアさんにお兄様が婚約者に一途だという話をしきりにしています。
しかもフィーアさんと会話しながら、視線は常に私の方を向いているのです。
「一途。彼が私に?」
「ええ。僕とアニカは幼馴染ですし、初対面で僕がアニカに一目惚れしての婚約ですから参考にならないと言われていますから、彼が参考にしているのは周囲の友人達なのでしょうね」
マルセルの一目惚れからの婚約だなんて、実際は私がマルセルに一目惚れしていたのに。
どうしてマルセルは私が嬉しい事を言ってくれるのでしょう。
「そうなのかしら」
「ええ」
ほうっとため息をついているフィーアさんは、熱の籠った視線をマルセルに向けていると思うのは私の僻みのせいでしょうか。
「クランク様はアニカさんに一目惚れしたの? とても羨ましいわ。そんな風に思われて婚約するなんて」
「そうですね。僕が一目惚れして、アニカも僕を好きになってくれて。とても幸せだと思います。ね、アニカ」
「え、も、勿論よ。私はマルセルが私と婚約してくれたことが人生で一番の幸せよ」
何故か分かりませんが、私は今自己主張しなければいけない気がして、お兄様との事を相談されている場だというのにマルセルに甘えてしまったのです。
フィーアさんの発言に、今度はマルセルが齧りかけていたパンにむせてしまいました。
「フィ、フィーアさん。婚約解消って兄との仲に問題があったのかしら」
私は何も聞いていない、何も知らないという顔で引きつる笑顔を意識して尋ねるとフィーアさんは男性なら庇護欲を刺激されるのではないかと言わんばかりの表情でため息をつきました。
ちらり。
つい、マルセルの顔を見てしまうのは、自分の顔に自信がないからです。
マルセルに他の人から言わせたら過剰とされる愛情表現をされているにも関わらず、美人のフィーアさんのこんな表情を見せられたら不安になってしまうんです。
こんなのマルセルに失礼だと分かっているのに、私嫌な女です。
とてもとても自己嫌悪です。
「アニカ?」
「あの、予想出来ないお話で、なんだか私」
フィーアさんに見とれているんじゃないかと不安だったとは言えずに、そうマルセルに告げると優しい私の婚約者様はうっとりするような笑顔で私の頭を撫でてくれました。
「アニカは繊細だね」
そんな人間ではないことはマルセルなら熟知している筈なのに何故かそう言うと、コホンと咳をした後フィーアさんに笑顔を向けました。
「アニカのご両親、子爵からそんな話は聞いていませんが手紙はそういう内容だったのでしょうか」
「いいえ。そうではありませんわ。私が勝手にそう思ってしまっただけですの。ハンク様はそういうおつもりで私と婚約されているのかと考えていましたから」
マルセルが私の頭を撫でていた手を、私は縋るように両手で掴むとマルセルの横顔を凝視しました。
恐ろしくてフィーアさんの顔になんて視線を向けられません。
あの大雑把でがさつな兄は、婚約者のフィーアさんにどんな態度を取っていたのでしょう。
手紙を送っただけで婚約解消の件だと思うだなんて、兄はそんなに人でなしな行いをしていたのでしょうか。
「そんなにハンクさんは酷い婚約者でしたか?」
「酷い。そうではありませんが、私に興味がないのかと」
ツキンツキンと私の胃の辺りに刺激が走ります。
もし私がマルセルにそんな風な態度を取られ続けていたら、とても傷ついたでしょう。
私はずっとずっとマルセルが好きだったので、私を大切にしてくれているにも関わらず紳士の顔を崩さないマルセルと私の間には壁があるような気がして、ずっと不安だったのです。
つい最近ケーテちゃんの事があって、マルセルとやっと本当に婚約者として付き合える気がしてきましたが、それまでは早く結婚したい気持ちと結婚して上手くやっていけるかという不安が交差して、複雑だったのです。
私に常に気遣って、手紙や贈り物をくれていたマルセル相手でさえ不安に感じるのですからお兄様相手では不安以外ない気がします。
妹としてそれはとても申し訳ない気持ちです。
でも、お兄様には悪気がないのです。
困ったことに、何の裏もないのです。
「それはないと思いますよ。僕には自分の婚約者はとても美人すぎて気おくれすると言っていましたから」
「マルセル?」
「気おくれ? ハンク様がですか?」
「そうです。アニカのお兄さんはああ見えて誠実な方で、他のご令嬢との付き合いなどは皆無ですから、婚約者との付き合いは自分の友達にも相談したりはしていないんでしょう」
どうしたのでしょう、動揺する私にマルセルはスープのカップを渡してくれたりパンを食べやすい大きさに千切って手渡してくれたりしながら、フィーアさんにお兄様が婚約者に一途だという話をしきりにしています。
しかもフィーアさんと会話しながら、視線は常に私の方を向いているのです。
「一途。彼が私に?」
「ええ。僕とアニカは幼馴染ですし、初対面で僕がアニカに一目惚れしての婚約ですから参考にならないと言われていますから、彼が参考にしているのは周囲の友人達なのでしょうね」
マルセルの一目惚れからの婚約だなんて、実際は私がマルセルに一目惚れしていたのに。
どうしてマルセルは私が嬉しい事を言ってくれるのでしょう。
「そうなのかしら」
「ええ」
ほうっとため息をついているフィーアさんは、熱の籠った視線をマルセルに向けていると思うのは私の僻みのせいでしょうか。
「クランク様はアニカさんに一目惚れしたの? とても羨ましいわ。そんな風に思われて婚約するなんて」
「そうですね。僕が一目惚れして、アニカも僕を好きになってくれて。とても幸せだと思います。ね、アニカ」
「え、も、勿論よ。私はマルセルが私と婚約してくれたことが人生で一番の幸せよ」
何故か分かりませんが、私は今自己主張しなければいけない気がして、お兄様との事を相談されている場だというのにマルセルに甘えてしまったのです。
0
お気に入りに追加
1,036
あなたにおすすめの小説
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる