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海編
53.二人の海軍将校
しおりを挟む艦隊は無事キーレ港に入港できた。王国海軍の軍艦で戦争中出港して戻ってきたものはほとんどいなかったが、今回はほぼ無傷で(大和の左舷はひどい状態ではないがまるで月のクレーターのようにボコボコとへこんでいる)帰ってこれたので港で迎えてくれた人たちは大いに沸いてくれていた。
しかし、錨が降ろされラッタルもさっさと降ろされ、すぐに祝賀モードのような華やかさで皆降りてくるのかと思いきや降りてきたのは担架に乗せられた俺だった。
それを見た港で待っていた兵たちは驚愕し、皆一様に直立不動のまま俺が運ばれる様子をずっと見ていた。
そんな俺が運ばれた先はキーレ港の海軍基地内の病院へと移送された。
移送された俺はそのまま5日間眠り続けていたようだ。この間様々なことが起こっていた。
まず、俺が大けがをしたということでメリアが王都からセレナとともにハンヴィーに乗って恐ろしい速さで来たようで、セレナ曰く「別に心配してきたわけじゃないんだからね、メリア様がどうしても行きたいっていうから……」だそうだ。
当のメリアは来るなり抱き着こうと近づこうとしたが、例の如く黒い瘴気が急にたちこめ始め、目が怪しく光るやつに阻止された。
メリアと一緒にどこからこのことからを聞きつけたのか、エンペリア王国のローザも来ていて、この娘も嫉妬心むき出しの状態で病室内なのにもかかわらず銃やら剣やらを出して殺伐とした空気になっていたようだ。
個人的にはうれしくもあるがやはり迷w……、何でもないです、ハイ
そんなこともあったが、公務があるためすぐに帰って行ったので事なきを得た。
今回の戦いによって捕虜としてとらえてきたジークフリートの副官を取り調べた結果、彼はデスニア帝国軍主席参謀兼海軍作戦本部長で階級は海軍少将と帝国軍内部の中でもかなりの上層部に属する人間だった。そして名はゲーラルト・ミハエルといい、彼の父親も祖父も代々女帝の参謀役として仕えてきた家の生まれで、常に帝国内で上位の場所を確保してきた優秀な家系であるようだ。
そんなミハエルが今回の作戦に同伴していたのは理由があって。
王国最大の海軍基地を攻撃する作戦に参加しその戦いの様子から王国海軍の“最期”を見届けたかったという好奇心と攻撃が終わり王国領土内に入ったときにより詳しい情報を得るためであった。
しかし、いざ王国と会敵したとき予想以上の火力と機動力に圧倒されたのに驚いたが、何より王国海軍があの巨大な船に巨大な大砲を積んで運用できていることが一番の驚きであったという。
それもそのはずで、帝国海軍は王国海軍のことを過小評価していたのではなくもともと戦力を徐々に削っていきかなり王国が疲弊していたのは目に見えていたし、それまでの王国側の戦力に関する確かな情報があったからこそ、帝国は自信をもって攻めたのだが、王国が新造艦を持っていた情報まではつかめていなかったので今回の敗北につながった。
さらにミハエルにとって予想外だったのは、第三艦隊最高指揮官であったジークフリートが白旗を掲げたのにもかかわらず最後の抵抗をしたせいで、最悪なことに彼は帝国の最新技術を王国海軍の最高指揮官にさらしただけでなく、自身はそのまま討ち取られてしまったことだった。
そしてミハエルは軍の情報を司るところにいたので今後の帝国軍の動きについてヴィアラが直々に聞き出したようだ。
なぜこんな簡単に話してくれたかというと、ミハエル曰くこんな最新の装備と最新の戦術が導入されて且つこれから王国を世界最強にしていきたいという考えに感化されたからなのだという。(本当かどうかは怪しいところだが……)
ミハエルから聞けた情報は以下の通り
・帝国海軍第三艦隊の後続として第一艦隊もこちらに向かってきており、その艦隊には上陸作戦のための海兵隊と”航空戦力”として竜騎兵が含まれている。
・帝国は大陸の北東部に位置するテレン聖教皇国に対して陸・海・空からの同時侵攻作戦をしたが両国間の交渉の結果休戦協定を結ぶ代わりにテレン聖教皇国の南部に位置するインフェシア皇国を攻めて占領するように強要した
・そのインフェシア国内でも召喚が行われたようであるとの情報があるので恐らくワタと同じ世界の人間が転移してきた可能性が指摘される。
・そしてそのインフェシアの女王は今帝国国内で囚われの身となっている
流石は情報畑で生きてきた人なだけあって、細かくかつ信ぴょう性のある情報に思えた。ただこれをただ鵜呑みにしてはそのうち足元を見られてしまいかねないので今後よく検討する必要があるだろう。
もしこの話が本当なのであれば今までとは別の対策を講じなければならなくなるだろう。
ミハエルたちを捕虜にすべく敵艦の中を捜索した時船倉の奥のほうにある牢屋のような場所で捕らえられていた王国海軍の将校を名乗る人物を回収していた。
彼は王国海軍西部方面司令部所属の護衛艦隊司令だったスタルブ・ベイル准将だった。
先の大戦の時真っ先に西部の艦隊が狙われ元々沿岸警備目的でしかなかった艦隊は次々に沈められるか拿捕されていきその中で彼は船と共に帝国によって捕まってしまった人であった。
他にも多くの人がとらえられていたはずだが、残酷なことにそのほとんどが処刑されたか悲惨な死を遂げた人たちばかりであった。ただベイル准将の場合は敵軍の重要人物であったので情報源として生かされていたので結果こうやって助かった。
しかし、彼からすれば戦友や多くの部下たちを失っているので自分が果たして助かって良かったのかと今でも複雑な感情とともにある。
ただ助かった以上、ベイル准将は国のためにと戦死していった亡き戦友や部下の仇を討つという目標が出来たので、また戦線に復帰する意向を示した。
ミハエルは帝国を裏切ってでもこちら側の軍で一緒に戦いたいらしいのでベイル准将を監視役として付けて新編成されるであろう艦隊に配属することをヴィアラの采配で決めたようだった。
王国海軍はこの後ミハエルがもたらした情報も合わさって大きく成長していく――
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