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フィーアさんのお悩みは
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「フィーアさんお待たせしてしまってごめんなさい」
マルセルの急な発言に赤くなった顔がなかなか冷めなくて、フィーアさんのところに行くのがすっかり遅くなった私達は見苦しくない程度の速足で彼女のところまで急ぎました。
私のメイドと共に中庭のガゼボで待っていたフィーアさんは私の声に立ち上がり、小さく手を振ってくれました。
顔の横辺りでひらひらと手を振るだけでも愛らしいのだから、美人は得だと思います。
さっきマルセルに甘い事を言われたばかりですが、あんなに儚げで可愛い人がマルセルに近づくと思うとつい気になってしまい、マルセルの横顔を盗み見てしまいました。
ああ、私って嫌な女です。
「アニカ、どうしたの」
「ううん。ちょっと緊張しているだけよ。お兄様の手紙の件だと思うとね」
「ああ、不安だよね」
私は変な顔をしていたのでしょうか、マルセルに尋ねられて慌ててお兄様のせいにしてしまいました。
でもお兄様の事が心配なのは確かなので、完全な嘘ではないところがまたなんとも微妙な感じがしてしまいます。
「マルセル、今週末はお家に伺っていいのよね」
「え、うん。僕も母もケーテも楽しみにしてるんだよ」
「うん私も楽しみにしてるのよ。よし、それを楽しみに私頑張るわ」
「よし、頑張ろう」
にこりと笑うマルセルに、私も笑ってからフィーアさんのところに辿り着くと、もう一度遅れたことを謝罪しました。
「アニカさん急にごめんなさい」
「いいのよ。フィーアさん食事しながらで私の方こそごめんなさい」
木製のテーブルにはメイドが用意した昼食が並べられています。
今日の昼食は急だったにも関わらず、フィーアさんの好きな鶏の香草焼きと野菜を薄切りパンに挟んだものと、オムレツを薄切りパンに挟んだものの二種類と、一口大に切られた野菜やチーズを短い串に刺した物と果物と外でも食べやすい様に大きめのカップに入れられた野菜スープです。
「いいえ、いつも食堂だから外で食べられるのは嬉しいわ。なんだか気持ちがいいわね」
「ふふ。私昔から外で食べるのが好きなのよ」
「ああ、アニカは好きだよね。よく一緒におやつを食べた」
メイドが差し出した濡らした布巾で手を拭いてから、オムレツを挟んだパンを食べ始めるマルセルは懐かしそうに話し始めるので私もついつい笑顔になりながら昔を思い出しました。
マルセルが領地に遊びに来る時、大人たちは屋敷の中でお茶会をして私とマルセルはバスケットにおやつを詰めて外に出かけるのが常でした。
クッキーにパイ。焼きたてのおやつを持って庭のテーブルや屋敷から少し離れた場所にある私のお気に入りの場所でマルセルと時間を過ごすのが大好きだったのです。
「アニカさん達は領地でもよく会っていたの?」
「ええ。家とマルセルの家の領地は隣同士、フィーアさんの家とは逆方向ですけれど。その関係もあって両親同士が仲が良くてよく行き来していたの。私達幼いころからの婚約者だったから」
婚約は私達の方がお兄様達よりも早いのです。
マルセルの家と縁続きになるのが政略的に良かったと言う点もありますが、何より初めて会った時から私達が仲良くなれたというのが大きいのかもしれません。
「そうなんですね」
「その、兄はあまりフィーアさんの家に伺ったりとか」
「殆どありませんわ。私、そんなに好かれていないのかと」
手紙の話をする前にフィーアさんからそんな事を言い出され、私は食べかけていたスープを吹き出しそうになりました。
こ、これはフィーアさんはお兄様との仲をなんとかしたいと思っていないと言うことなんでしょうか。
そ、それは困ります。どうしたらいいでしょう。
「あの、家の兄は妹の私から言うのもあれですが、ちょっと大雑把なところがあると思うのよ。それでちょっとフィーアさんとの付き合い方も軽く考えていたみたいというか」
私、もしかして言い方を失敗したでしょうか。
「その、今日のお話というのはもしかして兄のことなのかしら」
私達はお兄様がフィーアさんに手紙を送っていると知っていますが、フィーアさんは先程話しがあると言っていただけでお兄様からの手紙だとは話していなかったのだと、今更ながらに思い出した私は恐る恐るフィーアさんに尋ねました。
間違っても自分からお兄様の手紙の件かどうかなんて、そんなこと怖くて聞けません。
「ええ、妹のアニカさんにこんなこと相談するのもおかしな話だと分かってはいるのですけれど、こんな事他のお友達にはとても話せなくて」
食べる手を止めてフィーアさんは細い指先を頬に添え、ほうっと息を吐きました。
悔しいですが、美人がそんな仕草をしたら平凡な顔の私は見惚れる他ありません。
どうしてこの方はこんなに美人なのでしょう。
どうして私は平気でマルセルの前にフィーアさんを連れてきたりしたのでしょう。
「アニカのお兄さんが何か?」
「実はお手紙を頂いたの。アニカさんが王都の屋敷に暮らす様になって、婚約者との交流を間近で見る機会が増えてきて、いかに自分が婚約者として良くない態度をとってきたのか悟ったと。そういう内容のお手紙なの」
それは私達が苦心してお兄様に書かせた手紙に間違いありません。
それで、フィーアさんはそれを呼んでどう感じたのでしょうか。
私達は、フィーアさんの次の言葉をドキドキしながら待っていました。
マルセルの急な発言に赤くなった顔がなかなか冷めなくて、フィーアさんのところに行くのがすっかり遅くなった私達は見苦しくない程度の速足で彼女のところまで急ぎました。
私のメイドと共に中庭のガゼボで待っていたフィーアさんは私の声に立ち上がり、小さく手を振ってくれました。
顔の横辺りでひらひらと手を振るだけでも愛らしいのだから、美人は得だと思います。
さっきマルセルに甘い事を言われたばかりですが、あんなに儚げで可愛い人がマルセルに近づくと思うとつい気になってしまい、マルセルの横顔を盗み見てしまいました。
ああ、私って嫌な女です。
「アニカ、どうしたの」
「ううん。ちょっと緊張しているだけよ。お兄様の手紙の件だと思うとね」
「ああ、不安だよね」
私は変な顔をしていたのでしょうか、マルセルに尋ねられて慌ててお兄様のせいにしてしまいました。
でもお兄様の事が心配なのは確かなので、完全な嘘ではないところがまたなんとも微妙な感じがしてしまいます。
「マルセル、今週末はお家に伺っていいのよね」
「え、うん。僕も母もケーテも楽しみにしてるんだよ」
「うん私も楽しみにしてるのよ。よし、それを楽しみに私頑張るわ」
「よし、頑張ろう」
にこりと笑うマルセルに、私も笑ってからフィーアさんのところに辿り着くと、もう一度遅れたことを謝罪しました。
「アニカさん急にごめんなさい」
「いいのよ。フィーアさん食事しながらで私の方こそごめんなさい」
木製のテーブルにはメイドが用意した昼食が並べられています。
今日の昼食は急だったにも関わらず、フィーアさんの好きな鶏の香草焼きと野菜を薄切りパンに挟んだものと、オムレツを薄切りパンに挟んだものの二種類と、一口大に切られた野菜やチーズを短い串に刺した物と果物と外でも食べやすい様に大きめのカップに入れられた野菜スープです。
「いいえ、いつも食堂だから外で食べられるのは嬉しいわ。なんだか気持ちがいいわね」
「ふふ。私昔から外で食べるのが好きなのよ」
「ああ、アニカは好きだよね。よく一緒におやつを食べた」
メイドが差し出した濡らした布巾で手を拭いてから、オムレツを挟んだパンを食べ始めるマルセルは懐かしそうに話し始めるので私もついつい笑顔になりながら昔を思い出しました。
マルセルが領地に遊びに来る時、大人たちは屋敷の中でお茶会をして私とマルセルはバスケットにおやつを詰めて外に出かけるのが常でした。
クッキーにパイ。焼きたてのおやつを持って庭のテーブルや屋敷から少し離れた場所にある私のお気に入りの場所でマルセルと時間を過ごすのが大好きだったのです。
「アニカさん達は領地でもよく会っていたの?」
「ええ。家とマルセルの家の領地は隣同士、フィーアさんの家とは逆方向ですけれど。その関係もあって両親同士が仲が良くてよく行き来していたの。私達幼いころからの婚約者だったから」
婚約は私達の方がお兄様達よりも早いのです。
マルセルの家と縁続きになるのが政略的に良かったと言う点もありますが、何より初めて会った時から私達が仲良くなれたというのが大きいのかもしれません。
「そうなんですね」
「その、兄はあまりフィーアさんの家に伺ったりとか」
「殆どありませんわ。私、そんなに好かれていないのかと」
手紙の話をする前にフィーアさんからそんな事を言い出され、私は食べかけていたスープを吹き出しそうになりました。
こ、これはフィーアさんはお兄様との仲をなんとかしたいと思っていないと言うことなんでしょうか。
そ、それは困ります。どうしたらいいでしょう。
「あの、家の兄は妹の私から言うのもあれですが、ちょっと大雑把なところがあると思うのよ。それでちょっとフィーアさんとの付き合い方も軽く考えていたみたいというか」
私、もしかして言い方を失敗したでしょうか。
「その、今日のお話というのはもしかして兄のことなのかしら」
私達はお兄様がフィーアさんに手紙を送っていると知っていますが、フィーアさんは先程話しがあると言っていただけでお兄様からの手紙だとは話していなかったのだと、今更ながらに思い出した私は恐る恐るフィーアさんに尋ねました。
間違っても自分からお兄様の手紙の件かどうかなんて、そんなこと怖くて聞けません。
「ええ、妹のアニカさんにこんなこと相談するのもおかしな話だと分かってはいるのですけれど、こんな事他のお友達にはとても話せなくて」
食べる手を止めてフィーアさんは細い指先を頬に添え、ほうっと息を吐きました。
悔しいですが、美人がそんな仕草をしたら平凡な顔の私は見惚れる他ありません。
どうしてこの方はこんなに美人なのでしょう。
どうして私は平気でマルセルの前にフィーアさんを連れてきたりしたのでしょう。
「アニカのお兄さんが何か?」
「実はお手紙を頂いたの。アニカさんが王都の屋敷に暮らす様になって、婚約者との交流を間近で見る機会が増えてきて、いかに自分が婚約者として良くない態度をとってきたのか悟ったと。そういう内容のお手紙なの」
それは私達が苦心してお兄様に書かせた手紙に間違いありません。
それで、フィーアさんはそれを呼んでどう感じたのでしょうか。
私達は、フィーアさんの次の言葉をドキドキしながら待っていました。
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