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永遠なる誓い2
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「そんな、どうして」
頭に浮かんだのは黒い魔神の姿でした。
感情のない声で、悲しかったのかもしれない。と言っていた魔神は今何をしているのでしょうか。
「スクテラリアが命を失ったあの後、スィートピーは子を授かったのは嘘だと言い始めて、シオン殿下はそんなつもりは無かったと叫んだ」
「嘘だった?」
「子ができたと言えば、シオン殿下は自分を正妃にしてくれるだろうと、浅ましい考えを」
お兄様は吐き捨てるように言いながら、私の手を両手で握ると自分の額の前に持っていきました。
「スクテラリアはスィートピーの嘘で命を落としたというのに、あの子は愚かにも自分は何も悪くない、悪いのはお前だと言い張った。命を奪うつもりなんて無かった、自分は悪くないと」
「そうですか、スィートピーらしいですね」
「シオン殿下は、死んでしまったお前を前に暴れて悪いのは自分を愛さなかったスクテラリアだと言い始めた。自分の妻になるのに愛さないから悪いと」
それは、確かに私が悪いのでしょう。
私の心にいたのは、シオン殿下ではなくお兄様なのですから。
「私の心にはお兄様しかいませんでした。シオン殿下がお怒りになって当たり前ですね」
無理矢理に結ばれた縁とはいえ、婚約者となった以上シオン殿下に寄り添う努力を、私はするべきだったのかもしれません。
「そこで反省してしまうのが、スクテラリアだな」
「でも事実です。私は王太子妃教育こそ真面目に受けていましたが、シオン殿下に嫌われたら結婚せずにすむかもしれないと思っていましたから、スィートピーにシオン殿下が惹かれるのも無理はありません」
「スィートピーはシオン殿下を愛してはいないらしいがな」
スィートピーがシオン殿下を愛していない? 予想外の話に私は驚いて目を見開きました。
懐妊が嘘だったとしても、閨を共にしていなければさすがにシオン殿下も嘘だと分かるでしょう。
それともシオン殿下と共謀して嘘を言ったのでしょうか。
「スィートピーはスクテラリアよりも上の地位を得たかった。あれは努力が嫌いで派手な装いを好んでいる。王太子妃になれば、好きなだけ贅沢が出来ると思っていた様なんだ。そしてスクテラリアになんでも命令できると」
「私に命令ですか」
「そうだよ。確かに両親は私達に贅沢を許しはしなかった。公爵家だから家格に合った装いはさせて貰えていたが、スィートピーは満足出来なかったんだろう。スクテラリアの着ているドレスや宝飾品の中には王太子の婚約者としての準備金から用意したものも多い。金糸を使ったドレスは王家の女性か王子の婚約者以外は許されないからね」
そう言われて今自分が着ている物を見下ろしました。
透けそうに薄い絹地を何枚も重ねた寝衣は、全体に金糸で花の刺繍がされています。
初夜の寝衣は、その一度しか袖を通さないものだというのに、凝った刺繍を施すにはどれほど時間が掛かった事でしょう。
今日結婚の誓いの際に着たドレスもそうです。
絹の白地に金糸で刺繍したドレスは豪奢の一言でした。
ああいう物をスィートピーは求めていたのでしょうか。
「贅沢な暮らしがしたくて、スィートピーはシオン殿下の婚約者になりたかったのですか」
たったそれだけの理由で?
それで愛してもいない相手の婚約者になろうとしたのでしょうか。
でも、私に命令というのは何なのでしょうか。
「両親はスクテラリアの事もスィートピーの事も愛し大切に育ててくれた。だが、スィートピーは知っていたんだよ、自分はローダン家の本当の子ではないと」
「どういう事ですか」
「スィートピーは、陛下の側妃の子供なんだよ。側妃がどうしても子が欲しくて不義を働いた末に産んだ子なんだ」
「不義、それを陛下がお許しに?」
陛下はそんなに寛大な方だったでしょうか。
陛下と共にいらっしゃる側妃は気が弱く、とてもそんな大それた事をされる様には見えないのですが。
本当の話なのでしょうか。
「いいや、許されず側妃は病で儚くなられた。スィートピーは陛下と父上が母を亡くした赤子を哀れと思ってローダン家の娘としたんだよ」
「病で、つまり死を賜ったのですね」
「そうだよ。側妃は王妃が次々に子を産むのを羨んだ。陛下は王妃のところへ行ってはいない筈なのに、陛下の子を産んでいる。対して自分にはその幸いが無い。歴代の側妃がそうなのだから理由は分からなくても、そうだと納得するしかないのに。王妃を羨み罪を犯した」
側妃に子が出来ないのではなく、陛下と側妃の子が出来ないのだと私は今気が付きました。
側妃には魔神の話は教えないのですから、理由も分からず側妃は子が出来ないと思い悩んでいたのでしょう。
それは当たり前の感情だと思います。
「側妃は不義で子を授かっても、陛下が自分のところに通っているのだから分かる筈が無いと思っていたんだ。だが、陛下の子は出来る筈ない。だから生まれる前に陛下の知るところとなってしまった」
「そうでしたか」
「側妃は派手な事が好きな我儘な女性だったらしい。スィートピーはその性格を受け継いでいて、父達は厳しくしつけようとしていたんだが、家庭教師からは逃げる、スクテラリアのドレスを自分のものにしようとするし、装飾品を盗もうとするし」
そういえば、スィートピーは私が王宮の茶会等に着る為のドレスを自分が着たいと泣いたり、首飾りや髪飾りを欲しい欲しいと暴れることがよくありました。
シオン殿下から何かを贈られる事はありませんでしたが、そのお詫びとして王妃様は自分が若い頃に使っていた装飾品を下さることが何度かありましたが、スィートピーがその装飾品をこっそり私の部屋に忍び込んで持って行こうとしたのも一度や二度ではありませんでした。
「王子の婚約者だから、王宮から用意されているのだといくら説明してもスィートピーは理解出来なかった。スクテラリアの教育は基本王宮の王妃様の宮で行われていただろ。だからどれだけ厳しい教育をされていたかすら知らなかったのかもしれないが、スィートピーは自分がローダン家の本当の子ではないから、自分だけ厳しい教育をされ、粗末なドレスを与えられていると思い込んでいたんだ」
なんていうことでしょう。
そんな誤解があったなんて、思いもしなかったのです。
頭に浮かんだのは黒い魔神の姿でした。
感情のない声で、悲しかったのかもしれない。と言っていた魔神は今何をしているのでしょうか。
「スクテラリアが命を失ったあの後、スィートピーは子を授かったのは嘘だと言い始めて、シオン殿下はそんなつもりは無かったと叫んだ」
「嘘だった?」
「子ができたと言えば、シオン殿下は自分を正妃にしてくれるだろうと、浅ましい考えを」
お兄様は吐き捨てるように言いながら、私の手を両手で握ると自分の額の前に持っていきました。
「スクテラリアはスィートピーの嘘で命を落としたというのに、あの子は愚かにも自分は何も悪くない、悪いのはお前だと言い張った。命を奪うつもりなんて無かった、自分は悪くないと」
「そうですか、スィートピーらしいですね」
「シオン殿下は、死んでしまったお前を前に暴れて悪いのは自分を愛さなかったスクテラリアだと言い始めた。自分の妻になるのに愛さないから悪いと」
それは、確かに私が悪いのでしょう。
私の心にいたのは、シオン殿下ではなくお兄様なのですから。
「私の心にはお兄様しかいませんでした。シオン殿下がお怒りになって当たり前ですね」
無理矢理に結ばれた縁とはいえ、婚約者となった以上シオン殿下に寄り添う努力を、私はするべきだったのかもしれません。
「そこで反省してしまうのが、スクテラリアだな」
「でも事実です。私は王太子妃教育こそ真面目に受けていましたが、シオン殿下に嫌われたら結婚せずにすむかもしれないと思っていましたから、スィートピーにシオン殿下が惹かれるのも無理はありません」
「スィートピーはシオン殿下を愛してはいないらしいがな」
スィートピーがシオン殿下を愛していない? 予想外の話に私は驚いて目を見開きました。
懐妊が嘘だったとしても、閨を共にしていなければさすがにシオン殿下も嘘だと分かるでしょう。
それともシオン殿下と共謀して嘘を言ったのでしょうか。
「スィートピーはスクテラリアよりも上の地位を得たかった。あれは努力が嫌いで派手な装いを好んでいる。王太子妃になれば、好きなだけ贅沢が出来ると思っていた様なんだ。そしてスクテラリアになんでも命令できると」
「私に命令ですか」
「そうだよ。確かに両親は私達に贅沢を許しはしなかった。公爵家だから家格に合った装いはさせて貰えていたが、スィートピーは満足出来なかったんだろう。スクテラリアの着ているドレスや宝飾品の中には王太子の婚約者としての準備金から用意したものも多い。金糸を使ったドレスは王家の女性か王子の婚約者以外は許されないからね」
そう言われて今自分が着ている物を見下ろしました。
透けそうに薄い絹地を何枚も重ねた寝衣は、全体に金糸で花の刺繍がされています。
初夜の寝衣は、その一度しか袖を通さないものだというのに、凝った刺繍を施すにはどれほど時間が掛かった事でしょう。
今日結婚の誓いの際に着たドレスもそうです。
絹の白地に金糸で刺繍したドレスは豪奢の一言でした。
ああいう物をスィートピーは求めていたのでしょうか。
「贅沢な暮らしがしたくて、スィートピーはシオン殿下の婚約者になりたかったのですか」
たったそれだけの理由で?
それで愛してもいない相手の婚約者になろうとしたのでしょうか。
でも、私に命令というのは何なのでしょうか。
「両親はスクテラリアの事もスィートピーの事も愛し大切に育ててくれた。だが、スィートピーは知っていたんだよ、自分はローダン家の本当の子ではないと」
「どういう事ですか」
「スィートピーは、陛下の側妃の子供なんだよ。側妃がどうしても子が欲しくて不義を働いた末に産んだ子なんだ」
「不義、それを陛下がお許しに?」
陛下はそんなに寛大な方だったでしょうか。
陛下と共にいらっしゃる側妃は気が弱く、とてもそんな大それた事をされる様には見えないのですが。
本当の話なのでしょうか。
「いいや、許されず側妃は病で儚くなられた。スィートピーは陛下と父上が母を亡くした赤子を哀れと思ってローダン家の娘としたんだよ」
「病で、つまり死を賜ったのですね」
「そうだよ。側妃は王妃が次々に子を産むのを羨んだ。陛下は王妃のところへ行ってはいない筈なのに、陛下の子を産んでいる。対して自分にはその幸いが無い。歴代の側妃がそうなのだから理由は分からなくても、そうだと納得するしかないのに。王妃を羨み罪を犯した」
側妃に子が出来ないのではなく、陛下と側妃の子が出来ないのだと私は今気が付きました。
側妃には魔神の話は教えないのですから、理由も分からず側妃は子が出来ないと思い悩んでいたのでしょう。
それは当たり前の感情だと思います。
「側妃は不義で子を授かっても、陛下が自分のところに通っているのだから分かる筈が無いと思っていたんだ。だが、陛下の子は出来る筈ない。だから生まれる前に陛下の知るところとなってしまった」
「そうでしたか」
「側妃は派手な事が好きな我儘な女性だったらしい。スィートピーはその性格を受け継いでいて、父達は厳しくしつけようとしていたんだが、家庭教師からは逃げる、スクテラリアのドレスを自分のものにしようとするし、装飾品を盗もうとするし」
そういえば、スィートピーは私が王宮の茶会等に着る為のドレスを自分が着たいと泣いたり、首飾りや髪飾りを欲しい欲しいと暴れることがよくありました。
シオン殿下から何かを贈られる事はありませんでしたが、そのお詫びとして王妃様は自分が若い頃に使っていた装飾品を下さることが何度かありましたが、スィートピーがその装飾品をこっそり私の部屋に忍び込んで持って行こうとしたのも一度や二度ではありませんでした。
「王子の婚約者だから、王宮から用意されているのだといくら説明してもスィートピーは理解出来なかった。スクテラリアの教育は基本王宮の王妃様の宮で行われていただろ。だからどれだけ厳しい教育をされていたかすら知らなかったのかもしれないが、スィートピーは自分がローダン家の本当の子ではないから、自分だけ厳しい教育をされ、粗末なドレスを与えられていると思い込んでいたんだ」
なんていうことでしょう。
そんな誤解があったなんて、思いもしなかったのです。
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