88 / 93
空編
88.ハルト・ケイル空軍大将
しおりを挟む時は少しさかのぼり、カルロゼ東空中戦より前のデスニア帝国南部レヴァイス空軍基地、南部航空方面軍司令部。
司令部執務室には司令官である、ハルト・ケイル空軍大将が執務室で報告書とにらめっこしていた。
彼の見ている報告書には南部侵攻軍の悲惨で情けない現況が事細かに書かれていた。
彼はハルト家の長男で、代々ハルト家は優秀な軍人を輩出している家で現当主ハルト・アルセウス陸軍元帥は陸軍の全権力を握っている。
そんな父であり当主でもあるアルセウスの影響を受け幼いころから将軍になることを夢見て毎日のように父に勉学と鍛錬に励み、学校に行けるようになる12歳になったとたん史上最年少で士官学校に入学し、飛び級して主席で卒業、卒業後はすぐに最新の兵器や竜騎兵を持つ空軍に迷うことなく入っていった。
そして、数々の武功を立てていき今の空軍大将までに上り詰めていた。
兄弟には一つ下の弟のハミルトン城攻略作戦で王国の最新兵器を使った激しい抵抗に遭い命を落としたハルト・キール陸軍大将(当時は陸軍中将、死後戦時特進で大将に昇格)が、そのほかに、二つ下の弟に南部方面軍第25軍団司令ハルト・ジェスタ陸軍少将、四つ下には妹のハルト・ミルヴァ海軍大尉(海軍情報参謀部諜報課)がいる、そしてハルトには妻と子供二人がいて首都から25㎞離れたところで暮らしている。
「どうしてこうなった、いくら“あいつら”でもこんなに無能なはずはないんだが……」
ケイルの言う“あいつら”というのは南部侵攻軍総司令官であるエレクサンドラ・ガンテ陸軍大将と陸軍を海側から防衛するために一緒の行動をとっているアレクシドロ・メテス海軍少将のことだ。
彼とケイルは油と水のような関係で、というのもガンテは力や数に任せて一気に攻撃するのに対してケイルはどちらかというと綿密な計画・戦略と正確な敵の情報などを得てから行動を起こす頭脳派タイプなので、何かと考えが合わない。
今回の南部侵攻軍の戦略でもこの二人の考えの違いからくる意見の衝突が起きていて、それに加えてアレクシドロ・メテス海軍中将はガンテのことを尊敬しすぎるがあまりに、彼の思うこと言うことしか受け入れないので、最終的にはケイルの空軍と陸海軍は攻める方向と場所だけしか合わず、共同戦線にも関わらず、作戦行動は空軍のみほぼ単独でとることになってしまった。
現在王国東部のウルス城を占領した陸軍とジェイル港を占拠した海軍は、未曾有の流行り病の影響で陸軍はおよそ3割強に及ぶ1万6千人の兵士が死亡し、海軍はこれに加えて水棲モンスターの大量発生で沖合に停泊していた船が大型モンスターに襲われ約12隻を沈められ、港では進駐してきた兵とモンスターとの戦闘もあり、戦死と病死を合わせて2万を超えていた。
通常であればこのような状況に陥れば、どんなに無能な軍人でも危機を察し、援軍要請や撤退という行動をとるはずだが、何を思ったのか、上層部にガンテはこの戦力のまま反攻をしてくるであろう王国軍を迎え撃つので援軍は無用を報告したというのだ。
その報告に上層部は当たり前だが「異常」だと判断し、南部侵攻支援軍を編成し事態改善に向かわせた。
まず空軍にはカルロゼから北に200㎞離れた帝国領土内のレヴァイス空軍基地に2千の竜騎兵を集結させ、さらに陸路で食糧や弾薬などの物資が運びこみ基地の一角に大量に集積し、長期間戦線を維持できるように整えさせ。
陸軍には、レヴァイスから南東に位置するシャルレッテンの町に帝国陸軍中部方面軍第3軍団と第21軍団の歩兵約5万を集結させ、これを空軍が持つ飛空艇部隊によって前線に直接ピストン輸送する。
そのさらに東に位置するノヴァインシェンの港には帝国海軍第14戦隊の艦艇40隻と300隻の輸送船で海軍海兵隊3万を一旦集結させていた。
「こんなに上は用意してくれたのに、奴はこれを拒むというのか?」
この上層部の南部侵攻支援軍に対して拒むかのような文を、この計画を立案指揮した陸軍元帥であるハルト・アルセウスに送りつけたらしい。
それを受け支援軍は集結したまま前線付近で一旦止まることになった。
「やつは本当にどう知ったっていうんだ?まぁよい、それよりこっちはどう動こうか……」
全軍の状況が書かれていた報告書を読み終え、次に配下の部隊からの報告書を見ていた。
その報告書には敵の“空軍”について書かれていた。
そこには、竜騎兵隊4機が王国領土内を威力偵察するためセレンデンス近くを通りがかったときに、広大な土地に巨大なコンクリートでできた基地を発見、細かく見なければと思った竜騎兵は見つからないように超低空でギリギリまで近づいて偵察を試みたようで、基地には見たこともない大型の鉄の鳥のようなものが無数に配備されていて、帝国空軍からすると航空師団規模に匹敵するぐらいの戦力があると書かれていた。
この時これに遭遇した彼らは海軍所属の竜騎兵隊を攻撃したものの情報を聞いていたので、今回もそれと同じものだと思い、自分ら同じ運命をたどると思ったが、基地まで400mまで接近したが敵に気付かれることなく竜騎兵隊は基地に引き返せたようだ。
「もうここまで王国は息を吹き返してきているどころか、戦力を増大させているのか……これに加えてあいつらの醜態ときた……ただ俺がいる限りそう簡単にはさせんぞ」
この二つの報告をみてケイルは、このままでは王国に強烈な反撃を食らってしまうと思い立ち、ウルス城の陸軍が動くのを待たず、単独で王国軍に攻撃を仕掛けることにした。
これには以前から秘密裏に計画・準備していた“カルロゼ侵攻作戦”を実行する。
この作戦は王国領のカルロゼから10㎞の位置にあるヤーニヒベルグ基地にハルト・ジェスタ陸軍少将率いる南部方面軍第25軍団第2師団の約2万と陸軍魔術化軍団第128大隊の計2万2千を主力とする部隊を集結させているので、これをヤーニヒベルグとカルロゼの間のメリアル山脈のアザゼン山(9750m)を登っていくのではなく、今回同行している陸軍魔術化軍団第128大隊に土属性魔法で“トンネル”を掘らせ(最短距離で掘った場合でも2㎞弱)、これで強引に山を突破し敵の不意を突き一挙にカルロゼを占拠してしまおうというものだ。
ここを占領してしまえばウルス城にいる味方を側面(北)から援護することができ、補給線は山の地下を通るトンネルを利用するので、敵の航空戦力から完全に守られる。
さらにここを拠点にして、目下の脅威であるセレンデンスにある敵空軍基地を攻撃することも可能になってくる。
これで、彼は自信満々にこの作戦は成功すると豪語する。
しかし、彼の考えた作戦は一瞬にして砕かれるのであった。
10
お気に入りに追加
515
あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

神々に育てられた人の子は最強です
Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。
その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん
坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。
何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。
その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。
そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。
その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です
初めてですので余り期待しないでください。
小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる