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2章 少女の覚醒

021 覚醒

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「じゃあな、今ならギリギリその女を助ける事が出来るかもしれないぜ」

男は女の子を離すと一目散に逃げ出して行った、どうする?追いかけるか?いや今は女の子の命を救う事が最優先だ。

「ドリィ!返事をして!お願い!」

「クソっ!あの男自分が逃げる為にこんな酷い事を…アレ?この女の子はどこかで見た事がある様な…」

「トロワー!そんな事言ってる場合じゃないわ…酷い…首の骨を折られてる…気道を確保するのよ!ドゥークはポーションの用意を!一番良いポーションを使って」

ローラが倒れた女の子に抱きつき声を掛けている、首の骨を折られた様だ、このままだと間違いなくこの女の子は命を落としてしまう。

『ターゲットの状態をスキャン完了、頭部と頚椎に深刻な損傷を確認、医療用ナノマシンの注入を進言します』

アークスの機械音声がヘルメット内に響く、俺はまだ何もアークスへ指示をしていない、自分の考えでこの女の子を救いたいと思った上での行動だろう、やはり少しずつだがアークスは成長している。

「皆、その子から離れてくれ、助けられるかもしれない」

「本当!?お願いクロス!ドリィとは友達になったばかりなの、ここでお別れなんてしたく無いわ!」

女の子の首に掌を当てる、掌が淡く光り女の子の身体へ医療用のナノマシンが放たれる。

『医療用ナノマシンの注入完了、ターゲットスキャン…頭部及び頚椎の修復を確認しました、生命活動の維持には問題ありません意識を取り戻す確率…15%未満と推測されます』

珍しくアークスが言い淀む、なんとか命は救う事が出来た、女の子の顔色が良くなっている、それにしてもこの子はどこかで見た事がある様な…

「とりあえずこれで命の心配は無い、ただ…意識が戻るかどうか…」

「そんな…ドリィは一生眠ったままって事?」

「わからない、すぐに目を覚ますかも知れないしずっと眠ったままかも知れない…」

ドリィと呼ばれた女の子は穏やかな寝顔ですやすやと眠っている、俺はクロスの力を手に入れて調子に乗っていた、あの男を確実に行動不能にしておけば…クソっ!何がヒーローだ、俺は力を手に入れて善人ごっこをしていただけじゃないか、そのツケがこんな形で回ってくるなんて。

「お…おい…なんかローラの身体が光ってないか?」

「何を言ってるんです…!?ローラ!?何をしているんですか!?」

眠るドリィの手を握り締めているローラの身体が淡い光を放つ、優しい光だ、一体何が起こっているんだ。

「あれは…まさか神聖術!?昔一度だけ聖女様の神聖術を見た事があるの、ローラの身体から出ている光…あれは神聖術の光だわ!」

ローラの身体を包む光がドリィへと伝染する、光は一層強くなり辺りを照らす。

「お願い…目を覚まして、私まだドリィと話したい事が沢山あるの、ドリィ…戻ってきて!」

「…アレ?私どうしちゃったんだろう…ローラ?どうして泣いているの?」

「ドリィ!良かった…目を覚ましたのね…良かった…本当に良かった…」

2人を包む光が収まる、ローラは目を覚ましたドリィを抱きしめて泣いている、あの光がドリィの意識を取り戻したのだろうか。

『アークス、今の光は魔法なのか?』

『いえ、この世界の魔力と呼ばれる力の反応は感知できませんでした、今の光はクロスの持つ力と同質の力であると思われます』

なぜローラがクロスと同じ力を持っているんだ、本人も無意識で使った力のようだが、確かアンが神聖術って言っていたな。

「トロワー、ローラ達を頼む、照明弾を打ち上げればすぐに騎士団が駆けつけてくる筈だ」

「それはいいけど…クロス、お前は一緒にいなくていいのか?」

「あぁ、あの男を捕まえる、まだ遠くには行っていない筈だ、あんなヤツを野放しにする訳にはいかない」

ローラ達を導きの星の3人へ託し建物の外へでる、ヤツは恐らく東地区からは出ていないだろう。

『アークス、ヤツの足跡を追えるか?デカイ男だったから足跡も目立つと思うけど』

『例の男の足跡のパターンは解析完了済みです、モニター内の足跡をハイライトで表示します』

モニター内の足跡がハイライトで表示される、これであの男を捕まえる事ができる、待っていろ、お前の思い通りにはさせない。

『足跡の間隔が狭くなっています、この辺りで走るのを辞め歩き始めたのだと推測できます』

『ヤツらのアジトからかなり離れたからな、もう追い付かれる事は無いと安心したんだろう』

男の足跡を追跡し東地区の路地を走る、しばらくすると足跡は一件の古ぼけた家に続いている事が確認出来た、人が生活している気配は無い、空き家だろうか。

「こんな所に逃げ込んでいたのか、出てこい!いるのは分かっている!」

空き家の中に入りマイクの音量を上げて話す、入り口のドアには無理矢理開けられた形跡が有った、間違いなくこの家の中にあの男がいる。

「チッ…しつこい野郎だ、なんで俺がここにいると分かった?」

「下衆の匂いがプンプン漂っていたからな、観念しろ、お前のような男を野放しにするつもりは無い」

「さっきは油断したが俺の本当の力はあんなもんじゃねぇ、お前をぶっ殺して逃げ切ってやるよ!」

男の腕に光が集まり巨大な斧を具現化させる、これも魔法だろうか。

「これが俺に与えられた勇具、名は与えられて無いが正真正銘の勇者の武器だ、調子に乗って勇者である俺に喧嘩を売った事をあの世で後悔するんだな!」
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