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私のものだったのに4(シオン殿下視点)
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「スクテラリア」
神殿の大きな扉が開き出てきたのは幸せそうな笑みを浮かべたスクテラリアとルドベキアだった。
「なぜ、こんなところに私がいる。私は」
なぜスクテラリアは生きて、ルドベキアの隣にいるんだ。
叫び出したいのに、私の声はなぜか大きくならなかった。
白地に金の刺繍の上下、ふわふわした毛皮の縁取りがされてた白のマントを身に着けたルドベキアと、白く美しいドレスを着たスクテラリアは幸せそうに笑い神殿の前に集まった人々に手を振っている。
今日は二人の結婚の儀式が行われたのだ。
この国の王へ嫁いだスクテラリア。
そうだ、今日は彼女の結婚する日。
「お姉様、どうして」
私の隣に立つスィートピーは、茫然と二人を見つめている。
「スクテラリア」
さっきまで私は公爵家にいた。
婚約破棄をして、スクテラリアが死んで、ルドベキアが私のせいだと責めた。
ルドベキアの父公爵は魔神の子だとか、ルドベキアとスクテラリアは兄妹ではないとか、知りたくなかった真実を教えられ、責められた。
私は、その中で知ったんだ。
スクテラリアを最初から愛していたと。
私はスクテラリアに微笑んで欲しくて、私に甘えて欲しくて婚約者に望んだのだと。
そう理解したというのに、すべてが遅すぎた。
「時が戻り、魔神が現実を変えたのか」
この私の生きて来た記憶は、公爵家の嫡男でスィートピーの夫だ。
たった今思い出したのは、この国の王子で次の王となる者だった。
今、二つの記憶が混ざりあい、そして後悔している。
たった今、スクテラリアは手の届かない存在になってしまった。
「スクテラリア、笑っている。綺麗だ」
両親は神殿の中で二人の姿を見ていたのだろう。
私とスィートピーは中に入る許可が貰えず、一般貴族と一緒に神殿の外で待っているしかなかった。
「何が綺麗だよ。馬鹿じゃないの」
「気に入らないなら、帰ればいい。なんなら家を出てくれてもいいぞ」
ちらりと横に立つ妻を見れば、悔しそうな顔ででも何故かホッとした様な顔でスィートピーはスクテラリアを見ていた。
「帰らないわ。お姉様の笑顔なんて、見られなかったもの。ちゃんと見るわ」
お姉様という言葉に、スィートピーも記憶を取り戻したのだと分かった。
甘えた様な声ではなく、聞いたことがない硬い声で、スィートピーははっきりとそう言った。
「あれが本来のスクテラリアの笑顔なんだろう」
この国は白き善き神という神様を信仰している。
白き善き神は豊穣の神で、人を愛し慈しむ。
豊穣の神に守られたこの国は豊かで、民達の顔は皆明るい。
若き王、ルドベキア陛下を民衆は尊敬し慕っていた。
王の婚約者である、スクテラリアは優しく思いやりがあり慈悲深く、陛下同様民衆に愛されていた。
その二人の結婚とあって、王都中から神殿の前に人が集まっている。
こんな風に、私とスクテラリアの結婚でも人は集まり祝ってくれただろうか。
常に穏やかな笑みを浮かべていたスクテラリア、ただ一人の王子だと傲慢で我儘だった私。
民衆からの人気はスクテラリアにあった。
私は民からも我儘な王子だと認識されていたと思う。
「幸せそうね、大好きなお兄様の妻だもの。そりゃそうよね」
「そうだな」
動かないスクテラリアを抱きしめ泣く、ルドベキア。
私はその姿を見て、取り返しのつかないことをしたと思いながら、これで二度とルドベキアのものにならないのだと黒い心で思った。
私のものにもならず、私に微笑みかけることも無かった婚約者スクテラリア。
私が望む事を、心をくれなかった。
スクテラリアが死んで、二度と私のものにならなくなったけれど、ルドベキアのものにもならない。
それだけが、救いだった。
それで、いいと思っていたのに。
何故、こんな風に生き返ってしまったんだろう。
「私のものだった。私のものだったのに」
手を伸ばす。
白いドレスを着て笑う、この世で一番美しい人に。
愛してる、ルドベキアに笑い掛けるその笑顔に惹かれ自分にも笑い掛けて欲しいと思った。
好きという意味も知らず、ただ欲しいと願った。
「無理よ、もう二度と手に入らない」
スィートピーが低い声で言うから、ただ睨みつける。
あの笑顔に憧れた。
私に微笑んで欲しいと、ずっと願っていた。
それが叶わずに、まがい物を側に置こうとしたんだ。
「後悔してる。あのまま結婚していたらもしかしたら、彼女が私を愛してくれる未来があったのかもしれないのに」
「無理ね、後悔したって遅いのよ。あなたの妻は私で、私達の間に愛なんて存在しない」
後悔している。
私のものだったのに、そうなる筈だったのに。
どうして愚かにも、私は諦めてしまったんだろう。
「お姉様は、もう手の届かない存在になったの。あなたのものにはならないのよ。絶対に」
低い声でそう言った後、スィートピーは嗤ったんだ。
※※※※※※
読んで下さりありがとうございます。
神殿の大きな扉が開き出てきたのは幸せそうな笑みを浮かべたスクテラリアとルドベキアだった。
「なぜ、こんなところに私がいる。私は」
なぜスクテラリアは生きて、ルドベキアの隣にいるんだ。
叫び出したいのに、私の声はなぜか大きくならなかった。
白地に金の刺繍の上下、ふわふわした毛皮の縁取りがされてた白のマントを身に着けたルドベキアと、白く美しいドレスを着たスクテラリアは幸せそうに笑い神殿の前に集まった人々に手を振っている。
今日は二人の結婚の儀式が行われたのだ。
この国の王へ嫁いだスクテラリア。
そうだ、今日は彼女の結婚する日。
「お姉様、どうして」
私の隣に立つスィートピーは、茫然と二人を見つめている。
「スクテラリア」
さっきまで私は公爵家にいた。
婚約破棄をして、スクテラリアが死んで、ルドベキアが私のせいだと責めた。
ルドベキアの父公爵は魔神の子だとか、ルドベキアとスクテラリアは兄妹ではないとか、知りたくなかった真実を教えられ、責められた。
私は、その中で知ったんだ。
スクテラリアを最初から愛していたと。
私はスクテラリアに微笑んで欲しくて、私に甘えて欲しくて婚約者に望んだのだと。
そう理解したというのに、すべてが遅すぎた。
「時が戻り、魔神が現実を変えたのか」
この私の生きて来た記憶は、公爵家の嫡男でスィートピーの夫だ。
たった今思い出したのは、この国の王子で次の王となる者だった。
今、二つの記憶が混ざりあい、そして後悔している。
たった今、スクテラリアは手の届かない存在になってしまった。
「スクテラリア、笑っている。綺麗だ」
両親は神殿の中で二人の姿を見ていたのだろう。
私とスィートピーは中に入る許可が貰えず、一般貴族と一緒に神殿の外で待っているしかなかった。
「何が綺麗だよ。馬鹿じゃないの」
「気に入らないなら、帰ればいい。なんなら家を出てくれてもいいぞ」
ちらりと横に立つ妻を見れば、悔しそうな顔ででも何故かホッとした様な顔でスィートピーはスクテラリアを見ていた。
「帰らないわ。お姉様の笑顔なんて、見られなかったもの。ちゃんと見るわ」
お姉様という言葉に、スィートピーも記憶を取り戻したのだと分かった。
甘えた様な声ではなく、聞いたことがない硬い声で、スィートピーははっきりとそう言った。
「あれが本来のスクテラリアの笑顔なんだろう」
この国は白き善き神という神様を信仰している。
白き善き神は豊穣の神で、人を愛し慈しむ。
豊穣の神に守られたこの国は豊かで、民達の顔は皆明るい。
若き王、ルドベキア陛下を民衆は尊敬し慕っていた。
王の婚約者である、スクテラリアは優しく思いやりがあり慈悲深く、陛下同様民衆に愛されていた。
その二人の結婚とあって、王都中から神殿の前に人が集まっている。
こんな風に、私とスクテラリアの結婚でも人は集まり祝ってくれただろうか。
常に穏やかな笑みを浮かべていたスクテラリア、ただ一人の王子だと傲慢で我儘だった私。
民衆からの人気はスクテラリアにあった。
私は民からも我儘な王子だと認識されていたと思う。
「幸せそうね、大好きなお兄様の妻だもの。そりゃそうよね」
「そうだな」
動かないスクテラリアを抱きしめ泣く、ルドベキア。
私はその姿を見て、取り返しのつかないことをしたと思いながら、これで二度とルドベキアのものにならないのだと黒い心で思った。
私のものにもならず、私に微笑みかけることも無かった婚約者スクテラリア。
私が望む事を、心をくれなかった。
スクテラリアが死んで、二度と私のものにならなくなったけれど、ルドベキアのものにもならない。
それだけが、救いだった。
それで、いいと思っていたのに。
何故、こんな風に生き返ってしまったんだろう。
「私のものだった。私のものだったのに」
手を伸ばす。
白いドレスを着て笑う、この世で一番美しい人に。
愛してる、ルドベキアに笑い掛けるその笑顔に惹かれ自分にも笑い掛けて欲しいと思った。
好きという意味も知らず、ただ欲しいと願った。
「無理よ、もう二度と手に入らない」
スィートピーが低い声で言うから、ただ睨みつける。
あの笑顔に憧れた。
私に微笑んで欲しいと、ずっと願っていた。
それが叶わずに、まがい物を側に置こうとしたんだ。
「後悔してる。あのまま結婚していたらもしかしたら、彼女が私を愛してくれる未来があったのかもしれないのに」
「無理ね、後悔したって遅いのよ。あなたの妻は私で、私達の間に愛なんて存在しない」
後悔している。
私のものだったのに、そうなる筈だったのに。
どうして愚かにも、私は諦めてしまったんだろう。
「お姉様は、もう手の届かない存在になったの。あなたのものにはならないのよ。絶対に」
低い声でそう言った後、スィートピーは嗤ったんだ。
※※※※※※
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※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
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