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信じるものは何
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『魔神との賭けに勝つ自信はあるか』
『自信、あなたとの賭けに?』
私は今意識でしかないのに、ごくりと唾を飲み込んだ様な気持ちで魔神を見つめていると、シオン殿下がお兄様の頬を叩いて怒鳴る姿が見えました。
「王太子として本当には認められていない等、あるわけがないだろ。私以外誰が王になると言うんだ」
「能力が無くても王にはなれるでしょう。仕える者達が苦労するだけの話です」
「何だと、私は優秀だと教師達に言われている。父上を超える賢王になるだろうとな」
シオン殿下の言葉を聞いて、魔神は大声で笑いだしました。
笑い顔等想像もつかない姿で大笑いする魔神の姿は、とても楽し気ででも怒りを含んでいる様にも見えます。
その笑い顔のまま、魔神は右手を振ると同時に音が消えました。
『聞くに堪えないというのはまさにこのことだな。あれが私が契約した王の子孫だとは嘆かわしい事だ』
『魔神が契約した王はああいった性格では無かったのですか』
『違うな、どちらか言えば今の王弟の方が近い』
『王弟、お父様ですか』
お父様は優しく頭が良く、でも陛下に人知れず嫌がらせをしていた通り優しいだけの人ではありません。
でも私はお父様は領主としてとても優秀な人です。
上手に領地を治め、民が安心して暮らせる場所を守っています。
この国は魔神との契約のお陰で、豊な実りを約束され天候に守られており、疫病が流行ることもありません。
些細な病は当然ありますし、盗賊等もいないわけではありませんが他国に比べると安全で豊かな国です。
その豊かな国の中でも、お父様が治める領地は豊です。
『そうだ、あんな愚かな王子よりもお前の兄の方が王に向いている。それは私でも分かるし、王弟でもそれは同じだ。王弟は私の子だ思うままに国を治められるだろう』
『そうでしょうね。お父様もお兄様も優秀ですし人格者です』
お兄様の事もお父様のこともお母様の事も私は大好きです。
そして彼らも私を愛してくれていました。
スィートピーもそうだと信じていましたが、彼女だけは違った様ですが。
『その優秀な兄を王にするには優秀な王妃が必要ではないのか』
にやにやと魔神は笑っています。
私はどう頑張ってもお兄様の妻にはなれません。
スィートピーがシオン殿下の王妃となっても、私はもう死んでいるのですから。
だとすれば、生きているお兄様は私への気持ちを忘れた方が幸せになれる筈です。
『必要だと思います。優秀で優しくてお兄様だけを愛している王妃が』
悔しい、私が、私こそがお兄様の妻になりたかった。
王太子妃の教育を受けながら、シオン殿下の婚約者と呼ばれながら、私はお兄様だけを思いお兄様の妻になりたいと願い続けていました。
『お前の今の父と母、そして兄はお前を愛していると信じるか』
『勿論です』
『本当に? 偽りの心では無いと信じるか』
『はい』
にやにや笑いのまま、魔神は私を面白そうに見つめています。
面白い玩具を見ている様な目で、残忍な神である魔神は私を見て笑い続けています。
『知っているか、人の魂は死んだ後神の国へと旅立つ』
『神? この国にも神が、あなたの他に?』
確かに神殿には神の像が祀られています。
ですが、神のお顔は誰も知らず、名前も分からないのです。
魔神と会うまで私は疑問にすら感じていませんでしたが、神殿に何度も何度も通っていたというのにその姿を思い出せないのです。
『神殿に祀られている神は確かに存在する。だが、私の魔力でこの国は満ちているから誰もその存在を認識できないのだ。神がいるとしか分からない、顔も名も知らないのに不思議にすら思わない』
『そうだったのですね』
『この国の者が魔神から離れるのは死んでから、死ねばその魂は神の国へと旅立つ。それが人として生まれたお前達の幸いだ』
人としての幸い。
それが、死して神の国へと旅立つ事。
つまり、生きている間は魔神の手の中ということです。
『魔神の子として生まれて優秀でも皆人として生まれる。つまり死すれば魂は神の国に旅立つ』
『お父様も神の国へ』
つまりお兄様が亡くなっても、魂は私の傍には来ては下さらない。
それは寂しく悲しい事です。
せめて、もう一度お兄様に触れたい、私の顔を見て名前を呼んで欲しいというのに。
『お前が自分を愛していると信じている三人、本当に自分を愛していると思うか』
『はい』
『では賭けよう。お前を生き返らす。王妃としてだ。お前を本当に愛しているならお前の兄は今までの記憶を持ったまま王として存在する。お前の父と母も記憶を持ったまま存在する』
『どういう事ですか』
それは一体どういう賭けなのでしょう。
私は理解出来ずに、問いかけるしか出来なかったのです。
『自信、あなたとの賭けに?』
私は今意識でしかないのに、ごくりと唾を飲み込んだ様な気持ちで魔神を見つめていると、シオン殿下がお兄様の頬を叩いて怒鳴る姿が見えました。
「王太子として本当には認められていない等、あるわけがないだろ。私以外誰が王になると言うんだ」
「能力が無くても王にはなれるでしょう。仕える者達が苦労するだけの話です」
「何だと、私は優秀だと教師達に言われている。父上を超える賢王になるだろうとな」
シオン殿下の言葉を聞いて、魔神は大声で笑いだしました。
笑い顔等想像もつかない姿で大笑いする魔神の姿は、とても楽し気ででも怒りを含んでいる様にも見えます。
その笑い顔のまま、魔神は右手を振ると同時に音が消えました。
『聞くに堪えないというのはまさにこのことだな。あれが私が契約した王の子孫だとは嘆かわしい事だ』
『魔神が契約した王はああいった性格では無かったのですか』
『違うな、どちらか言えば今の王弟の方が近い』
『王弟、お父様ですか』
お父様は優しく頭が良く、でも陛下に人知れず嫌がらせをしていた通り優しいだけの人ではありません。
でも私はお父様は領主としてとても優秀な人です。
上手に領地を治め、民が安心して暮らせる場所を守っています。
この国は魔神との契約のお陰で、豊な実りを約束され天候に守られており、疫病が流行ることもありません。
些細な病は当然ありますし、盗賊等もいないわけではありませんが他国に比べると安全で豊かな国です。
その豊かな国の中でも、お父様が治める領地は豊です。
『そうだ、あんな愚かな王子よりもお前の兄の方が王に向いている。それは私でも分かるし、王弟でもそれは同じだ。王弟は私の子だ思うままに国を治められるだろう』
『そうでしょうね。お父様もお兄様も優秀ですし人格者です』
お兄様の事もお父様のこともお母様の事も私は大好きです。
そして彼らも私を愛してくれていました。
スィートピーもそうだと信じていましたが、彼女だけは違った様ですが。
『その優秀な兄を王にするには優秀な王妃が必要ではないのか』
にやにやと魔神は笑っています。
私はどう頑張ってもお兄様の妻にはなれません。
スィートピーがシオン殿下の王妃となっても、私はもう死んでいるのですから。
だとすれば、生きているお兄様は私への気持ちを忘れた方が幸せになれる筈です。
『必要だと思います。優秀で優しくてお兄様だけを愛している王妃が』
悔しい、私が、私こそがお兄様の妻になりたかった。
王太子妃の教育を受けながら、シオン殿下の婚約者と呼ばれながら、私はお兄様だけを思いお兄様の妻になりたいと願い続けていました。
『お前の今の父と母、そして兄はお前を愛していると信じるか』
『勿論です』
『本当に? 偽りの心では無いと信じるか』
『はい』
にやにや笑いのまま、魔神は私を面白そうに見つめています。
面白い玩具を見ている様な目で、残忍な神である魔神は私を見て笑い続けています。
『知っているか、人の魂は死んだ後神の国へと旅立つ』
『神? この国にも神が、あなたの他に?』
確かに神殿には神の像が祀られています。
ですが、神のお顔は誰も知らず、名前も分からないのです。
魔神と会うまで私は疑問にすら感じていませんでしたが、神殿に何度も何度も通っていたというのにその姿を思い出せないのです。
『神殿に祀られている神は確かに存在する。だが、私の魔力でこの国は満ちているから誰もその存在を認識できないのだ。神がいるとしか分からない、顔も名も知らないのに不思議にすら思わない』
『そうだったのですね』
『この国の者が魔神から離れるのは死んでから、死ねばその魂は神の国へと旅立つ。それが人として生まれたお前達の幸いだ』
人としての幸い。
それが、死して神の国へと旅立つ事。
つまり、生きている間は魔神の手の中ということです。
『魔神の子として生まれて優秀でも皆人として生まれる。つまり死すれば魂は神の国に旅立つ』
『お父様も神の国へ』
つまりお兄様が亡くなっても、魂は私の傍には来ては下さらない。
それは寂しく悲しい事です。
せめて、もう一度お兄様に触れたい、私の顔を見て名前を呼んで欲しいというのに。
『お前が自分を愛していると信じている三人、本当に自分を愛していると思うか』
『はい』
『では賭けよう。お前を生き返らす。王妃としてだ。お前を本当に愛しているならお前の兄は今までの記憶を持ったまま王として存在する。お前の父と母も記憶を持ったまま存在する』
『どういう事ですか』
それは一体どういう賭けなのでしょう。
私は理解出来ずに、問いかけるしか出来なかったのです。
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