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侯爵と対面3

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「申し訳ございません、殿下。少し取り乱してしまいました」

 笑っているのに、笑っていない。
 そんな印象を受ける笑顔を浮かべ、侯爵夫人はそう言うと真偽の珠に両手で触れる。

「ティタは私が信頼する侍女です。彼女が私に嘘をついていたと分かり動揺してしまいました」
「そうか、長く仕えていた侍女の嘘となれば動揺も当然だろう」

 話しながら、リリーナ先生の顔を横目で見る。
 眉間に皺を寄せた険しい表情はそのままで、公の場で感情を表に出さない高位貴族の夫人とは思えないが、リリーナ先生ならそれも意図的に感じる。

「では、質問を続ける。これから聞く事はすべて、はい。と答えて欲しい。例え本当は、いいえという答えだったとしても、すべてだ。いいか」
「畏まりました」

 従者は真偽の珠を使い始めてからずっとメモを取っている。
 だから、これからの質問の回答も同じ様に記録を取ってくれるだろうと信じて質問の内容を考える。
 前世で見た推理物とか刑事物のドラマで、こういうの見た事がある。
 ポリなんとか検査。あれって、全部いいえで回答するんだったかな。はいだったかな。覚えてないけれど。あれを真似るつもりだった。

「ティタは、信頼出来る侍女である」
「はい」
「ティタはゴレロフ侯爵家に嫁ぐ際に実家から連れてきた侍女だ」
「はい」
「ティタの他にも一緒に連れてきた侍女がいる」
「はい」
「その侍女も信頼が出来る」
「はい」

 ここまでは真偽の珠は無反応。つまり、嘘ではないということだ。

「エバーナには常に優しくしていた」
「はい」

 チカチカと珠が点滅する。

「ティタはエバーナを虐待をしていた」
「はい」

 これも点滅している。

「エバーナは侯爵夫人に我が儘を言う」
「はい」

 チカチカ、また点滅している。

「フォルードは剣の鍛錬を熱心に行なっている」
「はい」

 点滅が止まる。

「侯爵夫人、あなたは庭のガゼボが気に入っている」
「はい」
「庭に植えている花々は、侯爵夫人が選び庭師に育てさせたもの」
「はい」
「ガゼボから庭を眺めるのが好きだ」
「はい」
「お気に入りのガゼボをエバーナが使うのは気に入らない」
「はい」

 あれ、ここで点滅? さっきまでは庭の質問は無反応だったのに。

「つる薔薇のアーチが好きだ」
「はい」

 あれ、また点滅。

「薔薇のアーチを本当は撤去したい」
「はい」

 今度は点滅が止まる。そして、戸惑った様な侯爵夫人の顔。

「エバーナはドレスを自分で選んでいたと思っていた」
「はい」

 点滅は止まったまま。

「ティタはエバーナを陥れようと、私からだと嘘をついてドレスを渡した」
「はい」
「それは侯爵夫人の命令だった」
「はい」

 また、点滅が始める。

「エバーナに、侯爵令嬢としては格が落ちるドレスを侯爵夫人が用意した」
「はい」

 また、点滅。

「エバーナの食事に虫を入れたのは、侯爵夫人の命令だった」
「はい」

 ここでも点滅。

「エバーナの食事に虫を入れたのは、ティタの命令だと思う」
「はい」

 点滅。しかも激しく光りだす。

「食事に今までも虫が入っていた時がある」
「はい」

 点滅が止まる。

「エバーナは勉強を怠けるとエバーナを教える先生から報告を受けている」
「はい」

 あれ、点滅してる。じゃあ、さっき言っていたのは何なんだ。あ、そうか。

「エバーナが勉強を怠けると、ティタから報告を受けている」
「はい」

 点滅が止まる。そういう事か。

「エバーナが我が儘だとティタから報告を受けている」
「はい」
「ティタからの報告はすべて正しいと信じている」
「はい」
「躾けには鞭が必要だと思う」
「はい」

 ここまでは、また無反応。

「不義の子は公には出していけない」
「はい」

 あれ、点滅している。でも弱々しい。

「エバーナを憎んでいる」
「はい」

 弱々しい点滅が続く。

「エバーナの母親を憎んでいる」
「はい」

 ここも弱々しい点滅。憎んでは居ない? いや、憎んでいるとは言えないが好きではない?

「エバーナと私の婚約は良いことだと思う」
「はい」

 ここは無反応。

「エバーナに幸せになって欲しいと思う」
「はい」

 ここも無反応? ちょっと意外だ。

「フォルードも早く婚約させたい」
「はい」
「フォルードの相手は自分が選びたい」
「はい」
「フォルードが大切だ」
「はい」
「エバーナが大切だ」
「はい」

 ここは、また弱々しい点滅。

「エバーナが憎い」
「はい」

 ここは激しい点滅。憎んではいないのか。

「エバーナを虐待していた」
「はい」

 ここも点滅。

「エバーナにしていたのは、正しい躾だ」
「はい」

 点滅が止まる。

「同じ躾を、侯爵夫人は子供の頃に受けていた」
「はい」

 無反応。

「だから、同じ様にエバーナを躾けている」
「はい」
「それは正しいと信じている」
「はい」

 無反応が続く。
 さっきの侯爵夫人の言葉からまさかと思ったが、やっぱり夫人自身が子供の頃に虐待まがいの躾を受けているのか。

「侯爵夫人が子供の頃、躾をしていたのはティタだった」
「はい」
「ティタは、侯爵夫人が躾け通りの行動をすると褒めてくれた」
「はい」
「だから、エバーナも同じ様に躾けるべきだと信じている」
「はい」
「そう、ティタが言った」
「はい」
「さっきの小瓶は、常用している」
「はい」
「あれは、ティタが用意している」
「はい」
「小瓶の中身がなんなのか知らない」
「はい」
「それでもティタが用意したものだから、信じて使っている」
「はい」
「ティタの言葉は絶対だ」
「はい」
「エバーナの母親が亡くなったのは、自分に原因がある」
「はい」

 ここで、また点滅が始まった。

「エバーナの母親が亡くなって嬉しい」
「はい」

 激しく点滅している。亡くなったのは嬉しくない?

「エバーナは大切な子供だ」
「はい」
「エバーナを愛している」
「はい」

 かすかな点滅。

「エバーナを憎んでいる」
「はい」

 さっきと同じ、ここでは点滅。

「エバーナを愛したい」
「はい」

 点滅が止まる。

「質問は以上だ。リリーナ先生、何か聞きたいことはありますか」
「いいえ」
「侯爵」
「本当に、サフィニアの死に関わっていないのか」
「はい」

 点滅しない。つまり、侯爵夫人はエバーナの母親を害してはいない。
 ちょっと疑わしいなと思って、質問してみたんだけど。
 違っていたのか。

「では、どうして」

 侯爵は考え込む様に、黙ってしまった。
「殿下」
「あの二人も同じく調べたい。それとも調べた?」
「はい。すでに真偽の珠を使い調べております。これが記録です」

 さすが、従者は優秀だった。

「これは、ちょっと支離滅裂だな」

 はい。いいえ。どちらを言わせるのがいいのか分らないけれど、ドラマでやっていた事は間違いでは無かったんだなと、従者が差し出した記録を見て感じた。
 ティタの回答は内容がおかしすぎたのだ。

「この質問を、先程私がした様に、はいのみの回答で確認して」
「畏まりました」
「侯爵、あなたは従者と共にあの二人の確認を行なって」
「はい。畏まりました」
「侯爵夫人、あなたに聞きたい事は先程の質問で全部だ。二人の処罰については後日連絡する。もう部屋に戻っていい。ご苦労様」
「畏まりました。失礼致します」

 立ち上がり、完璧な淑女の礼をして侯爵夫人は部屋を出て行った。
 ふう。とため息をついたのは俺だったのか侯爵だったのか。
 やらなければいけない事は、まだまだあった。

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