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空編
92.ゾンビパニック!
しおりを挟む寝室へとやってきたレナとローザ、ステラの三人は寝室の隙間から漂う“異臭”に鼻をゆがめていた。
「なんだこの臭いは?」
「汗のにおいでしょうか?何にしても不快ですね」
「とりあえず、この部屋にあいつがいるんでしょ?さっさとやってしまいましょ?」
寝室の扉は誰にも入られないようにカギは鎖のようなものと南京錠に似たものでがっしりと閉じられていた。
それをローザはナイフや差していた剣を使って何とか開けようとしていた。
「レナこれは頑丈すぎてあかないぞ?」
「ローザさん、ここは私に任せてください!……、ここに、これをこうして……扉から離れてください!ブリーチング!」
ドシュ!ドンッ!
レナは慣れた手つきでテープ状に加工したC2爆弾(C4爆弾と同じプラスチック爆弾)を扉の蝶番に貼り付け爆破した。
これは“ドアブリーチング”という警察や軍の特殊部隊がカギのかかった扉を開けるときに使う手法の一つだ(というより吹き飛ばす)。
吹き飛ばした後、レナは特殊閃光弾(フラッシュバン)を部屋に投げ込み中の脅威を無力化させ、すぐにレナ、ローザ、ステラの三人は取り決めていたやり方で部屋の中に突入していった。
この時レナはMP7とVP9を装備、閉所戦闘(CQC)が予想されたので普段剣を使って戦うローザとステラにはあらかじめ銃を渡していて、ローザはVP9とHK416A5、ステラはMP7とVP9を装備している。
部屋に入ると、すぐ目の前には大きなベッドがありその上では敵将と思われる大柄の男と女性がすでに行為に及んでいた状態のまま、さっきのフラッシュバンの影響を受け固まっていた。
それを見たレナは絶叫しながら、持っていたMP7をフルオートでベットの上にいる対象の側面目掛けて撃ちまくった。
「この外道がっーーーーーー!アハハッ!」
ダダダッダダダッダダダ!ダン!
カチャ!
パンパンパン!
あまりの怒りにレナは狂ったように撃ち続け、MP7を撃ち切っても、すぐにホルスタに収めていたVP9に持ち替え、また撃ち続けていた。
「レナ!そこまでにしておけ!もう奴は死んでるぞ!」
「はっ!そ、そのようですね……」
「でも、こいつは、確かにあのエレクサンドラ・ガンテなの?」
ステラの言葉を受けレナはすぐに情報で得ていた特徴を照らし合わせた。
「情報によればこいつに間違いないはずです!」
気づけば男はベッドわきの床に仰向けの状態で動かなくなっていて、その周囲はすでに血の海になっていた。
幸いなことに、一緒にいた女性は射撃開始時すぐに男のもとから離れていたため、弾は当たっていなかった。
「やっと、倒せたわね、それはそうと報告しないと」
「そうですね……、メランオピスリーダー、HQ(前哨基地前線指揮所)、敵将の殺害を確認、繰り返す、敵将の殺害を確認!」
「HQ了解、問題がなければすぐに帰投せよ、オーバー」
「メランオピスリーダー了解、アウト」
無線で本部に報告した後、部屋を見渡せばそこにはいろんな種族の女性たち十数名が力なく座っていた。
その女性たちはおそらくこの男の“奴隷”だった女性たちで間違いないだろう。
見れば、彼女たちはかなり露出の高い服を着せられ、食事を満足に取れていないのかやせ細り目も濁ったような感じで、三人が来てからずっとこちらを怯えた目で見てきているだけで、激しく抵抗してきたり襲ってくる様子は見られない。
もちろんこんな状態の彼女たちを放っておくわけにはいかないので、まずは衛生兵を呼び簡単に診てもらいそのあと本部の野戦病院に搬送することにした。
ちょうど、城の裏口の食堂にメランオピス隊メランオピス隊A(アルファ)大隊のが待機しているはずなので無線で呼び出した。
「メランオピスリーダー、A(アルファ)リーダー(第二大隊長)、寝室に衰弱した女性奴隷多数、搬送したいので至急衛生兵と人員の応援を求む」
「A(アルファ)リーダー、メランオピスリーダー、現在こちらは先ほど倒したはずの敵と再度戦闘中!」
「なんだと?どうなってる?」
「おそらく、倒した敵がゾンビ化した模様!」
「本部は?」
「現在、ブラックベレーがこちらに応援に向かってきているようですが……ザーー」
「おい!どうした?応答しろ!」
どうやら下では、ゾンビ化した敵に襲われ交戦中のようで無線機をやられたのか通信も途絶してしまった。
不幸中の幸いで本部にはすでに応援要請をしてあるようなので、取り敢えず下のメランオピス隊は到着まで耐えればいいのだが、対するこちらはもしゾンビが攻めてきても、部屋には動けない弱った女性たちがいるので彼女たちをこの3人で守らなくてはいけないため非常に危険な状態だ。
「クソッ!大変なことになった」
「で、でも、応援は来ているようなのでそれまでの辛抱です」
「で、でも、ゾンビがこっちにもやってくるかもしれないんでしょ?」
「大丈夫だステラ、助けに来てくれるから!」
「ゾンビ化……ってことは!このっ!Fire(ファイアー) in(イン) the(ザ) hole(ホール)(爆発するぞ)!伏せろ!」
レナはさっきの通信で「さっき倒した敵がゾンビ化した」という言葉を思い出し、すぐにベッドに横たわるガンテに近寄り、ガンテの口に手りゅう弾を詰め込んでいた。
手りゅう弾を口に突っ込んだ後、レナは味方が爆風にやられないように、とっさにローザとステラと周辺にいた女性たちに向かって伏せるように叫んでいた。
ボン!!
手りゅう弾が爆発すると、ガンテの頭は完全に砕け散っていた。
幸いにも対象がベットと壁の間にいたため、周りには被害が出ていない。
「これでゾンビ化しないでしょう」
「さ、流石ね……」
レナは満足そうな顔をしていたが、それ以外はガンテであったものを見て、顔を引きつらせるものやあまりのグロテスクさから目をそらすものもいた。
「ん?何か来るっ!?」
先ほどの手りゅう弾の音を聞きつけたのか、廊下には何かが近づく気配をステラは感じた。
その反応を見たレナとローザは、すかさずバリケードになりそうなものを部屋から見繕い入り口に可能な限り敷き詰めた。
「来るぞ!」
グアァァア、アアァ!アアァウ~
この部屋に向けてぞろぞろとさっき死んだはずの何体もの兵士が迫ってきていた。
バンッ!ガシャン!バンッ!ガシャン!バンッ!ガシャン!
それを見た瞬間いてもいられなくなったレナは、背負っていたレミントンM870ポンプアクションショットガンを撃ちまくっていた。
ポンプアクションショットガンというのは、フォアグリップ(フォアエンドとも)を前後に動かし排莢と装弾を行うショットガンの中ではポピュラーなもので、このM870はポンプアクションショットガンの代名詞ともいえる存在で、様々な国の法執行機関や軍隊で使用されているだけでなく日本国内でも自衛隊と警察以外でも許可さえとればこれを所持もできるほど広く流通している。
撃ちだす散弾はその特性上きちんと狙いを定めなくても近距離ではだいたい当たるので、建物内での近距離戦闘にはもってこいだ。
迫りくるゾンビに向かってレナが撃ち始めたのを見て、すかさずローザとステラも持っていた銃で撃ち始めた。
「Frag(フラグ) out(アウト)!」
ピンッ!…………ドン!
徐々に増えてきたゾンビをまとめて倒すためレナは、破片手榴弾を投げた。
Frag(フラグ) out(アウト)とは味方に手榴弾をなげたことを伝え爆発に巻き込まれないように気をつけろという意味で、ガンテの口に手りゅう弾を突っ込んだ時にレナが言っていたFire(ファイアー) in(イン) the(ザ) hole(ホール)と似たような意味だ(こちらは爆発物全般に使われる)。
撃ち始めてから5分ほど経つと、ついに銃の弾が切れたので3人とも剣で戦っていた。
しかし、こうなると数をさばききれなくなり当初部屋から10m付近のところで戦っていたのが、ついには部屋の入口付近まで押し込まれてしまっていた。
「はぁ、やばいな、ッッ!応援はいつ来るんだ?」
「フンッ!さすがにここまで多いとはッ!」
さらに5分もたつと3人とも部屋の真ん中まで追いやられ、傷も増えてきていた。
「きゃあ!……や、やめろ!」
「ローザさんッ!」
ついにゾンビの猛攻に耐え切れなくなった、ローザは床に押し倒されるような恰好でゾンビに今にも噛みつかれそうになっていた。
(もはや、これまで!)
レナは万が一スパイ容疑で捕まりそうなときや抵抗できそうにない敵から辱しめを受けそうな時用に“自決用”のC4爆弾を懐にしまっていて、それを今使おうとしていた。
そう思ったレナは、できるだけ多くの敵を自分の近くまで引き寄せ道連れにしようと、剣をだらりと下ろし無防備の状態になっていた。
そして、ついにレナの目の前に彼女を喰らいつこうとしてきた瞬間目をつぶりその瞬間を待った。
しかし、待てど暮らせど痛みは来なかった。
目を開けるとそこには、返り血を浴びたのか顔に血をベッタリと付けたこの国の国王と、女王、天使?ともう一人がたっていた。
「お待たせ、レナ、よく頑張ったな!さぁ帰ろうか!」
こうして、レナとローザとステラ・女性奴隷達は救出されたのであった――――。
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