7 / 16
拓サイド
2
しおりを挟む
「蛍、先に食えよ」
食にあんまり関心が無い蛍が、自分が食べたいと思って作るのは珍しい。
蛍は大抵俺が好きなもの、俺が食べたいものを作ってくれるけれど、自分食べたいものって殆ど言わないし作らない。
食べたい欲求が薄いというか、食が細い蛍のご飯茶碗は俺のよりだいぶ小さい、初めてそれを見た時は子供用の茶碗かと驚いたほどだ。
俺の家族は皆食欲旺盛で、子育てが忙しい姉は俺よりも食うかもしれない。
そう言えば、姉が蛍のお姉さんとママ友で、以前蛍のお姉さんは具合悪いのかと心配になるほど食べないのだと言っていた覚えがある。
ということは、蛍の食の細さは家系的なものなのかもしれない。
「ありがとう、ちょっとだけもらう」
自分が作ったものなのにありがとうと言いながら蛍は、器に添えられたカレースプーンで一杯分コーンを掬い取ると、蛍は自分のご飯茶碗の上にそれをのせる。
ちまちまとコーンを一粒ずつ食べている様子は、何て言うか小動物のようだ。
なぜか苛ついていた気持ちが、蛍が食べてる顔見てるだけで穏やかになっていく。
蛍の身長って百六十五位だっけ? 無茶苦茶小さいってわけじゃないのに、小さく見えるのは細いせいか?
いや違うな、そもそも顔が小動物っぽいんだ。
もうとっくに成人してるってのに童顔過ぎる蛍に、上目遣いに俺の方を見られる度にどうしてやろうかという気持ちになるから困る。
今日は会社に出たからなのか、肩まで伸びた髪を後ろに一つに束ねているのが犬のしっぽみたいだし、少し癖のあるふわふわな前髪が長毛の猫みたいでぐしゃぐしゃっと撫でまわしたい衝動にかられる。
「もういいのか?」
「うん、十分。バターコーンって美味いよね」
そう言いながらコーンが盛られた皿を俺の方へと押して来るから、ありがたくスプーンに大盛りに取って食べていく。
コーンもウィンナーも両方一度に口に入れて、噛み砕くとすぐさま飯をかきこむ。一口はさっき蛍が取った分よりも多分多い。
醤油のしょっぱさとバターってなんでこんなに合うんだろう、そこに飯が加わると無限に食えそうな気になる。
味付けが俺の好みに合い過ぎて食い過ぎる。
「拓は美味しそうに食べてくれるよね」
スープと飯以外殆ど食べてない気がするんだが、もう食べる気はないのか蛍は頬杖をついて俺を見ている。
最近よく部屋着として着ているオーバーサイズの白いパーカーは、袖口が蛍の腕の太さじゃゆるすぎるのか、頬杖えついてると肘あたりまで袖口が下がっている。
おまけに下は膝丈のカーゴパンツっていうのが、目のやり場に困りすぎる。
何の意図もなく、着やすいから着てるだけだって分かるんだか、いい加減に色々自覚して欲しいと切に願う。
「蛍が作る飯が美味いから、当然だろ」
気が付けば殆ど一人で食べ終えてしまっていた。
蛍の料理が美味すぎて太りそうなのが怖くて真面目にジムに通っているけど、これは週明け本気でジムで自分を追い込まないとマズイかもしれない。
高校の頃はいくら食べても平気だったけれど、蛍と暮らす様になって腹の辺りが気になって来たから、ジムに行くと死ぬ気で走り込みしてマシンも頑張ってる。
筋肉をつけたいわけじゃなく、蛍が「拓は細マッチョで良いよなぁ。俺なんてただのガリだけど」と羨望の目で見てくれるから、その視線に応えたいし絶対に余計な肉を身にまとうわけにはいかない。
「仕事だってあるのに、いつも作って貰って申し訳ないけどさ。蛍の作るの全部美味いんだもんな」
自宅勤務の蛍に家事の負荷が掛かり過ぎてる自覚はあるから、食事の後片付けと掃除とゴミ捨ては俺の仕事で、洗濯は各自やっている。食料品や日用品の買い出しは二人一緒だ。
給料はそれなりに良い会社に勤めてるから維持出来るだろうと、蛍とドライブ行きたい一心で車を買った。
買い出しを近所じゃなく遠出しようと誘うのは、出掛けたついでだと言い訳してデートに誘っているわけだが、多分蛍は俺の意図になんて気が付いちゃいない。
「俺の料理なんて、適当だよ。母さんと姉ちゃんにちょっと教えて貰った程度なんだから」
「でも、俺の胃袋、がっつり蛍に掴まれてるけど」
一緒に住み始めて三年、そろそろ友達から進みたい。
蛍が俺を好きっていうのは、間違っていないと思う。
はっきり言葉にされたことはないけれど、大学の頃何となくそう感じ始めた。
「そういうの……」
困った様な顔で、蛍は両手で自分の顔を覆ってしまう。
言い方を間違えたんだろうか、でも、今言わないと駄目な気がする。
「……拓、なんでそんなこと言うんだよ」
俺は何か間違えたんだろうか、顔を上げた蛍は今にも泣きそうな顔してたんだ。
食にあんまり関心が無い蛍が、自分が食べたいと思って作るのは珍しい。
蛍は大抵俺が好きなもの、俺が食べたいものを作ってくれるけれど、自分食べたいものって殆ど言わないし作らない。
食べたい欲求が薄いというか、食が細い蛍のご飯茶碗は俺のよりだいぶ小さい、初めてそれを見た時は子供用の茶碗かと驚いたほどだ。
俺の家族は皆食欲旺盛で、子育てが忙しい姉は俺よりも食うかもしれない。
そう言えば、姉が蛍のお姉さんとママ友で、以前蛍のお姉さんは具合悪いのかと心配になるほど食べないのだと言っていた覚えがある。
ということは、蛍の食の細さは家系的なものなのかもしれない。
「ありがとう、ちょっとだけもらう」
自分が作ったものなのにありがとうと言いながら蛍は、器に添えられたカレースプーンで一杯分コーンを掬い取ると、蛍は自分のご飯茶碗の上にそれをのせる。
ちまちまとコーンを一粒ずつ食べている様子は、何て言うか小動物のようだ。
なぜか苛ついていた気持ちが、蛍が食べてる顔見てるだけで穏やかになっていく。
蛍の身長って百六十五位だっけ? 無茶苦茶小さいってわけじゃないのに、小さく見えるのは細いせいか?
いや違うな、そもそも顔が小動物っぽいんだ。
もうとっくに成人してるってのに童顔過ぎる蛍に、上目遣いに俺の方を見られる度にどうしてやろうかという気持ちになるから困る。
今日は会社に出たからなのか、肩まで伸びた髪を後ろに一つに束ねているのが犬のしっぽみたいだし、少し癖のあるふわふわな前髪が長毛の猫みたいでぐしゃぐしゃっと撫でまわしたい衝動にかられる。
「もういいのか?」
「うん、十分。バターコーンって美味いよね」
そう言いながらコーンが盛られた皿を俺の方へと押して来るから、ありがたくスプーンに大盛りに取って食べていく。
コーンもウィンナーも両方一度に口に入れて、噛み砕くとすぐさま飯をかきこむ。一口はさっき蛍が取った分よりも多分多い。
醤油のしょっぱさとバターってなんでこんなに合うんだろう、そこに飯が加わると無限に食えそうな気になる。
味付けが俺の好みに合い過ぎて食い過ぎる。
「拓は美味しそうに食べてくれるよね」
スープと飯以外殆ど食べてない気がするんだが、もう食べる気はないのか蛍は頬杖をついて俺を見ている。
最近よく部屋着として着ているオーバーサイズの白いパーカーは、袖口が蛍の腕の太さじゃゆるすぎるのか、頬杖えついてると肘あたりまで袖口が下がっている。
おまけに下は膝丈のカーゴパンツっていうのが、目のやり場に困りすぎる。
何の意図もなく、着やすいから着てるだけだって分かるんだか、いい加減に色々自覚して欲しいと切に願う。
「蛍が作る飯が美味いから、当然だろ」
気が付けば殆ど一人で食べ終えてしまっていた。
蛍の料理が美味すぎて太りそうなのが怖くて真面目にジムに通っているけど、これは週明け本気でジムで自分を追い込まないとマズイかもしれない。
高校の頃はいくら食べても平気だったけれど、蛍と暮らす様になって腹の辺りが気になって来たから、ジムに行くと死ぬ気で走り込みしてマシンも頑張ってる。
筋肉をつけたいわけじゃなく、蛍が「拓は細マッチョで良いよなぁ。俺なんてただのガリだけど」と羨望の目で見てくれるから、その視線に応えたいし絶対に余計な肉を身にまとうわけにはいかない。
「仕事だってあるのに、いつも作って貰って申し訳ないけどさ。蛍の作るの全部美味いんだもんな」
自宅勤務の蛍に家事の負荷が掛かり過ぎてる自覚はあるから、食事の後片付けと掃除とゴミ捨ては俺の仕事で、洗濯は各自やっている。食料品や日用品の買い出しは二人一緒だ。
給料はそれなりに良い会社に勤めてるから維持出来るだろうと、蛍とドライブ行きたい一心で車を買った。
買い出しを近所じゃなく遠出しようと誘うのは、出掛けたついでだと言い訳してデートに誘っているわけだが、多分蛍は俺の意図になんて気が付いちゃいない。
「俺の料理なんて、適当だよ。母さんと姉ちゃんにちょっと教えて貰った程度なんだから」
「でも、俺の胃袋、がっつり蛍に掴まれてるけど」
一緒に住み始めて三年、そろそろ友達から進みたい。
蛍が俺を好きっていうのは、間違っていないと思う。
はっきり言葉にされたことはないけれど、大学の頃何となくそう感じ始めた。
「そういうの……」
困った様な顔で、蛍は両手で自分の顔を覆ってしまう。
言い方を間違えたんだろうか、でも、今言わないと駄目な気がする。
「……拓、なんでそんなこと言うんだよ」
俺は何か間違えたんだろうか、顔を上げた蛍は今にも泣きそうな顔してたんだ。
78
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。


彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる