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空編
82.A-10近接航空支援機
しおりを挟むアルファ大隊がレッドスモーク(赤い発煙弾)によって敵の位置を示すと、それに向かって反撃を恐れず次々に急降下していった第23近接航空支援団第 231 飛行隊(コードネーム:アルデバラン隊)のA-10近接航空支援機には大きな特徴がある。
まず、名前にもある近接航空支援というのは、地上部隊に直接的な火力支援を行う航空作戦のことで、これに使用される機種としてヘリコプターや固定翼機(プロペラ機・ジェット機)などが挙げられる。
そして今回話にもあるように固定翼機を使うのだが、このA-10はまさに近接航空支援を主眼に作られた機体で、あえて低い巡航速度(約555km/h)で飛行し、大きな直線翼が発揮する短距離離陸性能と丈夫な降着装置によって悪条件下での作戦行動を可能としている。
そして、特筆すべき特徴として2点あげられるのが、まず耐久性の高さである。
A-10は非常に頑丈に作られていて対空機関砲や対空ミサイルの直撃に耐え、操縦系統も二重化された油圧系と予備の機械系の操縦系統によって機体の一部が破損しても帰投・着陸を可能としている。また、乗員の生存性を高めるためにコックピットの防弾性能も高められており前面風防は20㎜砲弾を防げるようになっている。
もう一つが機首下部に取り付けられているGAU-8(アヴェンジャー)30㎜ガトリング砲だ、これはアメリカ軍の航空機搭載機関砲の中で最大・最重そして攻撃力の点で最強を誇る。
そしてGAU-8機関砲は30㎜弾を毎分3900発で初速1067m/sの高サイクル・高初速で発射し1000mからだと38㎜の装甲を貫徹することができる。
弾の速度が音速よりはるかに速い速度(およそマッハ3)で飛ぶ為、敵は発射された音を聞く間もなく斃れることになる。
そんなA-10の編隊は、短い期間での訓練であったにもかかわらず彼らはぶつからずきれいに編隊を組み飛んできた。
「アルデバランリーダー、アルファ1、君らの頭上についた!これより攻撃を開始する!頭を下げていろ!」
「アルファ1、感謝する」
その通信が流れた直後、アルデバラン隊は一機ずつ順番に強力な30㎜機関砲を地上にいる敵に的確に浴びせていく。
パパパパパパパパッ!(着弾音)
ヴォオォォォ!(発射音)
このように、30㎜機関砲が着弾するときは地上からだと着弾音が先に聞こえ一拍遅れて発射音が聞こえてくる。
敵からしたら恐ろしいことこの上ないが、見方からしたら非常に心強いだろう。
30㎜弾が当たった標的は木っ端みじんに砕け散り、ほぼ原形をとどめていない、同じ場所に置いていた金属目標や竜のうろこで作られたものにも貫通し大きな穴をあけていた。
その後順調に19機までが機銃掃射し終わっていた。
しかし、あと一歩で作戦成功というところで、悲劇が起きてしまった。
それは、19機目が射撃を終了し急旋回をして20機目と正面からすれ違おうとしたとき、運悪く20機目が射撃を開始してしまい、撃ったその弾が左翼に命中してしまったのだ。
「アルデバラン19、アルデバランリーダー、左翼先端に被弾した!なお操縦は可能!」
「アルデバランリーダー、アルデバラン19、何があった!」
「アルデバラン20の弾に当たりました!」
「な……、了解、すぐに基地に引き返せ!操縦はできるか?」
「な、何とか!」
「持ちこたえてくれ!」
アルデバラン19は被弾したが、A-10の非常に頑丈な構造と操作系のおかげで左翼先端がちぎれても何とか飛行していた。
緊急性を重く見た飛行隊長はすぐさま基地への緊急着陸を指示した。
「アルデバランリーダー、ビックイーグル、アルデバラン19が被弾した!緊急着陸のためにセレンデンス基地に向かわせる」
「了解」
事故の一報を指揮所で受けた俺とメリアやそこにいた全員に衝撃が走る、そして指揮所内の要員たちは慌てて事故対応のために各署に連絡や調節をし始めた。
事故機着陸要請の入ったセレンデンス空軍基地側はすぐさま全滑走路を封鎖し着陸予定だった機体はすべて燃料がある限り上空待機とした。同時に地上では基地内に簡易的ではあるが設置していた自衛消防隊(召喚や調節が進んでいないのでポンプ車が一台のみ)を向かわせ、受け入れ態勢を整えていった。
「ビックイーグル、アルデバラン19、聞こえるか?」
「アルデバラン19、ビックイーグル、ああ、聞こえる、俺はもう帰れないかもしれない……」
「大丈夫だしっかりしろ!もう基地では多くの味方が待ってくれているんだ、気を保て!」
「ああ、でもよぉ、怖いよ、」
「アルタイルリーダー、アルデバラン19、大丈夫だ!君を空港にたどり着くときまでずっと隣にいてやるから」
「ありがとう……」
アルデバラン19の隣には演習中早期管制機の護衛任務についていた第一航空団所属機4機が寄り添うようにして飛んでいた。
事故発生から10分後、アルデバラン19は基地上空までたどり着いていた。
途中左側のエンジンが停止し機体がさらに安定しない状況まで陥り急減速し失速手前まで言ってしまったが、降下姿勢をとりしばらくすると何とか機体の姿勢をたてなおすことができた。
その後姿勢をそのままをキープし続けることができたので無事着陸ができた、
こうやって、着陸できたのはA-10の頑丈さももちろんあるだろうが周りの対応の早さもあるだろう。
着陸の瞬間地上で待ち受けていた隊員や管制塔で見守っていた管制官が沸き立った――――。
事故原因となったアルデバラン20のパイロットは着陸後すぐに同じ飛行隊の隊員に連れられ、基地警務隊に引き渡されそのまま拘置所に連行されていった。
そして事件後、アルデバラン20パイロットを裁く為軍法会議が開かれた。
この事件は単なる事故であり故意ではなかったとし、さらにアルデバラン19のパイロットも怪我もなく無事に着陸できたので処分を軽くしてほしいと庇ったため、減俸処分で済むと思われていた。
しかし、軍法会議の結果はアルデバラン20パイロットに対して不名誉除隊の上多額の賠償請求という非常に重いものとなってしまった。
この処分を決めたクレイシー空軍総司令官は本件について乗員の怪我は無かったが、機体は激しく損傷してしまっていることが許せないようで、クレイシー曰く「陛下から賜ったものを故意ではないとしても壊してしまうのは、陛下に対する“侮辱”に近い、よって、本来であれば“死刑”にしたいぐらいだが、不名誉除隊で勘弁してやる」と相当お怒りのようだ。
それを聞いた俺はさすがに処分が重すぎるし、せっかく訓練した貴重な兵がいなくなってしまうのはよくないと考えたので、クレイシーに処分を軽くしてもらうことにした。
そもそもこの事故の大元の原因は自分にあって、これは俺が空軍の配備を急ぎすぎたせいで訓練の時間をあまりとれなかったのが大きく、さらに運用方法も確立していない中でここまで進めてしまっていたと思ったので処分を一旦取り消し減俸処分に変更するように“お願い”をした。
それを聞いたクレイシーは「陛下のご命令とあらばと」なぜか思った以上に素直に聞いてくれた。
こうして一時はどうなるかと思われた演習であったが、事故機無事着陸ということで一旦は幕を閉じた。
一方、地上に残っていたアルファ大隊は地上に設置していた標的への効果判定を行っていた。
最初の爆撃地点だったところは爆撃の強烈さを物語るかのような状態で、その多くは隕石が衝突したのかと思うほどクレーターができていて、設置していた人型標的は皆全て跡形もなく消え去っていた、さらに評価試験用に地下5mの場所設置した地下シェルターも原型をとどめていなかった。
次に近接支援射撃が行われたところは、ここもすべて人型標的はすべてハチの巣になっているか木っ端みじんにされているかで、その一部に竜騎兵が乗っている竜のうろこを貼り付け防弾性を検証したところこれも見事に貫通し破壊されていた。
これを見た誰もがどんな敵にも勝てるとそう確信していた――――。
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