91 / 93
空編
91.ウルス奪還作戦!
しおりを挟むウルス城侵攻作戦開始当日
敵はこちらの内部工作や急襲を恐れてか数日前からすべての門を閉じ籠城の構えをとっていた。
とは言え、すでに城内にいる帝国兵のほとんどが飢えや死への恐怖、流行病で士気を大幅に失っており、そして王国軍に完全に包囲されているので士気低下にさらに拍車をかけていた。
上空には周辺空域警戒のためにセレンデンス空軍基地所属の戦闘機部隊が航空団単位で入れ替わりながら直掩についており、さらに地上には対空砲や対空ミサイルを装備した部隊もいるので、空の守りは万全だ。
主力の戦車と砲兵部隊は全車照準をすでに門や物見やぐら・兵倉庫・食糧庫などの重要施設に合わせていた。
中でも第11自走砲兵師団に所属している203mm自走りゅう弾砲は重巡洋艦主砲(8インチ砲や20.3㎝砲等)と同じ強大な威力をもつもので、これを各門正面に向け発射し、木っ端微塵に壊し籠城ができない状態にする。
メリアと俺やウェルシュ・ヨナ東部遠征軍総司令官(戦時臨時編成)などの上層部の人間は、ウルス城から4㎞離れた位置に以前工兵が設営してくれた、前哨基地改め前線指揮所にいた。
この前線指揮所は地上からの防御だけでなく空からの襲撃から守ることも考慮された非常に強固な陣地になっているので、万が一ここが直接敵の攻撃を受けても本隊到着まで難なく持ちこたえることのであろう。
ここでも、模擬戦の時と同様にモニタや無線通信などで戦況を見守り、何かあればここから直接指示を出すようにする。
前線の指揮官はリメリア中将に任せてある。
「陛下、いよいよですね、これだけの戦力をもってすれば敵を鎧袖一触することができるでしょう!」
「ああ、そうだな、これでやっと人様の土地で巣食っている連中に鉄槌を下す時だ、すでに内部事情も事前に調査しているし、メランオピス隊による工作も完了、そして流行病で崩壊状態、外には砲兵・戦車部隊が全周囲から包囲、これは間違いなく今日中に終わるだろう」
集結している近衛軍団と戦車軍団・砲兵・対空師団を臨時で“東部遠征軍”として統括指揮することになったウェルシュ・ヨナ陸軍大将は、勝利が確実と思っているようで俺に対して興奮気味に話しかけてきた。
「そうだといいけどね」
一方メリアは敵の動きの中で何かが引っかかっているようで、浮かれない顔をしていた。
「なんでだ?」
「よくよく考えてみると、敵がこんなにもあっさりと籠城して、しかも何の抵抗もないなんて不気味だと思わない?」
「言われてみれば確かに、でもレナの報告では特に不審な点は見当たらなかったはずだが?」
「本当にそうかしら?」
「はっ……、そういえば……」
メリアのその言葉を聞いた、ヨナは思い出したようにKCIAから得ていた情報の書いてある資料を荒っぽくめくり始めた。
「こ、これを、伝え忘れていました……不覚」
「ヨナ?どうした?とりあえずそれを見せてくれ」
そういって、その報告書を見た俺とメリアは驚愕した。
そこには“麻薬”と似て非なるものがウルス城内の一部の兵士に使われているということだった、これだけならまだしも情報によるとこの“麻薬”もどきはどうやら流行病に感染してしまった兵士に対して苦肉の策として使用したらしく、これを服用もしくは投与された兵士は恐ろしいほどの身体能力と絶対的な免疫を得る代わりに極端に知能が低下し生きた死人のように呻きながら新たな薬や保存食が尽きたので“肉”を求め続け、極端に知能は落ちたとはいえ簡単な命令には素直に応じるようなので一応軍隊としての活動はかろうじて可能になっているようだ。
そして、この籠城している部隊を率いる敵将は、この薬を寝室で流行病が出始めたころから毎日のように服用しているようで、薬を飲み始めて数日後に「籠城しろ」といったきりこの部屋から一歩も出なかったようなのだ。
今まではただ流行病が影響で部隊行動がうまく取れず援軍が来るまで致し方がなく籠城していたのかと思っていたが、この報告書を見る限りだと、指揮官やその周辺の兵たちが正体不明の薬物によって頭がイカレて何もできなくなったというのが事態の真相らしい。
「と、なると、城を落とすのはたやすいな」
「いや、もしかしたら薬によって狂暴化してる恐れがあるわ、しかも薬によって知覚が鈍っているとなると、いくら現代兵器を装備しているからといって一般兵士だけでは対処しきれないかもしれないわ」
「じゃあ、どうしろ……」
「両陛下、作戦が開始されたようです」
そんな心配をよそに、予定通りウルス城奪還に向けて地上部隊の攻撃が始まった。
「配置された各部隊は作戦通り行動を開始せよ」
作戦開始の号令がリメリア・セレナ中将から出された瞬間、一番初めにリレイが乗る第一戦車軍団第一機甲師団(この師団のすべての戦車がレオパルド2A7)所属の戦車が敵を城の前の平野に誘い込めればと思い一発撃ち込んだ。
その撃った弾は見事命中したが、この攻撃に敵は反応を一切示さず不気味な静かさだけが周りを支配していた。
予想ではこれで敵がムキになって城から一気に出てくるはずだった。
「ちっ!アリ一匹すら出てこないのか!全車砲撃開始!Feuer!」
「リレイに後れを取るな!近衛第一・二師団全部隊砲撃開始!!」
リレイ自身敵は出てこないと思ってはいたが、ここまで有利だと少々いたずらをしたくなるのだろうが、それが無意味だったことに早速気づきすぐさま配下の全部隊に攻撃命令を下す。
しかし、こちらは予定通りこの第一機甲師団と第11自走砲兵師団のPzH2000、203㎜自走りゅう弾砲隊・近衛軍団近衛第一師団(155㎜自走榴弾砲、203㎜自走りゅう弾砲)・近衛第二師団(10式戦車)が全方位から主に城門に向けて一斉射撃を敢行、城門の原型を留めないほどまで完全に破壊。
城門が破壊されたことを確認した後、城門から200m離れた位置に城を取り囲むようにつくっていた小銃掩体に潜んでいた陸軍特殊作戦軍第一連隊(以降メランオピス隊と呼称)の各大隊(A(アルファ)・B(ブラボー)・C(チャーリー)・D(デルタ))が手筈通り一斉に城内に流れ込み、内側の城門前に陣取り砲撃をかろうじて免れた敵兵を1分も立たぬうちに撃破、そのままの勢いにのせてなだれ込んだ。
城下町のようなところでは、生き残りの兵たちが民家や教会等に立てこもり、そこから散発的な魔法や弓での攻撃を受けたが、よく訓練され実戦経験豊富なメランオピス隊にはそれは全くの無意味で、すぐさまそれは無力化されていった。
城内に入ると、外にいた弱兵と違い何発か撃ち込まないとなかなか倒せない敵がいたが(のちの報告ではヘッドショットしても倒れなかったらしい)、グレネードやM249paraなどによって次々に倒されていった。
城内侵入から10分後には敵の組織的な抵抗が終結、その後まもなくこまごまとした部屋までくまなく探し完全に敵兵を排除するため掃討戦(サーチ&デストロイ)を開始。
その間メランオピス隊指揮官のレナと後から合流してきたエンぺリア・ローザ王女と最強冒険者となったステラたち3人は、デスニア帝国陸軍エレクサンドラ・ガンテ大将がいるウルス城最上階に位置する“寝室”へと突入していった――――。
10
お気に入りに追加
515
あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!
コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。
何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。
本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。
何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉
何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼
※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。
#更新は不定期になりそう
#一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……)
#感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?)
#頑張るので、暖かく見守ってください笑
#誤字脱字があれば指摘お願いします!
#いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃)
#チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる