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拓サイド
おまけ2 浮かれ気分で過ごす夜 後編
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「あ、でも……いいの?」
喜びケーキを眺めながら歩き始めた蛍は、ぴたりと足を止め俺を見上げる。
「いいって何が?」
「拓甘い匂い、本当に大丈夫なのか?」
俺が全く覚えていない高校の頃に言ったらしい言葉にずっと囚われていた蛍は、俺が覚えていないと言っても不安なのかもしれない。
『甘いもの苦手、甘ったるい匂いがちょっとなぁ』
確かに甘いものは苦手と言うか嫌いだと言えるけど、それを人にも強要しようとは思わない。
それは今も過去も同じだっていうのに、どうして俺はその時そんな事言ったんだろう。
そのせいで蛍はずっと俺の前で甘いものを口にしなかったんだ、今ケーキを前にこんなに喜んでいるというのに。
「大丈夫。俺に食えって言わないならね。でも俺ちゃんと大人だから、苦手と言いながら会社でお土産に配られたクッキーとか食べる時あるよ」
「え、拓がクッキー食べるの? 想像出来ない」
それは俺も思う。
だけど、いつの間にか机の上に置いてあったりすると食わないわけにはいかないんだよな。
一番困るのが、手作りなんですと配られるカップケーキとかだ。
仲が良ければ甘いもの苦手なんでと断れるけれど、そうじゃない人が配る手作りケーキは受け取るしかないし、食べるのを目の前で見てられるのは拷問の一言だ。
お茶で流し込むわけにもいかず、顔が引きつらない様に何とか完食したあげく「お口に合わなかったです?」とか泣きそうな顔で聞かれて「実は甘いもの苦手で」と正直に話すと何故か俺が悪者になる。
ものすごく理不尽だと思う。
最近は俺の甘いもの苦手が浸透しつつあるから、お気持ちだけでと逃げられているけれど最初は本当に辛かった。
すべての人間がケーキの差し入れを喜ぶと思わないで欲しい。
「俺も想像できないし、正直な話を言えば貰って食わないと悪者扱いはキツイものがあるけどさ、空気読んで食えって感じだから困るんだよなあ。でも甘いものって嗜好品枠なんだから、好んで食べる人間に食べられた方がお菓子だって嬉しいって思うんじゃないかと思うんだよ」
最近土産関係は、○○さんからお土産です。の付箋が貼られて箱がテーブルとかに置いてある様になったから食べなくて済む様になった。
とてもありがたい。
「……俺が甘いもの好きなの知ったから買って来てくれたんだ。拓ありがと、凄い嬉しい」
俺の苦行の告白に何か思う所があったのか、蛍はじぃっと俺を見つめた後、へへへと笑い嬉しいと言ってくれた。
そんなの、蛍が喜んでくれるだけで俺の方が嬉しいってば。
「蛍……」
今抱きしめたら駄目かな、気持ち通じ合ったし恋人だし。
俺の気持ちは滅茶苦茶盛り上がってるというのに、空気が読めない俺の腹はぐううっと鳴った。高らかに鳴りやがったんだ。
「すぐご飯にするね。トースト何枚食べる?」
「二枚かな」
「おっけぃっ!」
笑いながら蛍はキッチンに早足で向かい、俺は自室に入りため息を吐く。
いきなり色っぽい展開なんて、そんな贅沢言わないからせめて抱きしめたいし、くっつきたいんだが蛍にはその気配がまるでないんだよな。
気持ちが通じてすぐにエロイ展開なんて、そんなの漫画とか映画の世界だけのものなのか?
「落ち着け俺、相手は見た目十代の蛍だ。高校時代だって皆のお子ちゃま枠だったんだぞ」
蛍って男同士だとどんな事するか分かってんだろうかと、遠い目になる。
ゴムとローションをこっそり昨日買ってきた俺のこの気持ちの高鳴りは、どうしたらいいんだろう。
「って、俺がする方でいいんだよな? 蛍どう思ってるんだ?」
一番大事な事を俺はたった今気が付いた。
当たり前に俺がする方で蛍は受け身って考えてたけれど、実のところ蛍がどう考えているか分からないし、こんなの気軽に聞けるわけがない。
「拓ーーっ。パンもうすぐ焼けるよ!」
いつの間にか俺は考え込んでいたらしく、時間が過ぎていた。
慌ててスーツを脱ぎハンガーにかけ、ワイシャツは脱いでクリーニング用の袋に軽く畳んで入れると部屋着にしているスウェットに着替える。
「ああ、いい匂い」
テーブルの上には、熱々のグラタンとサラダとスープにトーストが並べられていた。
トーストは俺の好みの、先にバターをたっぷり塗って焼いた、蛍曰くのじゅわじゅわトーストだ。
これはトースターを温めながら食パンを入れて、ちょっと食パンの表面が乾いた程度で一旦取り出しバターをたっぷりと塗ってトースターに戻して焼くらしい。
俺の家は焼いてからバターを塗っていたから、初めてこの焼き方を食べた時一口ごとに口の中に広がるじゅわぁっていうバターの風味に感動したものだ。
俺が気に入ったのを知ってから、蛍はいつもこの方法で焼いてくれるんだから優しいよな。
「トースト、バター塗って焼いてくれた奴だ。俺これメッチャ好き、ありがと」
「へへ、こんなこと位でお礼言われると照れるよ。サラダにドレッシングかける? それともマヨネーズ?」
「ドレッシングかな」
俺が返事をすると、蛍は手作りドレッシングを俺の皿と自分の皿にかけてくれる。
これは俺が好きなごま油の奴だ。
「グラタン嬉しい。仕事の後にこんなに凝ったもの作ってくれるって、蛍って神?」
「ほめ過ぎだって! ジャガイモはレンチンだし、ホワイトソースもレンチンで作った簡単な奴なんだから、全然凝ってないんだってば」
俺が褒めると蛍は焦った様に両手を顔の前でひらひらと振り、「グラタン冷めちゃうから早く食べよう」と食べ始め、熱々グラタンに口の中火傷しかけたのか涙目になっていた。
なんだそれ、可愛すぎだろ。蛍は俺をどうしたいんだ。
可愛すぎる蛍に、恋人って甘いとかわけわかんない思考に陥った俺は、食後ケーキを食べ始めた蛍が苺を食べさせてくれて、その嬉しさに撃沈した。
ケーキ一個でそんなに幸せそうな顔とか、もう本当に俺の理性を試さないで欲しい。
だけど、蛍、いい雰囲気になりそうになると話題変えようとするんだよなあ。
これはちょっと様子見した方が良い気がする。
頑張れ俺、今迄待ったんだから、焦るな落ち着け俺。
自分自身に言い聞かせながら、甘いクリームを口の端につけてても気がついてない蛍にキスしたくてたまらなかったんだ。
喜びケーキを眺めながら歩き始めた蛍は、ぴたりと足を止め俺を見上げる。
「いいって何が?」
「拓甘い匂い、本当に大丈夫なのか?」
俺が全く覚えていない高校の頃に言ったらしい言葉にずっと囚われていた蛍は、俺が覚えていないと言っても不安なのかもしれない。
『甘いもの苦手、甘ったるい匂いがちょっとなぁ』
確かに甘いものは苦手と言うか嫌いだと言えるけど、それを人にも強要しようとは思わない。
それは今も過去も同じだっていうのに、どうして俺はその時そんな事言ったんだろう。
そのせいで蛍はずっと俺の前で甘いものを口にしなかったんだ、今ケーキを前にこんなに喜んでいるというのに。
「大丈夫。俺に食えって言わないならね。でも俺ちゃんと大人だから、苦手と言いながら会社でお土産に配られたクッキーとか食べる時あるよ」
「え、拓がクッキー食べるの? 想像出来ない」
それは俺も思う。
だけど、いつの間にか机の上に置いてあったりすると食わないわけにはいかないんだよな。
一番困るのが、手作りなんですと配られるカップケーキとかだ。
仲が良ければ甘いもの苦手なんでと断れるけれど、そうじゃない人が配る手作りケーキは受け取るしかないし、食べるのを目の前で見てられるのは拷問の一言だ。
お茶で流し込むわけにもいかず、顔が引きつらない様に何とか完食したあげく「お口に合わなかったです?」とか泣きそうな顔で聞かれて「実は甘いもの苦手で」と正直に話すと何故か俺が悪者になる。
ものすごく理不尽だと思う。
最近は俺の甘いもの苦手が浸透しつつあるから、お気持ちだけでと逃げられているけれど最初は本当に辛かった。
すべての人間がケーキの差し入れを喜ぶと思わないで欲しい。
「俺も想像できないし、正直な話を言えば貰って食わないと悪者扱いはキツイものがあるけどさ、空気読んで食えって感じだから困るんだよなあ。でも甘いものって嗜好品枠なんだから、好んで食べる人間に食べられた方がお菓子だって嬉しいって思うんじゃないかと思うんだよ」
最近土産関係は、○○さんからお土産です。の付箋が貼られて箱がテーブルとかに置いてある様になったから食べなくて済む様になった。
とてもありがたい。
「……俺が甘いもの好きなの知ったから買って来てくれたんだ。拓ありがと、凄い嬉しい」
俺の苦行の告白に何か思う所があったのか、蛍はじぃっと俺を見つめた後、へへへと笑い嬉しいと言ってくれた。
そんなの、蛍が喜んでくれるだけで俺の方が嬉しいってば。
「蛍……」
今抱きしめたら駄目かな、気持ち通じ合ったし恋人だし。
俺の気持ちは滅茶苦茶盛り上がってるというのに、空気が読めない俺の腹はぐううっと鳴った。高らかに鳴りやがったんだ。
「すぐご飯にするね。トースト何枚食べる?」
「二枚かな」
「おっけぃっ!」
笑いながら蛍はキッチンに早足で向かい、俺は自室に入りため息を吐く。
いきなり色っぽい展開なんて、そんな贅沢言わないからせめて抱きしめたいし、くっつきたいんだが蛍にはその気配がまるでないんだよな。
気持ちが通じてすぐにエロイ展開なんて、そんなの漫画とか映画の世界だけのものなのか?
「落ち着け俺、相手は見た目十代の蛍だ。高校時代だって皆のお子ちゃま枠だったんだぞ」
蛍って男同士だとどんな事するか分かってんだろうかと、遠い目になる。
ゴムとローションをこっそり昨日買ってきた俺のこの気持ちの高鳴りは、どうしたらいいんだろう。
「って、俺がする方でいいんだよな? 蛍どう思ってるんだ?」
一番大事な事を俺はたった今気が付いた。
当たり前に俺がする方で蛍は受け身って考えてたけれど、実のところ蛍がどう考えているか分からないし、こんなの気軽に聞けるわけがない。
「拓ーーっ。パンもうすぐ焼けるよ!」
いつの間にか俺は考え込んでいたらしく、時間が過ぎていた。
慌ててスーツを脱ぎハンガーにかけ、ワイシャツは脱いでクリーニング用の袋に軽く畳んで入れると部屋着にしているスウェットに着替える。
「ああ、いい匂い」
テーブルの上には、熱々のグラタンとサラダとスープにトーストが並べられていた。
トーストは俺の好みの、先にバターをたっぷり塗って焼いた、蛍曰くのじゅわじゅわトーストだ。
これはトースターを温めながら食パンを入れて、ちょっと食パンの表面が乾いた程度で一旦取り出しバターをたっぷりと塗ってトースターに戻して焼くらしい。
俺の家は焼いてからバターを塗っていたから、初めてこの焼き方を食べた時一口ごとに口の中に広がるじゅわぁっていうバターの風味に感動したものだ。
俺が気に入ったのを知ってから、蛍はいつもこの方法で焼いてくれるんだから優しいよな。
「トースト、バター塗って焼いてくれた奴だ。俺これメッチャ好き、ありがと」
「へへ、こんなこと位でお礼言われると照れるよ。サラダにドレッシングかける? それともマヨネーズ?」
「ドレッシングかな」
俺が返事をすると、蛍は手作りドレッシングを俺の皿と自分の皿にかけてくれる。
これは俺が好きなごま油の奴だ。
「グラタン嬉しい。仕事の後にこんなに凝ったもの作ってくれるって、蛍って神?」
「ほめ過ぎだって! ジャガイモはレンチンだし、ホワイトソースもレンチンで作った簡単な奴なんだから、全然凝ってないんだってば」
俺が褒めると蛍は焦った様に両手を顔の前でひらひらと振り、「グラタン冷めちゃうから早く食べよう」と食べ始め、熱々グラタンに口の中火傷しかけたのか涙目になっていた。
なんだそれ、可愛すぎだろ。蛍は俺をどうしたいんだ。
可愛すぎる蛍に、恋人って甘いとかわけわかんない思考に陥った俺は、食後ケーキを食べ始めた蛍が苺を食べさせてくれて、その嬉しさに撃沈した。
ケーキ一個でそんなに幸せそうな顔とか、もう本当に俺の理性を試さないで欲しい。
だけど、蛍、いい雰囲気になりそうになると話題変えようとするんだよなあ。
これはちょっと様子見した方が良い気がする。
頑張れ俺、今迄待ったんだから、焦るな落ち着け俺。
自分自身に言い聞かせながら、甘いクリームを口の端につけてても気がついてない蛍にキスしたくてたまらなかったんだ。
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