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いい感じだったのに
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「アニカ嬉しいよ」
マルセルは私の髪を優しく撫でてくれます。
紳士そのものといったマルセルの、その行動は意外で、嬉しくて、でも物足りない行為でした。
「マルセル」
好きだとそう思うからこそ、物足りないと思うのでしょうか。
マルセルにもっと触れたいと思いながら、そっとメイドの方を見ると、小さく首を横に振られてしまいました。
「私、卒業してすぐの結婚に憧れていたの」
幼い頃から婚約している人達の多くは卒業して一年程で結婚します。
私は王都の屋敷から通っていますが、寮に暮らす人の中に、実家に帰らず卒業式の後寮からそのまま嫁いだという話を聞いたことがあり、それからずっと憧れていたのです。
その方は少し年上の婚約者に一日でも早く結婚したいと熱望されて、結婚式を卒業式の翌日にしたのだそうです。
話を聞いた頃、私はマルセルの気持ちが分からず悩んでいたので、そんな情熱的な求め方を夢でもいいからされてみたいと思ったのです。
「すぐ?」
「ええ、すぐ」
翌日なんて我が儘は言いません。
でも、そんな風に言われたら嬉しくて舞い上がってしまいそうです。
「それはあの」
「なあに?」
「卒業式終わって翌日とか?」
あれ? 私の心の声が聞こえたのでしょうか?
「あ、いや、あのね。流石に早すぎるかな」
「どうして分かったの? あの話をマルセルも知っていたの?」
「え、分かったって? まさか、いいの?」
ちょっと呆然とした風に私を見つめているマルセルは、何だか可愛くて私はつい微笑みながら頷きました。
私、マルセルを可愛いと思うことが最近増えた気がします。
「そうなったら嬉しいわ」
「本当に嬉しい?怒ったり呆れたりしないかな」
「するわけないわ」
私が頷くと、マルセルは心配そうに打ち明けてくれました。
「アニカのご両親の承諾は頂いているから、君に事後承諾になってしまうのだけど。実は卒業式の翌日に王都の東の神殿に婚姻の儀式をお願いしているんだ」
「まあっ」
「えっ」
私が声を上げるより先に、メイド達が声を上げました。
「あっ」
存在を忘れていたのでしょうか、マルセルの顔が真っ赤に染まり、私まで赤くなりました。
「あなた達、少し外して。ドアは開けていていいから」
「か、畏まりました。大変な失礼を致しまして申し訳ございません」
そそくさと出ていくメイド達は、ドアを半分開いて姿を消しました。
「ごめんなさいマルセル、家の使用人が」
「いや、いいんだよ。驚かせたんだろうと分かるから」
「本当に東の神殿にお願いしているの?」
「あ、その、うん」
「嬉しいわ。私東の神殿の女神様の像が大好きなの」
王都には中央神殿の他四つの大きな神殿があります。
それぞれ東、西、南、北の名前をつけて呼ばれていて祀られている神様も異なります。
中央神殿がこの国の主神とされていますがここで結婚式を上げられるのは、王族のみです。
貴族達は四つの神殿のどちらでも使えますが、人気があるのは東と南の神殿だそうです。
「嬉しいわ。マルセル」
「呆れられなくて僕も嬉しいよ」
私の両手に触れながら、ふにゃりと笑う忘れていたのでしょうかマルセルに吸い寄せられるように私は近づいてしまいました。
「アニカ」
「マルセル」
お互いの顔が近づいて、私はそっと目を閉じて。
そして。
「おーいっ、手紙を書き直してみたんだ読んでみてくれー!」
いきなり入ってきたお兄様に、邪魔をされたのです。
「え、あ、ええっ」
入り口で大声をあげるお兄様に驚き、駆け付けるメイド達の足音に私達は顔を見合わせて笑うしかありませんでした。
そして、お兄様に協力は二度としないと、心に誓ったのです。
マルセルは私の髪を優しく撫でてくれます。
紳士そのものといったマルセルの、その行動は意外で、嬉しくて、でも物足りない行為でした。
「マルセル」
好きだとそう思うからこそ、物足りないと思うのでしょうか。
マルセルにもっと触れたいと思いながら、そっとメイドの方を見ると、小さく首を横に振られてしまいました。
「私、卒業してすぐの結婚に憧れていたの」
幼い頃から婚約している人達の多くは卒業して一年程で結婚します。
私は王都の屋敷から通っていますが、寮に暮らす人の中に、実家に帰らず卒業式の後寮からそのまま嫁いだという話を聞いたことがあり、それからずっと憧れていたのです。
その方は少し年上の婚約者に一日でも早く結婚したいと熱望されて、結婚式を卒業式の翌日にしたのだそうです。
話を聞いた頃、私はマルセルの気持ちが分からず悩んでいたので、そんな情熱的な求め方を夢でもいいからされてみたいと思ったのです。
「すぐ?」
「ええ、すぐ」
翌日なんて我が儘は言いません。
でも、そんな風に言われたら嬉しくて舞い上がってしまいそうです。
「それはあの」
「なあに?」
「卒業式終わって翌日とか?」
あれ? 私の心の声が聞こえたのでしょうか?
「あ、いや、あのね。流石に早すぎるかな」
「どうして分かったの? あの話をマルセルも知っていたの?」
「え、分かったって? まさか、いいの?」
ちょっと呆然とした風に私を見つめているマルセルは、何だか可愛くて私はつい微笑みながら頷きました。
私、マルセルを可愛いと思うことが最近増えた気がします。
「そうなったら嬉しいわ」
「本当に嬉しい?怒ったり呆れたりしないかな」
「するわけないわ」
私が頷くと、マルセルは心配そうに打ち明けてくれました。
「アニカのご両親の承諾は頂いているから、君に事後承諾になってしまうのだけど。実は卒業式の翌日に王都の東の神殿に婚姻の儀式をお願いしているんだ」
「まあっ」
「えっ」
私が声を上げるより先に、メイド達が声を上げました。
「あっ」
存在を忘れていたのでしょうか、マルセルの顔が真っ赤に染まり、私まで赤くなりました。
「あなた達、少し外して。ドアは開けていていいから」
「か、畏まりました。大変な失礼を致しまして申し訳ございません」
そそくさと出ていくメイド達は、ドアを半分開いて姿を消しました。
「ごめんなさいマルセル、家の使用人が」
「いや、いいんだよ。驚かせたんだろうと分かるから」
「本当に東の神殿にお願いしているの?」
「あ、その、うん」
「嬉しいわ。私東の神殿の女神様の像が大好きなの」
王都には中央神殿の他四つの大きな神殿があります。
それぞれ東、西、南、北の名前をつけて呼ばれていて祀られている神様も異なります。
中央神殿がこの国の主神とされていますがここで結婚式を上げられるのは、王族のみです。
貴族達は四つの神殿のどちらでも使えますが、人気があるのは東と南の神殿だそうです。
「嬉しいわ。マルセル」
「呆れられなくて僕も嬉しいよ」
私の両手に触れながら、ふにゃりと笑う忘れていたのでしょうかマルセルに吸い寄せられるように私は近づいてしまいました。
「アニカ」
「マルセル」
お互いの顔が近づいて、私はそっと目を閉じて。
そして。
「おーいっ、手紙を書き直してみたんだ読んでみてくれー!」
いきなり入ってきたお兄様に、邪魔をされたのです。
「え、あ、ええっ」
入り口で大声をあげるお兄様に驚き、駆け付けるメイド達の足音に私達は顔を見合わせて笑うしかありませんでした。
そして、お兄様に協力は二度としないと、心に誓ったのです。
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