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内政編
72.苦渋の決断
しおりを挟む「おい!そこのお前!どこに行くんだ?そこのねーちゃんは俺らが先に約束したんだぞ!」
「そもそも、てめーみたいな奴に、そんな可愛い子は似合わねぇよ」
流石にその言葉に頭にきたのか、メリアは咄嗟に言い返そうとしていたが、俺はメリアの口をふさぎ、あえて丁寧な言い方で勤めて慎重に言葉を返した。
「お言葉ですが、お兄様方、何か間違ったことを仰っていませんか?この子は私にとって不釣り合いだとしても、私の恋人です、それと私たちがどこへ行こうともあなた方には関係のないことではありませんか?」
「何だ?その口の利き方は?このゲルダ様に対してその態度といい、口といい何様のつもりだ?」
「ああ、すみません言い忘れていました、わたくしコンダート王国の王様です、そしてこの女性はコンダート王国の女王様です、自己紹介遅れて、ど・う・も、すみませんでしたー」
最後の部分を言うときに、俺はどうしてもイラつきが抑えられず明らかに挑発的な言い方になってしまっていた。
これを言った瞬間、単純に馬鹿にされたと思ったのか奴らは剣を抜きこちらに向けてきた。
それを見た俺は流石にやばいと思い、一瞬のうちに腰につけていたP320を抜き、コッキングまで済ませ、ゲルダと呼ばれているチンピラのリーダー格に銃口を向けて、臨戦態勢をとった。
右後ろにいたメリアも俺に倣い、同じくP320を構えていた。
その動きに反応しすぐさま、ミスティアの隊員たちも所持していたSIG MCXを取り出しこちらに集まってきていた。
これを見た、周辺にいた一般の人たちは各々悲鳴をあげ逃げていった。
「国王だぁ?そんな嘘で俺らをだませると思っているのか?バカも休み休みに言ってくれ……で、それはなんだ?それで俺らに何ができると思っているんだ?そんなんで本当に勝てると思っているのか?どこまでも俺様をバカにしてくるなお前は!あぁぁ?」
「てめー、みたいなやつなんか王様やっているんだとしたら、もうこの国はなくなってるさ……なぁ?」
「悪いけど、私たちは正真正銘の国王であるワタと、女王であるコンダート・メリアよ!」
これを言われて、流石に動揺したのか少し狼狽した様子を見せる。
「そ、それは、どうやって証明できるっていうんだい?」
その言葉に俺とメリアは口ごもってしまっていた、言われてみれば今王家の紋章的なものを持ちあわせていないのだ。
本来であれば、王家の人間はコンダート王国の国旗を模った紋章を右胸につけているが、今日に限っては庶民と変わらない服装で出かけたいと、メリアたっての希望だったのでつけていない。
「ほ、ほら見ろ、はったりじゃないか!」
「それは、どうかな?お前たちの周りを見てみろ、こんな大勢の護衛をつけているのが王のほかどこにいる?」
「知るか!」
「じゃあ、教えてやろうか?」
「そんなことを俺に教える前に!俺様が強いことを貴様に教えてやる!!」
パン!パン!
ゲルダが動き出した瞬間、俺はすぐさま彼の両肩めがけて発砲した。
発射された弾は見事彼の肩を撃ち抜き、その衝撃によって持っていた剣を落とし、痛みに顔を歪ませながら膝から崩れ落ちた。
「ぐっ、そ、れ、はなんだ?クソッ!イテェ……お、お前ら、見てないでやっちまえ!」
ワタが発砲した直後、周りにいたチンピラどももこちらに対して攻撃を仕掛けようとしてきたが、ゲルダが破裂音とともに何かに貫かれ痛がっているのを見て皆、浮足立っていた。
ゲルダが撃たれた後すぐに、近くに待機していたミスティア第二大隊隊員たちが彼らを取り囲み、動きを封じていた。
「動くな!!」
「貴様らはすでに取り囲まれている!おとなしく武器を降ろして投降しろ!」
「武器を捨てて手を挙げろ!コイツの二の舞になるぞ!」
SIG MCXを一斉に彼らに向け威圧された、彼らは流石に分が悪いと感じたのか、持っていた剣を捨て、その場で立ったまま手を挙げた。
ミスティアの隊員たちは、手を挙げ無抵抗の意思を示した彼らを後ろ向きにさせ膝をつかせた後、彼らの頭に銃口を突き付けていた。
「陛下、こいつらを“公開処刑”しますがよろしいですか?」
ミスティア第二大隊大隊長であるミセア大佐は、俺に向かって真剣な顔つきで聞いてきた。
彼らからするとこいつらのしたことは、「王又は女王や王族に対して危害を加え又はそれに類すること」なので“大逆罪”が適用される最も重い罪深い行為と判断し、コンダート王国内で最も重い刑である“公開処刑”をしようとしていた。
昔の俺だったら止めに入っていただろうが、国の上に立つ人間として存在している今、ここで国王である俺がこの行為を許してしまうと国民だけではなくミスティア隊にもなめられてしまい、また同じ考えや行動を起こしかねない連中が現れるかもしれないので、それが起こらないようにするための見せしめとして、俺は断腸の思いで彼女らに対して実行を命じた。
「射撃用意!」
「構え」
この状態になってようやく彼らは自分たちのやったことの重大さに気付き、今では生まれたての小鹿のように全身を震わせ、恐怖のあまり失禁してしまったものもいた。
「ゆ、許してくれ、わ、わ、悪かっ、た、た」
「し、死にたくねーよ」
「お、許し下さい、王様!」
「今更何を言う、公衆の面前で王家に対する侮辱と崇高なるワタ陛下に対して直接侮辱した貴様らに、慈悲などない!」
チンピラどもに対して、憤怒の表情でにらめつけている、ミセア大佐は、王家に絶対の忠誠を誓い、ワタに対して神以上の存在として崇めるほどの人物なので、彼らの今までの所業は彼女にとって最も許せない。
そんな怒り心頭の彼女は、近くにいたチンピラの頭の近くにP320の銃口を向けていた。
「陛下、ご指示を!」
実行を命じたものの、俺はどうしても決断しきれていなかった、今までは国を仇名す敵に対してはなんの抵抗もなく引き金を引いてきたが、いざ、一国民である犯罪者を処断するとなると何故か気が引けていた。
これは、大きな矛盾でもあり、自分の中に常にある悩みの一部なのだが、ここに至るまで何の解決策も浮かばずにいた。
しかし、今は部下や周辺で見ている一般人の手前、彼らに対して生ぬるい判断と思われてしまうわけにもいかないので、最後まで迷いが拭いきれないまま、彼女らに発砲許可を発した。
「すまん、本当はしたくなかったんだ、許せ…………撃てッ!」
パン!パパパパン!
多方向から多数の銃弾を受けた彼らは、全身に銃弾を受け、文字通り“蜂の巣”にされ、その場で崩れ落ちた。
「回収班回収急げ!消毒も怠るな!」
ミスティア第二大隊の“回収担当員”(政治上の都合や私情により暗殺若しくは処刑した人物を回収するために臨時に編成される)たちはすぐさま、“元”チンピラ達を“回収”し、周辺の消毒の作業に移っていた。
処刑されたのを見届けた俺は、緊張の糸が切れたのか、一点を見つめたまま銃をしまうことも忘れ、その場に膝から崩れ落ちていた。
「ワタ!大丈夫!?」
「あ、ああ、大丈夫、ハハッ、俺って情けない奴だな……」
「そんなことないよ、ワタはよくやってる、みんなそんなワタに付いて来てくれているんだから気にしなくていいんだよ?ほらお水飲んで?」
メリアはすぐそんな俺に近寄り励ましてくれていた。
それを見ていたミセア大佐も不安の表情を見せている。
「メリア、ありがと、こんな状態じゃ、みんなに心配かけるだけだよな……、気分転換に違う場所に行こうか?」
「うん!そうしよう」
俺は動き出す前に、持っていたP320を安全な状態(弾が絶対に発射されない状態)にするため、P320からマガジンを引き抜き、銃本体右側面を斜め上に向けスライドを勢いよく引きチャンバー内に残っていた弾を排出させ、排出した弾をキャッチ、念のため弾が排出された後も何度かスライドを前後させチャンバー内の安全を確認しておく、そして最後に人がいない方向に銃を向けてハンマーを落とす。
そこまで終わった俺はようやく立ち上がり、次の目的地まで歩みを進めた。
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