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第9話 我楽多の街
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「絶対近道で行くわ!絶対よ!」
「何でだよ!迂回した方が楽だろ!」
グランシア大陸最北に存在する、戦士の国アシュガルドを目的地とした俺たちは、早朝の街中でみっともなく言い争っていた。
口論の原因は、至ってシンプル。
アシュガルドに向かうには二種類の方法があり、何方を取るかで意見が二分したのだ。
一つは、メドカルテの北部にあるスラム街『ダラク』を徒歩で移動し、入国制限の掛かっている『魔法の国 ルーライト』に密入国する、という直線のルート。
もう一つは、馬車で東に迂回してアポレイン教の教会があった『宗教の国 シン』を北上するルートだ。
メドカルテまでの徒歩移動が大失敗したことを忘れられない俺は、当然シンを通るルートを選ぶつもりだったのだが、何故かリリィがそれを極端に嫌がった。
教会での一件を思い出したくないのかも知れないが、危険な上に罪を犯す前提の道程を選ぶなど、正気の沙汰ではない。
断固として反対だった俺は、対話を諦め強硬手段に出た。
「話にならねえ。もう俺だけで馬車に乗る」
「残念。金貨は私が持ってるのよ」
いつの間にか、俺がパトリックからむしり取った金貨の山が、得意げに鼻を鳴らすリリィの手中に収まっていた。
手癖の悪い女である。
「…なんでそんなに嫌がるんだよ!お前のばあちゃんの墓参りも行けるぞ!」
「なんでもよ!おばあちゃんにはいつかちゃんと会いに行くからいいの!」
「…はあ、何なんだよ全く」
どれだけ問い質しても頑なに理由すら口にしないリリィの様子に、遂に俺が溜息を吐いて降参を示すと、機嫌を直した彼女は口元を歪める。
こうして危険な旅を仕方なく受け入れた俺は、まずはダラク付近まで移動するための馬車を捕まえるために歩き始めたのだった。
いざ異世界のスラム街に赴くことが決まると未知の冒険に心が躍っている自分もいたが、それがリリィにバレてしまうのは癪であるため、表情に出さないよう注意しなければならない。
先程の論争の正しい終着点はもう一つの選択肢だったと、まだ根に持っているのも事実なのだから。
そうやって不貞腐れながら道を往く中、釘を刺しておくべき一番の問題点を思い出した俺は足を速め、前を歩いていたリリィの横に並んだ。
「そういえば、ルーライトへの入国の手筈はちゃんと整えとけよ。お前がやるって決めたんだからな?」
「舐めないで欲しいわね。当然考えてあるわ」
「ほう。で、どうするんだよ」
「強行突破よ」
それを、密入国とは言わない。
◇
整った街並みを見せていたメドエストの周辺から、馬車に乗り数日かけて北上していくに連れ、少しずつ通過する建造物や窓から見える人々の様子に、治安の悪さが浮かび上がっていく。
馭者の話によるとメドカルテには貧富の偏りがあり、荒廃している地域も珍しくはないらしい。
中でも遂に国が管理を諦めたのがダラクだ。
薬物が蔓延した結果、水道や電気など様々なライフラインの供給が後回しのまま放置されており、住んでいるのは行き場のない者と一部の物好きだけ。
この国に来た当初では同じ国土の中にそんな場所があるとは想像し辛かっただろうが、パトリックの人間性を知った今では納得できてしまう。
数時間の移動の後、馬車が走れる限界で降ろしてもらうと、そこは廃材が積み重なった大きな門の前。
門やその先に見える家屋代わりの我楽多の山には、王都の建造物と比べ人間の生命力が強く主張しており、圧倒された俺は思わず唾を飲んでしまった。
「お客さん、悪いことは言わないから今からでも考え直しな。ダラクは大陸の中でも有数のスラムだ。中で何が起こるか分からないぞ」
馬車の中でも何度も忠告していた馭者は、下車してもまだ心配そうに繰り返す。
それほど誰も立ち入らないような場所だということなのだろう。
「ありがとう」
感謝だけを言って金貨を渡すと、意見を引っ込めた馭者は帽子を深く被り、来た道を引き返していった。
軽快な馬の足音を背に廃材の山を一瞥した俺は、有事のリスクを分散させるため、金貨の半分を詰めた財布をリリィに投げた。
「いつ襲われたっておかしくない。ぼんやりするなよ?」
「あんたこそ」
取り澄ましたリリィがポーチの紐をキュッと締めた。
◇
周囲は一気に鬱屈とした雰囲気となり、形容しがたい異臭が鼻を突く。
リリィも間違いなく不快に感じていたはずだが、それに一々反応するのは下らない気もして、結局お互い何も言う事は無かった。
辺りを見渡しながら歩いていると、ボロボロの布切れを纏った人々が、家とは言えないような建物にもたれ掛かったまま此方に手を伸ばしてきた。
「なあ、余所者だろ?少しで良いから恵んでおくれよ」
「病気なんだ、頼むよ」
注射痕を大量に残した物乞いに何度も声を掛けられるが、視線を合わせずに無視を決め込む。
彼らにどれだけ何を恵んだとしても、それを元手に楽になるための薬を買うだけだ。
そうやって不憫を眺めながら、暫く俺たちは黙って歩いた。
楽しくお喋りしながら、という気分にはさせてくれない環境のおかげで、注射器の残骸やカラスの骨など珍しいものを見つけることができる。
ただ、そうやって下ばかりに目を向けていたせいで、いつの間にか空に雲が溜まっていた事には気が付かなかった。
「運が悪いな」
呟いた俺の頭上から、強い雨が降ってきた。
道端で蠢いていた住人たちもいそいそと廃材の中に消えていく。
流石に雨風程度は凌げる場所を用意しているらしい。
そんな彼らと違って屋根も傘も無い俺たちは、雨宿りをするために目に付いた大木に向かって走る。
大急ぎで木の下に駆け込むと、そこには小さな先客が居た。
物珍しそうに俺とリリィの顔を見上げているのは、伸びきった茶髪が印象的な少年。
決して高価なものというわけではないが、服の形をした服を着ている時点で、ダラクの住人の中では真面な身形と言っていい。
「邪魔するぞ」
簡単に挨拶をした俺は、少年の返事を待たずに大木に寄り掛かる。
一息吐く俺の横で杖に触れたリリィが魔法で熱風を起こし、濡れたローブを乾かし始めた。
こうして応用を利かせれば日常生活に役立てることもできるのだから、便利なものだ。
もし元居た世界に魔法が存在していたならば、テレビも洗濯機も冷蔵庫も開発されなかっただろう。
「君も濡れてない?」
優しい声色で少年に話し掛けたリリィが、彼の濡れた服に熱風を当てようと屈む。
俺に対しては暴君のような彼女の普段とは違った一面に感心させられたその瞬間、未だ何も言わない少年の口元がニヤリと動いたのが視界に映った。
「…馬鹿、油断しすぎだ!」
「え!?」
口では指摘しながらも、実際には同様に油断していた俺自身に言い聞かせるために発した声だ。
そう、リリィの危機感を煽るには最早手遅れ。
内容が伝達するより先に、既に少年の小さな腕が彼女のポーチを目にも止まらぬ速さでひったくっていた。
「待てクソガキ!」
意味も無く引き留めた俺は少年の背を全速力で追いかけるが、雨でぬかるんだ地面が足を引っ張ってくる。
直線の間は距離が埋まったが、入り組んだ街中に入ると、倒れたトタンや木材をアスレチックのように潜り抜けられ、簡単には捕まえることができない。
「クソッ、ちょこまかと動きやがる!」
苛立って文句が口を突いたが、跳ねては屈んでを繰り返している内に、冷えた体の中で鳴りを潜めていた運動能力と集中力がやっと目を覚まし始めた。
難度が上がっていくパルクールに視界が加速し、みるみるうちに少年との差が縮まっていく。
「…外の人間なのに!」
焦りからか、初めて少年が口を開く。
そして、遂に彼の衣服に手が届きそうになったその時、足元にちょっとした抵抗を受け、体はふわりと浮いた。
俺が鉄パイプに躓いてしまった事を理解したのは、勢いそのままに顔面から木材に衝突した後だった。
「あちゃあ」
「………フッ」
やっと後ろから追いついたリリィが、いたたまれなさそうに頭を抱える。
少年に至っては、倒れてずぶ濡れになった俺を見下しながら静かに鼻で笑っていた。
元々、俺は懐の広い人間ではない。
相手が幼い子供であろうと関係なく、馬鹿にされた俺の血管はぶちりと弾けた。
「ガキが、ぶっ殺してやる!」
「ちょっと!そこまでやったら本当に死んじゃう!」
俺が青い炎を両手の中に展開し始めたのを見て焦ったリリィはすぐに呼び掛けて制止してきたが、知った事ではない。
青い炎、もしくは俺の浮かべた鬼の形相、その何方かに怯える窃盗小僧に向かって俺は炎を放った。
「正義の炎じゃ!くたばれ!」
「ひーん!」
涙目で身構えた少年を追いかけるように炎が走ったが、加減した炎は強い雨によって減衰し、そして消滅してしまった。
じゅっという炎が掻き消される音が余りにも虚しく、俺の額から生えた角も思わず引っ込んでいた。
「あんた、無力ね…」
「アハハハハ!」
絶望し膝をついた俺をリリィが憐れみ、少年は腹を抱えて爆笑。
力の抜けてしまった俺は二人の姿を恨めしく、ただ見上げることしかできなかった。
すると、まだ笑うのを止めてくれない少年の背後から、ビニールの合羽を着た女性が足音を立てずにそろりと現れた。
さっきまでの俺など可愛く見える程の迫力で怒りを表現した彼女は、躊躇なく拳骨を振り下ろす。
頭蓋骨に音が反響する威力で頭を殴られた少年がその痛みに耐えられるはずも無く、たん瘤をこさえた彼はべそをかき始めた。
「えーん!」
「ケニー!また盗みを働いたのね!」
「ガハハハハ!ざまあみろ!」
現れた女性が母親か誰だかは知らないが、オセロの終盤のような大逆転に、今度は俺がふんぞり返った。
しかし、リリィの手によって拳骨は平等に降り注ぐ。
「子供相手に魔法を撃つなんて何考えてるのよ!」
「すいません」
クソガキは両成敗されたのだった。
◇
ダラクの中で一泊する必要があった俺たちは、雨宿りも兼ねてレインコートの女性と窃盗少年、ケニーの住む家へと招待された。
大金を盗もうとした犯人の家に厄介になるなど本当は御免だったのだが、ちゃんと謝罪と罪滅ぼしをさせて欲しいと女性に深々と頭を下げられてしまい、断れなかったのだ。
少し開けた場所にある彼女たちの家は、他の家と同様廃材で作られてはいたものの、精巧に組み上げられた建物だった。
店ですらもすかすかな建物に無理矢理看板を掲げているような状態なのに、よくもまあここまで立派な一軒家を作ったものだ。
そんな金があるなら、普通ダラクに住もうとは思わない。
あの馭者に物好きと分類されていたのは、彼女のような人間なのだろうか。
玄関にお邪魔すると、中には試験管やビーカーなどが大量に並べられており、用途が分からないような機械すら存在している。
薬か何かの研究を行っているのだろうか。
電力の確保が難しいこの場所では、中々根気の要りそうな仕事だ。
「もう絶対にしないでって言ったでしょ!どうして守れないの!」
女性に案内され俺たちがテーブルに着くと、木の板で作られた床の上では激しい説教が始まった。
母親のように怒る女性は、ケニーとは似つかない真っすぐな黒髪であり、瞳の奥には深い包容力の色が窺える。
身長はそれほど低くはないが華奢な体つきをしており、大人にも可愛らしくも見える人だった。
ケニーは少しの間、答えたく無さそうに長い髪をいじっていたが、女性の真剣な眼差しに負け、肩を落とした。
「ガルダ、今日もパンしか食べてない。僕たちはパン食べて、ガルダのスープと、牛乳だって飲んでるのに」
ケニーは泣きじゃくりながら、間接的な盗みの理由を拙い言葉で白状した。
どうやらガルダと呼ばれた彼女は、過酷なスラム街で子育てをするために相当な努力をしているらしい。
しかし、余所者の俺たちがやんわりと抱いた同情などには見向きもせず、ひたすらにケニーの未来だけを見据えたガルダさんは、小ぢんまりとした肩を優しく掴んだ。
「それでも、誰かの物を奪って生きるのはいけない事なの。わかるでしょ」
視線を一切曲げないガルダさんの言葉に込められた愛は未完成なケニーの心にも届いたようで、納得した彼は何度も頷く。
そして、最後に促されたケニーは、鼻水を啜りながら俺たちの前までとぼとぼと歩いてきた。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんもごめんなさい」
「許さん」
「え」
二つ返事で許すつもりだったリリィが、即答した俺の方を見て愕然としていた。
あまりにも友達から信用されていないことを心中で嘆きながらケニーに歩み寄った俺は、屈んで目線を合わせる。
「ガキ、お前は男だ。いつかお前がガルダさんを守っていかないといけない。そんなお前がこの調子でいいのか?」
「…ダメ」
「飯は全部食って、体を鍛えて、真っ当に一人前になれるようにこれから頑張るって俺と約束しろ。そしたら許してやる」
「わかった」
「指切り…なんて知るわけないか」
俺は一度だけケニーの頭を雑に撫で、テーブルに戻る。
横でリリィがにやにやと鬱陶しい笑みを垂れ流していたが、頬杖を突いて無視することにした。
「改めて、本当にごめんなさい」
そう言ったガルダさんが再度頭を下げると、彼女の頭越しに見えるドアの隙間から十個の輝きが此方を覗いていた。
謝罪より暗がりで光る目の方に意識がいった俺の口から、思わず驚きが漏れてしまう。
「多過ぎだろ…」
「何度も謝ってしまってごめんなさい!」
「いや、違うんです!謝罪の回数の話ではなくて」
紛らわしい言葉で勘違いさせてしまったことを必死に弁明する。
焦る俺の様子を見て後ろを振り向いたガルダさんも、五つの影に気が付いた。
「ふふ、そういう事。紹介しますね。みんな出てきて挨拶なさい!」
微笑んだガルダさんが呼ぶと、ケニーよりも一回り小さな子供たちがとてとてと部屋に入ってくる。
色違いの無地のシャツを着た五人の挨拶は、息ぴったりだ。
「「「「「こんにちわ」」」」」
「可愛過ぎ…!」
横一列に並んだ子供の姿に胸を打たれ、リリィが目を潤ませている。
常に子供のように振る舞っている癖に、子供好きらしい。
正直意外だ。
挨拶を済ませてすぐ、子供の中の一人がガルダさんに近付くと、彼女が履いていたロングスカートを引っ張った。
「ガルダ、お外行きたい」
「今はお客様が来てるから我慢して」
「やだ、お外行きたいよ」
返す刀で要求を却下された少年は、涙を浮かべてぐずり始めた。
こうなると、我が儘は見事に感染してしまい、五人全員が磁石にでも引き寄せられるように、ガルダさんのスカートにくっ付いて抗議活動に勤しむ。
スカートが引きずり降ろされそうになり、自らの腰の辺りを掴んだまま動けなくなったガルダさん。
困ってしまった彼女に、リリィがすかさず助け舟を出した。
「ガルダさん、少しの間だけこの子たちと外で遊んできてもいいですか?」
ぐずっていた少年は不思議そうにリリィを見上げている。
兄貴分であるケニーに所作が似ていることに気づき、俺は微笑ましさを感じてしまった。
同じことを考えてかは分からないが、少年の頭を撫でる彼女の瞳は、やはり青く透き通る。
青空のように温かい優しさがそこにあるのを目の当たりにしたガルダさんは、向日葵のような笑顔で了承した。
「ええ、勿論!」
窓の外を見ると、空気を読んだ黒い雲はそそくさと身を引いており、確かに雨は上がっていた。
「何でだよ!迂回した方が楽だろ!」
グランシア大陸最北に存在する、戦士の国アシュガルドを目的地とした俺たちは、早朝の街中でみっともなく言い争っていた。
口論の原因は、至ってシンプル。
アシュガルドに向かうには二種類の方法があり、何方を取るかで意見が二分したのだ。
一つは、メドカルテの北部にあるスラム街『ダラク』を徒歩で移動し、入国制限の掛かっている『魔法の国 ルーライト』に密入国する、という直線のルート。
もう一つは、馬車で東に迂回してアポレイン教の教会があった『宗教の国 シン』を北上するルートだ。
メドカルテまでの徒歩移動が大失敗したことを忘れられない俺は、当然シンを通るルートを選ぶつもりだったのだが、何故かリリィがそれを極端に嫌がった。
教会での一件を思い出したくないのかも知れないが、危険な上に罪を犯す前提の道程を選ぶなど、正気の沙汰ではない。
断固として反対だった俺は、対話を諦め強硬手段に出た。
「話にならねえ。もう俺だけで馬車に乗る」
「残念。金貨は私が持ってるのよ」
いつの間にか、俺がパトリックからむしり取った金貨の山が、得意げに鼻を鳴らすリリィの手中に収まっていた。
手癖の悪い女である。
「…なんでそんなに嫌がるんだよ!お前のばあちゃんの墓参りも行けるぞ!」
「なんでもよ!おばあちゃんにはいつかちゃんと会いに行くからいいの!」
「…はあ、何なんだよ全く」
どれだけ問い質しても頑なに理由すら口にしないリリィの様子に、遂に俺が溜息を吐いて降参を示すと、機嫌を直した彼女は口元を歪める。
こうして危険な旅を仕方なく受け入れた俺は、まずはダラク付近まで移動するための馬車を捕まえるために歩き始めたのだった。
いざ異世界のスラム街に赴くことが決まると未知の冒険に心が躍っている自分もいたが、それがリリィにバレてしまうのは癪であるため、表情に出さないよう注意しなければならない。
先程の論争の正しい終着点はもう一つの選択肢だったと、まだ根に持っているのも事実なのだから。
そうやって不貞腐れながら道を往く中、釘を刺しておくべき一番の問題点を思い出した俺は足を速め、前を歩いていたリリィの横に並んだ。
「そういえば、ルーライトへの入国の手筈はちゃんと整えとけよ。お前がやるって決めたんだからな?」
「舐めないで欲しいわね。当然考えてあるわ」
「ほう。で、どうするんだよ」
「強行突破よ」
それを、密入国とは言わない。
◇
整った街並みを見せていたメドエストの周辺から、馬車に乗り数日かけて北上していくに連れ、少しずつ通過する建造物や窓から見える人々の様子に、治安の悪さが浮かび上がっていく。
馭者の話によるとメドカルテには貧富の偏りがあり、荒廃している地域も珍しくはないらしい。
中でも遂に国が管理を諦めたのがダラクだ。
薬物が蔓延した結果、水道や電気など様々なライフラインの供給が後回しのまま放置されており、住んでいるのは行き場のない者と一部の物好きだけ。
この国に来た当初では同じ国土の中にそんな場所があるとは想像し辛かっただろうが、パトリックの人間性を知った今では納得できてしまう。
数時間の移動の後、馬車が走れる限界で降ろしてもらうと、そこは廃材が積み重なった大きな門の前。
門やその先に見える家屋代わりの我楽多の山には、王都の建造物と比べ人間の生命力が強く主張しており、圧倒された俺は思わず唾を飲んでしまった。
「お客さん、悪いことは言わないから今からでも考え直しな。ダラクは大陸の中でも有数のスラムだ。中で何が起こるか分からないぞ」
馬車の中でも何度も忠告していた馭者は、下車してもまだ心配そうに繰り返す。
それほど誰も立ち入らないような場所だということなのだろう。
「ありがとう」
感謝だけを言って金貨を渡すと、意見を引っ込めた馭者は帽子を深く被り、来た道を引き返していった。
軽快な馬の足音を背に廃材の山を一瞥した俺は、有事のリスクを分散させるため、金貨の半分を詰めた財布をリリィに投げた。
「いつ襲われたっておかしくない。ぼんやりするなよ?」
「あんたこそ」
取り澄ましたリリィがポーチの紐をキュッと締めた。
◇
周囲は一気に鬱屈とした雰囲気となり、形容しがたい異臭が鼻を突く。
リリィも間違いなく不快に感じていたはずだが、それに一々反応するのは下らない気もして、結局お互い何も言う事は無かった。
辺りを見渡しながら歩いていると、ボロボロの布切れを纏った人々が、家とは言えないような建物にもたれ掛かったまま此方に手を伸ばしてきた。
「なあ、余所者だろ?少しで良いから恵んでおくれよ」
「病気なんだ、頼むよ」
注射痕を大量に残した物乞いに何度も声を掛けられるが、視線を合わせずに無視を決め込む。
彼らにどれだけ何を恵んだとしても、それを元手に楽になるための薬を買うだけだ。
そうやって不憫を眺めながら、暫く俺たちは黙って歩いた。
楽しくお喋りしながら、という気分にはさせてくれない環境のおかげで、注射器の残骸やカラスの骨など珍しいものを見つけることができる。
ただ、そうやって下ばかりに目を向けていたせいで、いつの間にか空に雲が溜まっていた事には気が付かなかった。
「運が悪いな」
呟いた俺の頭上から、強い雨が降ってきた。
道端で蠢いていた住人たちもいそいそと廃材の中に消えていく。
流石に雨風程度は凌げる場所を用意しているらしい。
そんな彼らと違って屋根も傘も無い俺たちは、雨宿りをするために目に付いた大木に向かって走る。
大急ぎで木の下に駆け込むと、そこには小さな先客が居た。
物珍しそうに俺とリリィの顔を見上げているのは、伸びきった茶髪が印象的な少年。
決して高価なものというわけではないが、服の形をした服を着ている時点で、ダラクの住人の中では真面な身形と言っていい。
「邪魔するぞ」
簡単に挨拶をした俺は、少年の返事を待たずに大木に寄り掛かる。
一息吐く俺の横で杖に触れたリリィが魔法で熱風を起こし、濡れたローブを乾かし始めた。
こうして応用を利かせれば日常生活に役立てることもできるのだから、便利なものだ。
もし元居た世界に魔法が存在していたならば、テレビも洗濯機も冷蔵庫も開発されなかっただろう。
「君も濡れてない?」
優しい声色で少年に話し掛けたリリィが、彼の濡れた服に熱風を当てようと屈む。
俺に対しては暴君のような彼女の普段とは違った一面に感心させられたその瞬間、未だ何も言わない少年の口元がニヤリと動いたのが視界に映った。
「…馬鹿、油断しすぎだ!」
「え!?」
口では指摘しながらも、実際には同様に油断していた俺自身に言い聞かせるために発した声だ。
そう、リリィの危機感を煽るには最早手遅れ。
内容が伝達するより先に、既に少年の小さな腕が彼女のポーチを目にも止まらぬ速さでひったくっていた。
「待てクソガキ!」
意味も無く引き留めた俺は少年の背を全速力で追いかけるが、雨でぬかるんだ地面が足を引っ張ってくる。
直線の間は距離が埋まったが、入り組んだ街中に入ると、倒れたトタンや木材をアスレチックのように潜り抜けられ、簡単には捕まえることができない。
「クソッ、ちょこまかと動きやがる!」
苛立って文句が口を突いたが、跳ねては屈んでを繰り返している内に、冷えた体の中で鳴りを潜めていた運動能力と集中力がやっと目を覚まし始めた。
難度が上がっていくパルクールに視界が加速し、みるみるうちに少年との差が縮まっていく。
「…外の人間なのに!」
焦りからか、初めて少年が口を開く。
そして、遂に彼の衣服に手が届きそうになったその時、足元にちょっとした抵抗を受け、体はふわりと浮いた。
俺が鉄パイプに躓いてしまった事を理解したのは、勢いそのままに顔面から木材に衝突した後だった。
「あちゃあ」
「………フッ」
やっと後ろから追いついたリリィが、いたたまれなさそうに頭を抱える。
少年に至っては、倒れてずぶ濡れになった俺を見下しながら静かに鼻で笑っていた。
元々、俺は懐の広い人間ではない。
相手が幼い子供であろうと関係なく、馬鹿にされた俺の血管はぶちりと弾けた。
「ガキが、ぶっ殺してやる!」
「ちょっと!そこまでやったら本当に死んじゃう!」
俺が青い炎を両手の中に展開し始めたのを見て焦ったリリィはすぐに呼び掛けて制止してきたが、知った事ではない。
青い炎、もしくは俺の浮かべた鬼の形相、その何方かに怯える窃盗小僧に向かって俺は炎を放った。
「正義の炎じゃ!くたばれ!」
「ひーん!」
涙目で身構えた少年を追いかけるように炎が走ったが、加減した炎は強い雨によって減衰し、そして消滅してしまった。
じゅっという炎が掻き消される音が余りにも虚しく、俺の額から生えた角も思わず引っ込んでいた。
「あんた、無力ね…」
「アハハハハ!」
絶望し膝をついた俺をリリィが憐れみ、少年は腹を抱えて爆笑。
力の抜けてしまった俺は二人の姿を恨めしく、ただ見上げることしかできなかった。
すると、まだ笑うのを止めてくれない少年の背後から、ビニールの合羽を着た女性が足音を立てずにそろりと現れた。
さっきまでの俺など可愛く見える程の迫力で怒りを表現した彼女は、躊躇なく拳骨を振り下ろす。
頭蓋骨に音が反響する威力で頭を殴られた少年がその痛みに耐えられるはずも無く、たん瘤をこさえた彼はべそをかき始めた。
「えーん!」
「ケニー!また盗みを働いたのね!」
「ガハハハハ!ざまあみろ!」
現れた女性が母親か誰だかは知らないが、オセロの終盤のような大逆転に、今度は俺がふんぞり返った。
しかし、リリィの手によって拳骨は平等に降り注ぐ。
「子供相手に魔法を撃つなんて何考えてるのよ!」
「すいません」
クソガキは両成敗されたのだった。
◇
ダラクの中で一泊する必要があった俺たちは、雨宿りも兼ねてレインコートの女性と窃盗少年、ケニーの住む家へと招待された。
大金を盗もうとした犯人の家に厄介になるなど本当は御免だったのだが、ちゃんと謝罪と罪滅ぼしをさせて欲しいと女性に深々と頭を下げられてしまい、断れなかったのだ。
少し開けた場所にある彼女たちの家は、他の家と同様廃材で作られてはいたものの、精巧に組み上げられた建物だった。
店ですらもすかすかな建物に無理矢理看板を掲げているような状態なのに、よくもまあここまで立派な一軒家を作ったものだ。
そんな金があるなら、普通ダラクに住もうとは思わない。
あの馭者に物好きと分類されていたのは、彼女のような人間なのだろうか。
玄関にお邪魔すると、中には試験管やビーカーなどが大量に並べられており、用途が分からないような機械すら存在している。
薬か何かの研究を行っているのだろうか。
電力の確保が難しいこの場所では、中々根気の要りそうな仕事だ。
「もう絶対にしないでって言ったでしょ!どうして守れないの!」
女性に案内され俺たちがテーブルに着くと、木の板で作られた床の上では激しい説教が始まった。
母親のように怒る女性は、ケニーとは似つかない真っすぐな黒髪であり、瞳の奥には深い包容力の色が窺える。
身長はそれほど低くはないが華奢な体つきをしており、大人にも可愛らしくも見える人だった。
ケニーは少しの間、答えたく無さそうに長い髪をいじっていたが、女性の真剣な眼差しに負け、肩を落とした。
「ガルダ、今日もパンしか食べてない。僕たちはパン食べて、ガルダのスープと、牛乳だって飲んでるのに」
ケニーは泣きじゃくりながら、間接的な盗みの理由を拙い言葉で白状した。
どうやらガルダと呼ばれた彼女は、過酷なスラム街で子育てをするために相当な努力をしているらしい。
しかし、余所者の俺たちがやんわりと抱いた同情などには見向きもせず、ひたすらにケニーの未来だけを見据えたガルダさんは、小ぢんまりとした肩を優しく掴んだ。
「それでも、誰かの物を奪って生きるのはいけない事なの。わかるでしょ」
視線を一切曲げないガルダさんの言葉に込められた愛は未完成なケニーの心にも届いたようで、納得した彼は何度も頷く。
そして、最後に促されたケニーは、鼻水を啜りながら俺たちの前までとぼとぼと歩いてきた。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんもごめんなさい」
「許さん」
「え」
二つ返事で許すつもりだったリリィが、即答した俺の方を見て愕然としていた。
あまりにも友達から信用されていないことを心中で嘆きながらケニーに歩み寄った俺は、屈んで目線を合わせる。
「ガキ、お前は男だ。いつかお前がガルダさんを守っていかないといけない。そんなお前がこの調子でいいのか?」
「…ダメ」
「飯は全部食って、体を鍛えて、真っ当に一人前になれるようにこれから頑張るって俺と約束しろ。そしたら許してやる」
「わかった」
「指切り…なんて知るわけないか」
俺は一度だけケニーの頭を雑に撫で、テーブルに戻る。
横でリリィがにやにやと鬱陶しい笑みを垂れ流していたが、頬杖を突いて無視することにした。
「改めて、本当にごめんなさい」
そう言ったガルダさんが再度頭を下げると、彼女の頭越しに見えるドアの隙間から十個の輝きが此方を覗いていた。
謝罪より暗がりで光る目の方に意識がいった俺の口から、思わず驚きが漏れてしまう。
「多過ぎだろ…」
「何度も謝ってしまってごめんなさい!」
「いや、違うんです!謝罪の回数の話ではなくて」
紛らわしい言葉で勘違いさせてしまったことを必死に弁明する。
焦る俺の様子を見て後ろを振り向いたガルダさんも、五つの影に気が付いた。
「ふふ、そういう事。紹介しますね。みんな出てきて挨拶なさい!」
微笑んだガルダさんが呼ぶと、ケニーよりも一回り小さな子供たちがとてとてと部屋に入ってくる。
色違いの無地のシャツを着た五人の挨拶は、息ぴったりだ。
「「「「「こんにちわ」」」」」
「可愛過ぎ…!」
横一列に並んだ子供の姿に胸を打たれ、リリィが目を潤ませている。
常に子供のように振る舞っている癖に、子供好きらしい。
正直意外だ。
挨拶を済ませてすぐ、子供の中の一人がガルダさんに近付くと、彼女が履いていたロングスカートを引っ張った。
「ガルダ、お外行きたい」
「今はお客様が来てるから我慢して」
「やだ、お外行きたいよ」
返す刀で要求を却下された少年は、涙を浮かべてぐずり始めた。
こうなると、我が儘は見事に感染してしまい、五人全員が磁石にでも引き寄せられるように、ガルダさんのスカートにくっ付いて抗議活動に勤しむ。
スカートが引きずり降ろされそうになり、自らの腰の辺りを掴んだまま動けなくなったガルダさん。
困ってしまった彼女に、リリィがすかさず助け舟を出した。
「ガルダさん、少しの間だけこの子たちと外で遊んできてもいいですか?」
ぐずっていた少年は不思議そうにリリィを見上げている。
兄貴分であるケニーに所作が似ていることに気づき、俺は微笑ましさを感じてしまった。
同じことを考えてかは分からないが、少年の頭を撫でる彼女の瞳は、やはり青く透き通る。
青空のように温かい優しさがそこにあるのを目の当たりにしたガルダさんは、向日葵のような笑顔で了承した。
「ええ、勿論!」
窓の外を見ると、空気を読んだ黒い雲はそそくさと身を引いており、確かに雨は上がっていた。
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