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いたたまれない
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「アニカ、急にクランク様とお昼を一緒になんて何かありましたの?」
マルセルにエスコートされながら教室に戻った私は、彼の姿が消えた途端友人のビビアナに問い詰められました。
「ごめんなさい、約束していたのに」
「いいのよ。私は皆といつも通りに食堂で頂いたもの」
「ありがとう。ねえ、ビビアナ入学してから半年経ったから明日からは一緒にお昼をとろうとマルセルから言われたのだけど、半年に意味があるのかしら」
マルセルは明日はお昼に迎えに来るよと約束して去っていきました。
日差しが強かったので明日は食堂でと言われましたが、日差しより人の目が多い食堂は少し憂鬱です。
今日は中庭の噴水近くにある東屋で頂きましたが、それでも私達を見ながら何か話している令嬢達が何人もいてとても居心地が悪かったのです。
「半年?まあ、さすがクランク様はお気遣いされているのね。アニカは大切にされているわね」
「どういうことかしら?」
「学校に私達が通うのは勉学より、社交の意味が大きいでしょう? だから入学して半年程度は婚約者同士で昼食を取らずに友人達との時間を大切にするのよ。兄がそう言っていたわ」
私の兄もこの学校の卒業生ですが、そんな約束事があるなんて教えてくれませんでした。
入学したらマルセルとお昼を一緒に出来るのかと楽しみにしながら、一度もお誘いがなかったのは私とは学校で過ごしたくないのかと落ち込んでいたのに馬鹿みたいです。マルセルは私の兄が卒業生だと知っていたので説明はいらないと思っていたのでしょうか。
「そうだったの。私知らなくて、マルセルがずっと一緒にお昼を食べたいと思っていたと言われて不思議だったのよ」
「ふふふ。ごちそうさま、お昼に頂いたケーキよりも口の中が甘くなってしまったわ」
「ビビアナ」
くすくすと笑っているビビアナを軽く睨むと、彼女は気にせずに拍手を始めました。
「なあに?」
「ふふ、このクラスで一番最初の婚約者とのお昼のお祝いの拍手よ」
「や、止めて。恥ずかしいわ」
ビビアナにつられたのか、何人かが笑いながら拍手をしています。
でも、にこやかにしている人だけではなく、こちらを見て睨んでいる人達がいます。
「ふふ、彼女達当てが外れて悔しいのよ」
「え」
「アニカ達、あまり学校で話をしないでしょ。そんなに仲が良くないのかと思われていたのよ。男爵家と裕福らしいけど商人の家だから、アニカ達が不仲の政略婚なら自分達にも機会があるかもってね」
ビビアナは伯爵家の令嬢ですが、噂話を集めるのが得意で色々教えてくれますが、マルセル狙いの令嬢が同じクラスにいるのはなるべくなら知りたくなかったです。
「そう、残念ね」
「アニカ?」
「私達は政略じゃないもの。幼馴染みでずっと仲が良かったのだから、婚約したのよ」
見栄を張って、彼女達に聞こえるように言ってしまいました。
本当は政略まではいかなくても、親同士が仲が良く領地が隣だったからというだけの婚約なのに。
こんなところで見栄を張っても仕方ないのに。
「それじゃあ、早く一緒にお昼をしたいって言われて当然よね」
「え、ええ」
素直に喜んでくれるビビアナに、私はひきつった笑顔のまま頷きながら胃がシクシクと痛むのを感じました。
こんな私の話をマルセルが聞いたらどう思うでしょう。
そんなんじゃないと、否定されてしまったら?
泣きそうな気持ちのまま、私は午後の授業を受けるしかありませんでした。
※※※おまけ※※※
「あれ、マルセルお前何食べてるんだ?」
剣術の授業の後、教室に戻った僕はアニカが差し入れしてくれたクッキーを幸せな気持ちで食べていた。
「ん?婚約者がくれた僕の大好物」
ケーテにも食べさせてねとアニカが言ったから、今は数枚のクッキーを机の上に広げたハンカチの上に乗せているだけ、本当なら全部一人占めしたいけれど、可愛い義妹にもとアニカがくれたものだから我慢して残りはしまってある。
「婚約者?ああ、昼の誘いに来ていた子か」
「そう。明日からは一緒にお昼するって約束したから、お前ら邪魔するなよ」
クッキーに伸びてくる手をバシバシ叩いて追い払いながら言えば、ピュウという軽薄な口笛が教室に響く。
「へえ、マルセルは婚約者と仲いいんだな。噂と違うんだ」
「噂?」
「お前が望んでない政略結婚の婚約者だって聞いてたけど?」
なんだその噂。
ついムッとしたのが顔に出たのか、悪友達の顔がひきつった。
「アニカとの婚約は、僕が望んで叶ったものだ。そんな失礼な噂は迷惑だ」
「え、そうなのか?」
「噂と違うな、政略じゃないのか?」
僕達の話に聞き耳を立てていたのか、教室のあちこちがざわついている。
なんなんだ、不愉快だな。
「政略でもなければ、不仲でもない。休日は大抵一緒に過ごしているし、こうやって僕の好物を作ってくれるし、婚約してから僕はアニカが刺繍してくれたハンカチしか使っていない」
今机に敷いてるハンカチだって、アニカお手製だ。
僕の婚約者は、優しいし可愛いし器用なんだぞ。
「そんなに仲いいのか」
「悪く見えたか?」
「いや、さっき二人が話してるのを見て噂と違うなって思っていた」
「正しい見解だな」
頷きながら、クッキーをまた一枚頬張る。
杏のジャムが挟んであるこれが一番好きなんだけど、やっぱり美味しい。
「ちぇ、幸せそうな顔してるよ」
「俺も婚約者が欲しいよ」
悪友達のぼやきを聞き流しながら、クッキーのお礼に何を贈ろうか考えていた。
マルセルにエスコートされながら教室に戻った私は、彼の姿が消えた途端友人のビビアナに問い詰められました。
「ごめんなさい、約束していたのに」
「いいのよ。私は皆といつも通りに食堂で頂いたもの」
「ありがとう。ねえ、ビビアナ入学してから半年経ったから明日からは一緒にお昼をとろうとマルセルから言われたのだけど、半年に意味があるのかしら」
マルセルは明日はお昼に迎えに来るよと約束して去っていきました。
日差しが強かったので明日は食堂でと言われましたが、日差しより人の目が多い食堂は少し憂鬱です。
今日は中庭の噴水近くにある東屋で頂きましたが、それでも私達を見ながら何か話している令嬢達が何人もいてとても居心地が悪かったのです。
「半年?まあ、さすがクランク様はお気遣いされているのね。アニカは大切にされているわね」
「どういうことかしら?」
「学校に私達が通うのは勉学より、社交の意味が大きいでしょう? だから入学して半年程度は婚約者同士で昼食を取らずに友人達との時間を大切にするのよ。兄がそう言っていたわ」
私の兄もこの学校の卒業生ですが、そんな約束事があるなんて教えてくれませんでした。
入学したらマルセルとお昼を一緒に出来るのかと楽しみにしながら、一度もお誘いがなかったのは私とは学校で過ごしたくないのかと落ち込んでいたのに馬鹿みたいです。マルセルは私の兄が卒業生だと知っていたので説明はいらないと思っていたのでしょうか。
「そうだったの。私知らなくて、マルセルがずっと一緒にお昼を食べたいと思っていたと言われて不思議だったのよ」
「ふふふ。ごちそうさま、お昼に頂いたケーキよりも口の中が甘くなってしまったわ」
「ビビアナ」
くすくすと笑っているビビアナを軽く睨むと、彼女は気にせずに拍手を始めました。
「なあに?」
「ふふ、このクラスで一番最初の婚約者とのお昼のお祝いの拍手よ」
「や、止めて。恥ずかしいわ」
ビビアナにつられたのか、何人かが笑いながら拍手をしています。
でも、にこやかにしている人だけではなく、こちらを見て睨んでいる人達がいます。
「ふふ、彼女達当てが外れて悔しいのよ」
「え」
「アニカ達、あまり学校で話をしないでしょ。そんなに仲が良くないのかと思われていたのよ。男爵家と裕福らしいけど商人の家だから、アニカ達が不仲の政略婚なら自分達にも機会があるかもってね」
ビビアナは伯爵家の令嬢ですが、噂話を集めるのが得意で色々教えてくれますが、マルセル狙いの令嬢が同じクラスにいるのはなるべくなら知りたくなかったです。
「そう、残念ね」
「アニカ?」
「私達は政略じゃないもの。幼馴染みでずっと仲が良かったのだから、婚約したのよ」
見栄を張って、彼女達に聞こえるように言ってしまいました。
本当は政略まではいかなくても、親同士が仲が良く領地が隣だったからというだけの婚約なのに。
こんなところで見栄を張っても仕方ないのに。
「それじゃあ、早く一緒にお昼をしたいって言われて当然よね」
「え、ええ」
素直に喜んでくれるビビアナに、私はひきつった笑顔のまま頷きながら胃がシクシクと痛むのを感じました。
こんな私の話をマルセルが聞いたらどう思うでしょう。
そんなんじゃないと、否定されてしまったら?
泣きそうな気持ちのまま、私は午後の授業を受けるしかありませんでした。
※※※おまけ※※※
「あれ、マルセルお前何食べてるんだ?」
剣術の授業の後、教室に戻った僕はアニカが差し入れしてくれたクッキーを幸せな気持ちで食べていた。
「ん?婚約者がくれた僕の大好物」
ケーテにも食べさせてねとアニカが言ったから、今は数枚のクッキーを机の上に広げたハンカチの上に乗せているだけ、本当なら全部一人占めしたいけれど、可愛い義妹にもとアニカがくれたものだから我慢して残りはしまってある。
「婚約者?ああ、昼の誘いに来ていた子か」
「そう。明日からは一緒にお昼するって約束したから、お前ら邪魔するなよ」
クッキーに伸びてくる手をバシバシ叩いて追い払いながら言えば、ピュウという軽薄な口笛が教室に響く。
「へえ、マルセルは婚約者と仲いいんだな。噂と違うんだ」
「噂?」
「お前が望んでない政略結婚の婚約者だって聞いてたけど?」
なんだその噂。
ついムッとしたのが顔に出たのか、悪友達の顔がひきつった。
「アニカとの婚約は、僕が望んで叶ったものだ。そんな失礼な噂は迷惑だ」
「え、そうなのか?」
「噂と違うな、政略じゃないのか?」
僕達の話に聞き耳を立てていたのか、教室のあちこちがざわついている。
なんなんだ、不愉快だな。
「政略でもなければ、不仲でもない。休日は大抵一緒に過ごしているし、こうやって僕の好物を作ってくれるし、婚約してから僕はアニカが刺繍してくれたハンカチしか使っていない」
今机に敷いてるハンカチだって、アニカお手製だ。
僕の婚約者は、優しいし可愛いし器用なんだぞ。
「そんなに仲いいのか」
「悪く見えたか?」
「いや、さっき二人が話してるのを見て噂と違うなって思っていた」
「正しい見解だな」
頷きながら、クッキーをまた一枚頬張る。
杏のジャムが挟んであるこれが一番好きなんだけど、やっぱり美味しい。
「ちぇ、幸せそうな顔してるよ」
「俺も婚約者が欲しいよ」
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